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◆2章「不自然なガール〜ルゥア〜」--2

 そして、昼休み。

 最近、時の流れが短く感じるようになってしまっている事に、自分は大人になってしまっているんだなと、勇哉はここぞとばかりに感慨してしまった。


 とりあえず、中庭に小此木琴葉がいるかを窓から様子を伺うと、そこには小此木の姿はなかった。


「おかしいな、いつもならこの時間には来るのに……」

 と、思っていると、昨日も勇哉に話かけてきた名も無き生徒が話しかけてきた。


「電波ちゃん、いないな。どうしてだと思う?」


「オレに訊かれても知るかよ」


「だよな。あ~あ、電波ちゃんの、こう両手をガーっと挙げる姿を見るのを日課にしていたのにな」


「そんなのを日課にするなよ」


『キョロスケ』


 また不意に声を掛けられたが、今度は驚きの声を上げなかった。


(なんだ?)


『あの。先ほどから、私に呼びかけられているので……』


(オレは呼びかけてないぞ)


『キョロスケじゃなくて。多分、オコノギという方からだと思います』


(なんで?)


『なんでと言われても。今までも私の方に声が聞こえてきたからです。それでですね。オコノギさんが、“私の声が聞こえますか。聞こえるのなら、ミナミグチに来て下さい”って、言ってますよ』


(ミナミグチ……南口の事か?)


 勇哉が唯一思い当たった場所……南口は、高校の第一グランドの端にある裏口。校舎から一番遠くに離れているから、行く機会が滅多にない場所である。


 面倒臭いと感じつつも勇哉は仕方ないと諦めて、ルーアに言われた通りに、南口へ向かうべく教室を出ることにした。


 出入り口付近で幼馴染の志津香が声を掛けてきた。


「あ、どっかに行くの?」


「ちょっと、ヤボ用でな」


「だったらコーヒー牛乳を買ってきてくれない。買い忘れちゃって」


 そう言いながら、志津香は財布から百円玉を取り出し、勇哉に差し出す。この百円をく

 れるのなら遠慮無く受け取っているところだが、パシリにさせられ、あまつさえ見返りが無いようなので、当然の如く無視をする事に決めた。それに、


「いや、そっち方面に行かないし」


「え~」としかめっ面をする志津香。その時、委員長が声をかけてきた。


「それじゃ、僕がついでに買ってこようか。これから購買に行こうと思ってから」


 志津香は委員長の方に振り返り、先ほどのしかめっ面は何処へやら、笑顔に変わっていた。


「流石はヒロ君。どこかのバカとは違うわ」


「なんでパシリを拒否しただけで、バカ呼ばりされないといけないんだよ……」


 志津香の悪態にすかさず突っ込みを入れるが、志津香は手馴れたようにハイハイと軽くあしらう。


 そんなコントを横目で見て、ハハっと軽く笑っている委員長に、志津香は百円玉をポイッと投げ渡すと、勇哉は委員長と共に教室を出た。


 肩を並べて歩いているので無言なのは気まずいと思い、勇哉から話しかけた。


「そういや、妙に親しいみたいだけど。もう、アイツと仲良しになったのか?」


「アイツ? ああ、シヅちゃんとね」


 シヅ……。幼馴染のフルネームは、只野志津香。誰に紹介するべもなく、勇哉は確認の

 ために志津香の名前を思い返す。それをよそに委員長は話を続ける。


「シヅちゃんとは、小学生からの知り合いなんだよ」


「小学生? あれ? オレの小学生の記憶に委員長の姿は見当たらないんだが?」


「ああ。もしかして村上くんは、シヅちゃんの転校先の小学校?」


「転校……ああ!」


 勇哉は何かを思い出したようで、思わずポンっと手を打った。


「そういや、オレが小学四年の時に転校して来たんだっけ、アイツ」


 小学四年の二学期が始まった時に、只野志津香は転校してきた。正確に言えば、夏休みの時に引っ越してきたのだ。


 志津香の家が、勇哉と同じ公営団地ビルだったので、それが縁でよく遊んでいた。というか、勇哉から遊びに誘っていた。


 誘った理由は、夏休みの最中に引っ越してきたものだから、その時の志津香には友達がいなかったからでもある。団地の近くにある小さな公園のベンチに独りぼっちで座って志津香を見かけた勇哉が、声を掛けたのが始まりだった。


 それから勇哉と志津香は、世間一般的に幼馴染と呼んでも言い関係になった。「シヅちゃんが転校する前は、僕達と一緒に遊んでいたんだよ」


 僕達?


