間の話:カラオケ
◆◆◆
今日の授業は見事に全部休講且つ、終夜のバイトもなしという素敵な日だったので俺と終夜、折亞、寝癖眼鏡ことナギを誘ってカラオケに来た。
受付で後から三人増えるから伝えて広めの部屋にしてもらった。久々のカラオケ、楽しみだ。
「後から三人増えるってどういうことだ?」
403号室に到着し、入口から一番奥のソファーにナギが座ると聞いてきた。
「鳴輝と真紀ちゃんと泪が来るんだ」
「わかった」
「どうせお前が無理矢理誘ったんだろ」
「真紀ちゃんも一緒とか楽しみだろ!」
「確かにね」
「おい、待て。真紀ちゃんと鳴輝と泪って誰だ」
俺と折亞、終夜の盛り上がりにナギが水を差してきた。
「あー悪い悪い。ナギには話していなかったな。高校生の友達だ。南鳴輝に赤岼泪、二ノ宮真紀の三人だ。午前中授業だけみたいでさ、誘ったんだよ」
「いつ女子高生と友達になったのさ」
「一人男が混じっているから忘れないであげてー」
「は? えーと鳴輝か?」
「残念、真紀ちゃんが男でした」
「一人だけちゃん付けなのはわざとかよ」
ナギは呆れながら笑った。
「残念。わざとじゃなくて、真紀ちゃんは皆に真紀ちゃんって呼ばれていたから俺も真似して呼んでいるので、真紀ちゃんの由来は知らないのであった」
聞いても多分真紀は教えてくれないだろうしな。
因みに、カラオケに直接誘ったのは泪だ。泪が来るなら鳴輝も来るだろうし、泪にメールをすれば真紀を無理矢理連行してきてくれるという完璧なる筋書きである。
真紀にメールしたところでヤダって可愛い拒否がくるだけだろうしな。今日は真紀に女装をさせてやろうと思って紙袋の中に服も入れてきたのだ。きてくれないと困る。
「成程ね。所で何時に来るの? 悪いけど、僕は途中で帰るよ」
「はっ!? 途中で帰るとか俺、聞いていないぞ!」
今日も今日とてアホ毛なら可愛らしいのに変にうねっているので目立つことこの上ない寝癖が存在を主張しており、さらにウネウネを直そうと頑張ったのに途中で諦めたせいで真っ直ぐな前髪とは合わない髪型をしていて、それに眼鏡を組み合わせて寝癖眼鏡の完成なナギが突然帰ると言いだした。
俺はそんなこと聞いていない。
「だって今言ったし」
「なんでだよー折角のカラオケだぞ!」
「元々今日は予定があったんだよ。けど、緤が今日の朝急に、今日は休講だぜというわけでカラオケ行くぞーってメールしてきたからでしょ」
それは確かにそうだが、普通にOKしてくれたからてっきり今日一日フリーなのかと勘違いしていたぞ。
「けど、先にいってくれればいいだろ」
「拗ねないの。僕はカラオケきてからでもいいかなーって思ったんだよ。それに、折亞に貸したいものがあったから、用事あるって断るよりも丁度いいって思ってさ」
「拗ねてないですよ―だ」
「はいはい」
「鳴輝たちは授業終わってからだから一時過ぎって話だ」
「残念。じゃあ会えないね。十二時には僕出る予定だから。また今度紹介して」
十二時までって、十時からのフリータイムだから二時間しかいられないじゃん。
「仕方ない。お前の寝癖を引っこ抜けるなら、それに免じて許してやろう」
「引っこ抜くなよ」
「植木鉢に植えて生えるかを研究して今度の講義で発表してやるから楽しみにしとけ」
「そんな講義受講してないだろ」
「安心しろ。寝癖が抜けたってせいぜい十円はげが目立つ位置に出来る程度だ」
「それ凄く困るから」
