願ったものは、遠く
ナギが南鳴輝に殺された。
事実を把握するごとに、涙が零れそうになる。痛みで誤魔化そうと掌を握りしめる。爪が食い込んできて、僅かな痛みが心地よい。
俺と終夜は折亞へ近づいた。正面から見た折亞の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていた。
生きていた希望を抱かせたくせに――死んでしまった。
失って光を与えられて、手に入れた瞬間突き落とされた。
それも、折亞の目の前で。最後は折亞には怪我がしないように抱きしめて。苦しい。
「――――あ」
折亞は、泣いた顔を隠そうとして、瞬きを繰り返した。
そのたびに、涙が零れ落ちていく。折亞は表情を作ろうとして、顔をひきつらせて、諦めた。
ナギを抱きしめたまま、硬直してしまっている様子は、魂が抜け落ちたかのようだ。
「折亞」
終夜が優しく声をかける。折亞は返事をしない。
終夜が折亞の手に重ねて、指を一本一本ナギの身体から話していく。
折亞はそのまま力を失ったように終夜の身体に倒れた。咄嗟に、ナギの身体は俺が支えた。
泣くのが嫌いな少女は、俺が知る限り初めて終夜の胸を借りて――大声で泣いた。
彼女は泣くときは静かに、涙だけ零していたのに。それすらも、取り繕えていなかった。
終夜も、俺も何もいえなかった。だって、悲しいじゃないか。
でも、それでも折亞の悲しさを少しでも取り払えたらいいな、と涙をこぼしながら俺は思った。
「折亞。帰ろう。緤、少しそこで待っていてくれ」
「……あ、あぁ」
声をうまく発生できない気がしたから、ぎこちなく返事をする。
本当なら、笑って帰れるはずだったのに。
これじゃあ――ナギが願ってしまった結末通りではないか。そんなのは、嫌なのに。
目の前で失われた命を蘇生する方法は、誰も持ち合わせていない。
終夜が折亞の身体を起こす。立ち上がらせると覚束ないながらも、折亞は地に足をつけた。彼女の服は、血にまみれていた。赤い。赤い。
「折亞。俺に捕まれ」
終夜が折亞の手を握り先導する。折亞は、それについていこうとはしなかった。
ナギを、呆然と眺めている。離れたくないといっている。言葉にしないでもわかる。俺だってそうだ。
「……嫌だよな。でも、移動しよう」
終夜がもう一度促すと、折亞は従った。
今にも倒れてしまいそうな足取りで、終夜と一緒に歩き、終夜の車へと向かう。冷静じゃない中でも、折亞は終夜に迷惑をかけたくないと思ったんだ。
終夜のことだからおぶってでも移動するから。
残された俺は、ナギを見る。
馬鹿馬鹿しいよ。もっと早く素直になればよかったんだ。死んだら、終わりなのに。
「……緤君。手伝おうか?」
声をかけてきたのは鞠雛だ。いつの間に、傍にやってきていたのだが、全くわからなかった。
結局、こいつは最初から最後まで裏切るとは無縁だったな。
「帰ったんじゃないのか」
「うん。忘れ物をして、戻ってきた」
嘘だ。多分まだ帰っていなかっただけだ。騒ぎを聞きつけて、わざわざやってきたんだ。
「お前にやらないし売らないぞ」
「別に欲しくないよ」
死体売買をしているやつのセリフとは思えなかった。
「君たちの手で埋葬するなら、商売柄知り合いが多いし手配してあげるよ」
「……頼んで、いいのか?」
詳しくはわからないが、ナギに家族がいないのは事実だ。何かをするのであれば、俺たちがする。
「素直な子は嫌いじゃないよ。僕は後味が悪いのは嫌いだから、君たちに声をかけた。例え、既に最悪に近かったとしても、それ以上は不要でしょ」
あっけらかんと鞠雛が答える。
嘘偽りなく言えば、鞠雛がこうして話しかけてきてくれるのが、何よりありがたかった。
だってそうだろう?
