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◆6章「VOICE~声~」--3

 バードマン……最近出来たもので、人間を高く吊り上げて、ブランコのように前へ後へ滑空するアトラクション。ただ、このアトラクションは一人だけではなく、最大三人まで同時利用できるので、カップルとかに人気が……特に無いアトラクションである。

「シヅちゃん。どうしたの、さっきから険しい顔で」

「いやー、流石にこれは戸惑うわね」

 志津香は顔を見上げて、先にアトラクションを体験している人達の様子を見ていたが。

「勇哉くんと小此木さんのこと」

「なっ!」

 思わず噴出し、穂乃香を二度見る。

「なによ、いきなり!」

「勇哉くんと小此木さんが一緒にいたり話したりしていると、シヅちゃんの機嫌がなんか悪くなるんだもん」

「別にそんなこと無いわよ」

「そんなこと無かったら、私の心がモヤモヤとしないわよ」

 意地悪そうな顔を浮かべる穂乃香。

「私たちも勇哉くんとルーアさんみたいに波長が合うんだから」

「ふんっ」と、そっぽを向く志津香。

「た、ただ……腹が立つのよ。あの子を見ていると。もし、ルーアさんと話せなくなったらどうするのよ。勇哉がいなかったらどうするのよ」

 志津香もまた消失感を知っている。大切の人と離れ離れになることの消失感を。

 だからこそ……。

「イライラするのよ。まるで昔の私みたいで」。

「そうか……」

 穂乃香は妙に納得したような顔をしていた。

「小此木さんって、そこが姉さんに似ていたからだ。だから……なんとなく、ほっとけなかったのかな」

「そんなにあの子が気に掛かるなら、一緒に行ってくれば良かったのに」

 ムッとむくれている志津香の左手をそっと握る穂乃香。

「な、なによ」

「今日は、シヅちゃんと一緒に遊びたいの。あの時以来だもんね。シヅちゃんと遊園地で遊ぶのは」

「なっ……ふんっ!」

 志津香は照れを隠すかのように、プイッっとそっぽを向いた。そして、志津香の後頭部から「ふふ」とはにかんだ笑いが聞こえてきた。それが気に食わなかったが、耳が真っ赤にした志津香はここは敢えて堪えた。なぜなら、その笑い声が十分後には叫び声に変わるのだから。


     ***


 ゴーカートは、どの遊園地でも一、二位を争うほどの人気アトラクションである。

 勇哉と本宮は、どちらが速くゴールできるか、熱いレッドヒートを競っていた。そして、琴葉はゴーカートの入り口近くのベンチに座っていた。

 そして、そっと空に手をかざし、

(ルーアさん、聞こえますか? 木星遊園地には、私が小さい頃に来たことがあります。だけど結構変わっていて、戸惑いました。そして、生まれて初めてジェットコースターに乗りました。只野志津香さんに無理やり乗せられたんだすけど。もう動き出したときから怖くて、それが段々と頂点に移動するときなんて、もう心が破裂しそうでした。もう絶対に乗りたく無いです。そういえば、ルーアさんの星にもジェットコースターみたいな乗り物はありますか?)

 読書感想文のように伝えたいことを伝え、勇哉達が来るのをただ静かに待っていた。

 琴葉は人が集まる場所は苦手だった。だから、穂乃香に誘われた時には最初は断ろうとしたが、

――(皆さんと遊びに行くんですか? だったら、行って楽しんでください。そして、私に話してください。どんな事で何をしたのか教えてください。それが私の楽しみですから)――