「仕方ない。寛大なる心で許してやろう」
「偉すぎ」
ナギが俺に向かってデコピンをする仕草を見せた。座っている位置がナギ、折亞、俺、終夜の順番なので、俺にデコピンしたくても届かないからだろう。
俺の美貌に指を弾くとか、非道極まりない。
「飲み物取ってくるけど、何がいい?」
終夜が聞いてきた。此処はドリンクバー式なので自分たちで飲み物を取りに行く。ナギが緑茶、俺はメロンソーダ、折亞はオレンジジュースを頼んだ。
「折亞。面白くてお勧めだから是非読んで」
ナギが黒い鞄の中から取り出した、猫のブックカバーがついた文庫本を折亞に手渡す。
「ありがとう」
「最初の方は詰まらないんだけど、そこは我慢して読んで。最後はほんと面白くて最高になるから。最後を呼んだ後に最初を読むと、最初もまた面白くなってくるから!」
「それは楽しみ。帰ったらすぐに読破するよ」
「そうしろそうしろ。むしろ今此処で読んでいてもいいからな」
「それは止めとく。後の楽しみにしておくよ」
「残念。久々にこんな面白い小説に出会ったよ」
会話だけを聞くと凄い名作で面白いからお勧めだよーみたいな明るい本を彷彿とさせるけれど、ナギのお勧めとかナギが褒めちぎる作品とかは大体後味の悪いバッドエンドなので、
会話の内容と本の内容が会っていないし、俺が借りたーいといったところでどう考えても俺好みではない。
勧善懲悪とか、正義の味方が悪人を爽快に吹っ飛ばすようなのとか、アクション満載とかの方が俺好みだ。
「これだけはすぐに渡したかったんだよ。なのに今日授業休講になるだろ直接ポストインを考えていたら都合よく緤から今日カラオケ行くぞ! ってメールが来たときはこれだって思ったよ」
「もっと褒め称えてもいいんだぞ」
俺が胸を張って会話に加わると、ナギと折亞が苦笑した。
「さて、そろそろ終夜も戻ってくるころだし、カラオケでもするかー!」
「おっけー!」
折亞がノリよく返事をしてくれたところで、終夜が現れた。ほんと、ナイスタイミングだな。
お盆の上に四つのグラスを載せていた。終夜はコーヒーのブラックだ。
ナギが途中離脱してしまうので、ナギをトップバッターに任命する。
「緤が最初に歌えばいいのに」
「いいや駄目だ。ナギが最初だ」
ナギの選曲は結構幅が広い。今はやりの曲から一昔前にはやった曲まで歌えるだけならまだ普通なんだけど、アニソンから演歌から何でも大体知っている。適当に選曲して歌わせたら殆どの曲が歌えたときはびっくりした。今では慣れっこだけど。
流れてきた曲は店の中でよく耳にする曲だった。女性アーティストの曲をナギが歌い終えたので、次は折亞だ。折亞は今はやりより、マイナーな曲の方を好むので歌っているのをきていると、半分くらい初めて聞く曲が多い。但しナギは当然の如く何の曲なのかを一発で当ててくる。
折亞が歌い終わったので次は俺だ。最初は喉鳴らしに音が取りやすい曲を歌う。
終夜に回そうとしたが
「俺は歌わない。ナギに俺の分まで歌わせておけ」
相変わらずカラオケをきても積極的に歌おうとしない奴だ。洋楽とか歌わせたら上手なのに勿体無いよな。
仕方ないので――というか終夜は無理矢理、鳴輝たちがきたら歌わせるつもりなので此処で終夜にパワーを使わせても意味がないと判断して俺は、ランキング一位と二位の曲をナギに歌わせるのに入れた。
「本当に僕が二曲連続で歌うんかいな」
「勿論だ。終夜の分も歌っておけ。好意には甘えるものだぞ」
