表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

◆エピローグ「願い~勇哉~」--1

――真っ白な空間だった。

――その空間の中央に、白い服を着て白く長い髪をなびかせた女性が立っていた。

――女性は優しく微笑み、唇が静かに動く。誰かを呼んでいるようだった。


 そんな夢を見た。


     ***


 目覚まし音が部屋に鳴り響き、勇哉はその音で目を覚ました。まだ休日だというのに平日と同じ時間に起きてしまった。

 ここ数日はルーアの声で起こされていたから、目覚まし音で起きたのが妙に懐かしく思える。

(おはよう、ルーア)

 とりあえずルーアに話しかけたが、何も返答は無かった。

 昨日、ルーアの声が聞こえなくなった後も三十分ぐらいは、もしかしたら自分の声がまだ届いているのではないかとルーアに話し続けていた。

 声が聞こえなくなった時、琴葉を始め、穂乃香や本宮も涙を流していた。あの志津香ですら瞳に涙が浮かんでいたが、当の勇哉は普通だった。

 寂しいという思いはあったが、それは涙を流れるほどの悲しみではなかった。

 心のどこかに、ひょっこりとルーアが話かけてくれるのではないかと思ったからだ。

 皆が一通り落ち着いた所で、時間も午後十時を過ぎていたこともあり、解散の運びになった。

 志津香たちは、

「私たちは小此木さんを送って帰るわ。ついでにホノの家に泊まるし」

「それじゃ、僕も途中まで付いていくよ。帰る方向は一緒なんだし」

 男が一人いるだけでも安全だと、本宮は志津香たちのボディガードを勤めることに。

 勇哉は、ただ一人。いつもは自転車で通う道を歩いて帰った。その間、それとなくルーアに話かけてみた。

 家に帰り着いたのは、午後十時四十分頃。

 さすがに高校生といえど、「遅い! この不良!」親に叱られてしまった。晩御飯を残してくれていたけど、どうも食欲は沸かなかった。

 そして、そのまま風呂に入らず、ベッドに倒れこみ眠りついたのだった。

 勇哉は自分の部屋から居間へ向かうと、既に起きてテレビのニュースを見ていた母親が、勇哉を見て驚く。

「珍しい。まだゴールデンウィークよ」

「知ってる……」

「何か食べる? 昨日、何も食べないで寝たから、お腹が空いているでしょう?」

 浅く頷いた。

 母が朝飯を用意してくれている間、さっき見ていた夢を思い出す。

 白い女性……。

 もしかしたら夢の中の女性が、ルーアなのではと少し笑いながら、

(なぁ、ルーア。もしかして髪が長かったりするか?)

 ルーアに訊いてみるが、何も返答は無かった。


     ***


 朝ご飯は、豚のしょうが焼きだった。

 どうやら昨日の晩御飯の残りもので、普通だったら朝からこんなコッテリしたものは喰えないが、昨日何も食べていなかったので自分でも驚くほどに箸が進んだ。

 食事を終え、このまま二度寝するのも良かったが、心に何か引っかかる事があった。

 ルーアの事だ。

 本当に聞こえなくなったのだろうか。

 本当は聞こえているけど、面白がって聞こえないフリをしているのではないかと勘ぐる。

(なぁ、ルーア。本当は聞こえているんだろう?)

 もの音ひとつしない沈黙が漂う。ルーアからの返答は無かった。

 勇哉は衝動的に自転車のカギを手に取り、家を飛び出した。

 そして、ペダルをこいだ。必死にこいだ。

 向かう場所は、羽ヶ崎高校。

 一度も信号に引っかからず、いや引っかかりかけたかも知れないが、まだ青信号が点滅していたのでセーフだろう。そのお陰で普段より十分も早く辿り着いた。

「正門は閉まっているんだろう!」

 勇哉は校門を無視して、学校の南口へと走り続けた。

 南口に着いた途端に自転車を乗り捨て、今度は自分の足で走りだした。

 今度の目的は、あの中庭。

 そして息を切らして中庭に辿り着く。勇哉は中庭の中央に立ち、両手を高々と空にかざした。琴葉がいつもやっているポーズだ。

 そして、

(聞こえるか、ルーア!)

