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World's End Online Another -僕がネカマになった訳-  作者: yuki
第一章-まだ、この世界がゲームだった頃-
19/43

僕がネカマになった訳-19-

 水路から抜け出した僕等は硫黄の臭いに満ちたボルカの街から聖都エルセルカへと足早に移動した。

 聖都エルセルカはこの世界における最大宗教の総本山でもあり、街の北部には数多くの信者達から毟り取ったお布施で建造された豪奢かつ華美な大聖堂が鎮座している。

 かくいう僕も司祭(プリースト)への転職に結構な金額のお布施を要求、もとい徴収されたのだ。かような施設の維持に使われているのだと思うと内心穏やかではない。まぁ全部設定上の事なんだけども。

 そんな大聖堂を抱えるだけあって街の様相もまた豪華絢爛、装飾華美だ。

 道路は真っ白な石をベースに、色とりどりのカラフルな石を織り交ぜながら敷き詰められていて見た目も華やかだし、至る所に設置された噴水と花壇も色鮮やかに街を彩っている。

 建物は区画ごとに異なる配色の煉瓦を使っているらしく、歩きながら眺めていても飽きが来ない。

 所々で井戸端会議を繰り広げているNPC達は誰も彼もが煌びやかなドレスか公式の神官服を身に纏っているので、街全体がまるで一つのパーティー会場かテーマパークのような錯覚を受ける。

 観光に訪れているプレイヤー達の多くはその雰囲気を尊重してか、重厚な鎧や古めかしいマントを外し、華やかでカジュアルな服装を、端的に言えばめいっぱいお洒落を楽しんでいる。

