僕がネカマになった訳-15-
豚さんが生み出した明かりが広く長い廊下を薄ぼんやりと照らす。蛍光灯に慣れた身からすれば少しばかり心許ない。
あちこちをきょろきょろと見渡してみると頑丈な石造りの床や壁には一体不吉さを感じさせる深い傷跡がそこかしこに刻まれていた。
部屋を仕切る扉は木材で作られていたようで、気の遠くなるような年月を経た今となってはほとんどが風化しており見る影もない。
通りがかりになんとなく中を覗き込むと、釣り紐の切れた豪奢なシャンデリアが床の上で派手に砕け散っていた。
埃と錆に塗れたテーブルや辛うじて土台の残っているベッドが打ち捨てられて久しい廃墟にも人が生活していたのだと寂しげに物語っている。
ここは旧サリザニア城跡地。プレイヤーからは『古城』と呼ばれ親しまれているダンジョンだ。
かつてアセリアの隣にはサリザニア王国という別の国が存在していた。
両国は良き友でもあり、競い合うライバルでもあり、やがては栄華を極めるまでになったのだが、サリザニア王国は一向に変わらないアセリアとの国力差に焦りを感じ、人知を超えた力を渇望してしまう。
妄執はいつしか古き神々の時代に封印された悪魔へと通じ、王城の地下深くで力の一端を利用すべく研究が行われていた。
しかし、強大な悪魔が人の力で制御できるはずもなく、漏れだした力の一部は王都に住む人々の心を狂わせ、誰彼かまわず互いを殺し合うという血を血で洗うような惨劇を引き起こしてしまったそうだ。
後に悪魔の狂餐と呼ばれたこの事件によって、王が死に、優秀な貴族が死に、平民の大部分が死んだ。
たった一夜で栄華の中心にあった王都が滅びるかつてない災厄に見舞われたサリザニア王国だったが、悲劇はそれで終わらない。
難を逃れた諸侯や領地を任されていた貴族達が気でも狂ったの如く、次々に『我こそ次代の王なり』と声明を出し内戦状態に陥ったのだ。
戦火によって住む場所を奪われた平民たちは飢えと寒さから逃れるべくアセリアへ助命を乞い、目に余る窮状を憂いたアセリア王も内戦への介入を決断する。
敵味方もなく争っていた諸侯は統率の取れたアセリア軍に成す術もなく僅か1年足らずで内戦は終結。
既に王家は潰え、代わりを務められそうな貴族も見つからなかった事からサリザニア王国は解体されアセリアに吸収される運びとなった。
だが、事の発端である王都、特にサリザニア城は惨劇から百年以上経った今でも漏れだした悪魔の力の影響下にある。
僕達が歩いているのはその一角、『古城』の地上部分に残っている廃墟で、お化け屋敷とも呼ばれているダンジョンだ。
他にも王宮区や庭園などで10以上に区分けされたダンジョンがあり、地下に潜るほど敵の強さも跳ね上がる仕様になっている。
最下部のインスタンスダンジョンでは魂を縛られ悪魔化したサリザリア王と戦えるクエストも用意されているらしい。
挑戦してみたい気はするけれど、今の僕等は地上部分でさえ油断すると簡単に死ねる。遥かに難易度の高い地下部分なんてもっての外だった。
僕が司祭に転職してから既に2週間。
朝から晩までどっぷりと野良パーティーに入り浸りレベル上げに勤しんだ甲斐あって、ついにギルドのみんなと組んでも経験値が得られるようになった。
僕とみんなのレベルにはまだまだ差があるから、分配される経験値は極僅かだけれども、普通なら4ヵ月は掛かると言われている道のりを僅か半月で駆け抜けたのだから十分すぎる結果に違いない。
こんなにも短期間でレベルを上げられたのは間違いなくギルドのみんなのおかげなのであまり威張れたものでもないのだけれど、ヘイト管理や支援の手順、よく使われる小技を始めとしたプレイヤースキルの勉強にも励んできたし、いっぱしの支援として通じるレベルにはなったと思う。
今日は僕が名実ともに支援として参加する初のギルド狩りで、面倒を見て貰う立場から肩を並べられる戦力になったことを証明すべく、普段よりもワンランク上の難易度に挑戦して貰っていた。
