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World's End Online Another -僕がネカマになった訳-  作者: yuki
第一章-まだ、この世界がゲームだった頃-
18/43

僕がネカマになった訳-18-

 ハルトとの会話を早々に切り上げて視線を戻すと、ギルドのみんなは完全にやる気を取り戻していた……のだが。

「ようし、それならみんなの気分を盛り上げるべくこのギルバードが華麗な歌声を披露して進ぜよう!」

 ギルバードさんはちょっと……いや、かなり空回りしていたようで即座に突っ込みが殺到する。

「いや、要らんし」

「(´・ω・`)やる気がそがれるからやめて?」

「歌ってる最中に肝心の演奏スキルが中断したらどうするんですか」

 その場に居合わせた3人から次々に冷たい言葉を受けて潤んだ子犬のような瞳を唯一の希望とばかりに残った僕へ向けてきた。

「えっと、ここだと歌声でモンスターが集まっちゃいますし、また今度、機会があればちゃんとした場所で聞かせてください」

 正直なところ他のみんなと同感だったりするけれど、流石に情け容赦のない言葉を吐き捨てるわけにもいかず、こんな場所で歌われても迷惑ですを精一杯オブラートに包んで言い含める。

「ああ、喜んで。君の為なら何曲でも歌うよ!」

 すると分かりやすいくらい顔色に艶が戻り何度も頷いた。

 それにしてもこの世界にちゃんとした場所とやらはあるのだろうか。そもそも機会が訪れるとも思えないのだけれど、勿論そんな事は口にしない。


「あと10秒、みんな退避の準備を!」

 馬鹿なことをしている間にかなり時間も経っていたようだ。

 リアさんの緊迫した指示に、僕等は【穢れた呪術師】の姿を凝視して詠唱の瞬間に逃げ出せるよう身構える。

 敵の詠唱時間は大凡5秒。元より離れた場所に居る僕達は範囲外まで10メートルしかないので逃げ切るのは難しくない。

 大変なのは重装甲に身を包んだ守護者の青年とリアさんだ。足場は土だから滑りにくいとはいえ、ついうっかり転んだりすれば直撃は避けられない。

 一昔前のゲームならギミックの伴わない移動に失敗するなんてありえなかっただけに、身体そのものを操作するVRゲーム特有の凡ミスと言える。

 普段ならありえないような失敗でも、早く逃げなければと気を急いているとなれば話は別。実際、ボス狩ではこの手の凡ミスが原因で全滅する事がよくあるらしい。

 カウント0と同時にリアさんは戦域を離脱、守護者の青年は【穢れた呪術師】が詠唱モードに入ったのを確認してからやや遅れての離脱。

 範囲外までおよそ30メートルとはいえ、少しもたつくだけでも巻き込まれかねない。

 青年がガシャンガシャンと重厚な金属音をまき散らしながら安全地帯に飛び込んでからきっかり3秒後、真っ黒な霧と風切り音が再び通路に荒れ狂った。


「やっぱり高レベルの守護者さんでもアレはマズいんですか?」

 リアさんに近づくとまた絡まれそうなので思いきって青年の方に声を掛けてみる。

 経験豊富だろうし、もしかしたら盾役の知識を仕入れられるかもしれない。

「ん? ああ、ダメージ自体はなんとかなるよ。ただ、下手に状態異常を貰って行動不能になるとタゲを取りこぼしかねないからさ」

 青年は突然話しかけられた事に若干驚きはしたようだが気さくに答えてくれた。

「この霧じゃ何も見えないっしょ。おかげで折角稼いだヘイトもリセットされるからすぐに稼ぎなおさないといけないんだ」

 ヘイトはただ加算されるだけじゃない。時間の経過や敵のスキルによって揮発……要するに減ったりもする。

 中でも厄介なのが【ターゲットロスト】と呼ばれるヘイトのリセットだ。

 これは通信エラーやノックバックなどで盾役が敵の認識範囲から外れてしまった時に発生する。

 居なくなった盾役をいつまでもターゲットしても意味がないので、認識範囲内で最もヘイトを稼いでいる誰かに移ってしまうのだ。

 【穢れた呪術師】の【汚染奔流(インフェクトストリーム)】は見ての通りドス黒い霧で構成されているから視界なんてあったもんじゃない。

 僕等が敵の姿を見失うように、敵も僕等の姿を見失っており、霧が晴れ次第すぐにでもヘイトを稼がないと後衛にタゲが移ってしまうのだとか。


「た、大変ですね……」

 盾役は立っているだけで楽そうなんて言われる事もあるけれど、実際は細やかな気配りが必要で気苦労も絶えない。

 ハルトだってただ突っ立っているように見えても周囲の索敵に余念がないのだ。

 不測の事態を抑えきれず決壊すれば全て自分の責任というのはいかにもプレッシャーだろう。

 しかし青年は気負っている様子が少しもなく自然体その物だ。小物の警戒に勤しんでいるハルトの過ぎた緊張感と比べれば雲泥の差である。

 きっと、今さら気負う必要がないくらい場数を踏んできているのだろう。

「あれこれ考えながら動くのだって慣れれば楽しくなるものだ。それに、誰もが俺の一挙手一投足に注目してると言えなくもないだろう?」

 唐突な物言いに思わず首かしげたものの、支援は言わずともがな、アタッカーだって盾役が抑えている敵を攻撃しているのだから必然的に視界へ入れざるを得ない。

「なるほど。その理論は思いもしませんでした」

 自信ありげなポーズに悪戯っぽい表情を浮かべて見せる青年に思わずくすりと笑みが零れた。


「なら、今日はリアさんに見て欲しかったんですね」

 リアさんはギルドメンバーにも声を掛けたけどみんな他の用事だったり乗り気じゃなかったりで人数が集まらなかったと言っていた。

 言い替えれば、この青年だけが全くうまみのない討伐に志願したとも言えるんじゃなかろうか。

 誰とも知らない僕等の中に活躍を見せつけたい誰かが居るはずもないから当然の帰結とばかり思っていたのだけれど、青年にとっては予想だにしない不意打ちだったらしい。

 驚きと気恥ずかしさに彩られた顔をバツが悪そうに背けてしまった。

 反応からして図星なのは間違いないとして、まさか見透かされるなんて思ってもみなかったのだろう。

 前時代的なネットゲームにだって、人間関係は勿論のこと恋愛感情にまで発展するのも珍しくなかった。文字通り生身で接続するVRMMOは以前よりもずっとこれらの敷居が低いといわれている。

