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World's End Online Another -僕がネカマになった訳-  作者: yuki
第一章-まだ、この世界がゲームだった頃-
13/43

僕がネカマになった訳-13-

僕がネカマになった訳-10-を11、12で3分割しました

2/18投稿分の最新話の前編で、明日には後編を更新する予定

シリアス異世界編まで残り僅か、平和な日常をお楽しみください

「さて、まだ時間はありそうだしどうせならうもう少し見て周ろうぜ」

 項垂れている僕の隣でハルトが勝ち誇ったかのような声を上げる。

 このまま市中を引きずり回して晒し者にしようという魂胆だろう。さっきからえげつない手ばかりを思いつきやがって!

 だけど僕が見え透いた思惑にただ従うと思ったら大間違いだ。この服に関しては諦めざるを得なかったけどプライドまで投げ捨てるつもりはない。

 ここみたいに人気のない街外れならともかく、露店の密集地を歩き回るなんてもってのほかだ。

 かといっていつまでもここに居座り続けるわけにもいかないから、可及的速やかにどこか人気(ひとけ)がなくて安心できる場所へ移動せねばなるまい。


「それがいいでござる」

「他にも盾とか杖は必要だもんな」

 サスケさんとアキツさんはハルトの案に乗り気なのか賛同の声を連ねる。

 ただしその間もずっと僕の真正面から胸や太ももを食い入るように見つめているのがありありと見て取れて軽い怖気に襲われた。

 いやまぁ分かるけどさ。僕だって目の前で可愛い女の子が肌を晒していたら目線が行かないとは言い切れないし。

 流石にハルトは僕の中身を知っているから2人みたいな邪な気配はなかったけど、『ざまぁ』とでも言いたげなドヤ顔はそれ以上にむかつく。

 兎にも角にも、僕の精神に平穏をもたらす為にはどこか部屋の中に引きこもるのが一番で、条件に思い当たる場所なんてギルドホーム以外にない。

 問題はどうやってまだまだ散策するつもりでいる彼らを納得させるかだ。

 ハルトが敵に回った今、方法があるとしたらこれだけだろう。

「あの、ごめんなさい、少し疲れてしまって。先にギルドホームへ戻っても良いですか?」

 半分はハルトの思惑を回避する為の建前だけど、もう半分は本音でもある。リディアさんに付き合わされた採寸のせいでやけに身体がだるいのだ。

 ゲーム内なのにここまで影響を残せるって、本当にあの人は何をしたんだろうか。


「そっか。この人混みだししょうがないね」

「今日の所はホームに帰ってみんなが戻ってくるまで休憩するでござるよ」

 流石に疲れた女の子を引っ張りまわすのは抵抗があるだろうとの予測は間違っていなかった。

 僕を含め3人が撤退の雰囲気になればいかにハルトでも無理強いは出来まい。

 紳士であろうとする2人には感謝だが、それなら今現在の食い入るような視線も含めて紳士的になって欲しいと頭を痛める。

 なんにせよ、これでハルトの思惑は外した訳だ。どうだとばかりに視線を向ける。

 さぞ悔しがっているだろうとばかり思っていたのに、何故か気持ち悪いくらいの笑顔が浮かんでいた。

「確かに顔色が悪いな。VRMMOも慣れるまでは酔うって人もいるし、はしゃぎ過ぎて疲れたんだろ。運んでやるよ」

「え……」

 僕が疑問の声を漏らすのとほぼ同じタイミングでふわりと身体が浮く。

 目の前には笑わないよう必死になって堪えているハルトの顔があった。

 肩がぷるぷると震えているのは僕が重いからではなく、少しでも油断すると笑いだしそうになる気配をそこから逃がしているのだろう。

 背と膝の裏に回された腕から思ったよりもガッチリとした印象を受けたのは僕の身体が現実と比べ縮んでいるからか。

 あまりにも唐突過ぎて自分が世間一般的に『お姫様抱っこ』と称される状態にある事を認識するまでたっぷり5秒近くも要してしまった。

 その間、ハルトは僕からの抵抗がないのを良い事に好き勝手なことをのたまう。


「全く、カナタちゃんは仕方ないな……っく、ぷぷっ」

 遂に堪えきれなくなったのか言葉の節々から嘲笑の入り混じった空気が漏れていた。

 傍に居る2人の事も忘れて怒鳴ってやろうと腹に力を籠めるが、長年一緒に過ごしているだけあって何をしようとしたのかを察したらしい。わざわざ大股で足を前に一歩踏み出す。