 委員長の他にも、志津香と一緒に遊んでいた誰かがいるのかと思ったが、まぁ普通に考えれば他にも友達がいたのだろう。


「でもまぁ。転校しても、ちょくちょく会ってたりしてたけどね」


「へ~」と、相づちを打つ勇哉。


「そういえば、シヅちゃんからちょこちょこ聞いていたよ。転校先でも遊んでくれる人が一応いるって」


 自分が知らない相手が、自分の事を知っている事に、少し心がこそばゆくなる。


「でも、こうやって、一度離れ離れになっても高校で一緒になるなんて奇跡だな~」


 とある漫画で覚え知った台詞を引用してみた。

 それよりも大きな奇跡……というか、呪いが今自分に降りかかっている訳だけど、と内心付け足した。


「奇跡でも無いよ。そんなに広くない市だから、高校が一緒になる確率は高い訳だし。それに、事前に知っていたからね。シヅちゃんがここを受けるのを……」


 委員長が話している最中に、その呪い元凶が話かけてくる。


『着きましたか、キョロスケさん』


(まだ、着いていないよ)


 ルーアの声に気を取られ、委員長が話していた最後の部分が、よく聞き取れなかった。

 聞き直すのもメンドイし時間も無かったので、相づちを打っておいた。

 そして靴箱に着くと、そこで委員長と別れ、真っ黒な通学靴ローファーを履いた勇哉は、南口へ駆け足で向かった。


     ***


 南口周辺は雑草が生茂り、数本の木が植樹されていた。


 そんな木々の間に身を隠すように立っている、小此木琴葉の姿を見つけた。

 あちらも勇哉の姿に気付くと、昨日と同じようにビクッと身をすくわせる。


 お互い姿を確認した後、しばし無言だったが、顔をほんのり赤らめていた小此木の方からしどろみどろに話かけてきた。


「あ、あの。ここに、来てという事は、やっぱり、私の声が聞こえて、いるんですね?」


「ああ、そうだけど……。あ、いや、正確には……」


「本当、なんですね……」

 昨日と同じ様に、小此木の瞳に涙が浮かぶ。


「だ、だから、なんで泣く!」


「だ、だって……。ずっと、ずっと…小学生の時から、呼びかけて、いたから。それが……叶ったから……」


 小学生の時から、あの変な行いをしていたのか……と、勇哉は密かに頭の隅で思った。

「昨日も、本当にドキドキしたんです。けど、もしかしたら、嘘……かも知れないと思って、嫌だったの。それに本当だったら、本当で……恥ずかしかったから……」


 だから昨日、逃げたのか……。小此木の小さな声で語る事々に昨日の逃亡の理由が解ったことに、少し気分が和らいだ。


 逃げる?


 勇哉は琴葉が、また逃げられてしまう前に、本当の事を話した方が良いと判断する。いや今回はあちらが呼び出してきたんだし、逃げられる事は無いと思うが、それでも万が一に備えて、先駆けて事の真相を話す事にした。


「あのさぁ。たしかに声が聞こえたけど、それは多分、君の声じゃないと思う。オレが聞こえたのは、別の誰かのもので……」


 明らかに琴葉の頭の上に「?マーク」が浮かんでそうな顔をする。それもそのはず。なぜなら、勇哉の方も「?マーク」を頭の上に浮かべながら、話しているのだから。


「ああ、なんて言えば……」

 発言したままに、不思議な声のルーアに呼びかけるように、言葉を思い浮かべた。

(なんて言えば良いんだ?)


 その呼びかけに、ルーアが答える。


『え、あ。もしかして、オコノギさんに会えているんですか?』


(ああ、そうだよ。それで、どうやってアンタの事を説明しようかと悩んでいる最中だ)


『だから、ありのままの事を話せば良いんですよ。嘘じゃないし』


(嘘のような話だから、困っているんだが……)


