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◆6章「VOICE~声~」--2

「ルーアさんの星にも、遊園地みたいな娯楽施設とかはあるんですか?」

 穂乃香の質問を琴葉がルーアに伝え、

『ありますよ。人気だったのはクルストゥラという所でしたね。拳ぐらい大きさ球を転がして、並べられている柱を倒す遊びをする場所なんです』

 穂乃香や本宮は勇哉の肩に触れ、ルーアの声を聞いている。

「私達の言うところのボウリング場みたいな所ね」

『え、地球でもクルストゥラに似たものがあるんですか?』

「そうですね。でも、こっちでは投げるボールの大きさはサッカーボールぐらいありますけどね」

『え、さっかぼーる?』

 などとルーアと話しながらバスは進む。話しも一段落着いた所で、木星遊園地のシンボルである木製ジェットコースター『ジュピター』が見え始めた。そろそろ到着だ。

 その前に勇哉は、朝から気になっていた事を訊ねた。

(な、ルーア。なんとなくだけどさぁ、聞こえてくる声が小さいんだけど)

『そうですか? 私はいつも通りに話していますけど……』

(そうか。どこか元気が無いような感じがしたんだけど)

『あら。キョロスケ、心配してくれているんですか?』

(そ、そりゃ具合が悪いと思ったら、訊くもんだろう)

『ふふ』

(な、なんだよ)

『いえ。最初の頃は私のことを煩わしいと思われていたのになと……』

 ルーアの声が聞こえるようになって、七日間以上は経っている。もはや聞こえるという事が普通になってしまっていた。慣れというのは恐ろしい。

 朝起きる時も目覚まし時計の音で起こされるよりも、ルーアの声で起こされる。もはや、生活の一部にまで浸透していた。

(まぁ、危険なものとか怪しいものでは無いと解かったからな)

『そうですか。私もそれなりにキョロスケの事やコトハの事を理解できてきたような気がします』

 その言葉に、なんだか感慨深いものがあった。つい七日間前は、まったく知らない相手、ましてや宇宙人。

 それが、こうして普通に話している。話すことの大切さを表しているようだった。

(だけど、あれだな。オレたちが遊んでいるのに、ただ聞いているだけってのは、なんかツマラナイだろう?)

『私のことは気にしないでください。私はキョロスケ達の楽しい声を聞けるだけで十分ですよ』

(それは、それで如何なものか……)

 まるで遠足を休んでいけなかった子が、みんなの土産話しを期待している様だった。

 しかし遠い場所(星)に居て、誘うにもどうしようもないという事に、勇哉もルーアも解かっていた。


     ***


「うぇ~~~」

 勇哉はぐったりとしていた。

 着いた早々、真っ先に向ったのは本遊園地の目玉木製ジェットコースター『ジュピター』。

「これに乗らないと始まらないでしょう」と、志津香に率先して連れて行かれた。

 ジュピターは最高時速九十km、基本構造はキャメルバックで構成されており、360度一回転するループなどの今ではコースター界の常識の構造は採用されていない。一見、平凡なコースターと思われるが、米松でくみ上げられたレーンだからコースを曲がる度に“ミシミシ”“ギシギシ”といった“きしみ”が走り、それがより恐怖を扇がせる。