 遊園地に行けないルーアの為に琴葉は出来る限り、今日の出来事や体験をルーアに伝えることにした。

 だから、こうした人込みの中にいても、なんとか耐えていた。

 そして、熱いデッドヒートを繰り広げていた勇哉と本宮が戻ってきた。

「タイムはオレのが速かったな」

「そうだとしても、僕のはコースに一度もぶつかっていないんだよ。村上くんは、どうせスピードを出し過ぎて、ぶつかりまくったんだろう」

「いやいや、そんなドライビングテクニックを自慢されてもな。ゴーカートの本質は、如何に速くゴールしたかだろう?」

 勝ち負けを決めるために、子供じみた議論を飛ばしながら琴葉が座るベンチの元へ近づいてきた。

「あ。待った、小此木さん?」

 ベンチに座っている琴葉は、そうではないと首を横に振る。

「次はどうする。また、ゴーカートに乗るか?」

 久しぶりにゴーカートに乗った勇哉は幼い時の興奮が蘇り、いまだ冷めやらぬご様子。

「折角フリーパスで来たんだから、他の所にも廻った方が良いんじゃない。小此木さん、何か乗りたいものとかある?」

「わ、私は、別に……」

「だったら、またジェットコースターに乗るか?」

 勇哉が横から冗談のつもりで言ったが、琴葉は必死になって首を横に振る。よっぽどイヤな体験だったのだろう。さき程のジェットコースターは……。

「ね、村上くん。ルーアさんと話しがしたいんだけど……」

 そう言うや否や勇哉の背中に触れる。

 遊園地のどのアトラクションよりも、ルーアと話すことが琴葉にとって楽しいことみたいだ。

「あ、僕も良いかなと」

 本宮は右肩に触れる。

「ああ、解かった。ちょっと待ってろ」

(おーい、ルーア)

 ……。

「あれ?」

 返答が無い。もう一度、呼びかけてみるが、うんともすんとも無かった。

「返事が返ってこないな……」

 その言葉で、琴葉の表情が曇っていく。

「もしかしたらルーアさん、寝ているのかな?」

 そんな琴葉に察するように本宮が私的な推論を添える。

 しかし、その考えは違うのではと勇哉の頭によぎる。なぜなら勇哉が起きている時は、いつもルーアも起きていたからだ。

 そういやさっきの昼の時に、ルーアから一言も呼びかけられなかったなと、今になって気付く。

 明らかに意気消沈していく琴葉。しかし、こちらが呼びかけても返答が無いのは、どうしようもない。

「暫く経ってから、話しかけてみるか。ルーアも不意の睡魔に襲われることもあるだろうし」

 結局は、ルーアは寝ているという考えに行き着く。

「それまで色んなアトラクションに乗ろうよ。ねぇ小此木さん」

 本宮の誘いを、

「本宮くんと、村上くんとで、遊んできて……わ、私はここで待っているから……」

 受け流し。そのままベンチに座り込む。

 チラッと勇哉の方を見る本宮。勇哉は「ほっとけば」と、アメリカ人並みのボディランゲージで表す。

「それじゃ小此木さん。僕達で行ってくるけど、乗り終わったらまたここに戻ってくるからね」

 仕方なく琴葉をその場に残して、次のアトラクションへ向うことにした。


     ***


「さっきまでルーアさんの声は聞こえてたの?」

 セグウェイ乗り場へと向う中、本宮は今日のルーアに関してを訊ねていた。

「ああ。昼前に一度、ルーアの声は聞こえてきたよ。けど……最近、聞こえてくるルーアの声が小さくなっているんだよ。それが関係があるのかな……」

「えっ! それは本当かい? 村上くん越しでルーアさんの声を聞いていたから、声の大きさは囁くような感じだったけど……」

「最初にルーアの声が聞こえた時は、こうやって本宮と話してるぐらいの大きさんだったんだよ。それが今となっては、聞こえてくるルーアの声が小此木の声と同じぐらいまで小さくなっているんだよ」

「そんなに?」

「そういえば……気になることがあったな」

 ふと足を止めて、勇哉はある事を思い出す。

「気になる?」

「昼前にルーアに話しかけられた時に、ルーアが小此木から話しかけてこないって言っていたな」

「話しかけていない? さっきも話しかけていたのに?」

「だから気になるんだろう……」

 今までの話しをまとめると、ある懸念が浮かぶ。

「な、本宮。ルーアの声が聞こえなくなるってありえるのかな?」

 どうやら本宮も同じことを考えていたのか、落ち着いた口調で答えを返す。

「始まりがあるのなら、いつかは終わりがくるからね……。偶然、小此木さんはルーアさんと交信が出来たに過ぎないし。村上くんとのチェネリングだって、確実性を持ってやっている訳ではないよね」