 10人が10人、明るくて雰囲気の良い街と評価を下すであろう聖都エルセルカだけれど、プレイヤーからは好き嫌いが激しく二分していた。

 その理由は、手を握り合ったり顔を近づけ合ったり抱き締め合ったり。人によって千差万別だけれど、今まさに人生の華を謳歌なされている目の前の集団にある。


「うぜぇ……」

「リア充爆発しろ……」

「いつか僕だって……」

 目に付かない場所なんてないんじゃないかってくらい溢れているカップルが放ってくる幸せオーラに当てられたのか、リアさんを除く僕等の表情には気まずさが隠せない。

 何人かに至っては心の声が小さな呟きとなって零れていた。

 宗教と言えば大聖堂。大聖堂と言えば結婚。そう、この街のモチーフは【結婚式】なのだ。

 そこかしこが装飾華美に飾り立てられているのも、溢れんばかりのカップルが集っているのも、全部そう言う訳なのである。

 大聖堂は一般に公開されておらず、一部の例外を除いて超難関クエストである【結婚】を受けなければ入場できない。

 内部はなんともはやは、楽園(エデン)を模倣したかの如き絢爛さで有名らしく、結婚した2人を祝福してくれるそうだ。


 そんなリア充共の巣窟をリアさんはさして気にする様子もなくすいすいと歩いて行く。

 どうやらお気に入りのお店が幾つかあるらしく、週に何度か通っているのだそうだ。

 カップルだらけの空間に忌避感を覚えるのは男性陣だけらしい。実際、お洒落なお店が多いのも手伝って女性の一人客はさして珍しくなさそうだし。

「あそこは髪飾り専門で、あっちはネックレスとかイヤリングとかの小物がメイン。どれもプレイヤーのオーダーメイドだからちょっと高めだけど凄く可愛いのが揃ってるの」

 隣を歩くリアさんは通いながら覚えたお奨めのお店の数々を指差しながら教えてくれた。

 本物の女の子からすればお宝情報なのかもしれないけれど、いかんせん中身が僕なので対応に困る。


「え、えっと……」

 どう反応すれば適切なのかなんて幾ら考えたところで思い浮かばす言葉を濁してばかりいると、不意に謝られてしまった。

「ごめんね、あんまり興味なかった?」

 申し訳なさと寂しさが入り混じった表情に心が軋む。はいそうですなんて言えるはずもなかった。

「いえ、興味はあるんですけど、必要な装備のために貯金中なんです。だから案内して貰うのはまた今度でも良いですか?」

 その時までにはハルから女の子の反応とやらを色々勉強しておきますので、と口には出さず心で代弁する。

「そっか、見たら欲しくなっちゃうかもしれないもんね」

 リアさんはそれで納得してくれたのか、普段と何ら変わらないように思える笑顔を浮かべ直してくれた。

「じゃあそれまでに頑張ってリサーチしよっかな。カナちゃんは何が一番欲しい?」

「そうですね……。じゃあ髪飾りとか」

 突然のフリを今度はかわしきれず、苦し紛れに素早く周囲を見渡すと偶然目に留まった髪飾り専門店を指差して見せる。

「そういえば普段から降ろしてるよね。結ったりはしないの?」

「好みの物が見つからないって言うのもありますけど、これはハルトの趣味ですから」

 背後から勝手に引き合いに出されたハルトの咽び声が聞こえたような気がするけれど華麗に無視を決め込む。

 ガールズトークに巻き込まれて困っている僕に援護の一つも飛ばさないのだ。この程度の役には立って貰わねば。

「なるほど、そういうことね。ふむふむ、じゃあ髪型を変えるよりはそのまま付けられる髪飾りの方が良さそうかな」

 リアさんはそれで得心が行ったのか、はたまた妄想が加速したのか、不敵に笑って見せた。


 それからは話題がお洒落からこの街の雑談に移り変わり、特に問題もなく会話に花を咲かせる。

 もしかしたらリアさんがそれとなく気を使ってくれたのかもしれない。

 どうやら聖都エルセルカにはペアでの参加が前提として作られたカップル向けのイベントやコンテンツが多いらしい。

 他には浮ついた曰くや都市伝説にも事欠かないのだとか。

 曰く、街の中央広場にある祝福の女神像に想い合う2人が願った時、恋の障害を1つだけ排除してくれるとか。

 曰く、街の東部にある巨大な樹木の下で成立したカップルは永遠に幸せになれるとか。

 曰く、街の西部にあるボートに乗った2人は互いを意識し始めてしまうのだとか。

 どれもこれも公式にアナウンスされたクエストではなくて、ユーザーが勝手に生み出して定着した逸話に過ぎず、それこそ数え上げればきりがない。

 中には無数にある噂話の中にはたった一つだけ、秘密裏に運営が実装しているシークレットクエストも紛れ込んでいるなんて与太話まであるそうだ。

 勿論、今に至るまでこのシークレットクエストが発見されたという報告はない。


 一通りの豆知識を聞きながら歩き続ける事10分。建物が密集していた居住区を抜け、幾分か開けた区画に出ると足を止める。

「ここよ」

 どうやら目的地へと辿りついたようだ。

 確かリアさんは行きつけのカフェがあるから行きましょうと言っていた筈なのだけれど……。

「えっと、カフェ……?」

 目の前にそびえる建物はカフェと言うより美術館か宮殿と比喩した方が正しいように思う。

 まず広さがおかしい。敷地をぐるりと取り囲む生垣は少なく見積もっても50メートル以上は続いている。

 次に中身がおかしい。薔薇の花を幾重にもあしらったアーチ状の入り口の向こうには大きな噴水がざぁざぁと水を沸き立たせていた。

 端から零れた水は庭園に掘られた水路をぐるりとめぐり、方々に設置された生垣や花壇を経て大きな池に通じているらしい。

 現実ではありえない大きさの睡蓮と思しき花が瑞々しい花弁を広げていた。しかもどうやら乗れるらしい。というかテラス席みたいな? お花の上で親指姫よろしくカップルがきゃっきゃしてる。

 最後に規模がおかしい。最奥に佇む建物は一体何人収容できるか分からないくらい巨大で、手頃なカフェと言う単語とはどうしても一致しない。


「さ、入りましょう」

 てっきり何かの冗談だと思っていたのにリアさんは気負う様子もなく薔薇のアーチを潜り抜ける。

 すると最奥の建物から燕尾服を着こなした壮年の男性が現れ、実にきびきびとした動作でこちらへと向かってきた。

 壮年の男性は『なにこれ、やっぱり入ったらまずい場所で怒られるのでは?』と身構えていた僕等の前までやってくると完璧な立ち振る舞いでようこそいらっしゃいましたと腰を折ってみせた。

 ……どうやらここは本当にカフェらしい。

 この街をデザインした担当者は余程【結婚式】というテーマに思い入れがあるのだろう。若干夢を見過ぎているのではないかと心配になってくる。


「黄昏の間は空いてるかしら?」

「はい、丁度今くらいからが見頃でございます。こちらへどうぞ」

 リアさんが何事かを尋ねるなり、NPCの執事さんは朗らかな笑顔を浮かべると先頭を歩き出す。

 薔薇のアーチを抜け、水路に掛かる橋を越え、見上げる程の扉を潜り抜けると、宮殿と言われても遜色ないエントランスが広がっていた。

「なんだこりゃ……」

 ハルトが感嘆とも呆れとも取れる呻き声を漏らす。無理もない。かくいう僕だって思わず足を止めてしまったくらいだ。

 天井には幾つものガラスが組み合わさって作られたシャンデリア、床には踏むのを躊躇うくらい柔らかな真紅の絨毯、壁には油彩の絵画が等間隔に並べられ、窓は色付きのステンドグラス。

 他にもお客さんが居るのか、NPCのメイドさんが蓋の閉められた銀食器を台車に乗せ何処かへと運んでいた。

 こんな煌びやかな世界に足を踏み込んだ事なんて現実でもない。湿った洞窟を走破したままの靴で踏み込んでも良いのだろうかなんて無駄な心配をしながらおっかなびっくり前を歩く執事とリアさんについて行く。