 途端にぐらりと大きく身体が揺らされ、吐き出そうとしていた言葉が悲鳴染みた声色に変わり、ただでさえ短めだったスカートの裾が際どい位置までずり落ちる。

 その先ではアキツさんとサスケさんの2人が何かを食い入るように見つめていた。

 刹那、燃えるような羞恥心に全身が総毛立ち、我武者羅にスカートの裾を掴むと内股へ押しつける。

 たかだかアバターのスカートを覗かれたくらいと自分でも思うのに、熱を持った頬は冷めるどころか顔全体へと広がっていった。あまりの気恥ずかしさに僅かとはいえ瞳まで潤んだ気がする。

 そんな僕を嘲笑うかのように頭上からハルトのニヤけた声が降り注いだ。

「おやおや。どうかしたのかいカナタちゃん」


 瞬間、僕の中で何かが切れた。

 リディアさんにハルトの性癖を暴露したのはちょっとやりすぎたかもしれないと自分でも反省したのだ。

 だからすぐに助け舟を出したし、ハルの目標の為という弁もあってこの服を着続ける事にも渋々ながら了承した。

 本当なら反論の手立てが残されていたにも関わらず黙って要求を飲み込んだのは僕なりの誠意を示す為である。

 なのにハルトはいつも負けてばかりいる口での勝負に珍しく完勝したと思い込んでいるらしく、どこまでも調子に乗っていた。

 からかう為に必要とあらば、たとえ男同士であったとしても躊躇なくお姫様抱っこを実行できてしまうくらいに。

 よって今の僕は大変気分が宜しくない。


 一つは1日で2回もお姫様抱っこをされるという境遇に対して。

 一つはスカートの丈に一切気を払うどころか、わざと揺らしてくる親友の無神経さに対して。

 一つはそれによって感じさせられた理不尽な羞恥心に対して。


「ハルト」

「お、どうしたのかなカナタちゃん。っぷぷぷ、可愛らしく震えちゃって。大丈夫だって、軽いし落としたりしねぇよ」

 Wisチャットで呼びかるとハルトは僕と違って大変ご機嫌麗しい様子だった。

 挙句、僕の全身に走るこの震えが抱きかかえられた事による恐怖だと錯覚しているらしい。

 寝言は寝て言えである。この震えは断じて恐怖などではない。何処にでもある、ただの純粋にして混じり気のない『怒り』だ。

 アカウントを譲ってくれたハルトには恩を感じているけれど、それに関しては求められた通り支援をこなすという対価で着実に返済しているつもりだし、ハルに対する恩義もこの服を着続けるという誠意で示した。

