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◆2章「不自然なガール〜ルゥア〜」--3

 五時間目の英語の授業を無事に過ごし、六時間目の理科の授業は理科室への移動教室。


 勇哉は委員長を呼びかけて、一緒に行こうと誘った。


 “只野志津香”と幼馴染だという共通点が有ったこともあり、妙な親近感が生まれていた。そして昼休みの時の語り合いで打ち解けたと思ったので気軽に声を掛けたのである。


 それと“小此木琴葉”についての情報を知りたかったので、さり気無く小此木について訊ねる事にした。


「そういえば、委員長さぁ。小此木琴葉と同じ中学だったよな」


「うん、そうだけど」


「やっぱり中学時代からでも、あんな感じだったのか?」


「あんな感じだったね。いつも昼休みにアレをやっていたよ」


 アレとは、もちろん昼休みの儀式のことだろう。

 そんな風変わりなことをやっていれば。


「友達とかは……いないよな」


「小此木さんが他のクラスメートと話している所は、滅多に見なかった。その代わりと言っちゃあれなんだけど、僕とかが話し相手とかになっていたよ」


「え、委員長が?」


「僕だけじゃなく、当時の副委員長とね。でも……僕達が、率先的にというより、先生にお願いされたからでもあるんだけどね」


「まぁ近寄りがたい存在だからな。今でも、そうだけど……」


 勇哉自身も不思議の声―ルーア―の声が聴こえなかったら、多分、琴葉に声を掛けてはいないはずだった。


 委員長は話を続ける。


「ああいった特異な事をやっていたから、男子とかに結構ちょっかいを出されていたからね」


「そういや……委員長は知っているのか? 何で、あんな事をやっているのか」


「いいや。訊ねたけど、教えてくれなかったよ」


 委員長が知らない事を知っている事に、少しばかりだが優越感を感じる勇哉。


「そういえば、村上くんさぁ。委員長じゃなくて、名前なり苗字で呼んで欲しいんだけど。どうも肩書きで呼ばれるのは、余所余所しいというか……」


「ああ、そうか……。え~と……」


「本宮宏だよ」


 名前を覚えていないんだろうなと察したくれたみたいで、委員長自ら名乗ってくれた。

「本宮宏ね。OK、覚えたよ!」


 覚え難い名前じゃなくて、ホッとする。ここで話を切るのも淋しいものなので、


「宮本茂だから、シゲルで呼んでいいか?」


 とりあえずボケてみた。


「本宮宏だって」


「ナイス、ツッコミ!」


 それはさて置いて、委員長を“本宮”と呼ぶことにした。

 くだらない事を話しつつ理科室に到着し、何事も無く授業を受けた。そして掃除時間、帰りのHRホームルームへと時間は流れ過ぎていった。



 帰りのHRホームルームが終わり、他の学生と同じように勇哉が鞄に教科書を仕舞っている時に、一つの懸念事項に気付いた。


 小此木琴葉と放課後にまた会う約束をしたけど、待ち合わせの場所を決めてなかった。

 琴葉のクラス―七組―へと出向くかと、面倒臭さを感じつつ教室を出ようとすると、


「ちょっと、勇哉。これから真っ直ぐ帰るの?」


 幼馴染の志津香に呼び止められた。


「いや。ちょっち用事があるんだけど……いっ!」


 志津香との話しの最中、ふと勇哉の視野に、ある人物―小此木琴葉―の姿を見つけ、思わず身が固まってしまった。


 小此木琴葉が、教室の入り口の所に突っ立っていたのだ。


 なぜに小此木がここにいるのか?

 あちらも自分を捜していたからだろうか?


 そうこう考えている内に、琴葉の視線が勇哉の視線とかち合うと、勇哉の元へ歩み寄ってきた。


 ヤバイ!


 なにがヤバイって、あの電波ちゃんと知り合いなのかと思われてしまう。思われたら、オレも可笑しい奴だと確実に認定されてしまうと、勇哉はヒドク焦っていた。


「そ、そんじゃ、さようなら!」


 志津香と話の途中だったが、一方的に打ち切り、慌てて教室を飛び出した。

 そして、琴葉とすれ違い様に、ボソリと「オレの後に付いて来てくれ」と呟いた。


 琴葉は案の定、戸惑っていたが、小走りで勇哉の後を追いかけてきた。

 志津香は、勇哉の不自然な態度に疑問に感じつつ、遠ざかっていく勇哉の後ろを追いかけていく女子に視線を外さずに、ポツリと呟いた。


「うん? あの子は……」


     ***


 とりあえず琴葉を連れて、ひと気の無い北校舎四階の調理室の前とやって来た。というのも人が少ない所へと探し歩き回っている内に、ここに辿り着いたのだった。


「あ、あの……」


 琴葉は困惑していた。なぜこの場所にやって来たのか理由が解らなかったからだ。

 そんな琴葉が漏らした一言に、勇哉は改めて琴葉の存在に気付き、本題に移すことにした。


「ああ。え~と、それじゃ、何処で話そうか?」


「え、えっと……どこでも、良いです」


「どこでもって……。それじゃ、別にここでも良いか?」


 静かに頷く。


「それじゃ、何を話すんだ?」


 琴葉は何を言おうかと慌てふためきながら、カバンの中から何かを取り出そうとする。


 そんな時、『あの、キョロスケ……』と時間通りに、ルーアの声が勇哉の頭の中に響く。


『オコノギという方に会ってますか?』


(ああ、会っているよ。今、オレの目の前にいるよ。で、オマエさんはオマエさんで、何を話したいんだ?)