このダンジョンは僕のレベルからするとかなりの背伸び狩場だ。
野良パーティーでもう少しレベルが上がるまで待っても構わないとも言ってくれたけど、その申し出を強引に振り切る形で今に至る。
野良パーティーが楽しくなかったわけじゃない。
色々な人の意見を聞きながら支援としての心構えや動きをたくさん練習できたし、様々な狩場の情報や敵の特性についても実地で理解できた。
だけどやっぱりその場限りの関係というのが根底にあるせいか、互いの連携に関しては雑な印象が拭えなかった気もする。
何より困ったのは募集や清算中、時には狩中にもWisチャットで『ギルドに入らないか』とか『固定パーティーを組まないか』としつこく誘われたことだ。
中にはお互いの素性も知らないのに『彼女にならないか』と言い寄ってくる人までいて流石に神経を疑った。
『ゲームから結婚に発展した人もいる』とかなんとか言ってたけど、野良パーティーで組んだだけの相手にそれは気が早すぎやしないだろうか。
勿論すべて丁重にお断りしたのだけど、時には解散後も付き纏う粘着質な人もいて何度ギルドメンバーに迷惑をかけた事か。
直接的な暴力行為やハラスメントゾーンへの接触さえあればハラスメントコードが適用されるのだけれど、直結厨と呼ばれる彼らは日夜ハラスメントに該当しない嫌がらせの研究に余念がないらしい。
尾行や隣を密着して歩く程度だとコードの適用外らしく手の打ちようがないのだ。
そうした相手にはリア充っぷりを見せつけてやるのが一番だと言うアキツさんのアドバイスのおかげでなんとか撃退できたものの、心の黒歴史ノートには散々な記録が追加されて、正直思い出したくもない。
「前方に3、部屋の中に1、それと背後から霊体化した敵が1体接近中です」
司祭の持つパッシブスキル【霊感】によって周囲のモンスターを走査、報告する。
廃墟ダンジョンは迷路のように入り組んだ廊下と数多くの小部屋で構成されているので背後から襲われる事も多い。
今日は僕が全体の指揮を任されているのでどうしたものかと逡巡する。
前方から迫る3体を盾役のハルトで、1体しか居ない後方をアタッカーのサスケさんで分担し、迅速に対処するのが基本と言えば基本だ。
しかし厄介なことに部屋の中に潜む敵は大型の反応を示していた。
僕達の歩いていた長い石造りの廊下は完全な直線で構成されていて迂回や待ち伏せに使えそうな小道がない。
退路を確保するなら後方から近づいてくる敵の処理を優先したいけど、小部屋に居る大型の敵が運悪く廊下に出て来て僕達に気付いてしまう可能性も考えられる。
ワンランク上の狩場だけあって大型の敵は攻撃力が非常に高く、ハルトの防御力では凌ぎきれない。
対処には攻撃その物を回避できるサスケさんが矢面に立つ必要があるのだけど、前方から近づきつつある3体の小型モンスターに囲まれてしまうとサスケさんの回避力が大幅に下がるペナルティを受けて避けきれなくなりそうだ。
幸い、小部屋に潜んでいる大型は壁を挟んだ僕等に気付いていない。
廊下に出てこない事を祈りつつハルトを前方に置き、後方からやってくる敵をサスケさんの瞬発力で倒す手もなくはなかった。
実際、10のパーティーが同じ状況に陥れば5くらいはそうした行動をとるだろう。
でも、それは悪手に違いないと僕は思う。
不確定要素に賭けるようなものだから、数をこなす僕等の狩り方ではいつか必ず『ハズレ』を引き、運悪く廊下に顔を出した大型に発見され全滅する結果へ収束する。
迷っている暇なんてなかった。こうしている間にも敵は迫っている。
最悪なのは何一つ有効な手立てや方針を打ち出せないまま場当たり的に戦闘へ突入すること。
実戦に悩む時間なんて用意されている筈がない。
些細な判断ミス一つですらパーティーの壊滅へ繋がってしまう。
だけど僕はこの感覚が嫌いじゃなかった。持てる知識と情報を総動員し、最も効果的な一手を限りある時間の中で探し出す。