 これ以上なにか求めるつもりなら身の程ってやつを弁えて貰う必要がある。

「段ボールの中身、あれだけの物をまさか僕が何もせずにただそのまま元へ戻したとでも?」

 今度はハルトが固まる番だった。普段は熱血漢を演じている癖に人の趣味嗜好とは分からないものである。

 あの箱はハルトにとってパンドラの箱そのものだ。開ければあらゆる災厄が己の身だけに降り注ぐだろう。しかも箱の底に希望が残ってくれるとは限らない。


「……はは、そんなハッタリに引っかかるわけないだろ。最近見たけど別に中身は変わってなかったし」

 ややの間を開けて、ハルトは殊更明るい口調で何を馬鹿なと一蹴した。しかしそれは、未だパンドラの箱を手放していないのだと自ら告白しているのに等しい。

「今からログアウトしてハルに告げ口でもする気か? だとしたら当てが外れたな。ハルは今出かけてるから対処できる時間は十分にある」

 僕の口角が思わず吊り上ったのにも気付かず、お前の考えなんてお見通しだとばかりに言葉を並べるが、見苦しい言い訳にしか聞こえなかった。

「ハルに何を吹き込もうが証拠さえなけりゃどうとでもなるっての。同じ屋根の下に妹が居るんだ、対策くらい俺でも講じてるさ」

 そう自信満々に言い切ってみせる。否、言い切らなければならなかったのだ。そうでもしなければ、僕が本当に何かするんじゃないかと言う不安で押し潰されそうだったから。

 完璧だと思っていても、他人から指摘されると自信が揺らぐなんて良くあることだ。

 ハルトが饒舌に語って見せたのは心の安寧を得るための自己暗示に過ぎない。

 だから僕はまず最初に、そのくだらない安寧をぶち壊してやると決めた。


「ログアウトしたら、中身を余さず写した写真を、つぶやいたーでつぶやく」

 箱の中身が赤裸々に撮影された過去の写真と、今この瞬間の会話ログが合わさって出来上がるものは何か。

 写真の中身がハルトの部屋に存在していたという紛れもない証明である。

 迂闊な奴め、認めたりせずに知らぬ存ぜずを貫き通せば疑惑どまりで黒にはならなかったものを。

「いやいや、どうせハッタリだろ? んな都合よく写真に残してるわけ……」

「選べ。僕の扱いにもう少し気を使うか、このままはっちゃけた代償に箱の中身をぶっちゃけられるか」

 多くを語る必要などなかった。

 もしそんな物が無いと信じ切れるなら、僕の言葉に耳を傾ける必要もハッタリかどうかを尋ねる必要もない。

 本当のところを言えば、親友の秘密を知ってしまった罪悪感と気まずさからそそくさと箱の中に押し込んでしまったので写真なんて撮っていなかった。

 幾らなんでも親友のプレイバシーを写真に納めて脅迫材料にするほど腐りきった性格はしていないつもりだし。

 でも、僕には子供の頃からハルトの持ち込んだ数々なトラブルに巻き込まれ、解決してきた実績がある。

 時にはえげつない手段を使ったり、容赦のない手段を使ったり、念密な計画を練った時もあった。

 行動第一、猪突猛進なハルトに任せると見ていられないくらい危なっかしいので、少しでも危険性を排除すべく参謀的な立場になってあれこれと采配を振るわざるを得なかったのだ。

 その功績を一番間近で見てきたのはハルトだったし、だからこそ信頼を寄せてもくれた。つまり、僕が時折見せるえげつなさとしたたかさを十分に理解しているのである。


「おい、マジで持ってるのか……?」

 少しも揺らがないどころかますます冷え込んでいく僕の表情に先程までの勝気な態度は一転、最悪の可能性を想像したのだろう。頬が引き攣っていた。

「どうだろうねぇ。でも良く考えたほうがいいよ、いつ暴走するともしれない電車を強制的に止められるスイッチを見つけたら、ハルトは拾う? 拾わない?」

 疑問に疑問を返され、ハルトが苦しげに呻く。少しくらいは迷惑を掛けた自覚もあるのだろう。

 しかしそれも束の間、何かを考え込むように目を閉じたかと思えば、次の瞬間には溌剌とした笑みを浮かべてみせた。

「馬鹿らしい。冷静になって考えてみりゃカナタがそんな写真を持ってるはずがない」

 開き直りにも聞こえるけれど、ハルトの言葉がただの強がりなんかじゃないってことは顔を見ればすぐに分かった。

「俺の知ってるカナタはついうっかりで箱の中身を見たとしても、それを写真に撮るような奴じゃないからな」

 絶対的な信頼に思わず顔を背ける。こうして直に言われるとそれはそれで気恥ずかしいけれど悪い気分にはならない。


 ハルトの回答は限りなく正解に近かった。

 もし仮に僕が写真を持っていたとしても、こんな事を言われたら削除する他ない。

 公開はおろか、ただ持っているだけでも一方的に寄せてくれた信頼への重大な裏切りになるからだ。

 けど、ハルトはそんな器用な考え方が出来る性格をしていない。

 だから曲がったことが大嫌いでまっすぐな性格そのままに、僕が写真を撮るかどうか、その一点だけを考えて『ありえない』と断じたのだろう。

 僕からしてみれば打算的な考えもなしに平然と言ってのけたハルトの方が恐ろしい。


「……悪かったな、調子に乗りすぎた。けど、幾らなんでも女の人に教えることじゃないだろ!?」

 謝罪と苦言を織り交ぜながらハルトが腕を傾けると地面に僕の足が触れた。

 滑り落ちないよう肩を握っていた手がそっと押し出されるままに立ち上がり、3歩分の距離をとってからくるりと向き直る。

「ごめん、言ってからやりすぎたって思い直した。でも流石にお姫様抱っこはない」

 こちらも謝罪と苦言で返してあげるとどちらともなく苦笑が漏れた。

 本気で怒ればちゃんと察してくれるし、互いに悪いところがあると認め合えるから僕達は今まで親友を続けてこれたのだ。


「リアルはともかく、ここなら別に気にするほどのことでもないと思ったんだけどな」

「そりゃハルトからすれば今の僕は女の子にしか見えないだろうしね。現実の面影がなさすぎるせいで上手く結びついてないだけ」

 もしも立場が逆で、僕が男のアバターを、ハルトが可愛らしい女の子のアバターを使っていたなら、僕の視界に映るのは現実のハルトの面影なんて微塵も無い女の子だろうし冗談で済むかもしれない。