「大丈夫、言ったりしませんよ」

 別に深入りするつもりはないから安心してくださいと耳打ちする。

「……そうしてくれると助かる」

 青年はあからさまな安堵に今度は苦笑が漏れた。


 その言葉が終わるか終らないかの瀬戸際。唐突に背後から肩を抱かれ、青年と僕の間に女性の首が生えた。

「二人で何をこそこそ話してるのかなー?」

「のわっ!」

 突然湧いて出たリアさんに青年が大仰な叫び声をあげる。先程の会話を聞かれたのではないかと気が気でないらしく表情は凄惨たる有様だ。

 リアさんは哀れな青年の様子を訝しげに思ったのか、わざとらしい声色で絡み始める。

「んー? その反応は何か怪しいなぁ。まさかカナちゃんに手を出したりしてないわよね」

 幸い、先程の会話は聞かれていなかったらしい。とはいえ、想い人に別人との関係を疑われるのは哀れすぎる。

「盾の役割について聞いてただけです。とっても参考になりました」

 青年のフォローに回ると、今にも襟首を掴んで揺さぶりそうだったリアさんがなんだとばかりに弛緩する。

「そっか、ごめんごめん。彼、経験だけは豊富だから色々聞けると思うけど、それはまた今度の機会にね。ボス戦はまだ終わってないんだから」

 そう言って指差した先では【汚染奔流(インフェクトストリーム)】のエフェクトが薄らぎ始めている。

「安心しろ、流石に仕事を忘れる程寝ぼけちゃいない」

 青年は言うなり盾を構え、霧の奥に潜む【穢れた呪術師】に向って駆けだした。


 【穢れた呪術師】は青年を近づかせまいとばかりに幾つもの魔法を虚空へ展開し真正面から射出する。

 数にして8。仮に僕が受けようものならその内の1発だけでHPの大半を失うだろう。

 ただでさえ避けるのも防ぐのも難しい攻撃魔法を前にしても、守護者の青年は速度を落とすことなく真っ向から立ち向かった。

 どこか楽しそうな薄ら笑いと決意に滾る瞳が、回避も防御も必要ないのだと雄弁に語っている。

「ここ、だっ!」

 すさまじい速度で降り注ぐ魔法を、青年は盾の面に這わせるように合わせてから裂帛の気合と共に振り抜く。

 たったそれだけで青年を狙っていた魔法の軌道は弾かれ、逸らされ、洞窟の岩壁へとぶち当たり派手なエフェクトを散らしてから霧散した。

 騎士系列で取得できるパッシブスキル【パリィング】。敵の攻撃を受流すことでダメージや硬直、反動を限りなくゼロにできる。殆ど無敵と称してもいいくらいだ。

 ただし非常に強力な反面、発動を自動的に行ってくれるシステムアシストが存在しない。

 発動には敵の攻撃に対し、適切な方向とタイミングを自分の感覚だけを頼りに予測した上で今みたいに弾く必要がある。


「す、凄い……」

 信じられない光景に思わず感嘆の声が漏れる。

 ハルトもこのスキルを持っているけれど、通い慣れたダンジョンの雑魚とタイマンかつパリィングに集中できる状況でのみ、辛うじて成功できるくらいの難易度らしい。

 格下狩場で余興として使うならいざ知らず、実戦で使うには信頼性が乏しく逆に危険だと話していた。

 これは別にハルトの腕が悪いとか言う問題ではない。剣や斧といった近接攻撃ですら、パリィングの成功タイミングはわずか0.1秒未満。

 それくらいなら……と思うかもしれないけれど、パリィングには攻撃の方向を見極める必要もある。

 左上からの攻撃を左上に弾こうとしても力関係が直角では受流しになりえない。同じように上から下方向に流れる力を上に転換することも不可能だ。

 敵の攻撃がどこから来て、いつ、どこへ受流せばいいのか。それを僅かな攻撃の瞬間に判断して咄嗟に対応するなんて十分に訓練を受けた人間でもない限り難しい。

 いや、例え現実で何らかの訓練を受けていたとしても、それは人間を想定した物のはず。

 人間以上の腕力や瞬発力を持つモンスターを相手に通用するかは怪しいものだ。

 だというのに、彼は近接攻撃とは比べ物にならない速度で飛来する魔法を完璧にいなしてみせたのだ。驚かない方がどうかしてる。


「また無茶して……。いつもと違って余裕がないのに失敗したらどうするつもりだったのかしら」

 なのにリアさんは驚くどころか呆れている様子だった。青年の心境を知ってしまった僕としては可哀想としか言えない。

「またってことは、普段からあれを常用しているんですか?」

「どうかしら。私はよく見かけるけど、一度も見たことがないメンバーも居るみたいだから」

 それはリアさんに褒めて欲しくてしてるんですと言いたかったけれど、先の約束があるので口をつぐむ。

 定石からすればリアさんの心配の方が正しいのだからフォローも難しい。


 パリィングに失敗しても通常通りのダメージやノックバックが発生するだけでペナルティがないとはいえ、攻撃を受ける前提で盾をどっしりと構えている時と比べれば体勢が大きく崩れるのは間違いなかった。

 もし派手に転倒でもすれば復帰に時間がかかり、最悪ヘイトを稼ぎきれず後衛へ敵を流してしまう可能性だってあるのだ。

 パリィングが一般的に浸透していない理由はこれに尽きる。

 失敗のリスクがある以上、盾役の前衛に求められているのは神がかり的な技術ではなく、凡人でも攻撃に耐えられるだけの装備とレベルなのだ。

 敵の攻撃に耐えられる防御力があるのなら分の悪いパリィングなんて使う必要ないし。

 青年はそれを理解しているからこそリアさんの前でしか使っていないんだと思う。目撃者にムラがあるのもそのせいだ。


 魔法のパリィングなんてものは一朝一夕で出来るようなものじゃない。きっと裏では血の滲む様な努力をしたのだろう。

 自分だけの特別な何かが欲しくて。それを特別な誰かに褒めて欲しくて。厨二病だと言われようとも男には実利を超えた見栄を張りたい時があるのです。

 それが欠片も伝わっていないのは流石に悲しすぎる。直接的でなければ幾ばくかのヒントくらい教えてもバチは当たるまい。

「えっと、凄く知識も実力もある方ですし、無意味なことはしないと思うんです。きっと何か凄く特別で重大な理由があるんじゃないでしょうか。例えば……」

「ごめんね、ターゲット確保できたみたいだから行ってくる。また後でねー!」

 見ている人と見ていない人の差ってなんでしょうか。そう続けようとしたのだけれど、今はボス狩りの真っ最中なのだ。タイミングが悪いとか言えるはずもなく、足早に配置へ着くリアさんを黙って見送るしかなかった。


「って、こっちも準備しなきゃ……! サスケさん、MPの方は大丈夫ですか!?」

 すっかり話し込んでしまったせいで自分達のパーティーの状況把握が少しも出来ていなかった。支援としては0点……を通り越して落第である。

「8割くらいでござるな。今回は出撃するでござるよ」

「お願いします、すぐに付与しますね」

 本当は敵のスキル効果中に済ますべき支援の数々を大急ぎでこなし、ややの間を空けて配置に付く。

「それじゃ、後半戦と行きますか」

 アキツさんの号令にそれぞれが頷き帰すと、まずサスケさんが持ち前のAgiを生かして急接近、背後を難なく取ってから高威力のスキルを連発し始めた。

 エフェクトの派手な光が咲く度に【穢れた呪術師】のHPがゴリゴリと削られていく。しかしそれも束の間。サスケさんのMPはそう多くないのだ。

「MPは尽きたが継戦するでござるよっ」

 既に敵の体力は2割以下。急げば【汚染奔流(インフェクトストリーム)】を使われる前に倒しきれるかもしれないと踏んで退かずに攻撃を続ける。

 ふと見ればリアさんも支援の合間に攻撃魔法を展開して微力ながら火力に貢献していた。


「残り30秒です!」

 先程の失敗を巻き返すべく、今度は僕が再使用までの時間を周知する。

 リアさんは魔法の発動に神経を尖らして会話が出来ないから、多少の手間くらい軽減させてあげたいし。

 敵のHPは既に1割を切って真っ赤に染まっている。体力の低下に伴う様々なバフによりステータスも格段に強化されている筈なんだけど、守護者の青年はそれをものともせず完膚なきまでに抑え込んでくれていた。

 このまま押し切れる。誰もがそう確信した時だった。

「背後から敵だ! 見えるだけでアクティブ6、アキツ!」

「このタイミングでかよっ!」

 ハルトの叫び声と共に【ハウリングシャウト】が木霊する。最悪の展開だった。どうやら前準備で倒した雑魚達がこのタイミングで一斉に再出現(リポップ)したらしい。

 せめて近くに出現した敵の数が3体くらいならハルト一人でも抑えられたのに。

 接近までの短い間に単体スキルで6体分のタゲを取りきれる確率は良くて7割。1割でもアキツさんや豚さんに敵が行って混乱する可能性があるのなら、何をしても避けるというのが事前の取り決めだ。