『あ、待ってください。訊きたい事を書きまとめていたんです。え~と……』


 ルーアと話していると、琴葉は先ほどのカバンの中から一枚のルーズリーフを取り出し、勇哉に手渡した。


 紙をチラ見すると、ギョッと驚いてしまう程に、びっしりと質問事が書き込まれていた。


「え~と…これを、ルーアに訊けば良いのか?」


 静かに頷く琴葉。そして、それに同調するかのようにルーアが、


『キョロスケさん、良いですか。私が聞きたい事はですね、二百近くあります』


 これは今日中に終わらないと確信し、ため息を吐いた。


「いいよ、ここまで来れば、最後まで付き合ってやるよ」


 半分ヤケになりつつ、琴葉、ルーアと交互に質問して答える事にした。


     ***


 質問を十個ほど終えた時点で、勇哉と琴葉は呆然としていた。

 それは、ルーアが回答した内容が、二人の想像を遥か斜め上を行く内容だったからだ。


 名前、年齢、身長、性別……この質問までは良かった。

 ちなみにルーアは十七歳で、多分身長百六十センチ程度、性別は女性との事。


 勇哉は脳内に聞こえてくる声質や喋り方で、ルーアはなんとなく女性だと思っていたので、やっぱりそうなのかと納得していた。


 ついでに小此木琴葉は十五歳で、身長は百五十センチ。性別は女性。

 これで実は琴葉が男だったら、驚き桃の木二十一世紀だったが、そんな事は無かった。


 質問のやり取りを仲介している勇哉は、よくテレビとかで来日してきたハリウッドスターの隣にいる通訳の人みたいだと思いながら、小此木の質問を述べていた。


 “何処に住んでいるか?”


 この質問から勇哉と琴葉は、ルーアが答える内容に呆然する事になっていく。


『クワントルレッシュ地方のベルデの町よ』


「(ク、クワ?)」


 聞き覚えが無く、見知らぬ地名に声を出しつつ聞き返した。


『クワン、トルレッシュ、地方の、ベルデ、の町よ』


 ルーアが日本語を自然と話しているから、勇哉は、てっきりルーアは日本の何処かに住んでいると思っていた。それ故に見当違い……如何にも外国の地名が出てきた為、多少戸惑っていた。


 だが冷静に考えれば、ルーアという名前からにして、ルーアは日本人ではなく、日本語が喋れる外国人という事も考えられる。


「クワン……トルレッシュ……地方の、ベルデの町?」


 ルーアの言ったままに、勇哉はルーアが住んでいる場所を琴葉に伝えたが、どう琴葉やらも知らない地名だったので、すぐさま訊いてきた。


「そ、そこは、何処なんですか?」


 琴葉が喋っても、ルーアに直接聞こえる訳ではないので、勇哉がその事を伝えた。


『何処って、クワントルレッシュ地方のベルデの町だけど……。ああ、大陸一規模の大きいトゥーエン大学がある所ですよ。トゥーエン大学ぐらいご存知ですよね? 世界で一番有名な大学ですよ』


(トゥーエン大学? 何処だ、そこは? 初めて聞く大学の名前だぞ)


『え、トゥーエン大学を知らないのですか?』


(世界で有名な大学と言えば、東大とかハーバード大だろう。常識的に考えて…)


『トウダイ? ハーバードダイ? んー、その大学は私は知らないですね』


(知らないって……)


 ルーアとの会話を噛み砕きながら琴葉に伝えると、琴葉も意外な表情を浮かべた。そして、勇哉に問いかけた。


「ルーアさんは、外国の方ですよね。国名を、訊ねてみたら、どうですか?」


 その意見に同意して「ああ」と頷く勇哉。


(そうだ、国名は?)


『国名ですか。国名は、アーシュット国ですけど……』


 その国は、勇哉の脳内を検索してもヒットしなかった。それは、琴葉も同様だった。


(アフリカの何処かの国か?)


『アフリカ? え、そこは、何処なんですか?』


 何処かは何処か?


 アフリカと言えば、地球の六大州の一つ、アフリカ大陸のこと。小学一年生の子供だって知っているはずだ。


 だからこそ、琴葉は困惑の声をあげる。


「ル、ルーアさんは、アフリカ大陸を知らない? それじゃ、ユーラシア大陸は? アメリカ大陸は?」


 その質問の回答は、ルーアはそれらの大陸は『知らない』との事だった。


 そして、

『私が住んでいる大陸の名前は、ノストラング大陸よ』


 さも当然のように語った言葉で、沈黙が生まれた。


 もちろん勇哉達は、そんな大陸を学校の授業で習ったり、親やテレビから新聞とかでも、見た聞いた覚えは無い。

 何処かのファンタジー小説にでも記載されてそうな大陸名だ


 勇哉は、ハッとした。


 もしかしたらルーアは、小此木琴葉よりも凄い電波ちゃんなのではと思い始めた時、琴葉がポツリと呟いた。


「も、もしかして……ルーアさんは、この星の人じゃ、ないんじゃ……」


 突拍子の無い発言だったが、今までのルーアの発言からして、勇哉もその考えに一理あると思わず同意しそうになる。


 いや、琴葉よりも電波ちゃんという線も無い訳ではないが。とりあえず、誰もが知っている事を訊いてみる事にした。


(そうだ、星の名前は何て言うんだ?)


『え、星の名前ですか? 星の名前は、私達は“アフィス”と呼んでいます』


 やはり聞き覚えが無い名称が出てきて、勇哉は固まった。


 琴葉が「何て?」と訊ねてくるような表情で勇哉の方を見つめる。正直にありのままに話すと、琴葉も勇哉と同じような顔をしていた。いや。するしかなかったのだろう。


 さて、これから何と突っ込むべきかのコメントを考えつつも何も浮かばない。そこでとりあえず「ハッハッハッ」と、わざとらしく笑ってみたが、勇哉の笑い声が虚しく響くだけだった。


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