 ただしその場合、ハルトの目線からは現実の僕に抱きしめられているように感じるわけだけど。

「仮に僕がむさ苦しい男のアバターだったらあんな真似した?」

 言い訳染みた台詞に条件を足して問い返すとハルトは言葉を詰まらせる。

「な、なるほど……。確かにしないだろうな」

 当然だ。むさい男をお姫様抱っこしたがるような性格だったら僕とハルトは親友になんてなっていない。


「つまりハルトは見た目が変わっただけの僕を心のどこかで女の子扱いしたってこと。こっちのアカウントでログインしてからギルメンにお姫様抱っこをせがめば僕の心情を手っ取り早く理解できると思うんだけど、どう?」

「んな気持ち悪い真似できるか! って、それを俺がしてたと?」

「分かってくれた? それともハルトはお姫様抱っこされて喜ぶような親友が欲しかったわけ?」

 我ながら面白い提案かもしれないと思ったのに考える素振りも見せず拒絶されてしまった。とはいえ、言いたかった事は理解してくれたようでホッとする。

「馬鹿言うな。全力でお断りだ」

 確認の意味も含めてわざとらしく1歩分の距離を引いてから尋ねると鼻で笑い返された。

 良かった。まだハルトとは親友でいられるみたい。



「カナタ殿もハルト殿もどうかしたでござるか?」

 サスケさんとアキツの目にはハルトが僕を抱き上げ、しかし足を一歩踏み出しただけで地面に降ろし、以降は沈黙を貫くという不気味な寸劇が繰り広げられていたことだろう。

 怪訝な顔で恐る恐る尋ねる彼に2人揃って『なんでもない』と笑い返す。

「疲れはしましたけど、自分で歩けないほどではないって話しただけです」

 暫くは不思議そうに首を捻ってはいたものの根掘り葉掘り聞き出そうとするほどデリカシーに欠けてはいないようだ。

 僕とハルトがリア友なのは知っているし、そういう事もあるかと納得して再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 僕達がギルドホームに戻るのとほぼ同じく、ログアウトしていた豚さんと回復庫さんとギルバードさんが戻ってくる。

 様変わりした僕の服装を見てまた一悶着あったけど、ハルトが気を利かせて話題を今日の狩場にそれとなく挿げ替えてくれたおかげですぐに流れた。

 やはり持つべきものは親友である。

「カナタにパーティー狩りを体験して貰うってのが目的だけど、もうすぐ転職だしどうせなら職業経験値が美味しいところにしようぜ」

「【火精霊の指輪】で攻撃できるなら炎弱点のMAPが良さそうでござる」

 今日のパーティー狩りは狩場のレベルを僕に合わせてくれるらしい。

 皆からすれば既に通り抜けた道なので頭の中から狩場の情報を引き出すのは難しくないようだ。

「カナタのレベルを考えると死体か虫だな。なぁ、どっちがいい?」

 ハルトは暫く思案してから僕に向き直り選択を迫る。

「えぇー、その2つからなの?」

 随分偏ったチョイスだったけど真顔で言うあたりよく考えた末の結論なんだろう。

「仕方ないだろ、カナタのレベルじゃまだ俺達と組んでも経験値が入らないんだ。【火精霊の指輪】で使えるファイアーボールは初級魔法だからな。無理なく倒せるくらい弱点倍率の高い敵を選ぶと選択肢がないんだよ」