 欲張って雑魚に囲まれたところへ【汚染奔流(インフェクトストリーム)】をぶちかまされたらたまったもんじゃない。


 【ハウリングシャウト】は範囲スキルだから敵が何体でも範囲内なら問題ない。ただ一つ問題があるとすれば、地形効果でその範囲が異常に拡大されている点だ。

 倒した敵は一定時間で再出現する。倒した時間が同じなら、再出現の時間もまた同じなのだ。

 最初に雑魚を殲滅した時と同じくらいの数が集まってくるとなれば、豚さんもアキツさんも回復庫さんも【穢れた呪術師】になんて構っていられなくなる。

「残念だけど今回で倒すのは諦めましょう」

 3人分の火力が離脱すれば残りの時間で敵の体力を削りきるのは絶望的なのでここはリアさんの言うとおり諦めるしかない。

 ハルトはそれを終始苦々しい表情で聞いていた。大方自分に6体分のタゲを取れるだけの技量があれば倒しきれたのにと悔やんでいるのだろう。

「ハルト君、出来ないことがあるのは仕方ないの。大事なのは出来ないことを受け入れて無理をしないこと。迷わず【ハウリングシャウト】を使ったのは最良よ。自信もって良いんだからそんな顔しないの! ナイス判断だったわ」

 突然の励ましにハルトが驚いた様子で顔を上げた。その先ではリアさんがナイスとばかりに親指を立てている。

 まさか見られているとは思っても見なかったのか、気恥ずかしげに『ありがとうございます』とお礼を返していた。

 本当に細かいところまで見ているんだなと感心する。それなのにどうして守護者の青年の行動に気づかないのか……。


 とにかく、今は群がりつつある雑魚の殲滅が最優先だ。

 一足先に【汚染奔流(インフェクトストリーム)】の範囲外へ移動してから海産物のバーベキューに勤しむ。

「(´・ω・`)らんらん大活躍よー! おほーっ!」

 【穢れた呪術師】にはあまりダメージを稼げていなかったのを気にしているのか、豚さんは本領発揮とばかりに全力で魔法を展開しては愉悦の声をあげていた。

「これなら片面は任せられそうだな。俺達は反対側を受け持とうぜ」

 来た時は敵を殲滅しながら進んだので背後の心配をしなくて良かったけれど、今回は再配置(リポップ)なので背後からも【ハウリングシャウト】に釣られた敵がやってくる。

 アキツさんは豚さんに背を守るように立ちはだかり、向かってくる雑魚に向けて矢を放ち始めた。

 通路の前後で火力を分散せざるを得ず、火力の低下が唯一の懸念事項だったのだけれど影響はないようだ。

「残り10秒、退避準備してください!」

 雑魚の処理を手伝う傍らリアさんに時間を告げる。短い『おっけ』の返答を受けてからきっかり2秒後、詠唱開始まで残り8秒の段階でそれは起きた。


 リアさんはじりじりと下がりながらも最後まで青年の支援を続けていた。

 流石にこれだけ体力を削ると敵の抵抗も激しい。特に魔術師系はあらゆる方向から多数の魔法を放ってくるので盾では防ぎきれない場面もあった。

 すり抜けた魔法が人体の急所であるクリティカルポイントに突き刺されば、守護者と言えども馬鹿に出来ないダメージになる。

 元よりボス狩りの支援をたった一人で済ませようなんて無茶を、リアさんは徹底した支援の効率化でどうにか対応していたのだ。

 ディレイやクールタイムの計算を始めとしためまぐるしい調整に手一杯で、足元を通り抜けようとする一匹の海老型モンスターにまで気を回す余裕はなかった。

 一足先に安全圏へ離脱しようとしたリアさんがくるりと身を翻し反転、駆けだそうとしたところで足元のモンスターに躓く。

「きゃっ!」

 次の瞬間には可愛らしい悲鳴と共になすすべもなく倒れ込んでしまった。

 予想だにしていなかった事態は坂道を転がる小石みたいに際限なく悪い方向へと転がっていく。

 反射的に手を伸ばした先には不運にも蹴とばされひっくり返った海老型モンスターのお腹があって、全体重の乗った手の平はシステム的に渾身の掌底突きであると見做されてしまったのだ。

「ちょ、ちょっと!?」

 体勢を立て直す暇もなく倒れた身体へモンスターが『なにしとんじゃわれぇ』とばかりに乗り上がる。こうなるとStrの低い支援職は圧倒的に不利で、起き上がるのにも一苦労じゃすまない。


 誰もが予想もしなかった緊急事態に即応したのは、当然というべきか守護者の青年だった。

 少なからず心寄せている相手が転倒した挙句モンスターに襲われているのに動けなければ男が廃る。

 けれど、だからこそ青年は絶対にやってはいけない初歩的なミスを犯してしまった。

「大丈夫か!? すぐに助ける!」

 予期せぬ事態に冷静さを欠き、リアさんの元に駆け寄ってしまったのだ。

 【穢れた呪術師】はまだ詠唱を始めていない。隙だらけの背中を晒す青年の後を追いかけて攻撃しようとする。

「ば、バカッ!」

 リアさんが慌てて制止の声を上げた時には既に遅かった。【穢れた呪術師】はとっくに駆け寄ってきた青年の背後へと移動を終え、次の瞬間、再使用可能となった【汚染奔流(インフェクトストリーム)】の詠唱を始めたのだ。