 勇哉は「ああ」と頷き、「それじゃ、なんで声が聞こえなくなっていると思う?」と新たな疑問を投げかける。

「チャネリングを出来る理由が分からないままやっているんだから、出来なくなった理由を特定するのは難しいね」

「もし聞こえなくなったら……あいつは、それを考えているのかな?」

「多分してない……というより、声が聞こえなくなる事体を、まったく想定していないと思う」

「それじゃ、ルーアとのやり取りが出来なくなったら、どうするんだ?」

「それが一番恐いことだよ。小此木さんにとって……。確か、小学生の頃から交信をやっていたんだろう。やっと叶った願いが失われてしまうという絶望は計り知れないね……」

 やり取りが出来なくなった状況を想像してみるが、想像できないほどに琴葉が困惑するのだろうと、勇哉は深く息を吐く。

「ルーアさんの声が小さくなっている事とか、小此木さんの声が届いていないという事は、小此木さんには伝えているの?」

「いや、まだ……。やっぱり、言った方がいいのかな」

「何も言わないで聞こえなくなるより、言った方がショックは少なくなるんじゃないかな……多分。でも、それは……」

『キョロスケ……聞こえ、ますか?』

 いつも唐突に。今までのやり取りは露知らず、ルーアの声が聞こえてきた。掠れるかのような小さい声で。


     ***


 勇哉は、それまでの事情を話した。

『そう、ですか……キョロスケも、私の声が小さく聞こえて、いたんですね』

(それじゃ、ルーアも俺や小此木の声が小さく聞こえたのか?)

『はい、この二日前から段々と……。最初は気のせいかなと思っていたんですけど……』

 勇哉の身体に触れている本宮は、黙ったままルーアの言葉を集中して聞いている。そうまでしないとルーアの声が聞き取り難くなっていたからだ。

(今、小此木の声は聞こえているのか? さっきからルーアに呼びかけているんだけど)

『今は……聞こえています。遊園地での出来事を話してくれて、います……けど、所々聞こえなかったりするので、その事に、ついて聞きたかったので……こうやって、キョロスケに呼びかけたのですが……』

(そうか……)

『最初は私の所為かな、と思ったけど……違うみたいですね。聞こえなく、なっている理由は……』

「なぁ、本宮。この場所だから、聞き取りにくいって事は……」

「理由の一つとして考えられるけど……。でも、声が聞こえなくなる現象は二日前に起きているから、原因は別だと思うよ」

「そうか……」

 声が聞こえ難くなっていることに、勇哉は妙な寂しさが心に積っているような感じがしていた。“打萎れる”そんな言葉がピッタリだった。

「村上くん。ルーアさんに伝えてくれないか」

「何をだ?」

 本宮は真剣な表情で口を開く。

「ルーアさん自ら、小此木さんに声が聞こえなくなるということを話して欲しい、って」

 それは、本宮が言いかけた言葉の続きだった。

「もしかしたら、今日ルーアさんの声が聞こえなくなるかも知れない。だから声が聞こえる内に、小此木さんに声が届けられる内に、別れをした方が良いと思うんだ」

 勇哉は、本宮が言った事をそのままルーアに伝えた。

『解かりまし、た。この奇跡が、永遠に続くとは思っていま、せんでしたし、別れの、覚悟は出来ています……』


     ***


 早速と琴葉の元へと急ぎ足で向いながら、勇哉はルーアに話しかけていた。

(なぁ、ルーア。本当に良いのか?)

『何を、です?』

(小此木に別れの挨拶だよ。あいつ…、オマエといつまでも話していたいと思ってるぞ)

『私も出来る、ことなら、いつまでもコトハ、やキョロスケと話しが出来たら良い、なと思いますよ。でも、永遠に続くもの、なんて無いんですよ。もしかしたら明日、キョロスケの命が失うかも、知れないのですから』

(恐いことを言うなよ。てか、えらくマイナス……悲壮的な考えだな)

『ごめんなさい。そういう生活を、していたので、そういう考えをして……しまうのです。でも……現に、声が聞こえなく、なりつつあるんですよ。叶わぬ希望を、語るよりも、目の前の絶望にどう対応する、べきかと思います』