ナギを見て、ただ待つだけなんて正気を失いそうだ。
見栄は張るけど、壊されたくはない。
しゃがみ込んで、ナギへ手を伸ばす。抜けなかった寝癖に、触れる。引っ張っても、当たり前のように抜けなかった。
「ああ、でもそうだね。お互いのために金一封くらいはもらおうか、その方が、信頼できるでしょ?」
「そうだな、そっちのほうが頼みやすいわ。だから鞠雛。頼んだ」
「了解しました」
鞠雛がハッピーエンドの方がいいと言ってくれたので、金一封はよこせといってくれたので、俺は信頼できた。
ナギを野ざらしにするわけにはいかないし、けれども正当な手続きで火葬は出来ない。死体に対して無法地帯ではない。死体があれば、それは病死であれ事故死であれ殺人であれ寿命であれ、理由が存在する。
そしてナギの死を、理由として説明できない。舞月綾無に頼れば、法律を捻じ曲げられるのだろうけど、彼女にだけは頼まない。
「あー。でも一つきいていいか?」
せめて、少しでも、現実から逃避したい。現実に向き合うには、少々疲れた。
「何?」
「分割払いは可能か?」
「いいよ。出世払いでも引き受けてあげる。君、将来出世しそうだし」
「当たり前だ。俺は出世する」
何か、似たような会話を斉賀としたな。桜卯可憐のときに。どうして、友人はこの手から零れるのか。いつだって、手放したくないのに。
「その自信満々さ、清々しくて好感もてるよね」
「鞠雛は死体を売買している以外ホントに好感度下がらないなぁ。死体売買は嘘か?」
くだらない会話でもしないと心を病んでしまいそうな心境をくみ取って、鞠雛は会話につきあってくれるのだから、好感度が下がるわけがなかった。
「そりゃ、他の面々の好感度を見ていると僕の好感度をあげるのはとても簡単だ。つり橋効果もあるかな? まあいいや。死体売買は本当だよ」
「本当に最後まで協力してくれるとは思わなかった」
「いったはずだけど。死体は欲しかったけど、最優先事項じゃないし。物入りだったから、手っ取り早くではあったけれど、これしか方法がないわけじゃない。どうせならそうだね、そろそろ相棒でも見つけたいよ」
「相棒?」
「そ。僕に死体を提供してくれる相棒」
「好感度マイナス50」
「失敗。お、終夜君が戻ってきたみたいだ。さて、じゃあ僕の連絡先だけでも渡しておこう。携帯、出せる?」
「それくらい、できるよ」
鞠雛がしゃがんで、俺と視線を合わせてくれた。取り出した携帯で連絡先を交換する。鞠雛(好感度40)と。
「彼は僕が預かろうか。そのまま持ち帰るわけにもいかないでしょ?」
俺の精一杯の強がりを見抜いても鞠雛は触れなかった。死体売買を生業とする男へナギを渡すことは、本来ならばするべきではないのだろう。けれども、最後まで裏切らなかった鞠雛を信頼している。
「頼んだ。とはいえ、俺の一存で決めるわけにもいかない。一旦ナギを預けようかと思うんだけどどうだ?」
背後を振り返らず終夜へ声をかける。そうだな、と返事をする声は落ち着いていた。悲しみを感じていても、表面に出さないでいてくれる終夜に負担をかけてしまって申し訳ない気持ちはあるが、頼らせてもらうことにした。同い年、なのにな。
「緤がいいなら俺は駄目だとは言わない。どのみち、一緒の車には乗せるわけにもいかないだろ……ここから俺の家までは結構距離がある。その間、折亞に死体を見せ続けたくない」
ナギ、ではなく死体と終夜はいった。区別した。
そうだな――あの車は広くないから、同じ空間にいるだけで辛いだろう。顔を見なくても見てもつらいけれども。俺もきっと無理だ。
「わかった。鞠雛、頼んだ」
「いいよ」
気楽に鞠雛は受け入れてくれた。
