第2話
照明の灯りが灯っていても薄暗らい地下の物置で殆どの作業を終えた四人は雑談をしていた。
『こっちはほぼ終わったし、田沢さん達を手伝いに行くか?』
『向井って本当真面目だなー少しはサボろうって気にならないのか?』
『でも向井のその真面目さが良い所だろ?』
『そう言や向井もガキ産まれたんだしバリバリに頑張らなきゃだよなー』
『俺の事は別に良いだろ?って大野!お前はさっきから何やってんだ?』
開かない扉を前に大野が何かをしているのを見て向井がつっこんだ
『いやー丁度ヘアピン見付けたんで、これで開かないかなー?って思って』
『お前はこそ泥か!勝手な真似をするなって田沢さんに言われただろ?』
『はーい…でも映画みたいに開いたら面白いと思って』
四人が話していると階段の方から聞き覚えのある足音が聞こえ近付いてくる。さっきの女だ、あからさまに不機嫌そうにこちらに近付くと
『此処はもう良いわ』
『へ?でもまだ奥に…』
『所長が良いって言ったのよ。後は所長が何とかするでしょ?あんた達は上に戻って、他の人でも手伝えば?』
『はぁ…分かりました』
溜め息の様な返事をし、四人は一階に戻って行く、女もそれに続き戻って行った。
上にあがると作業も終盤に差し掛かっており、トラックに乗せる物と言えば細々した物であった。不機嫌そうな女は向井達の合間を縫って相変わらず不機嫌そうに廊下に面した一室に戻って行った。戻った4人は他のスタッフに作業を聞き手伝いに移りトラックに荷物を運んでいると田沢に声を掛けられた。
『あれ?物置はもう終わったの?』
向井がその問いに答えた
『はい、物置はもう良いそうなので、ただ、物置の奥にある扉の鍵が見付からず、所長判断で運び出しはしなくて良いとの事でした。』
『んー鍵がねー…所長が居ないし、伝えてくれたのは矢上さんかな?』
『矢上?』
『黒髪ロングの美人さんだよ』
『あぁーあの高飛車女、矢上って名前なんすかー』
『おい!大野!』
『ハハハー…大野には苦手なタイプだろうね』
『そうっすよー何様って感じっす!』
『大野!いい加減にしろ!』
『ハハハーそう思われても仕方ないよ。さっき片付けてたら鍵が見付かってね、矢上さんの探している物かも知れないから渡して来るよ。その間、此処任せても良い?』
『分かりました。自分が引き受けますんで、田沢さんお願いします』
向井に現場を任せ田沢は建物内に入って行った。廊下を左右確認するが誰も見当たらず、地下の鍵の件で聞きに行った部屋に向かいドアをノックすると中から女性の返事がした。
『はい…入ってー』
『失礼します』
『あら、引っ越し屋さん。終わったの?』
『いえ、先程地下物置奥の鍵が無かったのを聞きまして、もしかしたら先程見付けた鍵じゃないかと報告をいれようと思いまして…』
そう言うと田沢は胸ポケットから先程見付けた鍵を取りだし矢上に見せた。
『鍵?何処にあったの?』
『一階の西側一番突き当たりの部屋にです。』
『あぁ…あの部屋ね…』
『はい…』
『有り難う…もう良いわよ』
『はい…それともうすぐ作業修了しますので、付き添いの方に連絡お願いします…』
『分かったわ…ご苦労様』
『では、失礼します…』
部屋を出て田沢は皆の所に向かった。部屋に残った矢上は窓から空を眺めながら煙草を吹かしながら何かを考えて居たが、考えが纏まると何か興味を持った様に独り言を呟く、
『見てみる価値はあるかもね…』
矢上は他の所員が集まる場所に向かうと男性所員二人に声を掛ける
『森山さんと江口!ちょっと私に付いて来て…確かめたい事があるの…』
『あぁ…分かった…』
『はい…』
次に控え目で大人しそうな女性に話し掛ける
『秋山…あんた付き添い言い付けられてたわね?』
『は、はい』
秋山はやや強張った表情で答える
『引っ越し屋がそろそろあんたも準備しなさい…それと向こうに到着したら、あんた直帰して良いから…』
『は、はい…分かりました…』
そう告げると矢上は森山と江口を引き連れ部屋から出て行った。
秋山は荷物をまとめ田沢達の所に向かう。
『よっしゃーこれで一段落!』
『ふぅー…後は運搬ですね』
『そうだな、他の皆はもう出発したし、後は付き添い人待ちだな、向井と大野は先に行ってても良いぞ…』
『いえ、俺らのにも何か薬品積んであるみたいなんで待ってますよ』
『田沢さん、付き添いの人くるまで煙草でも吸いましょうよー』
