少し早めの忘年会を、妹と父親と共に
僕は二十五歳のごくごく平凡なサラリーマン。
目の前には三つ下の、ちょっと気が強そうな女性が座っている。
「とりあえず生! って、誰が決めたんやろうな〜? 思わん?」
大阪梅田にある、チェーンの居酒屋で、僕の向かいで僕より三つ年下の女性が少し偉そうに言っている。
「いや、それは知らんけど……で、何にするん? 飲みもん」
「ん〜、じゃあとりあえず生で!」
結局生にするんかい! というわけで、店員さんを呼び生ビールを二つと、枝豆と土手焼きを頼む。
僕は昔から土手焼きが好きなのだ。スジ肉とコンニャクをトロトロになるまで煮込んで、味噌とか醤油とかで味付けをしているやつ。
僕がまだ実家にいた時、確か父親がたまに自宅で居酒屋メニューみたいなのを張り切って作ってくれたんだけど、その時にたまに土手焼きが出てきたような気がする。
ちなみに一緒に飲んでいる三つ下の女性は、彼女ではない。僕の妹である。
「リョウどしたん、最近色気づいて。今日もブーツなんか履いて、そんなガラちゃうかったやんね?」
まぁまぁ失礼な妹である。それに呼び捨て。リョウは僕の名前だ。
「色気づいて、てなんなん。いや、足元も寒くなってくる季節やし、妹とたまに会う時くらい、ちょっとオシャレな格好したほうがええかなぁと思って買ってみたんやけど」
そうなのだ。ちょうど妹と飲みに行く前に、梅田の高架下にある小さなショッピングモールで、たまたま僕好みのダークグレーの、そこまで長過ぎないブーツが売っていたので、衝動買いをしただけだった。
「あはは、ウケる。身内に会うのにオシャレも何もないやろ〜。まぁでも、似合ってると思うで。リョウってシュッとした格好が合うんやと思うわ。ダボッとしたやつはあかんな」
そういう妹は、今は二十二歳なんだけど、中学生くらいの時はごくごく平凡な感じの大人しい少女だったような気がするんだけど、なんかデザイナーの専門学校に通いだした頃から服装やら化粧やらも垢抜けていったような気はする。なんだか今日もワンピースなのか上下分かれてるのか解らない服とダウンベストを羽織り、頭には絵描きさんみたいな帽子を被っている。
「うんうん、僕もダボッとしたやつはあまり好きじゃないんよな。あ、ほんでお父さんに誘われた忘年会、マツリは行くん?」
マツリは妹の名前だ。
「あ、たぶん行けると思うで。あれやろ、お父さんの行きつけの元フレンチのシェフやった人がしてるお店やろ? イケメンさん来るかな〜?」
いや、絶対オジサンオバサンしか来ないだろ。
「二週間後やったかな。んじゃまとめて返事しとくで、これそうやったら言ってな、って言うてたから。ちなみにイケメンさんはたぶん来ないと思うで」
「行ってみんとわからんやんか〜! 生おかわりくださーい!」
僕は二十五歳のごく平凡なサラリーマン。大阪市内で一人暮らしをしている。
妹のマツリはなんか転々と職を変えてるって言ってたような気がするけど、今は化粧品の工場の仕事をしてるらしい。
そんなにしょっちゅうではないんだけど、たまに都合が合えば飲みに行ったりしている。
そんなに仲良しというわけではないんだけどね。
二人ともそこまでお酒が強いというわけではないから、ちびちびと飲みながら、軽くアテを食べつつ、どうでもいい世間話をして過ごしている。
「次は焼酎のお湯割りにしよかな〜、ビールばっかりやと身体冷えてくるしな〜。あと、エイヒレ頼む?」
「リョウ、もう完全にオッサンになってるで。でも、エイヒレは頼む!」
頼むんかい!