「……だが、鞠雛。間違っても、売るなよ、そして――傷つけるな」
釘を刺すように終夜はいう。
鞠雛は基本的にいいやつなのは間違いないが、流石に知り合ってから全幅の信頼をおくには短すぎると終夜は判断したのだ。
「大丈夫だよ。緤君とは連絡交換済みだ。とんずらもしない」
「俺とも連絡先を交換しろ。……飛ばしの携帯だったり、偽物だったりしても、無駄だからな」
「大丈夫だよ。友達思いだね」
「何かしでかしたら、許さないからな」
「そこまで心配しなくても平気だよ。安心していいよ。僕が一番大事なのは――自分の命だ」
鞠雛の言葉に、俺たちは頷いてその場を離れた。
折亞を一人にし続けるわけにもいかない。
後部座席で折亞は身体を横に倒していた。喪失感に、一刻も早く休ませてあげたい焦燥が宿るけれども、何処で休める? 休められる? そんなものはない。家まで、たどり着かないといけない。
「っ――」
やばい。涙が零れそうになった。一度落ち着いてきたのに。
いいじゃないか――幸せのままでだって。
なんで、駄目なんだよ。
鳴輝を恨めたら良かったのか。
殺す必要なんてなかった、ふざけるなと。殴れたら良かったのか?
鳴輝と連絡を取りたいとは思わない。カラオケに誘いたいとも思えない。
でも、鳴輝に復讐をしたいとまではいえないのが、辛かった。
単純に恨めたら良かったのにと思う心がある。
素直に恨めればいい。それが出来ないのが嫌だった。
――嫌いになれなければ、どうすればいい。折亞がナギに言った言葉が蘇る。
どうすればいいのだろう。
鳴輝を、嫌いになれなければどうしたら、いい?
今迄の、鳴輝との思いでがいくつもあるんだ。彼女の、笑顔だって知っている。嘘つきの高校生。息を吸うように嘘をつくのに、どうでもいいことは本当のことを言う少女。
何だって裏切るよって顔をして、大事な友人たちの赤岼泪と二宮真紀だけは特別に思っていることを、俺は知ってしまっているのだ。
車が静かに発進する。終夜の安全運転の振動が心地よい。
助手席に座っている俺は、ミラーで時折折亞の様子を確認する。折亞は無反応だ。いっそ眠ってくれればいいのに。折亞は、ただ、静かに涙を流していた。大声で泣くことも、しなかった。
終夜の自宅近くの駐車場へ到着すると、折亞はドアを開けて自分で降りてきた。
「折亞。今日は家に帰るな。友達の家に外泊するって、ご両親には連絡しておけ」
終夜が有無を言わさずにいった言葉に、折亞は一瞬たじろいでから、首を横に振った。
「だ、大丈夫だよ。終夜、私は……」
「折亞」
「な、なに?」
「次、大丈夫って言ったら怒るから」
静かな終夜の言葉に、折亞は言葉を失ってから、頷いた。
「さて、何処か宿でもとるか」
終夜が携帯を取り出して近場の宿泊施設を探す。
「ん? 終夜の家じゃねぇのか?」
「ぼろすぎる。大体、雑魚寝になるだろ。こういうときはせめて寝やすいようにふかふかのベッドがいいんだよ」
以前は雑魚寝したけど。終夜が主導だと手際がいい。
無理をさせて申し訳ない。ここから徒歩十分ほどの距離にあるホテルを終夜は電話で二部屋取った。
俺と終夜同室かよ。三部屋取れよ。
一旦財布にお金を入れてくるといって、終夜は家に戻った。俺と折亞は、気まずそうに外で夜風に当たって待った。
直に戻ってきた終夜と並んでホテルへと、気分転換を兼ねてか、歩いて向かった。
折亞は顔を伏せていたが、それでも人目についたら嫌なのだろう。表情を気丈に作り出している。偽物の笑顔は、折亞の特技だ。
何でもないような、顔をしないでほしい。
それでも、彼女は大丈夫だよ、とは言わなかった。
ホテルに入って、とりあえずはツインの部屋でくつろぐことにした。