 どうやらそれは他のみんなも同じだったらしい。先程からチームチャットでは戸惑いの声が氾濫していた。

『何か場違い過ぎませんか!?』

『こんな立派なところ来た事ないでござる。というかマナーとか知らないんだけどいいんか』

『この街のコンセプトは知っていたけど、まさかこれ程とは……』

『豪華すぎるわ。ってか、この街が嫌われてるのって何をするにも高額だからって理由もあったよな』

『お、おほー。らんらんお金足りるかしら……』

 サスケさんはござるを忘れ、豚さんはいつもの仮面(ペルソナ)を付け忘れるくらいには動揺しているようだ。

 というか金銭面については考えてすらいなかった。今さら聞くわけにはいかないし、ここは覚悟を決めるしかないか。


 正面に作られた階段を昇ると入り口とは反対方向に向かって進む。てっきり簡略化されていると思ったのに、屋敷内部もかなりの面積がありそうだ。

 何度か足元がふかふか過ぎて足を取られそうになりながらも付いて行くと、やがて大きなガラス製の扉が見えてくる。

 光の具合からしてどうやら外と繋がっているらしい。扉を潜ると予想通り開放感溢れるテラスになっていたのだけど、予想以上の光景に思わず言葉を失う。

「綺麗な景色ですね。凄い……」

 屋敷の反対側は海に通じていた。立地条件を鑑みればあり得ない。

 だからこれはギルドルームや個人のプライバシースペースと同じ要領で、テラスそのものを別MAP扱いにして個別の背景を設定しているのだろう。

 地平線には何の障害物もなく、まだ地平線に吸い込まれる前の太陽が雲を、海を、空を、壮大なグラデーションで彩っていた。

 思わず手すり近くに走り寄って見惚れていると、隣でリアさんが自慢げに告げる。

「もう少し時間が経つと空全体が朱く染まってもっと凄いから、期待して良いわ」

 それは確かに期待できそうだ。暫くは眺めて居たい気分だったけれど、既にみんなが席に着いたようなので名残惜しくも合流する。

 全員が揃ったのを確認した執事さんは丁寧にお辞儀を残すと御用があればベルをお鳴らしくださいと残すなり立ち去ってしまった。

 喫茶店と言うより、有名ホテルのサービスと言った方がしっくりくるのではなかろうか。


「まずは本当にお疲れ様。ここは彼の驕りだから好きなだけ食べていいわよ」

 リアさんは爽やかな笑みを浮かべると冗談めかして隣の青年を小突いてみせた。

「分かった分かった、それくらいで水に流してくれるなら構わないさ」

 ともすれば壊滅しかねなかった盛大なミスの穴埋めが喫茶店の支払いくらいで済むなら安いと思ったのか、或いはリアさんに少しでも男らしいところを見せようと思ったのか、多分後者だろうけど、青年は苦笑気味に頷いた。

 最初から今日の失敗のツケをここで支払わせようと言う魂胆だったらしい。

 どこからどう見ても高そうなカフェに誘ったにも拘らず金銭的な話をしなかったのはそういう事か。もしかしたら事前に取り決めたのかもしれない。

「言質も取れたことだし景気よく行きましょう。ここ、一番おいしいって有名なんだから」

 何でも施設だけではなく味も一級品らしい。それならばと、システム画面からお店のメニュー表を展開した。

 途端に僕ら全員の表情が凍りつく。


「……え?」

「は?」

「なんですかこれ……」

 方々から思わずといった具合に声が漏れる。

 このゲームの嗜好品……特にNPCが経営するカフェやレストランの飲食物はゲーム内通貨の回収用コンテンツという事もあって現実世界とは比べ物にならないほど高い。

 けれどまさか、コーヒー1杯に30000コルトという、都市間転送20回分の値段をぼったくるお店があるなんて思ってもみなかった。桁が間違ってるんじゃないかと疑ってもコンマの位置はやっぱり30の次にある。

「私は紅茶と季節のフルーツケーキにしようかしら。みんなも遠慮なんてしなくていいから好きなの頼んじゃって?」

 事も無げに告げられる傍ら、ちらりと値段に目を通す。桁違いでなければ2つ合せて13万コルト。いったい何を材料に使えばこんな値段になるか教えて欲しい。金策に使えそうだから。

 見栄を張った青年はまさかこれほどの値段とは思っていなかったらしく、哀れにも虚空に手を伸ばして震わせている。

 気が狂ったわけでも現実逃避をしているわけでもない。ステータス画面を表示して所持金が足りるかどうかを確認したのだろう。

 この世界は基本的に通貨がない。故にお財布もない。支払いは全部自動的に所持金から直接引かれるのだ。会計がないので楽ではあるけど。


「みんなは何にする?」

 リアさんは哀れにも青い顔でパントマイムに勤しんでいる青年に気付くこともなく僕らへメニューを薦めてくる。

「そ、そうですね。今はあんまり腹も減ってませんし、軽い飲み物でいいかなって……」

 遠慮するなと言われても無理だ。ハルトはメニューの中で一番安そうなドリンクの欄からさらに一番安いコーヒーを選ぶ。だがそれでも30000コルト、都市間転送20回分だ。

