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ロールド  作者: ハム
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第9話

暗闇に覆われ、逃げ場すらない埋め立て地で、更に数名の恐怖に満ちた叫びが微かに聞こえる。だが雨音に幾分掻き消され、説明不足の自衛隊に疑問を抱く者は然程多くない。これが穏やかな日本人の特性なのか、しかし、それでもこの惨劇に遭遇した者には少なからず恐怖と虚無感を与えたに違いない。



外での惨劇を知らず、己の勘で危険と察知した田沢は地下の武器庫にて威力のある自動小銃等に弾薬を詰め、直ぐに持ち出せる様に弾や手榴弾、ダイナマイトをバッグに詰め近場の棚にまとめていた。ちなみに地下に戻る際に見付けた鎖さえ絶ち切るボルトカッターを側に置き準備万端と言った状況だ。


『………よし……これで良いだろう………』


準備を終え周囲の確認を終えると田沢は地上に戻って行った。2階の事務所に戻ると神谷と向井は拳銃を弄っており、両手にマチェットとバットを持ち事務チェアに大野が不服と言った表情で座っていた。そんな大野に田沢が声を掛けた。


『………どうした大野?』


明らかに不服な表情を浮かべる大野は頬を膨らまし不貞腐れていた。


『………何で俺は銃を持たせて貰えないんすかー………』


そんな大野を無視する様に神谷は向井に銃の使い方を教えている。田沢は困った様に答えた。


『………あのな、大野………あれはエアガンとかじゃなく本物の銃なんだよ………』


『………そんなの分かってますよ………』


『………あれを所持するって事は、この日本じゃ銃刀法に違反する………それは分かるな?』


『………はい………』


『神谷さんは韓国の射撃場で扱った経験があるし………向井は冷静な大人だ………』


『………俺も大人っすよ………』


『………うん……そうだな………でも、俺はそうは思えない………何でか分かるか?』


『………分かんないっす………』


『………だろうな……自分だけが銃を持たせて貰えないと思ってる………それが子供なんだよ………』


『…………』


『もし、今のお前に銃を渡して、間違えて人を撃ってしまったら………お前はそれを素直に自分の責任と認める事が出来るか?』


『………そ……それは………』


『………どうだ………出来ないだろ?……仕事に関してもお前は自分のミスを誰かのせいにしている節がある………本来仕事でもやってはいけない事だが………人を殺めるかも知れない今の状況からすれば尚更だ………だから俺は神谷さんにお前に銃を渡さない様に頼んだ………』


『…………』


『………分かってくれ大野………俺は間違ってお前を犯罪者にしたくない………お前にはまだ未来がある………それを俺の判断で奪いたくないから、お前には銃を渡さなかったんだ………』


その説得に納得行ったか行かないか、初めて目にした田沢の他人に対しての厳しい部分に直面し戸惑ってしまったのか、大野は田沢に浅く一礼すると洗面所に立ち去って行った。田沢はやれやれと言った表情で事務所の椅子に腰掛けると神谷が話し掛けてきた。


『………ほら、田沢、お前の分だ………』


『あ、ありがとうございます………』


渡された銃を手に取り安全装置が掛かっている事を確認し同時に渡された軍用ウエストポーチを装着し中身を確認して行く、確認していると向井が声を掛けてきた。


『………こんな物があったなんて正直驚きました………』


『………あぁ………俺もだよ………』


『………しかし、こんな物使う様な事態なんですか?単に橋を封鎖されて一時的には隔離されてるだけでしょ?』


『………そうだな……だが何とも嫌な予感がしてならないんだ………もしもの為の対策と思ってくれないか………』


『………はい、田沢さんがそう言うなら………』


『………使わないに越した事はない………』


向井も納得は出来てはいなかったが信頼している田沢の言葉を信じ、従う事にした。

皆が思い思いに過ごしていると、倉庫裏口の戸を叩く音が聞こえ、瞬時に神谷と田沢、向井が身構えた。


『………ドンドンドン………』


恐る恐る扉に近付くと更にドアをノックする音が聞こえてくる。


『………ドンドンドン………おーい…神谷君………居ないのか?』


その声に聞き覚えのあった神谷はドアの覗き窓をスライドさせて相手を確認すると素早くドアの鍵を開け来客を招き入れた。


『松尾さんに小田さん…どうなさったんですか?』


『………はぁはぁ……君は無事だった様だね………』


『一体何があったんです?こちらの女性は?』


『訳は今から説明する………取り敢えず落ち着ける場所に移動しないか?』


ずぶ濡れの三人は一先ずレインコートを脱ぎ神谷と事務所に上がって行く、田沢と向井もそれに続いた。




埋立て地内では死者が生者を襲い底無しの食欲で脳を貪っている。人の肉では無く脳ミソのみだ、彼等は嗅覚で生者の脳の匂いを嗅ぎ分け、生者を発見すると物凄い勢いで襲い掛かっていた。襲われた者たちは生命活動を止め野晒しに放置されていた。最初に襲われた男女3人も例外ではなかった。雨にうたれ見動く事無く倒れていたが、やがて動き始める。ずぶ濡れの中ただその場で眠っていただけで、寝起きの様にゆっくりと、