 確かに、そう思う。だけど少しは気を使ってくれても思うのだが。

 それは、ルーアが宇宙人だから、そういう考えが出来ないのかも知れないからだと、勇哉は無理やりに納得しようとした。

『キョロスケ……私も辛いんです』

 その声は震えているようだった。

 もしかしたら、ルーアは最初から覚悟していたのかも知れない。いつの日か声が聞こえなくなる日を。

『それは、キョロスケもそう、でしょう?』

(つ、辛いとかよりも……まぁ寂しい、かな。声が聞こえなくなると……)

『……ありがとう、キョロスケ』


     ***


 ベンチに座り、手の平を空にかざす琴葉が見えた。

 勇哉以外の人達が見たら滑稽なことをしていると思われているだろうが、琴葉は他人の目などお構いなしだった。

 しかし、こんな所で羞恥を感じているのなら、高校の昼休みに中庭で堂々とやってはいない。

 勇哉は息を切らしつつ琴葉の腕を掴み、自分の肩にでも触れてルーアと話せと、半ば強制的に促した。それは琴葉が望んでいたことだったが。

 聞こえてくるルーアの声がいつもと比べて小さかったのが気になったが、すぐにそれが些細なことだと知った。

 ルーアは先ほど勇哉たちと話した事を琴葉に語り、その間、勇哉や本宮は静かに二人の話しが終わるのを待った。

「そ、そんな……」

 琴葉にとって、あまりにも衝撃的なことだったために、思わず言葉が漏れる。

(い、一時的なことじゃないんですか。声が小さくなっているのは?)

『そうかも知れない。だけど、そうじゃないかも知れない。でも、良いことを、考えるよりも悪いことを考えて、おいた方が、そうなってしまった時の心の負担は、少ないわ……』

(そんなイヤです! ルーアさんの声が、私の声がルーアさんに届かなくなるなんて!)

 琴葉の瞳から涙がこぼれだしていた。

『私もイヤよ……。コトハやキョロスケの声が聞こえなくな、るのは……。でも、私は……覚悟は出来ているの。いつの日か聞こえなくなる日が訪れて、しまうのを』

(どうしてですか! 折角、こうやって話せるのに、私の声が聞こえるのに。なんでそんなに簡単に……)

『それは……私がいる場所はコトハのいる場所から遠く離れているからね。こうして声が貴女に伝えられるだけ、でも、普通なら起こりえ、ないことで、こうやって話せることが奇異なことなのよ。それが、普通に戻るだけよ……』

(それでも……それでも……)

「私の声をずっと聞いて欲しいんです。ルーアさんに!」

 思わず心の声を口に出して叫んだ。周りの人たちは何事かとこちらの様子を伺うが、そんな人目を気にすることは無く、琴葉の涙は止まらない。

 二日前といえば……そう。志津香たちがルーアの声を聞いた頃からだ。

 もしかしたら、それが自分の声やルーアの声が聞こえなくなっている原因だと、安易に邪推してしまう。

(きっと……ルーアさんの声が聞こえなくなっているのは、ここにいるから……。本宮くんや只野さんがルーアさんの声を聞いているから……それで弱まっているんだ……)

 そして、琴葉は勇哉たちに背を向けて走り出した。

「小此木さん!」

 本宮が呼び止めようとしたが、琴葉は止まらない。

 突然の事に戸惑う勇哉と本宮。すべきことは、

「お、追いかけよう。村上くん」

 慌てて追いかけようにも、群集の波に飲み込まれて思う通りに前に進めず、二人は琴葉を見失ってしまった。

「なんで、いきなり走り出したんだ?」

 本宮のに疑問に、

「そんなのオレが解かるかよ!」

 そう答えるしかなかった。

「ルーアさんに聞いてみたらどうだい? ルーアさんに何か言われたからかも知れない……といっても、ある程度予想はできるけど……」

「ああ、そうだな」

(おい、ルーア。聞こえるか? ルーア?)

 またルーアとの交信が出来なくなっていた。

「また、声が聞こえないの?」

 肯定を表す首の動きをする勇哉。

「どうする?」

「村上くんは、小此木さんを引き続き探して。僕も小此木さんを探しながら、穂乃香ちゃん達を探すよ」

「ああ……そうだな」

 見失ったとはいえ、まだ園内にいるはずだと思った。

「四時になったら、見つけても見つけてなくても、あのフードスポットで集まろう」

 園内に設置されている時計塔の針は午後三時を指していた。そして勇哉たちは別れた。

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