ハルトの持ってきたトラブルに巻き込まれる度、嫌と言うほど味わわされ続けた経験はこんな所で役に立っていた。
「サスケさん、ハルトの【ハウリングシャウト】で発生する敵愾心を【暗殺】で上回れますか?」
「余裕でござるよ」
サスケさんは僕の質問の意図をそれだけで察してくれたようだ。
実戦は今日が初めてだけど、チャットでのシュミレーションは数えきれないくらい試している。
こんな状況ではどう動けばいいのか。どう動いたらまずいのか。何が定石で、どういう戦法があるのか。
アキツさんには今までこのパーティーの指揮を執っていた経験があったから、同じタイミングで繋ぐサスケさんと共に基礎から根気よく教えて貰った。
「ハルトは先に突っ込んでっ」
「おうさ!」
既に心の準備も整っていたのだろう。僕の言葉とほぼ同じくして盾を構えながら部屋の中に雪崩れ込む。
「【パージ】」
それを見届けてからモンスターの霊体化を解除する支援魔法を発動。
薄青い光が周囲を一瞬だけ照らしたかと思えば、何もなかった空間に【ゴースト】というモンスターが姿を現した。
宙に浮いたシーツに恨めしげな顔の輪郭を貼りつけただけのコミカルな姿をしているけれど、回避不能な魔法攻撃を主体に使ってくるので意外と手強い。
前方から急接近する3体のゴーストが小部屋に差し掛かろうかという瞬間。
「今!」
先んじて突入したハルトへタイミングを指示する。
途端に小部屋から【ハウリングシャウト】が放たれ、向かってきたゴーストは吸い込まれるように進路を変え僕達を無視した。
「あとは拙者がッ」
そんなゴースト達の隙間を縫いながらサスケさんが廊下を俊敏に駆け抜け、今まさにハルトへ一撃を加えるべく大剣を振り上げていた小部屋の主を背後から強襲する。
「ターゲット確保!」
これで小型のゴーストはハルトに、大型のダークナイトはサスケさんにターゲットが固定された。
残りのメンバーも小部屋へと走り、敵の脇をすり抜けるようにして入口から一番遠い角で臨戦態勢を取る。
ここなら追加の敵が湧いても入口にいるハルトかサスケさんで対処できるので後衛の僕等は安心して自分の仕事に専念できる。
ハルトを囲んだゴースト達は耳障りな雑音を発しながら仄暗い球状の弾を3個ずつ浮かび上がらせる。
【ダークスフィア】と呼ばれる闇属性の魔法攻撃で、ダメージもさることながら低確率で呪いの状態異常を付与する厄介な代物だ。
4体のゴーストが作り出した計12個の弾丸が盾を構えるハルト目掛け高速で射出された。
5つは盾で受けきるが、残りの7つは側面と背後に回り込んでおり無防備な身体へ直接吸い込まれる。
しかし、ほんの僅か手前で発生した燐光が弾丸の侵入を阻み、衝撃の殆どを相殺した事でハルトのHPバーは殆ど減らずに済んでいた。
「うわ、マジで全然痛くないな……」
「前にカナタ殿なしで来た時は3割くらい減ったでござるのになぁ」
ハルトをゴーストの魔法から守ったのは【シエラ】という支援魔法の一種で、魔法防御力を増加させる効果がある。
とはいえ、本来ならここまで劇的なダメージの減少は見込めない。
司祭で習得可能なスキルだけあって、悪魔・不死からの攻撃に対してのみ大幅な耐性ボーナスを得られるのだ。
パーティープレイに支援を必須にしたいという運営の思惑が見え隠れしなくもない仕様だけど、恩恵に与る身としては文句がある筈もない。
おまけに小型の代表格でもあるゴーストは他の狩場に比べて経験値も格段に良く、完全なるカモ扱いである。
ただし、一緒に出てくる大型のダークナイトは種族が人間なので【シエラ】の耐性ボーナスは発生しない。
高い攻撃力と防御力に対抗できる地力がないと全く安定しない辺り、運営の調整力が輝いていた。
僕はみんなの最後部から戦況をざっと見渡す。
大型のダークナイトはサスケさんがハルトの倍以上もヘイトを稼いでいるので、【ハウリングシャウト】もう一発分くらいの余裕はありそうだ。