「折亞。少しゆっくりしよう」
終夜が出したお茶を折亞は頷いてゆっくりと飲み干した。暫くして、折亞は眠った。
「睡眠薬…………か?」
「ああ。どうせ寝れないだろ。折亞は」
一度家に戻ったのはそのためか。手際がいい。
ここの部屋、ツインだからてっきり何も仕込んでいないのかと思っていた。仕込みなら、折亞が寝る部屋だとばかり。つくづく、優しいやつだ。
「辛い時は、寝てしまったほうが、気持ちが落ち着くよ。緤もいるか?」
「いる。どうせ寝られそうにないしな。一回何錠?」
「一錠。あんまりにも眠れなかったら、二錠までは飲んでも大丈夫だけど。普段使っていないなら耐性がないはずだから、一錠で足りるはずだ」
じゃあ折亞には二錠使ったな、こいつ。睡眠薬、どう見ても効きすぎている。
「わかった……何から何まで、助かるよ。終夜。悪いな」
「どういたしまして」
終夜がいなかったら、俺と折亞だけではこの感情をどうすることもできなかった。
「終夜も泣きたきゃ、泣いていいけどよ」
「その場合は、誰にも見られたくなから、少なくとも当分はいいよ」
「別に人の泣き顔見る趣味はねぇよ……弱みを見せるのは嫌いか?」
「好きじゃないな。苦手だとわかっているものに対しては、全然かまわないけど。本当に無理なら、俺はちゃんと無理っていえるから、気を回さなくていい。緤は、緤のことだけを考えろ」
優しさが心に染みて痛い。
「わかった……お前がいてくれて、良かったよ。その親切心でどうやって生きてきたんだよ」
椅子に座る。まだ、睡眠薬に頼って眠る気にはなれなかった。折亞を終夜はベッドに寝かせてタオルケットをかけた。
「円の元で、だよ。両親を事故で亡くしてから円に育てられたようなものだから……第二の親であり兄であり師匠。って感じだな」
「そういや、そういっていたな」
暴虐なる暴君。理不尽を相手へ要求する円の言動に付き合える数少ない人間が終夜だ。
あとは、俺の知る範疇では斉賀とサクラと綴。
「……両親を、事故で亡くした場所が悪かった」
「どういうことだ?」
それは知らない話だった。
「海外だ。見知らぬ土地で、両親は交通事故にあって死んだ。俺だけが残された。助けを求めれば良かったんだけど、助けを求めたかった先にいた人物が――両親の事故を誘発した人間だった。その当時は詳しくは知らなかったけど、俺の親の存在は不都合だったらしい」
「それ事故じゃなくて殺人だろ」
「殺人と立証は出来ていない。未だに不運な事故扱いだよ。顔を見てしまった俺は子供ながらに、そこへ助けを求めたら殺されるのではないかっていう恐怖があった。唯一の、目撃者だしな。逃げた。言葉も通じない場所、土地勘のない海外。全員顔を見れば外国人。何を言っているのか全く分からない。右も左もわからない場所で、途方に暮れたとき、円に出会った」
「……海外で?」
終夜が子供の頃なら、円だって子供だ。
「そう。日本人なんてほとんどいない場所で、俺は日本語を話せる円と出会った。円は、日本語で右往左往している俺の声を聴いて、やってきたんだ。当時、円は、その街の不良たちとつるんでいた。俺は日本語が通じる相手と出会えた安堵で、全部話した。そうしたら、行くところには行けない俺をそのまま手元に置いてくれた。現地の言葉を教えてくれたのも円だし、生きていく術も円が教えてくれた」
円に関して、命の恩人の言葉まで含まれているとは思わなかった。
終夜が円に対して畏怖を抱き、恐怖も持ちながらもそれでも付き合いを続けられるし根柢に信頼があるのはそのためか。
ただの師弟ではなく。兄のようであり親のようでもあるのが円であったら、円も暴君のわりに、終夜に対してだけは甘いのに納得がいく。情だって持っているだろ。