「何よ、情けないわね」

 勇哉とは正反対に、高揚した表情で志津香が声をかけた。

「志津香さん……知らなかったんでしたっけ。ワタクシが、絶叫系が苦手だということ……」

「もちろん、ご存知でしたわよ。でも高校生になって、まだジェットコースターとか苦手なのね」

「慣れないんだよ。ああいうのは……」

「たくっ……。まぁ、あっちもアンタと同じような感じみたいね。流石は、波長は合う同士……」

 志津香の横目には勇哉ほどでは無いが、青ざめた琴葉が項垂れていた。

「だ、大丈夫、小此木さん?」

 穂乃香が背中を軽く擦りながら気遣う。

「う……うん」

 見た目からして琴葉が絶叫系アトラクションは苦手なんだろうなと思っていたが……イメージ通りに納得してしまう。

 勇哉と琴葉を除いた三人は平気のようだ。

「本宮は、ジェットコースターとかは大丈夫なのか?」

「好きという訳じゃ無いけど、宇宙飛行士になるんなら、こういったものは慣れていた方が良いからね」

「あれ? 宇宙飛行士になりたいのか?」

「技術者でも宇宙飛行士でも、要は宇宙関係の仕事に就きたいんだよ。だから可能性を高めていた方が良いだろう」

「大きな野望なことで」

「目標は大きく多く持った方が生きがいがあるよ」

 ある意味、本宮に尊敬の念を贈りたい。勇哉には現時点で、そこまでやりたいというものが無かったからだ。

『じぇっとこーすたーというのは、怖いものなんですか? さっき、コトハから悲鳴のような声が聞こえてきたのですが……』

(怖いちゃ、怖いな。凄いスピードで曲がったり上がったり下がったり……あれを面白いと感じる奴の気が知れん)

 ルーアに今の気持ちを伝えつつ、志津香をチラ見。

「何よ?」

「別に~」

「それじゃ、もう一回乗ろうか! ユウは一番前に乗りなさいよ」

「ちょっと待て! 少しは気を使ってくださいな! 志津香さん!」

「そうよ、シヅちゃん。小此木さんも、ああだし。もっと優しい乗り物にしましょうよ」

 穂乃香の意見に「む~」と、むくれ面を浮かべつつ、

「それじゃドラゴンに乗りましょうか」

 ドラゴンとは、大きな振り子の先に船の乗り物が付けられて、前後に揺れるアトラクションの名前である。他の遊園地ではバイキングといった名称が付けられている場合がある。ここ木星遊園地では船がドラゴンの形にしているので、ドラゴンという名が付けられている。

「志津香さん。それも結構高ランクの絶叫系ですよ!」

 勇哉と穂乃香で必死に志津香の暴虐を止めた。


     ***


 ドラゴンに乗って声をあげている志津香と本宮を眺めつつ、アトラクションの近くに備えられているベンチに座り待つ、勇哉と琴葉、そして穂乃香。

「よくあんなものを楽しく乗れるよな」

 勇哉の呟きが穂乃香に聞こえたらしく、

「シヅちゃん、昔から好きだったから」

「穂乃香は、ああいうのは好きじゃないのか?」

「私は、どっちかと言うと苦手なのよ」

 そういうところは、双子でも違うんだなと関心を寄せる。

「でも、さっきは嫌な顔をせずに乗ったよな。ジュピターに」

「あれね……。シヅちゃん……私たちが幼い時……確か小学校二年生の時かな。ここに遊び来た事があるんだけど。シヅちゃんが、ジュピターに乗ろうとしたんだけど、身長が足りなくて乗れなかったの」

「ああ、あれな」

 大抵の絶叫系アトラクションには身長規制があり、ドラゴンにも身長確認の看板―百二十センチの男の子の絵が描かれている―が立て掛けられていた。

「でも、無理強いをして強引に乗ろうとしていたのよね」

「うわ~、イメージできるわ」

 初めて志津香と会った時の姿で、従業員に静止されている状況が浮かぶ。

「もちろん、規則だから乗れなかったけどね。で、いつか身長が伸びたら、あれに一緒に乗ろうと約束したのだけど。ほら、親の再婚でね。私たち離れ離れになったから……今、こうしてシヅちゃんの我侭に付き合ってるの」

 勇哉はその話しに思わず笑みがこぼれてしまう。

「仲が良いんだな」

「今はね。昔は……色んな事があったけどね」

 物憂げな穂乃香。双子が別々に離れて暮らすという、その色んな事に対しては、あえて口を挟まない方が良いだろうと判断した時、

『どうですか、キョロスケ?』

 いつも唐突にルーアが呼びかけてくる。

(あー楽しんでいるよ……特に志津香が……)

『そうですか。所で、コトハは?』

(小此木?)