「好意じゃなくて悪意だと思うけれど」
「人の親切心を悪意ととるなんて随分とひねくれた奴だ」
「バッドエンド大好きとかいっているやつが素直で憎たらしくない奴だったらそっちの方が驚きだよ」
「素直じゃないって自覚あるんだな」
「素直に生きたいものだね」
「諦めるなよ。ほら歌え」
「はいはい」
十二時になったところで、ナギはフリータイム料金を机の上に置く。
「じゃあ支払宜しく。僕は帰るよ」
「おう、またな! そうだ、ナギ。今度俺のお勧め本を貸してやるぞ」
「いらない」
「人の好意を無下にするとは不届き者め」
「どうせハッピーエンドなんでしょ。僕が読みたいのはバッドエンドなんで」
「偶にはハッピーエンドだっていいぞ!」
「僕は都合のいいハッピーエンドは読みたくないだけ。もし本当に綺麗なハッピーエンドがあるときは、喜んで借りるよ」
「お前の好み難しすぎるぞ。物語は多少ご都合主義が含まれていようともハッピーエンドで終わりたいものだろ!」
「そう? ねぇ緤。あんまり都合のいいハッピーエンドを量産するようなら、僕がバッドエンドにしちゃうぞ」
「受けて立つ! ファンブルにしてやるからな!」
「いや、ファンブルって失敗しているじゃん」
「やべっ間違えた!」
「クリティカルっていいたいんじゃないの?」
「恥ずかしい……! 慣れてない用語は使うもんじゃねぇな。付け焼刃だって怒られてしまう」
「付け焼刃ですらないきしかしないよ」
「ところで、なんで本の話からTRPGの話になるのさ」
折亞が苦笑しながら呆れていた。
「会話はノリでするものだ!」
「どんな理屈よ全く。そもそもノリ間違えているし」
「それはいうなー恥ずかしいだろうが!」
「ナルシスト発言より恥ずかしくない間違えだから問題ないよ」
「酷い。ナギ! 折亞が酷い!」
「僕も折亞に全面同意だから。それじゃ、緤に折亞、諒。また今度」
「またな」
「またね」
「じゃーな」
手を振ってからナギは部屋を後にした。
因みにナギの元々の予定は、ご都合主義のハッピーエンドを潰しにいくそうだ。
TRPG仲良くやっている中にバッドエンド使者がやってきたら空気読めないというかムード壊しそうなものだけれど、そうでもないらしいから不思議なチームワーク(?)だ。多分。
回しながら歌っていると、ドアが開いた。時計を見ると一時を少し回っていた。
真紀ちゃんが部屋に押し込まれる形でやってきた。
「おう、真紀ちゃんいらっしゃーい」
「くそっ。鳴輝に泪め。オレはカラオケなんて行かないって言ったのに!」
開口一番悪態をついていた。続いて泪と鳴輝も部屋に入ってくる。後に泪と鳴輝が控えていれば真紀では逃亡が出来なかったのだろう。
学校帰りなのでスクール鞄に、学校指定の制服を着ている。但し真紀だけは、ブレザーを着ないでパーカーを羽織っている。本当に背伸びしたいお年頃である。
そして流石に何度も鳴輝の制服姿を見ていると、鳴輝が女の恰好をしている事実にも多少なりとは慣れてくるものだ。
「あれ? 聞いた話では一人、私たちの知らない人がいると聞いていたんだけれど」
「あぁ。悪い、用事あったみたいで先に帰ったんだ、悪いな。今度はそいつも含めて一緒に遊ぼうぜ」
「今度は数日前から予定をたてようか」
泪の言葉に頷く。今日はほんと、朝俺が決めたことだから突発的だったしな。
けれどこうして人数が集まるから問題はないだろう。何より楽しいしな!