「早く逃げて! 敵の位置がずれた分だけ安全圏もずれてる!」

 【汚染奔流(インフェクトストリーム)】は自分を中心とした範囲魔法だ。【穢れた呪術師】がこちらへ近づけばその分だけ安全圏も遠のく。

 最初に敵との距離を測ってつけた安全圏の印は意味を失っていた。今はとにかく距離を置いて範囲外に逃れるしかない。

 既に詠唱は始まっている。躊躇っている時間はなかった。この場に留まれば【汚染奔流(インフェクトストリーム)】に巻き込まれるのは必至。

 雑魚の殲滅はひとまず切り上げ、囲まれる危険性を無視してでも反対方向にひた走る。


「くそ、間に合えっ!」

 背後ではリアさんを抱き上げた青年が必至の形相で範囲外から逃れるべく足を動かしていた。

 だけど、【穢れた呪術師】の元の位置と移動後の位置、安全圏を把握していた僕は、あと僅かで間に合わないことに気づいてしまった。

 【穢れた呪術師】が酷薄な笑みをはっきりと浮かべて最後の一節に取り掛かる。青年も間に合わないと察したのだろう。

 ならばせめて、腕に抱えていたリアさんだけでも守るべく渾身の力で安全圏に向かって投げ入れた。

「すまないっ」

 それきり、役目は果たしたとでも言うように前のめりに崩れ落ちていく。走りながら人を投げればバランスだって崩れもする。

 リアさんは安全圏に辿りつけるだろうけど、青年は既に詰んだも同然だ。少なくとも自力では退避できない。

 盾を構えている時ならともかく、この無防備な状態で背後からの【汚染奔流(インフェクトストリーム)】を耐えられるだろうか。

 確か背面からの攻撃には結構なダメージボーナスがあったはず。

 ……もしも今ここで盾役の青年を失えば、蘇生する間もなくパーティは全滅してしまう。


「なにやってるのよ!?」

 素っ頓狂なリアさんの声色が語っているように、青年の選択は最初から最後まで間違っていた。

 本当はあの時、転倒したリアさんを無視すべきだったのだ。

 あの場に留まって、【穢れた呪術師】の詠唱を見届けてから、倒れるリアさんを尻目に安全地帯へ逃げ込めば良かったのだ。

 例えリアさんが【汚染奔流(インフェクトストリーム)】に巻き込まれて死んだとしても、その後で青年が【穢れた呪術師】のタゲを確保しなおせば僕の魔法で安全に蘇生できる。

 何よりも避けなければならないのは、【汚染奔流(インフェクトストリーム)】の後に【穢れた呪術師】を抑えられる人が誰もいなくなる状況だ。

 同じ支援職の僕は少しの間くらいならリアさんの代わりを務められるけど、盾役を代われる人は誰もいない。


 でも、青年の選択は正しくもあった。このゲームはあまりにもリアルすぎる。倒れている女の子を見捨てて逃げるなんて抵抗があるに決まっているのだから。

 それに、諦めるのはまだ早い。手は一つだけ残されていた。青年の盾役は代われないけど、生贄役ならぎりぎり代わってあげられるかもしれない。

 状況が既に詰んでいるのなら僅かな可能性にでも賭けた方が良いに決まってる。

 無謀な行為だと承知の上で、僕は崩れ落ちる青年に向って懸命に駆けた。

 ここまでしてみせた青年の好意が原因で、全部が台無しに終わる最悪の結果だけが残るなんてコントにしたって笑えない。


 詠唱が終わる1秒前。僕は倒れつつある青年の身体の真下へと滑り込み、胸倉を掴んだ。

 チャンスは一度きり。上からの位置エネルギーを回転に巻き込む要領で水平方向への運動エネルギーへ変換。同時に腹筋へ限界まで力を籠めて青年の足元を浮かせる。

 地面に背を預けている状態なら、腕を突っ張る事で青年の重量にもどうにか耐えきれる……筈!