 それをきっかけにみんなもお茶やジュースといった比較的安価な飲み物に落ち着いたのだけれど、リアさんは不服だったらしい。

「カナちゃんは甘いもの嫌い?」

「へ? あ、いえ、別に嫌いではないですよ」

 突然の問いかけだった。予期しない出来事であればあるほど、人は反射的に、かつ素直に答えてしまう。

 僕はどちらかといえば甘党である。ちなみにハルトも甘い物は好きな方だ。

「好きな味とか果物とか教えて欲しいなぁ。ケーキとアイスならどっちの方が好き?」

 けど、続く質問がこうも直接的だと何を企んでるかなんて一目瞭然、というか隠す気もないみたい。


「ええーと……」

 かといって何も答えない訳には行かない雰囲気で、言葉を濁しながら時間稼ぎに走りつつ軟着陸できそうな回答を模索しようとする。

「そっか、確かに色々あって迷うのも仕方ないわね。折角男の子が沢山居るんだし、色々食べ比べてみましょう」

 ところがこの問題には限りなく短い時間制限があったらしい。

 悩ましいの意味をわざと取り違えた上で早々に結論を出すと、机に取り付けられたハンドベルを手にとってチリンと鳴らす。

 そんな小さな音で聞こえるのだろうかとも思ったけれど、彼らはNPCで、ベルはフラグの管理に過ぎない。

「お待たせ致しました。ご注文はお決まりでしょうか?」

「ここからここまでもらえるかしら?」

 リアさんは傍にメイドさんがやってくるなり、開いたメニューを指でつつっとなぞるだけの、なんとも男らしい注文の仕方で実に12品目ものデザートを注文した。

「畏まりました」

 僕らが呆気に取られて固まっている間にメイドさんは注文を受諾し、支払先に設定されている青年へ請求の確認ウィンドウが表示される。

「さ、流石にこれは……」

 どれもこれもお値段は6桁。本人にしか見えないけれど、ウィンドウには最低でも120万コルトという途方もない金額が表示されているはずだ。飲み物も含めれば200万を超えかねない。

 もはや軽食どころか、中級者なら実用装備一式が揃うくらいの大金であるにもかかわらず、青年は諦めたのか容赦ないなと苦笑しつつも受諾ボタンを押してしまった。

「お、押しちゃうんですか!?」

 一度完遂した取引はどんな内容であっても取り消せない。かつて破格だと思って受けたリディアさんのバイトを凌駕する金額は僅かな嗜好品と引き換えに電子の藻屑と成り果てた。


「大丈夫よ、彼は稀に見る当たりIDだから」

 僕らからすれば理解の及ばない大金の使い方に、しかしリアさんは心配ないと笑う。

「なんですかそれ」

 聞きなれない単語に思わず首を傾げると解説を加えてくれる。

「簡単に言えば規格外の幸運に恵まれてるって事ね。普通は早々出ないレアアイテムを次から次へと出しちゃう人達の通称で、羨望と嫉妬を籠めて運営の寵愛を受けている当たりIDだなんて呼ばれるの。金銭的にかなりの余裕があるから心配しなくていいわ。じゃなきゃ私だって流石にここを選んだりしないから」

 要するに、とてつもなく運が良い人達の事らしい。

「個人ブログやソーシャルネットワークでゲームの宣伝をしてると運営が配慮して当たりIDにしてくれるなんて都市伝説じみた噂もあるくらいよ。人目に触れるブログでレアが全然出ないって書かれるより、レア出たーって書かれてた方が宣伝効果も高まるでしょ?」

 ネットのクチコミというものは案外馬鹿に出来ないと聞く。

 ネガティブな情報が蔓延するのを防ぎたいのであれば、もしかすると有効な手段なのかもしれないと思わせる辺り、よく出来た都市伝説だと思った。


「カナちゃんはどう思う? 本当に都市伝説だと思う?」

 不意にリアさんは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「へ? あ、そうだと思いますけど……」

 聞き返された事に若干の戸惑いを覚えながらも頷き返す。こういう時のリアさんは何かを測っている事が殆どだ。

「ふぅん。どうして都市伝説だと思うのかな?」

 予想通りというか、普段ならそのまま流されるであろう解答にもくらいついてくる。

「えっと……」

 はぐらかしても良かったのだけれど、デザートが運ばれてくるまでまだ時間もあるし、折角奢って貰ったので出来るだけしっかりと考えてみることにした。


 そもそも、公正中立でなければならない運営会社が特定のユーザーを贔屓するなんて情報漏洩のリスクを考えると割りに合わない。

 とはいえ、リアさんの話に僕しか反応を示さなかったのを考えるとかなり有名な都市伝説のようだ。

 火のない所に煙は立たないというし、何かしら都市伝説のきっかけとなる原因があるのだろう。

 ぽくぽくぽく、ちーん。30秒ほどの因果関係を探ってからひとつの結論を出してみる。

「ブログを書くのにもネタが必要ですよね。レアドロップの報告は丁度いいネタになるから書きやすいんじゃないでしょうか。何もでなかった事を記事にはし辛いだろうし、レアドロップに関する記事の割合が多くなるのは当然といえます。それに、ブログを書くくらいゲームが好きならプレイ時間も長いはずです。努力の分だけレアアイテムを多数手に入れても不思議じゃありません」

 正解かどうかはともかく、リアさんも同じ考えなのだろう。『よくできました』と褒められるついでに頭を撫でられた。

 この分だとリアさんも信じてはいないらしい。


「都市伝説は都市伝説って事ね。運営に聞いても答えが得られる筈ないし、あるなしは自分の心次第ってこと。だけどね、確かめる方法がないわけでもないの」

「確かめる方法、ですか?」

「簡単な話よ。カナちゃんもブログを始めてみたらどうかしら。こんなに可愛いんだもの、閲覧数なんてすぐに伸びるわ。追加ロット販売直後の今なら初心者ブログも旬だから、仮に運営の目に留まればレアアイテムだって思いのままかもしれないわよ?」

 こんな不純な動機を抱えつつ、ダメ元でブログを始めてみる人は結構居るらしい。中にはブログを始めてから本当に幸運に恵まれ、当たりIDはあるのだと豪語する人もいるという。