「それにしても、知らない人はどんな人だったのかな?」
「寝癖眼鏡」
「はい?」
反射的に答えてしまったが、泪や真紀に通じるわけがなかった。いや、名探偵のごとき頭脳を発揮してくれる鳴輝も流石に通じていないのか顔を顰めていた。
「あぁっと悪い。通じないよな。寝癖眼鏡ってのは、バッドエンドが大好きな奴だ、で寝癖が酷くて引っこ抜きたい頭をしていて眼鏡をつけてる」
「寝癖眼鏡について詳細になったのと、バッドエンドが大好きなことしか情報として伝わってこないね」
泪がくすりと笑った。言われてみればそうだ。
しかしあいつを説明するに至っては真っ先に思い浮かぶ特徴がそれしかないのだ。他にも特徴はあるのに、眼鏡と寝癖とバッドエンドのせいで他の印象が薄れるタイプだ。
「よし、帰った寝癖眼鏡のことはどうでもいいとして、じゃあ、まずは鳴輝たち歌え―! 俺たちは一通り歌っていたしな!」
マイクを鳴輝に手渡す。鳴輝がどんな歌を歌うのかとても楽しみである。音楽は一日中聞いているようなヘッドホンを手放さない奴だしな、ナギ程かはともかく幅広い年代の曲を知っていそうだ。
「わかったよ。それじゃ泪。一緒に歌おうか」
「いいよ。選曲は鳴輝に任せるよ」
鳴輝と泪のデュエットとか楽しみだぜ。男性と女性歌手が歌っている曲を選曲した。
鳴輝が男性パートをてっきり歌うのかと思ったら意外や意外、泪の方が男性パートを歌って鳴輝が女性パートを歌い出した。
普段の中性的な声色からは想像が出来ない高い音を出す鳴輝に、ハスキーな声色で歌う泪。音程にハモリまで完璧に歌いこなしている。採点機能を入れりゃよかった。絶対得点高いぞこれ。
「すげー。泪は歌うまそうだなって思っていたけど鳴輝までうまいんだな!」
「僕は音痴だと思っていた?」
「いや、音痴だったら面白いと思っていた」
「酷」
「面白みは求めたくなるものだろ! な!」
真紀に同意を求めようとすると、表情がやや拗ねていた。何故だかわからないが、可愛い表情だ。不良ぶっている癖にそんな表情をするのだから、不良という言葉に説得力がない。
「よし、次は真紀ちゃんだな!」
「ヤダよ。なんで、こいつらが歌った後にオレが歌わなきゃならないのさ!」
「むむ? さては真紀ちゃん歌が苦手なんだな」
俺が真紀に近づくと、真紀が逃げようとしたが泪に捕まっていた。首根っこを捕らえられている。
「真紀は別に音痴じゃないよ。ただ、少し下手なだけさ」
「おい、泪てめぇ! 確かに歌は得意じゃないけど!」
「折角だ。真紀。此処で練習をするといいよ」
「練習するならヒトカラするに決まってるだろ!」
「真紀ちゃん、ほい歌いな」
いつの間にか選曲を勝手にしていた鳴輝が、マイクを真紀に投げつける。真紀は咄嗟にマイクを反射的に受け取ってしまう。しまったという顔をしたが、やがて泪や鳴輝には勝てないと観念したのか歌い始めた。
本人談の通り、真紀は歌が苦手なようだったが、鳴輝や泪の視線を受けて恥ずかしそうに視線を横にずらしながら歌う姿が可愛かったので問題はない。
ほんと、真紀はいじりがいのある可愛らしい奴だ。だから鳴輝も真紀ちゃんと呼ぶのを止めないのだろう。
「真紀ちゃんおつー!」
「ふんっ」
歌い終わってからも真紀は拗ねていた。
「ほい、終夜」
俺は勝手に終夜に歌ってほしい曲を選曲してマイクを手渡す。
「は? 俺はいい。コーヒー飲む」
「お前一体コーヒー何杯目だよ。ずっと歌っていないんだし一曲二曲十曲歌え」
「最後増えすぎ。緤が歌えよ」
「え、俺この曲無理歌えない。終夜に歌ってほしくて選曲したんだから」
「じゃあ折」
「歌えない」
折亞の名前を呼ぶ前に、折亞が拒否をした。因みに曲目を見てすらいない拒否だ。
そうこうしている間に曲が流れ始めたので終夜は眉を顰めた。
「洋楽かよ」
「そうそ。終夜程綺麗な発音出来ないし」