「1個、借りですよ!」

 後は安全圏の方へ向かって巴投げの要領で思い切り投げる。直後、真っ黒な霧が視界を埋め尽くした。

「カナちゃん!?」

 凄まじい風圧で息苦しさすら感じる最中、ステータスに毒、石化、麻痺のアイコンが点灯する。

 【クラルスリア】は全ての状態異常にある程度の耐性まで備えているけれど完全耐性には程遠く、今回は不運にも防ぎきれなかったらしい。

 石化によって指一本たりとも動かせなくなったところへ追撃の攻撃魔法が襲い掛かり、猛烈な衝撃によって身体中を揺さぶられた。

 ジェットコースターで乱暴に振り回されたような感じと言えばいいのか。洗濯機で洗われると似たような感覚を味わえるかもしれない。

 攻略Wikiでも有名な即死コンボを低レベルの僕が耐えられる筈もなく、5桁とかいう恐ろしいダメージが見えた瞬間に視界がブラックアウトした。

 なーむー。


 死んだプレイヤーは敵の情報や周囲の状況を他のプレイヤーに伝達できないよう、視界が黒一色で塗り潰されてしまう。

 音声チャットも使えないのでハルトに文字チャットを送った。

『守護者さんは大丈夫だった?』

『ナイスアシスト、ぎりぎり範囲外だ。【汚染奔流(インフェクトストリーム)】が解除され次第すぐに起こすから死に戻りはするなよ?』

 分かってはいるけれど間違って『街へ戻る』ボタンを押さないようウィンドウ自体を消しておく。

 どうやら賭けには勝てたらしい。結果的に見れば青年もリアさんも無事で最良の結果と言えるのではないだろうか。

 リアさんと青年と僕の内、優先度が最も低いのは誰かと問われれば考えるまでもなく僕になる。

 それはそれで虚しくもあったりするけれど事実なのだから仕方ないし、これからそうじゃなくなるよう努力すればいいだけの話だ。

 今は自分の行動の結果に対して大いに胸を張るべきである。こういう達成感があるからこのゲームは面白いのだ。

『どやぁ!』

『うざいけど許す! マジでよくやった!』

 自信満々にチャットを打つと惜しみない称賛の言葉が返ってきた。大いに自尊心をくすぐられるまでは良かったのだけれど、その後に続いたチャットにはてと首を傾げる。

『けどまぁ、起きた後は覚悟しといた方がいいかもな。つかその瞬間だけ俺に代われ』

 何の事だと尋ねる前に【汚染奔流(インフェクトストリーム)】のエフェクトが終わったらしい。蘇生魔法(リザレクティア)によって復活を遂げた僕の視界は黒一色から薄明かりに照らされる洞窟へと塗り替えられる。