ずぶ濡れの視界を手で拭い去り彼等はゆっくりと歩きだした。そして次に襲われ息果てた者たちも同様であった。ゆっくりと起き上がり誰が指示する訳でもなくゆっくりと起き上がった。その姿を運良く生き延びた者が建物内のブラインド越しに見て驚きを隠せない表情をしていた。


生存者の中には襲われた者たちの無事に歓び駆け寄る者の姿もあったが、彼等は既に以前の彼等では無くなっていた。その口から発せられた言葉は


『………脳ミソ………』


そう発し更に生存者に襲い掛かる。彼等はもう生存者の仲間ではなく、死者の仲間として蘇ってしまっていた。死者同様に襲い掛かり死者同様に脳を貪り食う。隠れ立て籠ってその光景を目にした者は更なる恐怖に襲われ、己の無力さに気付き声を殺し泣き崩れた。


何故一度命を失った者が死者として蘇ったのか、それは森山達が開けてしまったあの容器に原因はあり、そのガスを浴びて蘇った死者を更に森山達が所内の焼却炉にて焼いた事によりガスの成分が煙として立ち上ぼり、雨と混ざり地上に降り注いだ。襲われた者逹はその雨が体内に入り込み死者を蘇らせる成分が彼等を蘇らせると言う最悪の結果を招いてしまった。


死者がその事に気付いているかは分からないが、誰もしらない所で死者の勢力拡大が静かに進んでいた。


神谷を訪れた松尾達が神谷逹に事情を説明していた。その説明に神谷や田沢は俄には信じられぬと言った表情をしていた。説明を終えた青木に秋山が質問を投げ掛けた。


『………あ、あの………青木さん逹に襲い掛かった奴等の特長なんですが………全裸で、肌が黄色がかっていたんですよね?………』


『………はい………』


秋山はその返答を聞くと何かに気付いた様に考え込んでいた。

その様子を伺っていた田沢が秋山に声を掛けた。


『………秋山さん。何か思い当たる事でも………』


『………いえ、ただ………』


『………ただ?』


『青木さん逹を襲った者の特長なんですが………研究所の冷凍庫に保管されていた研究用の遺体と似てると思って………』


『………えっ!』


秋山の言葉に田沢逹全員が更に驚き凍り付いていた。


『………研究所に置いてある5体の内4体は防腐処理の為に薬品を塗られていて肌は黄色ががってたんですよ………』


『じゃあ何かいお嬢さん………死体が起き上がって人を襲い始めたって事かい?………悪いがホラー映画じゃあるまいし、現実にそんな事があってたまるか!………』


『………わ、私はただ外見的特長が似ていると言っただけであって………』


秋山の発言に神谷がやや興奮気味に突っ掛かり、いきなりの神谷の怒号に秋山はたじろいた。しばしの沈黙が流れたが田沢が口火をきった。


『………兎に角此処に居ても事態は何も解決しないし、松尾さんのおっしゃる通り一度自衛隊に話をしよう。向こうにも何か情報があるかも知れないし………』


『………そうだな………時間が経てば経つほど被害も拡大してるかも知れん。秋山さん………さっきは怒鳴ったりしてすまなかった………』


『………いえ、私の方こそ変な事を言って、すいませんでした………』


一応の謝罪をお互いに済まし雰囲気が元に戻った所で松尾が話し出す


『………所で自衛隊の屯所まで誰か着いてきて貰えないか?………流石に一人では不安でな………』


『じゃあ、俺が行こう。』


神谷が名乗り出たがそれを田沢が遮り、田沢が名乗り出た


『いえ、俺が行きます………神谷さんはこの建物を一番分かってますし、此処に残って皆を指揮して貰いたいんですが………』


『じゃあ田沢さん………俺も一緒に………』


『………いや、向井と大野も残ってくれないか………もし何かあった際に男手が多い方が良いだろう………行くのは俺と松尾さんだけで良い………』


『………分かりました………』


『じゃあ、準備を調えたいので松尾さん………少し時間を頂けますか?』


『うむ………分かった………』


『有難うございます………それじゃあ俺は準備をして来ます………大野………ちょっと良いか………』


大野を呼び寄せると田沢は倉庫の奥へと歩いて行った。

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