 呼びかける。

(聞こえているんだろう! ルーア!)

 呼びかける。

「聞こえているなら、オレの名前を呼んでくれ!」

 無意識に大声で発していた。

「名前……」

 ルーアは勇哉のことを最後までキョロスケと呼んでいた。ルーアが別れを言う時自分だけ本名で呼ばれなかった。

「そうだよな……。最初、ルーアの声を悪魔の声とか言って……」

 今となってあの時、自分の名前を正直に言わなかったことを悔やんだ。

 その後悔の念が堪えきれなくなり、涙が溢れ、流れだした。

 その時だった――


『「勇哉」』


 どこからともなく自分の名前が呼ばれた。

 もしやと思い、期待を込めて声がした方を振り返ると、そこには志津香、琴葉、穂乃香、本宮が立ち並んでいた。

「な、なんで、ここにいるんだよ」

 涙を拭い、平静を装うとするが、

「なに今頃になって、感傷に浸っているのよ」

 志津香は遠慮なく突いてくる。

「それに、それはこっちの台詞。まぁ、そのなんて言うの。やっぱり気になってね……。昨日の事が、もしかして嘘のような気がして……」

 ここにいる全員が勇哉と同じ思いだったのだろう。

「どうやら僕たちも波長が合うようだね」

 その気持ちを本宮が代弁してくれる。

「琴葉ちゃんとも、さっき偶然そこで会ったの」

 穂乃香の隣にいた琴葉が、一歩勇哉に近づく。

「む、村上くん……。ルーアさんの声は……」

 その問いに勇哉は静かに首を横に振る。

「やっぱり聞こえなかった……」

「そう……」

 全員の表情が曇る。

「本当に、なんだろうね。ルーアさんとは会ったことが無いし、声を聞いただけなのに。声が聞こえなくなっただけで……」

 昨日の感情が沸き上がったのか、少しばかり涙声になる志津香。

「多分、かけがえのない出会いだったからじゃないのかな。一期一会って、ああいう事を言うのかも知れないね」

 本宮もまた勇哉みたいに平静を装っているが、泣きそうな顔をしていた。そんな本宮たちを見て、共感めいた事に勇哉は少し胸をなでおろすことができた。

「そうか……声が聞こえなくなって、悲しんでいるのはオレだけじゃないんだな……」

 自然とまた涙がこみ上げてくる。

「でも……いつの日か……ま、また聞こえるかも知れない。それまで、皆とで話しをして、それをいつか、ルーアさんに話したい」

 いつも下を向いていた琴葉が、顔を上げ気持ちよく晴れ渡った青空を見つめた。

「そうだな。聞こえなくなったかも知れないけど、きっと……二度と聞こえない訳じゃないよ。よし、楽しい思い出を作って、楽しい話でルーアを楽しませてやろうか」

(その日まで楽しみに待ってろよ。ルーア)

 勇哉が空へと手をかざすと、琴葉たちも手をかざし、それぞれルーアに言葉を送った。

 これが習慣になるかも知れないが、これからは琴葉一人だけではない。

 そこには勇哉がいる。穂乃香も本宮も。そして、志津香も嫌な顔をしつつも参加しているだろう。

 ルーアの声が聞こえてくる、その日まで。



―――ハロー…ハロー……聞こえますか?

―――私達は、ココに居ます。

―――ルーアは、どこに居ますか?

―――ハロー…ハロー……。

―――もし…私達の声が聞こえたのなら。

―――“ソラノコトノハ”と呼びかけてください。



   終

 どうも和本明子です。

 最初から最後まで、または途中からでもご拝読していただきありがとうございました。

 さて、この作品は、時間が有り触れるほどあった3~4年ほど前に書いた作品でして、初めて人様に読んで貰うように書いた長編作品でもあります。

 今読み返せば至らない点がいくつもありますね……。

 本当は手直して公開した方が良かったのでしょうけど、こんな時代が有ったんだと、記念に残すことにしました。実はこの作品、続編を構想していたりします。 が、今の今でも形にすることできておりません。

 だけど、いつの日にか志津香と穂乃香にスポットを当てた続編を書けたら良いなと思っております。

 それでは和本明子でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