 レベルを上げるには自分の力で敵を倒すしかなく、使える攻撃魔法は炎属性で固定されている上にパワーレベリングの時みたいな支援も望めない以上、威力もそんなに高くない。

 効率よくレベルを上げるには範囲攻撃という利点を最大限活かすしかないのだ。

 MAP内に配置されているモンスターの総数は運営が難易度や雰囲気から適切と思われる数を設定している。

 死体や虫は『群れる』という先入観があるせいか、配置数が他のモンスターに比べて圧倒的に多いのだ。

 しかも炎属性にとことん弱いので攻撃手段が【火精霊の指輪】しかない僕にも見事にマッチしている。


「それなら虫でお願い」

 死体の放つ強烈な腐臭は記憶に新しい。その日の内に再びあそこへ舞い戻る覚悟はなかった。

 虫も好きではないけれど、台所に出てくるアレを駆除するくらいならできるし、防ぎようのない腐臭に比べれば断然マシである。

「決まりだな」

「みんな1時間くらいの滞在を目処に準備してくれ。終わったら1度軽く打ち合わせしておこうか」

 ハルトが頷き、アキツさんがマスターらしく指示を飛ばすとみんな一斉にギルド倉庫へアクセスして装備を整え始める。

「大丈夫、虫って言ってもメインは天道虫だし思ったほどキモくないから」

 もしかしたら不安そうな表情をしていたのかもしれない。アキツさんが倉庫へ向かうがてら振り返ってわざわざ声を掛けてくれた。

「お気遣いありがとうございます」

 足が一杯あってうじゃうじゃしてる系だとばかり思っていただけにその情報はかなり嬉しい。天道虫くらいなら特に問題なさそうだ。



「まずはカナタにみんなのステータスタイプや戦い方を理解して欲しいんだ」

 一通りの準備が終わるとハルトから今日の狩りの目的を告げられた。

 支援職はパーティーの最後部で漫然と回復やバフを撒いていれば良い訳じゃない。

 戦闘で忙しいメンバーの代わりに戦況を見て指示をする司令塔としての役割も期待されているのだ。

 今まではアキツさんが代行していたらしいけど、VRMMOで矢を射るにはステータスの恩恵を持ってしても集中力が要る。

 レベルが上がるにつれて狩場の難易度や敵のAIも複雑化し始めており、攻撃役と司令塔を両立するのが難しくなってきたそうだ。

 阿吽の呼吸でカバーできるのは今の狩場が限界だと内心思い始めていたらしい。


 的確な指示を飛ばすのに必要なのは正確な情報と臨機応変な判断力だ。

 パーティーメンバーのステータスとスキル。得意なこと、出来ること、出来ないことを理解しているのは大前提。

 戦闘中は常に全員のヘイト状況を把握し、場合によっては攻撃の停止や対象の変更を指示したり、予期せぬタイミングで敵が増えてしまった時は盾役の前衛に任せるのか、後衛の火力を集めて倒してしまうのかを判断したりもする。

 中には味方の使っているスキルのCTや現在のMPまで完全に把握してしまう化け物までいるのだとか。

 まだ何も知らない僕からすると雲をつかむような話だけど、誰にだって初めの一歩はある。

 言葉だけでつらつらと説明してもイメージするのは難しいので、実際にパーティー狩りをしつつみんなのスキルや動きを確認するのが今回の方針のようだ。


「覚える事は沢山あるけど、カナタなら暗記も得意だろ?」

「か、簡単に言ってくれるよ。とりあえずやってみるけどさ……」

 自信があるかないかと聞かれれば間違いなく『ない』と即答できる。レベルだけは上がったけど僕はまだ初めて間もないのだ。

 司令塔なんて言われてもピンとこないけど、支援にそうした役割が期待されているのであればやらざるを得ないだろうし、やりきってみたいとも思う。

 僕がこのゲームを気に入った一番の理由はプレイヤー同士の連携が上手くハマった時の爽快感にある。

 ロールプレイングと呼ばれるように一人一人に異なる役割が与えられていて、どう頑張っても全能にはなれない。

 出来る事と出来ない事がハッキリ分かれているからこそ、誰かと力を合わせて互いの欠点を補うのだ。

 少年漫画にありがちな友情パワーじゃないけど、みんなの得意分野を持ち寄って大きな何かを達成するのは凄く楽しい。

 普通に過ごしてるだけじゃ文化祭や体育祭みたいな大きなイベントでしか機会がないのに、この世界なら手を伸ばすだけで幾らでも転がっているから。

 World's End Onlineは遊びじゃねぇんだよ! なんて言う人が居るのはそれだけ真剣に取り組んでいる事の証左だろう。

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