 宝くじと同じだ。沢山の人が集まれば一人くらい幸運に恵まれ続ける人も出てくる。

 だからこれは全くの偶然で、当たりIDとは関係のない話なのだろうけれど、本人にとってはひとつのジンクスになり得る、ということだろう。

「ブログですか……」

 それに、もしかしたら、本当に限りなく少ない確率だけれど、運営が何らかの手を回している可能性はゼロじゃないわけで。


 誰だってレアアイテムは欲しいし他人より運に恵まれたいと思うものだ。かくいう僕にだって欲しい装備はある。高額なアイテムが落ちないかなーなんて、このゲームをしている人なら常日頃から考えていることだ。

 ほんの僅かな手間で可能性が上がるなら賭けてみたいと思う人もいても不思議じゃない。

「それにね、最初は不純な動機だったとしても、続けている内に更新するのが楽しくなった人も多いの。ゲーム外でも友人を作れるし、色々な所に目が行くようになって以前よりゲームを楽しめるようになったって声も沢山あるから。有名なのはこれかな」

 リアさんはゲーム内に搭載されているブラウザを使ってどこかのページにアクセスすると可視化モードに切り替えて反転。

 砂漠の夕暮れ、朝焼けの城砦、雨に濡れる森林、風に揺れる草原。

 様々な風景写真がずらりと並んだブログには|World's End《世の果て》という名前がついていた。この世界のありとあらゆる景色を纏めているらしい。


「題材なんて何でもいいのよ。例えば戦ってる凛々しいカナちゃんとか、回復魔法を唱えてる神秘的なカナちゃんとか、美味しいケーキに笑顔を浮かべる可愛らしいカナちゃんとか、下着姿でどの装備にしようか迷ってるカナちゃんとかの写真を貼ってみるとか」

「良い訳ありませんっ! 特に何ですか最後のは!」

 最近はリアさんとの交友値も溜まり、以前よりも雰囲気が柔らかくなってきているのは良いのだけれど、どこかリディアさんに近い雰囲気を感じ始めているのは気のせいだろうか。ギルドの後輩にお姉さまと呼ばれて喜んでるみたいだし。

 大体ネカマの僕がブログなんぞ書いて悪目立ちなんてしたらバレるリスクが高まるだけだ。都市伝説の検証なんかで危ない橋を渡るつもりもないし、ゲーム外でもネカマを演じるなんて以てのほか。ただでさえ厄介なのにこれ以上の面倒事を増やしてなるものか。

「定期的に更新するのも大変そうですしご遠慮しときます」

「残念。カナちゃんのこともっと知れると思ったのになぁ」

 きっぱりお断りを入れるとリアさんはさもがっくしと項垂れた。

 ブログを始める方ではなく、勧める方に不純な動機があるケースは珍しいんじゃなかろうか。


 そうこうしている内に大量のデザートが運び込まれ、瞬く間に木目の綺麗なテーブルを埋め尽くしていく。

 本来なら電子データだけあって現実と違い作る手間なんてものは存在しない。

 それでも運ばれるまでに時間が掛かったのは、間に会話を楽しんでほしいと言う運営の配慮なのだろう。

 どれもこれも飾りつけからして気品が漂っており、味だけではなく視覚でも堪能できるように出来ていた。

「どうせだしみんなで少しずつ色々な種類を頂いてみましょうか」

 既に注文も支払いも終わった後だ。今さら遠慮なんてしたところで何の意味もない。リアさんの提案に異を唱える人は誰も居なかった。


 デザートの名前は聞き慣れないカタカナだらけでよく分からなかったし、味の方も解説が出来るほど詳しくはないけれど、信じられないくらい美味しいと言う一点に置いては否定しようがなかった。