「南にでも歌わせろよ。洋楽くらい簡単にこなしてくれるだろ」
「俺は終夜に歌わせたいんだ。ほら前奏終わるからさっさとさっさと!」
俺が強引に進めると渋々終夜は洋楽を歌ってくれた。
「流石、英語が喋れるだけあるね」
終夜の洋楽に鳴輝も感心してくれたようだ。俺の鼻が高いぜはーははははっ。終夜が歌い終えると、真紀が俺に苦情を言ってきた。
「オレの後に歌が上手な終夜をいれるとかいじめか!? いじめだろ!」
「いや愛情表現だ」
「不吉なものはいらねぇよ!」
「冗談だ。ただ、終夜に歌ってほしかっただけだよ」
真紀がますますすねていた。ストローを加えてオレンジジュースを飲みほしている。
「よし、終夜! デュエットやるぞ!」
「ヤダ」
「駄目だ。俺と一緒に歌うんだ。これは決定事項だ」
「そんな決定事項知るか。俺はコーヒーを飲む」
「お前コーヒー飲みすぎ! コーヒー禁止令だ!」
「理不尽な禁止令に従うか馬鹿」
「いいから俺と一緒に歌うぞ、ほら」
終夜が渋々歌ってくれる――とはいえ真面目に歌ってくれたので、俺はカラオケでお披露目しようと思っていた、曲に合わせた踊りも一緒にやった。
踊り出した俺に終夜はあきれ果てていたようだが知らない。華麗なターンだってバッチリ決められるんだぞ。
「……うわぁ」
真紀が何だかひいたような声を出したような気がするが俺の耳にそんな言葉は届かない。曲が終わると、折亞が苦笑していた。
「緤、何時の間に踊れるようになったの」
「練習したからな。完璧だろ」
「最後の言葉がなければ完璧だったね」
「完璧に踊れたら自画自賛しても問題はないのさ」
「緤は少し謙虚な心を持とう」
「十分謙虚だろ」
「どの口がいうのさ」
小腹が減ってきたので、メニュー表を開いて食べ物を選ぶ。皆で食べられる山盛りポテトを注文した。塩加減が上手い。あっ甘いものが食べたくなってきた。
カラオケは一旦休憩で、お食事タイムだ。
「そういや、真紀ちゃんって勉強できるのか? 出来なさそうだけど」
「失礼だな! これでも成績優秀だ!」
「不良ぶってるくせに?」
「関係ないだろ、そこは!」
「校則違反しかしてないのに?」
「だから関係ないだろ」
まぁ関係ないけど。でも、不良もどきをやっているんだから先入観で成績が悪いって思ってしまうだろ。インテリ不良って雰囲気でもないわけだし真紀は。
「けど、あれだろ。鳴輝や泪よりは悪いんだろ?」
「うぐっ」
事実だったようで真紀が黙った。鳴輝はイタリア語が出来るし本来なら高校生をやっていることが嘘みたいなやつなんだから、当然頭はいいだろうし、泪は見た目からして勉強が得意そうだ。
「い、いつか負かしてやる!」
「無理だろうね。まぁそうだね、僕に勝てたら真紀ちゃん呼びは止めて上げてもいいよ」
「本当だな!?」
「一生無理だろうけどね」
鳴輝が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「で、でも! 泪よりかはまだ勝ち目があるだろ!」
おや、意外なことを真紀が叫びだした。
「どういうことだ?」
終夜も珍しく会話に入るほど興味をそそられる内容だった。
てっきり俺も終夜も鳴輝が一番学業成績がいいものだと思っていた。
「ん。いや、テストだと泪が一番成績いいぞ。鳴輝は次点」
真紀が答える。
「まじでか。いや、泪が頭もいいのは予想ついていたけど、鳴輝よりいいのが意外だった」
「失礼だね」
泪が苦笑する。
高校に通っていることがおかしいやつ鳴輝より泪がいいなんて誰も思わないだろ。
いや、学校の成績が=で全ての頭の良さに繋がるわけではないのは重々承知の上だが、鳴輝ならこともなく一番をとっていそうだったんだよ。鳴輝にはそう思わせる何かがある。
ま、高校のテストで効率のよい毒殺の仕方とか、毒薬の作り方とかがテストに出てくるわけがないから仕方ない面もあるのか……な?