 ひとまず床の上で伸びていた身体を起こし、蘇生の御礼を告げようと口を開いたのだが、『ありがとうございます』の一言が発せられることはついぞなかった。

 ……駆けつけたリアさんに力の限り抱き締められたからだ。


「良かった……! 飛び込むなんて無茶し過ぎよ! 大丈夫? どこか痛んだりしない?」

「むーっ!」

 豊満な胸でがっちりホールドされると【汚染奔流(インフェクトストリーム)】よりも遥かに息苦しい。

 体格差のせいで生半可な抵抗ではびくともせず、かといって心配してくれているのが分かるだけに乱暴な振舞いも躊躇われる。

 錯綜する頭を冷ます為に空気を求めて無理やり息を吸うと一緒に甘い香りが流れ込んできてむしろ頭が茹だった。

 生憎と真面目に生きてきた僕にはこの状況を役得だと楽しめる程の図太い神経がない。

 今の僕に出来るのは強引に振り払うのが躊躇われるという建前で柔らかな感触に埋もれる状況を甘んじて受け入れるくらいである。

 ……いや、流されちゃダメだ。第一まだボス戦の途中だった筈。この状況に甘んじればデスペナルティまで受けて青年を生かした意味がなくなってしまう。


『助けて』

 どうにか文字チャットを送ると深い溜め息が聞こえた気がした。

「リアさん、苦しがってるのでその辺にしてあげてください。それにまだボスが残ってます」

 ハルトの言葉にリアさんははっとなって周囲を見渡す。

 盾役の青年のHPはこうしている間にも凄まじい勢いで削られ続けていた。回復も支援も飛んでこないのだから当然だ。

 手持ちの回復薬と回復庫さんが投げるポーションでどうにか現状を維持しているものの、素人目に見ても状況は劣勢だと分かる。

「っと、ごめんなさい。あんまりな光景だったからちょっと我を忘れてたみたい。でも後でお説教だからね!」

「ぷはっ」


 抑え付けられていた頭が解放されたことでようやくまともに息を吸えた。やっぱり空気は斬新より新鮮に限る。

 去り際の言葉に恐怖を感じつつも、今はそれどころじゃなかった。

 突然の事態に動揺していたのはギルドのみんなも同じみたいで、緊急時の回復役を言い渡されていた回復庫さん以外は臨戦態勢も取れていない。

 まずは現状の把握から。死んでいる間に何があったかを確かめるべく周囲を見渡すと状況を察したハルトがざっと説明をしてくれる。

「雑魚の殲滅は済んでる。【汚染奔流(インフェクトストリーム)】のカウントは混乱してて誰も計測できなかった。これでケリつけないとちょいやばいな」

 流石は気心の知れた間柄。知りたい情報が過不足なく揃っていて正直助かる。

 懸念事項だった雑魚の殲滅が済んでいるなら悩む必要なんてない。全軍、【穢れた呪術師】に向けて総攻撃あるのみだ。

「把握。豚さんとアキツさんはすぐに攻撃の再開を。サスケさんも背後から強襲してくださいっ。ハルトも周辺の雑魚は片付いたし攻撃に参加、支援飛ばします!」


 思考停止状態の相手には一方的にすべき事を伝えて尻を叩く方が早い。一人一人に名指しで指示を出して行動を促す傍ら、支援魔法を再展開する。

 狩りで普段から司令塔役をしているのも手伝ってみんなは反射的に動いてくれた。おかげで復旧は迅速。

 特に攻勢へ打って出たハルトの活躍ぶりは顕著だ。今までずっと待機と警戒に専念していただけあってMPにはまだまだ余裕もあるはず。

 見ているだけだった鬱憤を全て吐き出してやるとばかりに高威力のスキルを連発する姿は実に頼もしい。

 既に敵のHPは風前の灯なのだから、後先省みない猛攻に耐えきれるわけがない。


「これで終わりだっ!」

 ハルトがトドメを刺すべく長剣を弓なりに構えてから虚空へと跳んだ。

「【ヘヴンズフォール】」

 限界まで引き絞られた力が【穢れた呪術師】の頭上で解き放たれる。ついで、叩き付けるかのように振り払われた一閃が身体の中心を正確に薙いだ。

 とても剣とは思えない破砕音が洞窟を揺らし、抉られた土を四方へ撒き散らす。

 しぶとく残っていた最後の1ドットは呆気ないくらい簡単に消し飛んでいた。

 【穢れた呪術師】はくぐもった呻き声を上げるとその場に崩れ落ち、小さなポリゴンを撒き散らしながら跡形もなく消滅する。

 それきり、洞窟の中は何事もなかったかのように怖いくらいしんと静まり返り、【穢れた呪術師】の痕跡は地面に散らばった幾らかのドロップアイテムだけになった。