「……因みに、お前が助けを求められなかった――両親を事故に見せかけたやつはどうなったんだ?」
「俺が成長した頃合い、円と、仲間たちで、襲撃した」
「過激だ。しっかり復讐してたのか……」
「そうだよ。ああ、誤解がないように言っておくが殺してはいない。俺は、殺したかった。けど、円がそれを許さなかった。復讐をするのなら殺したら勿体ない、って言って、俺を止めた。財産を失って地位を失って生きていく方が、地位も名誉も財産もある人間にとってはつらいことだとな」
人を殺す技量と実力を持ちながらも不殺を好む終夜が見せる殺意と、暴力で全てを解決する円が止める光景。
そこにある、憎悪の根柢が、深い。当然だ、両親を殺されているのだから。
「流石にコメントする言葉を持ち合わせてない」
終夜が、悲惨ともいえる過去を語ってくれたのは、少しでも俺の心を落ち着かせてくれるための、魔法のような劇薬だ。対比するものでも比較するものでもない。ただ俺の思考に割って入て、一つに感情を絞らせないためのもの。
「いいよ。別に怒られたいわけでも同情されたいわけでもないし。単なる――思い出話だよ、語っただけだ」
終夜の中で完結している話。
ただ、耳を澄まして聞かせるための、物語。
「優しいやつだな、終夜」
「悪いことを山のようにしている。優しいわけがあるかよ」
「その終夜を俺は知らない。なかったことにするわけじゃないけど、俺にとって終夜はお人よしさ。……そうだ、鞠雛にでも連絡するか? 手配がどうなっているとか……」
「流石にまだ早いだろ。もし何かしでかそうという裏があるなら――潰すさ」
終夜の言葉は――怖かった。普段は優しい男ではあるが、いざというときは覚悟を決める行動力がある。
「そっか。全く、何から何まで頼りがいしかなくてお前は本当に俺と同い年かよといいたくなるよな」
「同い年だよ。大体、それをいえばナギだって同い年っぽくないだろ」
「あいつはどっちかというと幼いだろ。見た目に対して中身が成長してねぇんだよ。本当に、馬鹿なやつだ」
ホテルの一室で、俺たちはくつろいで、しんどくなったら寝ることにした。
折亞が目覚めないのを確認して、隣の部屋へ移動した。ベッドに横たわる。終夜は、ソファーに座った。
「寝ないのか? シングルだけど広いから詰めれば寝れるぞ。少なくとも雑魚寝より広々している」
「今日はいいよ。お前がゆっくり寝れ」
「わかった」
終夜がくれた錠剤が本当に睡眠薬なのかは知らない。折亞にもったのは本当だろうけど。プラシーボ効果かもしれない。
まあ、それもありだ。おやすみなさい。
――おやすみ。ナギ。
ナギが死んだって、殺されたって。日常は続く。
大学生は大学に通う。終夜はパチンコ店で仕事をする。
欠けたものは戻らないけれども、それで終わるわけじゃないから。
その日常に侵食されていくのが、辛くないわけではなかったけど、心は落ち着ていく。
折亞も俺も、終夜も、表面上は明るく振舞った。
悲しくて、泣き出しそうに心が襲われても、悲しい顔をしているわけにはいかない。悲しい顔をしないでほしいわけじゃなくて、俺のせいで、誰かが悲しい思いにならないでほしいからだ。
そして、折亞も終夜も同じことを考えている。
だから、何気ない日常をなぞっていく。
ナギから貰ったストラップは、外すつもりにもなれなくてつけたままだ。
ちぎれたりなくしたりしたら嫌だから、部屋に飾っておいた方がいいのかもしれない、でも外したくない、なんて気持ちで揺れ動きながら、お弁当を食べる。一緒に遊びに出かける。映画を見る。
そんな日々が過ぎて。
折亞が二宮真紀を人質にとった。