「あっ。そういや、確か高校一年の二回目の期末テストだけは、鳴輝のほうが学年一位で、泪に勝っていたんだっけ」
真紀が高校入学当初のテストを思い出したのか、掌をぽんと叩いた。成績上位三十名までは廊下へ張り出すそうだ。
「そうだね。まさか高校で僕が次点に立つとは思わなくて、期末テストのときは巻き返したんだよ、けど……」
「けど?」
「その次からは泪にまた元の場所を奪われたのさ」
鳴輝が肩を竦める。
「それはそうだ。私は二度も負けない」
泪がさも当然のように答えた。
「それ以降は勝てないよ、ほんと」
鳴輝が苦笑した。
「泪はこう見えて、いや見た目通りなのかな? プライドが空のように高いからね」
「空って山とかじゃないの?」
「山より高いんだから空でしょ」
「失礼だな。私はそんなにプライドが高いつもりはないよ」
「自覚したほうがいいよ、泪」
「真紀だってプライドは高いと思うけど」
「真紀ちゃんのプライドも高いけど折るのは簡単だけど」
「おい!」
確かに真紀ちゃんのプライドは折るの簡単そうだよな。ぽっきり折れそう。
「そうだ、真紀ちゃん!」
休憩中の流れで俺は目的を果たすべきだと行動に移すべく真紀ちゃんの名前を呼んだのだが返事がない。
「おい、真紀ちゃん。聞け」
「ヤダ」
「聞こえているのに無視するなよ」
「嫌な予感しかしないからヤダ」
「大丈夫だ。ちょっと女装するだけだから!」
ウインクを決めたら終夜が気持ち悪いとか何か呟きだした気がするが、空耳だ。一撃で相手を落とせる魅惑のウインクだと言ったに違いない。
「はぁ!? それの何処か嫌な予感から外れるっていうのさ!」
真紀は唖然としている。
「え? 女装だぞ。楽しいぞ。安心しろ、服は全部持参してきた。俺と真紀ちゃんはたいして身長が変わらないから問題ないぞ。一緒に女装をして踊ろう! さぁさぁ!」
「絶対御免だ! なんでオレが女装なんてしなきゃいけないんだ!」
「顔が可愛いからだ」
「何処がだよ!」
「女に間違われることあるだろ?」
「そんなにねぇよ!」
「そんなにってことはあるんじゃねぇかよ。よし、鳴輝に泪。手伝ってくれ!」
真紀の話は無視して進める。鳴輝も泪ものってくれた。優等生な見た目の泪だが、ノリはよくて助かる。折亞と終夜は巻き込まれるつもりがないのか成り行きを眺めていた。
俺が紙袋から女装用の服をとりだす。ゴスロリ度満載の服装だ。この日のためにクリーニングに出しておいた。
「さぁこれをきよう」
俺が爛々と輝かせた表情で言うと、真紀は首が取れる勢いで首を横に振った。
立ちあがって出口へ向かおうとしたが、しかし、真紀の背後には泪が待ち構えていた。真紀の身体を泪ががっちりと抑える。狭い室内で暴れようとしたので終夜がこっそりテーブルの位置をずらして真紀側にスペースを広くしていた。コーヒーが零れるの嫌なんだな。
「おいこら泪、離せ!」
「真紀。折角だ、女装をしてみればいい。なんなら私も女装してあげようか?」
「泪は女装以前に女だろ!」
「女みたいな顔立ちなんだから、真紀が女装したって誰も違和感なんて抱かないと思うよ。その点は私が保証しよう」
「嬉しくない保証をするな! ボクは女装する趣味はない!」
真紀がてんぱりだしたので一人称が変わり始めた。
本当の一人称がボクなのに強がってオレとか言っているから真紀は皆に弄られるキャラだって自覚がないのだろうか、その方が面白いからいいけど。
自覚してしまったら面白みが減ってしまう。零にはならないけれど。
「泪、離せ!」
「真紀が私を離せないのがいけないんだよ」
「くそっ」
振りほどこうと身体を左右に動かすが泪から一向に逃れられる気配がない。
鳴輝と俺で服装を二手に持つ。上からすっぽり切れるようにワンピースを選んでやったぞ。
「ってか待てよ! ここで!?」
「大丈夫大丈夫。真紀ちゃんが服を脱いだところで真紀ちゃんだから問題ないよ」
「分けわかんねぇよ鳴輝!」
「真紀ちゃんだからってことだよ」
「そんな理由で納得出来るか!」