「終わった……んだよな?」

 アキツさんが弓を構えたままの姿でぽつりと漏らす。

「(´・ω・`)全然実感わかないわ」

 【穢れた呪術師】を倒してもファンファーレが鳴り響くわけじゃない。消失のエフェクトも含め思った以上にあっさりしていたせいで区切りがつかないのだろう。

 かく言う僕もどう反応すればいいのか考えあぐねていた。みんな静かなところで一人だけやったーとはしゃぐのもなんとなく躊躇われるし。

「意外とあっけないかもしれないけどこれで終わりよ。みんなありがとう、これで暫くはボスに怯えなくて済むわ」

 それを知ってかリアさんがぱんぱんと手を叩きながら区切りをつける。不思議なことにそれがきっかけとなって確かな実感が湧いてくる。


「見給え! 僕等もボスモンスターを討伐できるようになったんだ! ちょっと前まで絶対無理だって嘆いてた相手に勝てたんだよ!」

 やがて堪えきれなくなったギルバードさんが跳び跳ねながら身体全体で喜びを露に小躍りを始めた。

 その雰囲気に釣られてアキツさんや豚さんも段々とテンションが上がってきたようで、しまいには肩を組んで踊り始めてしまう。

「拙者達も随分と強くなったでござるなぁ!」

「だけどまだまだだぜ。何せ俺たちは……」

「まだ変身を1回残してる、ですよね!」

 どこかで聞いたような台詞で回復庫さんが締めるなり、その通りだと騒ぎ始める。この分なら過去のトラウマも払拭できたんじゃなかろうか。


 ただ、普段なら真っ先に混ざっていくハルトが今回のお祭りじみた喧騒には加わろうとせず遠巻きに眺めているだけなのが気になった。

「混ざらなくていいの?」

「ん? あぁ……」

 近付いて声をかけると煮え切らない生返事を返す。何かに悩んでいる時はいつもこうなるので分かりやすい。

「盾役としての差を見せ付けられたとか?」

 僕が尋ねると思い切り渋い顔を向けてくる。どうして分かったのかと言いたげだったけど、聞くまでもなく理解したのだろう。代わりに深い溜息が零れた。

 小学生からの付き合いなのだ。何を考えているかなんてお互いに知り尽くしている。

「みんなの火力がボスに通用するのは分かった。でも、【穢れた呪術師】を倒せたのはちゃんとした盾役が居たからだろ。今の俺じゃどう足掻いたって1分も凌げない」

 珍しく自虐的な物言いに呆れてしまう。

「そりゃ、レベルも装備も(クラス)も違うんだから仕方ないでしょ」

 極端な話、敵に回復系スキルがなければ与えられるダメージが1でも殴り続ける限りいつかは倒せるのだ。

 それに対し、敵の攻撃を耐えるには十分なHPと防御力が要求されるのだから、敷居はずっと高い。

「まぁそれはそうだけどさ……」

 ハルトもそれくらいの事は理解していると言いつつ、結局は煮え切らない態度で言葉を濁す。

「じゃあ何を気にしてるわけ?」

 追及モードに入った僕は中々にしつこい。やがて観念したのか素直に心情を吐露し始めた。


「盾役の参考にしようと見てたんだけどさ、なんつうか次元が違った。装備とクラスだけじゃない。敵の攻撃を予見して防御に回ってたし、宴会芸って言われてるパリィングまで実用化してた。……それでも危ない瞬間はあるんだよな」

 装備は集めればいい。ネタといわれたパリィングだって効果は有能なのだから成功できるように腕を磨けばいい。だけど守護者のスキルだけは守護者にならないと手に入らない。

 そして、たとえそれら全てを揃えたとしても、ボスには苦戦を強いられるのだと知ってしまった。

 ハルトが目指しているのは守護者(ガーディアン)と対をなす王室騎士(ロイヤルナイト)だ。

 守護者(ガーディアン)が数多くの防御系スキルを備えているのに対し、王室騎士(ロイヤルナイト)は多彩な攻撃系スキルを揃えている。

 単純な防御性能で言えば到底及ばない守護者(ガーディアン)ですら苦戦する相手に、王室騎士(ロイヤルナイト)で盾役を務められるのか不安なのだ。


「最上位職、守護者(ガーディアン)の方が良かったのかと思ってさ」

 このゲームにはステータスやスキルをリセットするアイテムやシステムがない。

 今から防御特化の守護者には転向したとしても中途半端な結果に終わるのは目に見えている。もし本当に守護者を目指すならリアさんみたいに一度キャラクターを削除して何もかも最初からやり直す必要があった。