 勇哉は小さく息を吐き、


「まぁいいか……」

 と、覚悟を決めた。


「とりあえず、オレの話しを黙って聞いてくれ。その後に、逃げるなり、笑うなりしてくれ」


 琴葉は、うんともすんとも言わない。そんなのは関係なく、勇哉は言葉を続けた。


「昨日、突然。オレの頭の中で声が聞こえてきたんだ。その声は、え~と、ルーアという名前で……」


 勇哉は、第三者―小此木琴葉―に理解して伝わるように、昨日の出来事、現状の状態を精一杯説明した。


 一気に一通り話し終ったが、琴葉は困惑していた。


 そりゃ、そうだろうと勇哉は納得していた。話した本人も困惑しているのだから。

 琴葉は勇哉の話をまとめ、


「え、えっと……~。私の声を聞いたのは、アナタではなくて……。その、ルーアさんという人。それで、そのルーアさんの声がアナタに聞こえて……という事、なんですか?」


「概ね、その通り……」


 勇哉の話の内容がある程度伝わってくれているようだが、琴葉の頭の上には未だ「?マーク」が沢山浮かんでそうな顔をしている。


「で、でも。それでも私の声は、そのルーアさんという方に聞こえているんですね」


「そうみたいだな」と肯定すると、琴葉の顔は幾分かは晴れた。


 勇哉は、見えもしない声の主がいるであろう天に指先を差し、言葉を続ける。


「そうじゃないと、その声から小此木琴葉とか、ソラのなんとかというのも知らないし。第一、ここにも来てないしな……」


「そ、その声は。他に何か言ってましたか? そ、その……」


 琴葉は勇哉との距離を詰めて、琴葉の顔と勇哉の顔が、どちらの吐いた息が掛かるまでに近づく。


 勇哉は、思わず後ずさりをしつつ、


「ちょ、ちょと待ってくれ。訊いてみる」


 そう言い、ルーアに問いかけてみた。


(で?)


『はい? なんですか』


(えっと……小此木琴葉とか、ソラのなんとか以外に、聞こえた言葉とかあるか?)


『そうですね……。あ、好きな食べ物とかで良いですかね?』


「好きな食べ物?」


 勇哉の口から言葉が漏れると、小此木はまたビクッと体を震わせ、右へ左へ上へ下へと瞳を泳がせる。


『確か……好きな食べ物は、カツ、サンド……ですかね。そんな事を言ってたような』


「カツサンド? なぁ、カツサンドが好き……」


 事の真偽を確認しようと、琴葉の方を見ると、顔を真っ赤にして、その顔の前で両手をバタバタと振っていた。

 そのバタバタは肯定なのか否定なのかと問われれば、前者ということだろう。

「なんだな」


 琴葉の意外な好物に、そして子供っぽい動作に、心が和んでしまった。


 さて、これから何を話そうかと思った時、チャイムが鳴り響く。


「もう休み時間が終わりか……。ひとまず、ここらで切り上げて。後日に、もう一回話すか?」


 琴葉はいまだ顔を真っ赤にしたまま、静かに頷く。

 思わず、次会う約束を取り付けてしまったが、「別にいいか……」と締めくくった。


(……という訳だから、ひとまずこれで切り上げるぞ)


 一応、ルーアにも伝える。


『え、もうですか。私、話してないですよ。もっと話したいです!』


 頭の中でギャーギャーと騒ぎ訴えるが、勇哉は両手の人差し指で耳栓をする。しかし、


『聞いていますか?』


 効果は無かった。


(次回にしてくれ)


『次回って、何時ですか?』


(あー、そうだな)


「なぁ、次はいつ話す?」


 突然、話しを振られたからか、またビクッと体を震わせる琴葉。いい加減、慣れてくれと言わんばかりに勇哉は顔を顰める。


「えっと、その……すぐに、話したいです……。まだ私、話したいですから……」


 ルーアと同じ事を言う琴葉。ここまで同調しているのに、ルーアの声が琴葉に聴こえないのはナゼだろうと、勇哉は首を傾げた。


「それじゃ、今日の放課後にもう一回話すか? まだ完全に理解していないだろうし」


「あ、はい!」


 今日一番のハッキリとして大きな声だった。


「じゃぁ、放課後に」

 続けて、ルーアに報告。

(という訳で、放課後にまた会って話すことにしたよ)


『放課後ですか……。放課後というのは何時間後ですか?』


(えーと……三時間後かな)


 勇哉はルーアと会話しながら、次の授業が厳しいことで恐れられている川田先生の英語なので、駆け足で教室へ向かった。そんな走り去って行く勇哉に向かって、琴葉は“呟いた”が、その声は勇哉に届かなかった。


『あ、キョロスケ』


 数メートル走った所で、ルーアが声を掛けてきた。


(ん、なんだ?)


『オコノギに“これからも、よろしく”と言ってくださいね』


(そんなのは自分で言えば……って、そうね。直接、聞こえなかったんだな……)


 勇哉は立ち止まり、振り返ると、まだその場に立ち尽くしている琴葉に聞こえるように、大声で叫んだ。


「小此木! “これからも、よろしく!”な」


 遠く離れていた為に、勇哉は琴葉の表情がよく分からなかったが、多分驚いているような表情をしていたのには気付いた。


「って、ルーアが言ってくれと頼まれたから。確かに言ったぞ! オマエも早く教室に行けよ!」


 用件を言い終えた勇哉は、前を向き再び走り出した。すると、また不思議な声がオレに呼びかけてくる。


『あ、キョロスケ』


(ん、今度は何だ?)


『今。声が聞こえて……“よろしく”って』


 勇哉は走りながら後ろを振り返って見ると、そこには琴葉が中庭でいつもしている、両手を天高く挙げている姿があった。


 今になって、その姿の意味を知った為に、オカシナ印象は無かった。そして勇哉は、開始のチャイムが鳴る前に教室に着くために、スピードを緩めずに足を動かし続けた。

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