『そうだな。よし一服しよう』
そう言って近くの喫煙所で煙草を吹かしながらコーヒーを口にしていた。
『それにしても気味の悪い地下でしたねー…あの扉の奥、死体でもありそうな感じでしたよー』
『あぁ…確かにな、でもあそこに死体はない、あるのは確か一階の冷凍室でしたよね?』
『あぁ…だがあれはうちの仕事じゃないしな…』
『えっ!死体があるんっすか?』
『あぁ…他言はするなよ!何でも実験用の死体が冷凍室に5体程あるらしい…何の実験に使うかまでは知らないが、所員が言ってたよ…』
『マジっすかー?俺見なくて良かったー』
『ハハハー大野はビビりだなー』
『向井さんこそ、地下でビビりまくってたくせにー』
『何だと!』
そう言い合っていると一人の女性所員が息を切らせながら駆け寄って来た
『す、すいませーん…はぁはぁ…お待たせしましたー…はぁはぁ…』
『そんなに急がなくても大丈夫ですよ。息を整えたら出発しましょう』
『はぁはぁ…は、はい…』
彼女の息が整うと一台に大野と向井、二台目に田沢と女性所員の秋山が乗り込む事になったのだが、秋山はトラックに乗るのにも苦戦している。田沢が手伝い何とか乗せる事に成功した。
田沢達が喫煙所で煙草を吸っていた頃矢上達三人は地下室に来ていた。
『矢上さん。こんな所で何するんです?』
江口は地下室の不気味さにたじろぎながら矢上に質問を投げ掛けた。
『あれよ…あのドア…』
『あのドアがどうかしたのかい?』
『いえ、先程地下の荷物を業者が運ぶ際にあのドアの鍵がなくて、所長に電話を入れて鍵の事を聞いたらかなり動揺してたのよ…あのドアの向こうの荷物には触るなとか…』
『所長が言ってるんだし触らない方が良いんじゃないですか?』
『あんたは黙ってなさい!…それで一度は諦めたんだけど業者が鍵を見付けてくれてね…何処にあったと思う?』
『さて、何処にあったんだい?』
『それが本島博士の研究室だったのよ!あの古狸と所長の事だから何かとんでもない秘密を隠してるんじゃないかと思ってね…どう?…興味沸かない?』
『いえ、僕は…』
『面白そうじゃないか!前々から何か隠してる感じだったからな…もし弱味を握る物であれば、あの博士に研究費を無駄に与える事もなくなるし…』
『流石森山さん、話が分かる人で助かるわ…じゃあ早速開けて見ましょう』
『あ、あのぉー…』
『面白い…開けようじゃないか…』
矢上が鍵を差し回すとドアのロックの外れる音がした。ノブをゆっくり回し扉が開いて行く…
一方その頃、会議を中断した所長が何処かに電話を掛けている。
『も、本島か?』
『…こんな時間に…誰かと思えば河野か…何の用だ…』
『あぁーすまん。時差を考えて居なかった…しかし急用でな』
『どうしたんだ、慌てて』
『研究所の引っ越しが実は今日でな…』
『引っ越しは…お前…来週と言ってたじゃないか!』
『それが、俺も勘違いしてて…それで地下の例の物の事なんだが…』
『地下?…ま、まさかあれも持ち出したんじゃないだろうな?』
『いや、鍵が見当たらないらしく、俺が帰るまで誰も触らぬ様に指示したよ…』
『…そうか、お前が帰るまでって、お前今何処に居る?』
『俺は会議で今は市内のホテルだ、会議が終わり次第、直ぐに研究所に戻るつもりだ、』
『…そうか、指示を誰に出したんだ?』
『や、矢上君に頼んだんだが…』
『…!馬鹿野郎!あの女は俺を嫌ってるんだ!鍵は俺の部屋にあるが、見付かればあの女…俺の粗捜しであのドアを開けて、中身を確認するぞ!』
『いや、しかし…あの時はあぁするしかなかったんだ…』
『良いか!直ぐに研究所に連絡を入れてあの女狐を止めろ!良いか、あのブツが露呈すれば、俺達は日本はおろか世界から吊し上げられるんだぞ』
『わ、分かった…会議を早急に…』
『会議なんてサボれ!後でどうとでもなる!良いかあの中身がもし漏れる様な事になれば日本が滅びるかも知れんのだぞ!…俺は今から知人に連絡を入れ最悪の場合の処置を取る…お前はあの部屋への立ち入りを必ず阻止するんだ!良いな!分かったな?』
『わ、分かった』
河野は電話を切ると会議室に戻り己の荷物を持ち早急に部屋を出る。その素早い行動に会議に参加していた者は河野の姿を目で追うだけで唖然として見詰めていた。
会議場を後にし、エレベーターに乗り込む彼の表情は鬼気迫ると言った険しさを醸し出していた。