豚さんとアキツさんの集中攻撃でゴースト2体が殲滅済み、残り2体のHPも半分を切っている。
一方、高威力の代名詞でもある【暗殺】を3連発で叩き込まれたにもかかわらず、ダークナイトはまだ半分近くのHPを残していた。
MPを使い切ればギリギリ倒せるかもしれないが、不測の事態を考慮すると多少の余裕を見繕う必要があるので今は回避に集中してもらっている。
そうこうしている内にゴーストは全て殲滅され、豚さんとアキツさんの火力がダークナイトへと向けられた。
じわりじわりとHPが減っていくものの、速度は微々たる物だ。
魔法と射撃は防御力を貫通できるクリティカル発生率が抑えられているのでダークナイトのような高い防御力を持つ相手には相性が悪い。
本当は防御力を貫通するスキルを持つハルトにも近接アタッカーとして参戦して欲しいところなんだけど、そうはできない理由があった。
「廊下に小型2、中型1です。ハルトは入り口で【ハウリングシャウト】の準備してて」
このダンジョンではモンスターが狭い廊下を走り回っており、部屋の中に居るプレイヤーを見つけると襲い掛かってくる。
ダークナイトを攻撃して無駄に敵愾心を稼いでしまうと、増援が来た時にタゲを固定すべく【ハウリングシャウト】を使った場合、部屋の中にいるダークナイトの敵愾心も大きく上昇するのでサスケさんの稼いだ敵愾心を超えてしまう可能性があるのだ。
数分後、最後まで抵抗を続けていたダークナイトのHPがようやく真っ黒に染まり崩れ落ちながら霧散する。
みんながドロップ品を拾う中、僕は大型の敵を含む戦闘で大した被害も出なかった事にほっと胸を撫で下ろしていた。
「流石はカナタ殿。とても初めてとは思えぬ大胆な指針でござった」
半ば放心しかかっていた所に突然声を掛けられ跳ねるように顔を上げる。
「えっと、やっぱりまずかったですか?」
サスケさんの言う通り、先程の指示はセオリーからすると大胆と言わざるを得ない。
もしこれが野良パーティーだったなら、まず撤退がてら背後の敵を殲滅。
次に小部屋から大型が出て来ても発見されない位置まで下がってから追いかけてくる前方の敵を排除。
周囲の安全を確認後に再進軍して1体だけ残っている大型の敵を総攻撃しただろう。
一度後退するので効率は下がるものの、大型に発見された上で混戦になるリスクはなくなる安全策といえる。
ただ、確率論で言えば小部屋に居るダークナイトが廊下に顔を出す可能性はかなり低い。
その為だけに今まで歩いて来た道をそれなりの距離まで後退して殲滅するのは無駄が多い……と僕は思った。
各々が的確に、効率的に動けさえすればこんな無駄な手順を踏む必要なんてなくなるからだ。
最もそれは理想論である。オンラインゲームにおいてパーティーメンバーは単純な駒ではない、生きている人間なのだ。
リーダーの指示を理解して行動に移すまでの時間は千差万別で、しかも複雑であればあるほど勘違いやすれ違いの確率も上がってしまう。
ハルトを先に突撃させ、攻撃を受ける前にサスケさんが背後からの【暗殺】で大ダメージを与えヘイトを確保。
同時に出入り口が一方向しかない小部屋を占拠する事で、通路から来るかもしれない新手に対応できる布陣を作る。
成功すればこれ以上ないくらい安定した配置が期待できるけど、失敗しようものなら中途半端な布陣で敵と乱戦状態に陥ってしまう。
もしもサスケさんの【暗殺】が遅れてハルトが高威力のスキル攻撃を受けていたら。
もしもハルトの【ハウリングシャウト】が遅れてゴーストのタゲを取りきれずサスケさんに行ってしまったら。
前者はハルトが、後者はサスケさんが転がって瞬く間にパーティーは全滅させられていただろう。
誰もが理想通りに動けるわけじゃない。
複雑な動作が必要だけど凄く安定する効率の良い案と、簡単で安定するけど効率の悪い案があった場合、必ずしも前者が正解とは限らないのだ。