◇ ◇ ◇
というわけで、二週間後の父親との忘年会。
妹とも話していたが、元々父親の友達がやっているお店らしい。
阪急電車の吹田駅で待ち合わせて、一緒に行くことになっている。駅から五分くらいの場所にあるみたいだ。
駅の改札を出たところで待っていると、父親と妹がホームの階段を降りてやってくるのが見えた。
「リョウくんおつかれさん、ほないこか」
「お父さんに聞いたら結構人数は来るけどイケメンさんはこーへんって! もう帰ろかな……」
妹は行く前からテンションダウンしているみたいだ。
「まぁまぁ、せっかくやから美味しいもん食べて、お酒飲んで楽しもうや」
ホントに歩いて五分くらいのところに、そのお店はあった。住宅地の中に、ひっそりとあるようなお店だ。辿り着くともうすでに何人かのお客さんは来ているようだった。
「あ、今日は貸し切りやから気ぃ使わんでいいからね。飲み放題にしてもらってるから、たくさん飲みや」
父親が僕と妹に言う。
「うん、わかった〜」
カウンターが八席くらいと、四人がけのテーブル席が三つのこぢんまりとしたアットホームな雰囲気のお店だった。
「いらっしゃい、よう来たね。お兄ちゃんと妹ちゃんも来てくれたんやね、ありがとうね」
父親の友達のマスターは奥さんと二人で店をやっているようだ。
「ぼちぼちでみんな来るみたいやから、食べもんも適当に出していくし、どんどん飲んでいってやぁ〜」
気さくな感じのマスターだった。
「はい、ありがとうございます。ゆっくりさせてもらいます」
カウンターは父親とマスターの友達なのか、常連さんぽい人で埋まっていたので、テーブル席のひとつに父親と僕と妹で座る。
「リョウくんマッちゃん、はじめは生ビールでええかな? 焼酎もあるからな」
やはり、初めは生だった。
マスターが作ってくれた料理は全部美味しかった。どういうのがフレンチなのかはあまりわからなかったんだけど、ひとくちで食べれるオードブルのようなモノから、ソースのかかったオムレツとか、オシャレな感じのパスタなど、ひとつひとつが優しい味がした。
「美味しいやろ、ここの料理。お父さんたまに来るんやけど、だいたい立呑屋さんでいっぱい食べてから来るから、いつもあまり食べれないんよ」
そりゃ立呑屋さんでいっぱい食べたらそうなるよな。
「うんうん、美味しいで料理! イケメンさんがおったらもっと良かったんやけどな〜」
まだ言ってるんかい。
と、その時に入り口がカランと鳴り誰かが入ってきた。
「いらっしゃい、おっ、来てくれたんやね〜」
マスターの奥さんが出迎えて入ってきた人は、とても綺麗な女性だった。
僕よりも何歳か歳上だと思うその女性は、スーツでビシッと決めた、仕事の出来る感じの女性だった。
「リョウ、何ぼーっと見惚れてるん!?」
妹にツッコまれて慌てて我に帰る僕。
「え! いや、全然見惚れてないで……あ、水割りお代わりください〜」
◇ ◇ ◇
それから三十分後くらい。
僕は何故かカウンター席で、先ほど入ってきたスーツ美人の女性と並んで座って飲んでいた。
たまたま話した時に、馬が合ったという感じだった。ちなみにスーツ美人さんはシズと言った。
「えっ、シズさん社長さんなんですか? めちゃくちゃ凄いやないですか」
「ううん、全然凄くないで。ちっちゃい会社の社長やし」
僕より五つ上のシズさんは、社長さんだった。
「いやいや、小さくても大きくても経営するのって大変やと思うし、凄いですよ〜! あ、シズさんお代わりいりますか?」
僕は自分とシズさんのお代わりを頼む。ちなみに父親と妹も一緒の忘年会中である。後ろのテーブル席で父親と妹がひそひそ話してる声が聞こえる。
