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◆4章「Polyrhythm~ソラノコトノハ~」--4

     ~~~

「体育館の裏?」

「小此木さん、中学生の時に馬鹿にされたら、よくそこに行っていたから……。多分、そこに居るんじゃないかなと」

「そうか……。じゃ、まぁ行ってみるか。あんがと、そんじゃ」

「あ、勇哉くん……」

 立ち去ろうとする勇哉を呼び止めたが、

「ううん……やっぱり、なんでも無い。また明日ね。さよなら」

 呼び止めようとした手を振り、穂乃香と別れた。

     ~~~


「そう、なの……」と呟いた後、俯き、何も言葉を発しない琴葉。

 さて、この後、何を話せば良いのかと考える前に、ルーアに発見報告をした。

『見つけたのですか!』

(ああ。それで、これからどうするんだ)

『コトハと話したいの。私の言葉をコトハに伝えて欲しいのです』

 さて、いつも通りに通訳者モードに切り替えて、ルーアの言葉を伝えようとする。

「小此木。今から言うオレの言葉は、ルーアの言葉だからな。ちゃんと聞けよ」

「………」

「そのなんだ。人の輪に入って、楽しい話しをした方が……」

「………」

 黙って聞いているのか……いや、これは――

(おい、ルーア。駄目みたいだぞ。なんか、話しを聞いていないっぽい)

『聞いていないって、ちゃんと話しているのですか?』

(話してはいるが……上手く話せていないからと思う)

『なんでですか?』

(なんでって…その、恥ずかしいというか…なんというか……)

『恥ずかしいって……ただ私の言葉を伝えてくれれば良いんですよ?』

(そんな事を言うなら、直接自分で……って、伝えられないんだったな)

 勇哉とルーアが話し合っている中、それは無口な間だった。だが、目の前に勇哉がいることが気になる。

「む、村上くん……。ごめんなさい。しばらくは一人にして、欲しいの……」

 勇哉を見ずに琴葉は小さな声で呟いた。

「小此木……」

 言われた通りに、その場から立ち去ろうとした時、勇哉は志津香との出来事を思い出し、ある事を試してみようと思った。

「そうだ。なぁ、小此木。ちょっと試しにオレの肩に触れてみてくれないか?」

「えっ?」

 なぜをそんな事をしないといけないのかと訊ねてくる。

 勇哉は、もしかして自分の憶測が勘違いだったりお門違いだったりした場合、小此木を失望させないために、あえて事の真意は伏せた。

「いいから。触れて何も無かったら、オレは何も言わず帰るよ」

 何で?

 と疑問は晴れないまま、琴葉は優しく静かに勇哉の肩に手を当てた。

 勇哉は、いつもの通りに(おい、ルーア)と念じ呼びかけた。

 そして、

 『はい、なんですか?』とルーアが答えると、琴葉が「え!」と驚きながら手を肩から離した。

 勇哉の憶測は、どうやら当っていたらしい。

「む、村上くん……今のは……」

「声が、聞こえたのか?」

「うん」と言いつつ、何が起きたのか理解が出来ないままに頷く。

「あれが、ルーアの声だよ」

「え! あ、それって……」

 思いもがけない出来事に驚き、どうしていいのかと困惑する琴葉。

 本当に知り合ってから何回驚いてくれているんだコイツは……と、勇哉は思いながらも、ルーアに事の報告をした。

(という訳で何か知らんが、ルーアの声が直接、小此木に伝わるみたいだから、何でも語ってくれ)

『えっ! という訳って? キョロスケ、それってどういう事なんですか?』

 と、琴葉と同じく状況を把握しきれていないルーア。

(なんか知らんが、俺の身体に触れていると声が伝わるみたいだ)

『ほ、本当ですか?』

(ああ)

「ほら、小此木」

「あ、はい」

 勇哉は自分の肩を指し、再び琴葉は促されるままに肩に触れる。

『本当なの。コトハ?』

 初めて勇哉ではなく琴葉に対して語りかけるルーアの言葉に、

(聞こえます。ルーアさんの声が聞こえます)

 琴葉はいつも同じに手を天へと差し伸べ、期待に応えるかのように答え返す。

『不思議ですね……。キョロスケ経由で、コトハとは何度も話しあっているのに……こうして直接、声が伝わっていると思うと、なんだか初めて話しているような感じがするね』

(わ、私もです……。え、あ、……キョロスケって?)