机上の空論なんて言葉があるように、理論的には可能でも現実的には複雑すぎて安定しないのでは意味がない。
司令塔役にはメンバーの反応速度や理解度を把握する観察力も求められるのだ。
僕はまだまだ不慣れだし、役割を完璧にこなせているなんて自惚れるつもりはない。メンバーみんなの癖や特性だって完全に把握してるわけじゃない。
咄嗟にこの案を選んだのだって勘とこれくらいの連携は成功させたいなんて願望の結果だ。
無事成功したから良かったものの、内心では終わった瞬間に安堵の溜息が漏れるくらい緊張していた。
サスケさんにはデスペナルティの危険がある立ち回りを要求していたし、綱渡り染みた作戦に苦言の一つ二つ漏らされたとしてもぐぅの音も出ない。
「いやいや、逆でござるよ。素晴らしい指示でござった」
ところがサスケさんはデスペナルティの危険に晒されたにも拘らず上機嫌だった。
「ぬるま湯に浸かってばかりでは腕も鈍る一方でござる。……拙者は防御力が低くハルト殿に比べ安定性が欠けるでござるからな。カナタ殿のように活用してくれる人は少ないでござるよ」
どんなに回避力が高くても、ステータスの恩恵を受けたとしても、回避は決して【絶対】じゃない。
確率と言うプログラムの仕様によって、或いはほんのちょっとした身体捌きのミス一つで、いとも簡単に被弾してしまう。
それが通常攻撃ならまだましだけど、運悪く強力なスキルだった場合は一撃でHPを消し飛ばされかねないのだ。
安定性を重視する野良パーティーでは例え本人に避けきる自信があったとしても次善策を講じるので一人きりに任せたりはしない。
サスケさんがそれを『あてにされていない』と感じている事も、その上で仕方のない事だと諦めている事も、前から気付いてはいた。
「部屋の中の大型がどう動くか分からないから、いっそ突入してタゲを取りつつ安全な小部屋の奥を確保する。ナイス判断だったよ。おかげで攻撃に集中できたしさ」
ドロップを回収し終えたアキツさんもやってきてこれ以上ないくらいのお褒めの言葉を頂戴する。
「いえ、それなら良かったです」
嬉しい反面気恥ずかしくもあり、お礼を言うのもやや俯きになってしまった。
こういう時にどういう顔をすればいいのかいまいちよく分からないでいるとハルトまで合流する。
「安定も大事だけどそればっかりじゃ作業になるからな。カナタは昔から適度に危機感を楽しみつつ最終的には軟着陸させられるんだから自信持てって」
「それ、全部ハルトのせいだよね……」
どこに自信を持てばいいのか分からない一言に思わずため息が漏れる。
失敗しても大怪我の危険やヤバイ筋の人に追いかけられる可能性がないだけマシとはいえ、文句の一つでも言ってやろうかと見上げる。
すると、こちらの思惑を見越したのか意地悪気に唇を吊り上げながら先手を打たれてしまった。
「俺達を見捨てて一人だけ帰らなけりゃ十分だよ」
その言葉に思わず呻き声が漏れる。
「あ、あれはみんな正気を失ってたから! ちゃんとレベルも上がったって報告したし……」
とはいえ、転職直前のレベリング兼我慢大会でレベルが上がった瞬間にみんなを見限り先に帰ったのは事実だ。
みんなはあのテンションのままボスに遭遇し、あろうことか挑みかかって数秒で全滅させられたらしい。
自業自得と思ってくれているので直接何か言われたりはしなかったが、思わぬデスペナルティに意気消沈していた。
眠気を押し殺し説得に奔走していれば帰還アイテムくらい使わせられたかもしれないと思うと心苦しくもある。
ここで何か言い返すと開き直っているように聞こえる気がして、結局それ以上は何も言えなくなってしまった。
仕方なく睨むような視線を投げかけるが、余裕ぶったしたり顔で返される。
イラつきはしたけど僕はハルトと違って精神的に大人なのだ。ここはぐっと堪えねば。
何より今の僕はハルトの上司でもあるわけで。怒らせるとどんな理不尽な仕事を押し付けられるか、身を以って理解して頂こうではないか。