 我々が今まで食べていたのはただの砂糖の塊だったのかもしれない……は言い過ぎだけど、口どけとか、後味とか、普段はあまり気にしない所からして全然違う。

 今後このレベルのお菓子を食べる機会があるのか怪しいけれど、いい経験が出来たと思う。

「御馳走様でした。本当においしかったです」

 奢ってくれた青年と連れて来てくれたリアさんに感謝の言葉を告げる。

「そんなに畏まらなくていいさ。俺のミスで君にデスペナを受けさせてしまったわけだし、これくらい当然だよ」

「そうそう、彼の言う通りなんだから気にしなくていいの」

 当然と言われても、たかだか70台のデスペナに1M超えの請求はあまりに暴利に思える。気にしない方が無理な話だ。

「それでも気にしちゃうのがカナちゃんの可愛い所なんだけどね」

 図星を突かれて思わず言葉に詰まる。

「それに、下心がないって訳でもないから」

「下心、ですか……」

 リアさんの下心と聞いて思い浮かぶのは精々が頭を撫でられるか人形のように抱き締められるかである。

 まぁそれくらいなら、今回に限って、許可するのもやぶさかではない。

「そう。あのね、みんなにお願いがあるの」

 と思っていたのだけれど、どうやらもう少しだけ真剣な話みたいだ。


「まずはごめんなさい。【穢れた呪術師】の討伐依頼は偶然じゃなくて、私達が意図した物なの」

「重ねて言えば討伐人数が足りないって言ったのも半分は嘘だな」

 突然のカミングアウトと共に揃って頭を下げたリアさんと青年に僕等は何と言っていいのか分からず言葉を失う。

「あ、謝らないでください!」

 だって、ねぇ。ぶっちゃけ半分くらいは気付いてましたから。

 根拠なんて幾らでもある。


「リアさんのギルドは加入者3桁の超巨大ギルドですし、【穢れた呪術師】は僕等みたいな低レベル組を加えた9人で倒せるくらいボスとしては弱いんですよね」

「状態異常が面倒かつレアもないから放置されているだけで、リアさんからすれば取るに足らないボスでござろう?」

「リアさんに人望がないとは思えません。本腰を入れて討伐メンバーを召集すれば集まらないわけないですし」

「それでも俺達に声を掛けてくれたのは、ボス狩りってイベントを楽しんで欲しいからだと思ってました」

 ハルト達の言い分にリアさんは『随分信頼されちゃってるわね……』と悩ましげな声を漏らす。

 それはそうだ。今まで僕等がどれだけ助けて貰ったか、多分分かっていないのは当人だけだろう。

「確かにボス狩りを、いいえ、上位コンテンツの楽しみを知って欲しかったのもあるけど、それ以上に私達の枠組みに加えたいって言う思惑もあったの」

「枠組み、ですか?」

「そう。具体的に言えば派閥みたいなものかな。今回の追加ロット販売がね、大手の勢力図にも波及しそうなの」


 このゲームはサービス開始からまだそれほどの年月が経っていない。

 今までは廃人と呼ばれる人達でも自分のレベルを上げるのに必死で、他者の育成にかけられる時間が絶対的に不足していた。

 しかし最近はレベル上限である120に到達した者もちらほらと現れ始め、廃人達の間にも若干の余裕が生まれつつある。

 そんなが彼らが次に求めたのは、自分達の所属するギルドの強化だった。


「ギルドにとって個々のメンバーの質は勿論大切だけど、それ以上に人数っていうのも重要な要素なの」

 加入者が多ければ多いだけ集団という利を生かせるようになる。

 例えば、狩場の独占。百人単位の集団が一つのマップを占有してしまえば他の人間が狩りにくくなる。

 結果的にその狩場で産出されるレアアイテムを独占し、値を吊り上げる事だって可能だ。

 他にも、首都で持ち上がっている露店区画の移転・増設計画といったユーザー主体のイベントで自分達の意見を通しやすくなる。

 ユーザーの売買で値が変動する都合上、移転先の不動産関係は間違いなく暴騰する。

 一般ユーザーへの周知が行われる前に土地権利を確保しておくだけで、目がくらむような金額を手にする事だってできるのだ。

「なんかもう、本当に何でもアリですね……」

「黎明期のオンラインゲームにはよくあるバブルみたいなものね」

 この世界に公正取引委員会なんて機関がある筈なく、ユーザー間の転売、買占め、談合なんかを規制する手段はない。

 まさにやったものがち。そしてギルドの規模が大きければ大きい程やれる事も増えるのなら、廃人達が躍起になるのも分かる。


「ただ問題もあるのよね。今のところ販売ロットが凄く制限されてるでしょ?」

 フルダイブシステムを活用したオンラインゲームはこれが世界初。

 サーバーへの負荷が想定しにくい事を理由に、利用アカウントの販売数は未だ6桁にも達していない。

 一昔前だと人気のゲームは1年と経たずに100万単位のアカウントを超えるのが常でこの数は異常と言っていいそうだ。

 未だかつて大規模な障害を発生させていないのに依然として慎重な姿勢を取り続けているのは、それだけ運営が大切にコンテンツを育てているのだろうと言う肯定的な意見もある反面、アカウント数を絞る事でプレミア感を演出し接続料金を高額に設定しているんだなんて陰謀論から、彼らは機関に通じており裏で人体実験をしているに違いないなんてトンデモ論まで飛び交っている。

 それにしても人体実験て。ヨーヨーや模型の車を始めとした玩具で世界征服を目論む漫画が流行していた世代の方々だろうか。とりあえず最終目標を世界征服にしておけば無難だよね、みたいな。シェアで世界征服をかけていたのかもしれないけれど。

 閑話休題。とにもかくにも、大手ギルドにとって人材の確保は重要な課題になっているそうだ。


 初心者の流入が見込めない以上、ないものねだりをしても仕方ないのだから、人材はある所から引っ張って来るしかなかった。

 そう、他のギルドである。

 ギルドとしてもゼロから初心者を拾って育てるより、ある程度の実力を持つユーザーを抱き込んだ方が負担は少ない。

 あ、こいつ使えるなと思ったら即勧誘。断られても餌で釣る。かくして大手同士の激しい引き抜き合戦が水面下で繰り広げられる事となった。

 野良PT中に何度も何度もしつこく勧誘されたのはそういう訳だったのか。泣きそうな顔で入ってくださいと頼んできた人もいたけど、もしやノルマなんかがあったりして。大手怖い。