 本当にこのまま王室騎士(ロイヤルナイト)を目指して良いのか。転職してから後悔するくらいなら、今の内に育成をやり直した方がいいんじゃないか。

 単騎でボスを抑えた青年の活躍があまりにも高い壁に思えて、自信が揺らいだのかもしれない。


「本当に作り直したいのなら勿論手伝うけどさ」

 元からハルトは誰かの為に何かをするのが好きだった。

 ……いや、それはもう好きと言うレベルを超えていて、寧ろ義務や使命感に近かったように思う。

 今は精神的にも成長して落ち着きを得たけれど、小さな頃は誰かを助けたいというより、助けなければならない。そんな、脅迫めいた義務感の塊だった。

 だからこのゲームに興味を持ち始め、情報サイトをざっと眺めていた頃。

 騎士系列の最上位職に守護者と王室騎士があると知った時、ハルトが誰かの為の職業と言っても過言ではない守護者を選ばなかった事に内心驚きもしたのだ。


「ハルトは最初からそれを知った上で王室騎士を選んだんじゃないの?」

 ゲームに触れたばかりの頃の僕でさえ行きついた情報に、よもや辿りつけなかったなどという事はあるまい。

「どうして王室騎士を選んだの?」

「いや、なんとなくっていうか、そんな深い意味があった訳じゃないぞ? 前衛で敵を倒すのも楽しそうだなって思っただけだし」

「ならそれが答えでしょ」

 個人的には良い傾向だと思う。パーティーのバランスを考えるのも大事だろうけど、やりたい事をやれないようじゃ何事だって楽しめなくなるから。


「守護者の方が盾役に向いてるのは確かだけど、守護者じゃないと無理って訳じゃないでしょ。寧ろ王室騎士でボスを抑えられたらそれって凄くない? 世の守護者達に王室騎士で余裕でしたってドヤ顔できるんだよ?」

「ドヤ顔て……。まぁ確かにそうだが流石に無理だろ」

「どうして? ネタって言われてるパリィングをボス戦で使って成功させる人もいるのに?」

 無理だ無理だと言っているから無理なのだと大企業の社長も言っていた。あれが参考になるのかは知らないけど、ゲームの利点はトライ&エラーを何度だって繰り返せるところなんだし、無理じゃなくなるまで続ければいい。

「いや、まぁ、確かに……」

「どこもそうだけど、大衆は効率的な方向に流れやすいの。完成したパターンにあやかる方が自分でゼロから調べるよりずっと楽だから。でもそれって試行錯誤を忘れた人達が先人の道に相乗りしてるだけでしょ。その道が埃を被ってる可能性も考えずに」

「事実とはいえ少しくらいオブラートに包めよ?」

 思った事をそのまま口にしたところ、呆れたような諦めたような苦笑いをされてしまい、小さな咳払いで誤魔化す。


「ともかく、何事もやってみればいいよ。今までも支援不在の中、工夫を凝らしながら頑張ってみたんでしょ。守護者が不在でもなんとかなるって。何より今は(しえん)がいるんだから」

「カナタ……」

 ともすれば自惚れのように聞こえるかもしれないが、事実だと思う。なんならその根拠を語ろうではないか。

「今日の活躍を見たでしょ。あの状況下で迅速かつ的確に動ける支援なんて早々居ないと思うんだよね。引っ張るんじゃ無理だからいっそ反動で投げ飛ばそうなんて普通考えないでしょ。自分を犠牲にしてでもパーティーの為に動く辺り支援の鏡だと思うし。あそこで動けなかったら今頃全滅かも知れなかったんだよ? たった一人でパーティーを救ったと言っても過言じゃないわけ。魔法にパリィングを決めたのは確かに凄かったけど、パーティーを救った僕に比べればまことに残念ながら劣ると言わざるを……むぐー!」

「よーしよしちょっと黙ろうな。自惚れすぎて聞いてる方が痛々しさに悶えそうだ」

 人が上機嫌で語っていたのに頭を抱えた野蛮人によって無理やり口を塞がれた。

「でもま、確かに悩んでも仕方なかったよ。上がいるのは当然だ。俺達はその更に上を目指せばいいんだもんな。期待してるぜ、未来の大支援サマ」

「むー!」

 前向きになったのは良いとして、既に大支援として覚醒して見せただろう抗議の声を上げる。

 ハルトはそれを知ってか知らずか……いや、絶対に知った上で黙殺しつつ僕の身体をひょいと持ち上げるなり、みんなの元へ歩き出した。

 人前に立てば演技が必必要不可欠なのでこうも公に功績を誇る事が出来ないと思っての事だろう。

 くそ、こういう所ばかり知恵が回りやがって!

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