終夜と折亞はその様子を今だ傍観者として眺めていた。
「おい! お前らよくないよな!?」
真紀が終夜と折亞に助けを求めたが
「俺にこいつらを止められるわけないだろ」
という終夜の無情な返答と
「大丈夫。私はそっぽ向いていてあげる」
折亞の無情な返答しかこなかった。
つまり折亞も積極的に参加しようとは思わないが真紀の女装姿を楽しみにしていると言うことだ。
「良かったな! 折亞も終夜もお前の女装みたいってよ!」
「歪曲するんじゃねぇー! 誰かこいつらをとめろー!」
真紀は叫んだが、残念。皆真紀を可愛がっているのである。観念しろ。
その後真紀は二度とカラオケにいくもんか! と顔を赤くしてやや涙目で訴えたが鳴輝に逆効果と一蹴されてしまうのであった。
とっても楽しい充実したカラオケだった。また皆でこよう。今度こそは寝癖眼鏡も一日フリーにしてやる。
ファミレスで夕食をとってその場で解散となった。
俺と終夜が歩いていると、鳴輝も同じ方向だったのかついてきた。
「またお前俺たちに話あるのか?」
「いや今回はほんと偶々だよ」
「お前ん家こっちなのか?」
「違うね」
「買い物か?」
「それも外れ」
終夜の言葉を悉く鳴輝は否定する。風が一陣吹くと、鳴輝の前だけが長い髪が風に踊る。
「是からちょっと仕事をしてくるだけだよ」
その手にナイフが握られているかのような錯覚に陥る。
月の明りを頼りに鳴輝の手元を見るとやはり錯覚は錯覚でしかなくナイフなどなかった。
「そっか」
「そうだよ、ただそれだけさ」
先ほどまでの楽しい時間が嘘のように鳴輝の前からなりをひそめている。
「泪や真紀ちゃんには一生秘密でいいのか?」
ふとした疑問だった。泪や真紀は鳴輝の仕事を知らない。
俺の言葉に、迷うそぶりを見せず鳴輝は頷いた。
「当たり前だ。泪は友達だし、真紀ちゃんは巻き込みたくなんてないよ」
「まぁ真紀ちゃんじゃてんぱっておろおろして終わりそうだもんなー」
「真紀ちゃんの評価が酷いよ、緤君」
「だって、真紀ちゃんだし」
「真紀ちゃんだしね。真紀ちゃんに危ないことは似合わないよ」
「似合わないな。ついでだ不良もどきを更生させちゃったらどうだ?」
「それはそれで詰まらない。可愛い真紀ちゃんが綺麗な真紀ちゃんになってしまう」
「あぁ確かに」
名案かと思ったが、確かに詰まらない。不良もどきな背伸びしたいお年頃な感じがまたいじりがいがあって楽しいのだから。
「二ノ宮の評価酷いな……」
終夜が何とも言えない表情でいった。
「これは愛情の裏返しだ」
「それもそれで酷いだろ南」
「そう? それにしてもほんと、終夜君はいつ僕のことを名前で呼んでくれるのかな」
「お前だって俺のこと終夜って名字呼びじゃねぇか」
「ここは鳴輝も諒君って呼んであげたらどうだ?」
「終夜君は終夜君だよ。諒君ってなんか終夜君のキャラじゃない」
「俺にどんなキャラを求めているんだよ……」
終夜には終夜っていうキャラを求めているんだよと言葉にはしなかったが伝わったのか、わかんねぇよとため息をつかれた。
「真紀ちゃんは置いておいてだ、泪ならお前のこと知っても離れたりはしないだろ。友達なら教えてあげてもいいんじゃねーか?」
「巻き込んではいけない!」
珍しく鳴輝が声を荒げた。
「鳴輝……?」
びっくりして声が少し裏返った。
「僕は、泪にも真紀ちゃんにも教えるつもりはない。教えるってことは巻き込むってことだ。そんなことはしないよ」
「鳴輝」
「真紀ちゃんは置いておいて、友達だ。そう――ただの友達でいいんだよ。僕のことなんて何も知らない友達がいいんだ」
「悪い軽率だったな」
「いいよ。大丈夫、僕のことを知っている人は僕以外にもいる。例えば、君や終夜君がね。それで十分さ」
鳴輝は淡々とした表情でそう告げた。
「それじゃ、僕はこっちだから。またね」
「あぁ。またな」
本当にその道の先に仕事先が待っているのかわからないが、鳴輝は足音を立てず俺たちの前から離れて行った。手を振ることはしなかった。