『あなたの隣にいる人物のあだ名ですよ』

 チラリと隣にいる人物を見て、キョロスケが村上勇哉だという事を把握する。

『そんな事より。コトハに訊きたい事があるの。どうして、他の人達と話しをしないの?』

(そ、それは……)

 勇哉はルーアの声は聞こえているが、琴葉の声は聞こえてはいなかった。ルーアが語る内容を察し、あえて何も語らずにいた。

 今は通訳者では無く、電話機のような役目に徹することに決めていた。

『いつもコトハが話してくれることは、自分のことや地球のことばかり。たまにキョロスケが話しに加わりますけどね……』

 ルーアは少しの間を置き、

『人と話すのがイヤなの?』

 核心を突く発言に、琴葉の表情が強張る。

(イ、イヤというか……私……こんなんだから、からかわれる事が多くて……それがイヤで。それに……きっと誰も、私なんかと…話したくない、です。だから……)

『でも、私と話しているけど?』

(ルーアさんは特別です!)

 勢い余って、立ち上がる琴葉。

『特別か……。なんで特別なの?』

(そ、それは……ルーアさんは、私の声が聞けた人だし……別の星の人だし)

『そう……。確かに私は、コトハの声が聞こえたけど、私達の会話はキョロスケがいなければ出来ていないのですよ』

 琴葉は、自分の手を置いている人物の方を、そっと見た。

 勇哉は何も黙ったままだった。

『コトハ。それにあなたが、からかわれていて変な人扱いされているとしたら、私は一体何なの? あなた達、地球人と比べたら、私の方がよっぽど変よ』

(ル、ルーアさんは変な人じゃありません。だって……私の声を……)

『声を聞けるんなら、隣にいる人でもアナタの声が聞けるでしょう』

(村上くんは……)

 言葉が思い浮かばない。

 勇哉がいるから、ルーアと話せている。勇哉もまた自分にとって特別なのかと解釈しようとするが。

『私だから特別なんかじゃないの』

 真っ先にルーアが否定した。

『なぜ、私とあなたが話せるのか。それは、コトハが私に、あなた自身の事を話してくれたらから。そして、キョロスケがいるからよ。 コトハの声が、最初はなんだったのか解らなかった時は、不審なものでしかなかった。だけど、その声に耳を傾けて聞いていると、コトハという人が話していることを知った』

 ルーアは言葉を続ける。

 琴葉はただ黙っていた。

『ねぇ、コトハ。私の世界の教えにね。“話は輪を広げる”というのがあるの。話によって人の輪が広がるという意味なの。現に、アナタから私。私からキョロスケ。そして、キョロスケからアナタへと、話しによって輪が広がっているでしょう。だけど、この輪は誰かが欠けてしまったら、もし私がいなかったら。もしキョロスケがいなかったら、それだけで輪は途切れていたのよ』

 ルーアの言葉は、とても落ち着いた口調だった。まるで、母親が優しく子供に言い聞かす御伽噺のように。

『無理とは言わない。でも出来るだけ、あなたと話してくれる人がいるのなら、話しをして欲しいです。コトハのことやキョロスケことの“以外”の話してくれたら、私は嬉しいわ。もちろん、それが楽しい話だったら、なお良しですね』

(でも、何を話したら良いの。何を話しても、馬鹿にされたら……)

『あなたが私に話しをしてくれた事を話せば良いのよ。コトハの事をきっとよく知らないから、相手もどう接すれば、何を話せば良いのか解らないのよ。今までコトハの周りの人達は、きっとコトハの外見だけで判断してしまっていたんじゃないのかな』