 琴葉は、気分がまだ優れないようで、俯き黙って座っていた。

「小此木、大丈夫か?」

「う、うん……」

(ジェットコースターで少し酔ったみたいだけど、だいぶ良くなってきたみたいだな)

『そうなんですか。だから、コトハはさっきから私に話しかけてくれていないんですね』

(かもな)

 そうこうしている内に、

「おーい、ホノ!」

 志津香と本宮がやって来た。

「さてと。次は何処に行こうか。みんなでバードマンなんてどう?」

 相も変らずに絶叫系アトラクションをご所望する志津香に穂乃香が、ある提案をする。

「シヅちゃん。もうお昼だし、そろそろご飯にしない?」

「え、もうそんな時間? そんなに乗っていないのにな~」

 志津香は自分の携帯電話を取り出し、時間を確認する。

「人が多いから、並んでいる時間の方がかかっていたからね」

 本宮が園内マップを取り出しながら、お得意の推測を行う。

 流石はゴールデンウィーク。通常の日も、これだけの人入りがあれば世の不景気なんて、どこ吹く風の如しなのだが。

 志津香は自分のお腹の減り具合と、これだけの人の入りならば、食べるまでにも時間がかかると判断し、

「そうね……。小腹も空いたし、近い所でご飯にしましょう。小此木さんも、それで良い」

「う、うん」

「それじゃ、近くのフードスポットに行こうか」

 今度は本宮を先導に、人込みを縫って進み行く。

「そういえば小此木。ルーアに話しかけているか?」

「え……は、はい。さっきもルーアさんに声を、届けましたよ……」

「届けた?」

 さっきルーアに言っていたことは違うことに矛盾を感じた。

「ユウ! 何しているの? 早く行くわよ」

 先行く志津香に呼ばれ、その後を追いかける。

 とりあえず昼飯を食っている時にルーアに伝えておくことにした。


     ***


 フードスポットとは、ホットドッグやハンバーガーなどの軽食フードの売店が集まっている場所の総称。

 そこで勇哉たちは、自分が食べたいものを買い、買ったものをテーブルに広げて食していた。

「しかし、こういった所のファーストフードはなんであんなに高いんだ。マックとかモスとか参入してくれれば良いのに」

 一個五百円もするホットドッグを頬張りながら、パンくずと値段に対する不満を溢し、空腹を満たす。

 勇哉を慰めるかのように本宮が答える。

「まぁ、そうだけど。場所が場所だからね」

 そして志津香がジュースを飲み干したところで、

「で、この後どうしようか? バードマン? ゴールドラッシュ? スカイウォーク?」

 志津香がこれからのスケジュール―乗るアトラクション―についての意見を募る。

「シヅちゃん……それ全部絶叫系。もっとゆっくり皆が楽しめるものにしようよ。セグウェイなんてどう?」

「え~。てか、なにセグウェイって?」

 本宮が持っていた園内マップを机に広げて、行きたい場所を指し合う。

「ほら、小此木さんも行きたい所は無いの?」

 話しに加わらず縮こまっている琴葉に、穂乃香は積極的に話しを振ってみるが。

「わ、私は……どこでも…」

 琴葉は、一言で済ます。

「でも、人が多いし並ぶ時間が勿体無いから、各自別れて自分の好きなモノに乗るのも良いよね」

 意見が纏まらないとみるや本宮が一案を発し、その案に勇哉が賛同する。

「だったらオレは、久しぶりにゴーカートに乗りたいな。前にここに来た時は小学生の時だったからな」

 これ以上、志津香と一緒にいたら絶叫ものばかりになってしまうと恐れたからだ。

「良いね、村上くん。僕もゴーカートに乗りたいし、競争でもするかい?」

「お、サーキットの狼と呼ばれていたオレに挑むのかい」

「それじゃ、各自自由行動にしようか」

 志津香の言葉に勇哉たちは同意する。

 そして志津香と穂乃香は、バードマンのアトラクションへ。

 勇哉と本宮、そして琴葉はゴーカートへ行くことになった。

「小此木さん。私たちと一緒に行きましょうよ」

 穂乃香は誘うものの、

「わ、私は……村上くんと一緒にいく。じゃないと、ルーアさんと話しが出来ないから……」

 志津香はそれを聞くと、そっぽを向いて歩き出した。志津香の表情が少し強張っていたのに、穂乃香は気づいた。

「穂乃香、早く行きましょう」

 先行く志津香は穂乃香を呼ぶ。

「う、うん」

「それじゃ五時ぐらいに、ここに集まろうか」

 本宮の号令で、各グループは目的の場所へ向った。

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