 秩序も何もない、まさに札束で相手の頬を殴るがごとき勧誘合戦は終わりなき混沌に突き進むのかと思われていたのだが、最近ある事件が起こってから急に下火になったらしい。


「スパイが現れ始めたのよね……」

 リアさんは苦笑しながらそう零した。

 考えてみれば当然だ。相手のギルドの情報を多額の報酬付きで持って帰れるのだから美味しいってレベルじゃない。

 独占していたボスの湧き時間、職業やスキル、ステータスの構成、持っている装備、ギルド内の力関係などなど。

 特に対人戦において自分の装備やスキル、ステータスを知られるのは弱点を晒すのに等しい。

 あいつは回避力高いから魔法で、あいつは防御力特化だから足止めだけして無視なんて戦術を次々に作られてしまったとか。

 ギルドスパイが発覚した途端に多くの大手ギルドは引き抜きを止め、中にはメンバーの監視まで始めたところもあるとか。

 疑心暗鬼が疑心暗鬼を呼び、第一次引き抜き合戦は終息した。

 しかしながら、事はそれで終わらない。ギルドを大きくしたいという欲望がなくなったわけではないのだから。


 まず徹底されたのが初心者の勧誘だ。どのギルドにも属していない彼らは今はまだ弱くとも宝石の原石となり得る。

 しかし彼ら以上に重宝されている存在があった。仲間内で作られた小さなギルド群である。例えば、僕等のような。

「なんでまたこんな小さいギルドに?」

 アキツさんの言う通り、僕等のギルドは10に満たない。大手からすれば砂漠の中の一粒、有象無象の中の一つに過ぎないだろう。

 現に今までも僕等のような存在は誰の目に留まる事もなくひっそりとやってきていた。

 それが突然、大手に目を付けられているなんて言われてもピンと来るはずもない。


「ギルドの同盟機能は使ったことある?」

 しかしリアさんの表情は真剣そのものだ。

「確かギルド同士で何かする為の機能でござるな」

「肝心の何が出来るかについては覚えてないわ」

「確かPv可能フィールドで同盟を組んでると互いの攻撃が当たらなくなるとかだったような?」

「チャットは無理でも共有の掲示板機能が使えるようになるんだっけ?」


 ギルド結成の時に一通り調べたものの、使う機会がないので忘れているらしい。

 脳裏に残った僅かな情報を集めると、つまりそう言うことらしかった。

 同盟を組んだギルド同士はPv可能領域において味方へのダメージである【フレンドリファイア】が発生しなくなる。

 同盟を組んだギルド同士は同盟用掲示板がギルドメニューに表示され、情報のやりとりができるようになる。

 同盟数に制限はなく、理論的にはゲーム内に存在する全てのギルドで同盟を組む事も可能だそうだ。

 大手ギルドでもなければ早々使う事のない機能で、知らないのも無理はない。

「それからもう一つ」

 リアさんはこれが一番重要な機能なのだと付け加える。

「同盟を含む全ギルドの人数が【同盟人数】としてメニューに表示されるようになるの」


 このゲームは一人一アカウントが原則で水増しは難しい。

 例えば先の市場拡張などの話し合いが大手ギルド主催で行われた場合、この数値がそのまま【賛成数】として扱われたりする。

 自分の理論を押し通すのに多数決ほど分かりやすく、解決しやすい物はない。

 ギルドメンバーが増えるわけではないから狩場や市場を占領したりはできないけれど、あって損のない数字なのだ。

 なにより、自分のギルドに迎え入れるわけでもないのだから情報が漏えいする事もない。

 そう言う訳で、どのギルドも今まで軽視していた同盟による人数の水増しが最優先課題になっていた。

 どうしてだろう。ゲームの中に居るはずなのに、こんなファンタジー溢れる世界なのに、現実のせせこましさが離れてくれないなんて。

 このゲームってこんなおどろおどろしい戦略要素に満ちてたっけ。


「だからみんなの所へ同盟のお誘いが来る前に話しておきたかったの。私達と同盟を組む気はないかってね」

 リアさんのギルドはかなりの大手だ。有利に運びたい話もあるのだろう。僅かな人数でも力になれるのなら断る理由はない。

 ギルドチャットで呼びかけてみても返答はみんな同じだった。

「喜んでお受けします」

 マスターのアキツさんがそう告げると、あからさまにほっとした表情を浮かべた。

「ありがとう。でもすぐに決めていいの? 他にも同盟先を探している大手は多いし、多少の報酬や特典を出すところもあるくらいだけど」

 その手で有名なのは大手鍛冶ギルドだとか。

 武器の精錬や鍛造で使う鉄鉱石や木炭を始めとした素材アイテムを、同盟加入者なら2割から4割増しで買い取ってくれるらしい。

 運が悪いと赤字になりかねないギリギリの買い取り額だ。

 製造職にとって自分の作ったアイテムが売れるかどうかは死活問題でもある。少しでも人目に付く良い場所を確保したいのだろう。

 多少の損を出してでも人数を確保し、市場に自分達の意見を通したいという思惑が見える。

 今は完全紹介制で試行錯誤を繰り返しながら赤字を出さない適正価格を模索しているらしい。

 噂によるとかなり順調らしく、近い内に一般の参加も受け付けるだろうと予測されていた。


 なるほど、もしそれが本当なら一般ユーザーにとってかなり割のいい話になるに違いない。

 利益を求めるのならリアさんの提案に乗るより、こうした特典を用意してくれるギルドと同盟を結んだ方が良いのかもしれない。

 でもそうなると、この話の真偽はともかくとして気になる点が生まれてくる。

「確かに魅力的ですけど、リアさんがこのタイミングで話を持ってきてくれたのは意味があるんですよね?」

 僕がそう返すと、青年は実に楽しそうな笑い声を漏らした。

「はは、うちのリアは随分と信頼されているな」

「それは勿論。リアさんには何度も助けてもらってますから」

 だって、もし何がなんでも人員が欲しいだけならこんな話をする必要なんて欠片もないのだから。

 少なくともリアさんは僕等を利用しようなんて思っていない。ギルドにスパイが忍び込んだように情報は時に重大な価値を持つ。

 僕達の耳に入る筈もない大手間の情報を漏らしてくれたのは単なるお節介に過ぎないのだろう。


「ありがとう。実を言えばカナちゃんには前に加入を断られてるし、同盟の話を持ち込むつもりはなかったのよ。このギルドは結構内輪の関係が強くてね、引き抜きが横行してた時も抜けたメンバーが殆どいないくらいには結束が固いし、人数自体にはさほど興味もないの。ゲーム好きな人達が集まった結果、想定以上の規模と結果を出しちゃってるだけって言うか、拡大競争に入るつもりもないしね」