 その言葉に、勇哉には思い当たることがあった。

 まぁ、たしかに……なぁ。と口に出さず納得した。

『大丈夫。今のあなたは独りじゃない。私がいるし、キョロスケもいるでしょう』

「なっ!」

 突然のご指名に思わず身体を揺らし、そっと後ろを振り返ると琴葉はパチッ開いた目と合う。

 勇哉は視線を外して少し照れつつ、

「まぁ、乗りかかった船だ。話し相手ぐらいにはなってやるよ」

 言いたいことを言って、そっぽを向いた。

『それにコトハ。お昼の時に話し合っていた人達は、悪い人じゃないんでしょう? 誘われて一緒にご飯を食べるぐらいだし……』

「只野さんと本宮くんは……でも……」

 知らずの内に、琴葉の心の声を漏らしていた。言葉を濁す琴葉の気持ちを汲み取って、

勇哉が濁された相手に対してフォローを入れる。

「志津香は悪い奴じゃないよ。まぁ、ちょっと性格はおろいけどな……。まぁ志津香は只野穂乃香の双子の姉なんだから、幾分かは大丈夫だろう」

 しかし、志津香がなんかギスギスしていたのは引っかかるが……。

「でも、何を話しをすれば良いの? 何を……話しても、あの時のように……」

「もう、いっその事。ルーアの事を話すか」

「でも……」

 昼休みの志津香とのやり取りを思い出す。

「あの時は誤魔化しながら話したから、冗談だと思われたんだよ。本当の真実を話して、信じてくれるなら、それで良いし。ていうか、証拠を突き出せば疑いもないだろう」

 勇哉は人差し指を、証拠がある場所――天へと指した。

「まぁ、あまり大きく広めるのもアレだけど……信じてくれなかったら、その時はオレも一緒に馬鹿にされるだけだ」

 勇哉は決めた。琴葉との噂が手に負えないぐらいに広がっている現状で、もうどんな噂が囁かれても気にしないようにと――

「まぁオレは、もう覚悟を決めたよ。今」

 琴葉は何も言わず、ただ俯いたまま。

「ごめん…なさい。こんな時……何を、言ったら……良いのか……」

「別に言いたくなかったら言わなくていいさ」

「村上、くん……」

『コトハ。何も言いたくない時は言わなくていいわ。話したくなった時に話したらいいわ』

 偶然にも勇哉が語った内容と同じだった。

すると琴葉に笑みがこぼれる。

「村上くん、ルーアさん……ありがとう……」

 思いを浮かべると共に言葉を告げた。現時点で、琴葉の話の輪の中にいる二人に。


     ***


 勇哉達の話しが一通り終えた時は、既に太陽は山の向こう側に隠れてしまい、暮れていた。

 いつもなら、まだ部活動をしている生徒達がにぎわっているが、来週に実力テストが控えているために、どの部活も当然休みとなっている。

 静寂な校舎を勇哉と琴葉は並んで歩く。

 さっきまで、この夕暮れと同じような暗い顔をしていた琴葉は、少しだが和らいだ表情になっていた。

 この状況を誰かに見られたら、勘違いが余計に拍車がかかるだろう。しかし、勇哉はその事よりも考えることがあった。

 誰に真実を語るか。

 候補となるのは、やはり。

「とりあえず、あの三人には話した方が良いかな」

「三人?」

「本宮宏と只野穂乃香、そして志津香だな。本宮と只野……もういいや。本宮と穂乃香とは中学校時代の知り合いだから、少しは理解があるだろう。たぶん、ルーアとかの話しをしても受け入れてくれるだろうし、あの二人は大丈夫だろう。うん」

 その件に関しては琴葉も依存は無かったが、

「た、只野さんのお姉さんは……」

 あの昼休みの一件で、琴葉にとって志津香は苦手なタイプになったようだ。

「双子だから、仲間外れにしても出来ないだろし……どっちにしろ、本宮とか穂乃香経由で知ることになるだろうしな」

 琴葉の足取りが重くなったのか、歩くスピードが落ちた。

「なぁ小此木、少しは志津香にも感謝してやってくれると知り合いとしては嬉しいな。あいつが居なかったら、あの世紀の大発見は無かったかも知れないんだからな」

「大発見?」

「オレの身体に触れれば、ルーアの声が聞こえるってやつだよ。志津香が、タイミング良く触れていなかったら、もしかしたら永久にルーアの声を小此木は聞けなかったかも知れないんだぜ」

 琴葉しピタっと足を止める。

「どうした?」

「それもルーアさんが言っていた“話は輪を広げる”っていう、ものなんでしょうか……」

「そう……なるかも知れないな。ルーアから志津香。そしてオレが気付いて、小此木に伝えて、そしてルーアの声が小此木に届いた」

「……ルーアさんが言っていたことが、なんだか解ったような、気がします」

「そうか。だったら、ルーアに伝えておくんだな」

「はい」

 琴葉はいつものように両手を挙げ、言葉を念じる。さっきよりも、良い顔で。

『どういたしまして』

 ルーアの言葉が返ってくる。勇哉は、それを琴葉に伝えると、恥ずかしがるようにはにかんだ。

「さて、それじゃ。ルーアの事を志津香達に話すにしても、明日あさっては土曜、日曜で学校が休みだしな。しかも実力テストか……ああ、勉強しないとな……」

 非情な現実がせまり来ることに肩を落とす勇哉。本来なら、そっちの方に気を使わなければならないのだが。

(という訳でルーア。ルーアの事を志津香達に話すのは、三日後になるわ)

『そうですか……分かりました』

 勇哉はルーアに事情を話しつつ、学校近くのバス停所までやってきた。

「あ、私……バスだから」

「ああ、そうか……。んっ、何かを忘れて……あっ!」

 駐輪所に自分の自転車を置いてある事を思い出す勇哉。

「わりぃ、小此木。オレ、自転車だったわ」

 ここで別れを告げて来た道を戻ろうとすると、

「あ、む、村上くん! ル、ルーアさんのこと……」

 今まで聞いた中では、一番大きな声で呼び止められた。

「とりあえずは、来週のテストが終わってからだな。それまでテストに備えて勉強に集中。それじゃ小此木もテスト勉強、しっかりやれよ」

「う、うん」

 そそくさに勇哉が駐輪所へと向かう中、琴葉は少しより早く来たバスに乗り込んだ。バスの後ろ窓を覗き込み、勇哉の姿を追いかけた。


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