「おい、リョウくんとシズさん距離近ないか? 大丈夫か二人?」
「大丈夫ちゃうやろ〜、歳上のお姉さんにデレデレしてるんちゃうの〜?」
いや、聞こえてますけど。
「私って社長ってガラじゃないんやけどな〜。色々無理すると疲れるわぁ〜、今日はとことん飲も!!」
と、シズさん。
「うんうん、普段ストレス溜まってたりすると思いますし、たまには発散してください。付き合いますよ〜!」
「リョウくん若いのにしっかりしてて頼りがいあるやんね。ちょっと甘えたくなるわ〜」
シズさんが、僕の肩にもたれかかってくる。
「ちょ、ちょ、だいぶいい雰囲気ちゃうのあの二人! 止めたほうがええかな? 大丈夫かな?」
「お父さん、もうほっとき。普段よりめちゃくちゃ飲んでるからそのうち酔いつぶれると思うで〜」
後ろの外野二人が何やら騒いでいる。
そう、たぶんかなり今日は飲み過ぎている。
でも、それはそれでたまにはいいんじゃないかと自分に言い聞かせる。
◇ ◇ ◇
「あっ、シズさん!!」
「あほ、もうほとんどみんな帰ったで」
え。
気がついたらお店のカウンターに突っ伏していた僕。んで、妹のマツリが横にいた。
「お父さんも帰ったし、しかも終電ないでー。どうすんの」
お店のマスターにお礼と寝てしまっていたお詫びを言い、妹と外に出る。
「どうすんの、って言ってもな〜……うわ、寒っ!!」
まぁ十一月の終わりにもなってくると寒いよな。
「私明日も仕事休みやし、酔いざましにカラオケでも行く〜? 眠かったらそこで寝てもいいし」
妹と二人でオールカラオケって……まぁでもたまにはいいか。
「そやなぁ、タクで帰るんもだいぶ遠いしな。朝の五時くらいなったら始発あるやろ」
阪急の吹田駅周辺にはカラオケ屋さんはないから、JR吹田駅の方まで歩いて行く。
途中寒すぎてコンビニで肉まんを買った。
「リョウ、さっきの歳上の美人さん狙ってたんかいな。お父さんと見てたけど……くっつき過ぎやで!」
「え、たまたま話が合ったから話してただけやで。狙うってなんなん?」
仕方ないな〜、という顔をする妹。
「なんか昔からリョウはそんな感じやんな。気をつけな悪い女の人たくさんおるからね〜」
ん〜、そうなのかな?
そのあと、結局カラオケで朝の五時まで妹と二人で過ごした。
カラオケで歌いながら、妹が職場で知り合った男の人にフラレた話を聞いた。
「まぁ、いい男なんていっぱいおるで。頑張りや〜」
「もう当分頑張りたくないわ。てか、男なんてホンマ勝手なんやから!」
男が勝手。まぁ詳しくは聞くまい。
カラオケを出て、駅に向かい、始発電車までもう少しだけ時間があることにショックを受ける僕と妹。
「朝方って、なんか夜よりめちゃくちゃ寒いんやけど!!」
そして、ようやく始発の電車が来たので各々自分の家に向かう電車に乗ることにした。
「ほなまた。良いお年を〜」
「ちょっと早ない??」
妹とはいつもこんな感じだ。
完
今回の木枯らしの風景企画には、キーワードの指定をされております。
【結婚式場】
【ビール(他のお酒でも可)】
【自動車(種類は何でも)】
【杖】
【鉢植え(鉢だけでも可)】
【ブーツ(靴でも可)】
【鎌】
【虹】
【15時】
【電話(スマホ・ケータイも可)】
【信号機】
【シャツ(種類は何でも可)】
【色鉛筆】
この作品には、ビールとブーツのみ使っております。
木枯らし、枯葉とかのワードを使わず、というのだけを意識して書きましたが、見事にキーワードを入れ忘れましたww