 リアさんのギルドはこれほどの規模なのに自由な雰囲気が蔓延していて加入者からすると居心地がいいらしい。

 大手ギルド間の競争に疲れて脱退したメンバーが加入していたりもするのだそうだ。

 最上位ではないけれど、規模はかなり大きいので、いわば上位ギルドに留まれなかった人達の受け皿的な位置を確保しているらしく、意図したわけではないので漁夫の利だと笑った。

 先の話も大手からドロップアウトしたメンバーによってもたらされた物だとか。

「大手の中にはね、同盟先をただの駒にしか思ってないギルドもいるの。自分達の代わりに同盟先を探させたり、加入料を支払わせたり。同盟を解消したいって申し出たら嫌がらせを受けたって報告もあるくらい。何も知らないカナちゃんを騙くらかそうとする連中を黙って見過ごすわけにはいかないから、いっそ全部話したうえで誘ってみようかなって思って」

 騙くらかすって。いや、確かに何も知らない状態で恩恵だけを提示されたら頷きかねないけれども。

 大手ギルドの争いは一般ギルドも巻き込む形で拡大しているようだ。全くもって迷惑な話である。


 大体の事情は掴めたけれど、まだ一つ分からない事がある。

「でも、それが【穢れた呪術師】の討伐を意図した事に関係あるんですか?」

 疑問に思っていた事をハルトが一足先に尋ねた。普段は残念なクセにこういう時は人一倍敏感なのだ。

「みんなの実力を知りたかったの。といっても、腕を疑ってたわけじゃないわ。最初に狩りへ行かせて貰った時から連携の凄さは見ていたし。初めてのボス戦の反応が見たかったってところかしら」

「そうだったんですか。それで、どうでしたか?」

 ハルトはどうしてそんな事をしたのかより、結果の方が気になるようだった。

 実は僕も理由なんてどうでも良かったりする。それより、自分の支援が遥かに格上のリアさんにどう見られていたかの方が気になった。

 どうやらそれは他のみんなも同じらしい。誰も口を挟もうともせず飛び出すであろう評価に耳を傾けている。

 リアさんはそんな僕等の様子に苦笑しつつ、『満点』と短く答えた。


「特にカナちゃんは花丸ね。あの状況下で咄嗟に彼を助けようとするなんて普通できる事じゃないわ。個人的にはカナちゃんを犠牲にする選択なんてありえないけど、戦略的にはカナちゃんが失敗しても全滅するのに変わりないし、イチかバチか成功に掛けて飛び込むべきっていう判断は正しいわ」

 満点なうえに花丸まで頂戴した僕はこれ以上ないくらいのドヤ顔を披露する。しかしそれも束の間。リアさんはすぐに『でも……』と先を続けた。

「ああいうのはゲームだけにしなさい」

 それは珍しく、リアさんにしては堅い言い方だったと思う。

「ここはゲームだけど、行動には現実が反映されるの。目の前で車に轢かれそうな子が居たとしても、みんながみんな英雄的な行動を取れるわけじゃない。寧ろ逆、咄嗟の出来事に身体が動かない人の方が多いわ。それはここでも同じなの」

 つまり、現実で危機的状況に瀕している人が居たら咄嗟に動きかねないから気を付けなさい、という事なのだろう。

 この世界ならデスペナルティを受けるだけですむけれど、現実はそうじゃない。

 だけどそれは流石に買い被りが過ぎる。ハルトのせいで緊急事態には慣らされているとはいえ、飛び出せば死ぬかもしれない状況で足を動かせる程の度胸があるとは思えない。

 これでも小心者なのだ。どうしたら自分への被害が最小限になるか常日頃から考えているくらいだし。

「流石に現実でそんなこと出来ませんよ。ゲームなら死んでも平気だって思いが根底にあるからこそ、です」

「まぁ、そうよね。流石に現実とは違うかな」

 僕の言葉にリアさんもちょっと飛躍しすぎたと思ったのか、気恥ずかしげに手を振ってから話題を戻した。

「そうそう、みんな満点って話だったわね。評価なんて身勝手だけど、今後同盟を結ぶに当たってどうしてもみんなの反応をしっかり見ておきたかったの。ボス狩りを楽しめるかどうかって重要だから」

 同盟を結ぶ事と実力を測る事に何か意味があるのだろうか。もしかして難易度の高いクエストをクリアしないと同盟を結べないとか?

 僕の勝手な想像を、リアさんはとんでもない一言で粉砕してのけた。


「今後、私達と一緒に上位コンテンツへ挑戦する気はない?」

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