転生!逆ハー!?大好きな騎士様と真実の愛を貫きたい
※タイトルに「逆ハー」とありますが、一対一の恋愛です。 ※逆ハーレム展開はありません。
「グレイス、あなたの誕生日まで一週間を切ったわね。成人パーティーのパートナーは決まったの?」
目の前には、まだまだ美しく艶やかな母が座り、候補者の釣り書きをテーブルに並べていった。
それを見ても、やはり私が選ぶ人は決まっていた。
「……ルーカスです」
「ふふ。だと思った。彼なら安心だわ」
私は迷わずに答えたが、次が問題だった。
「で、第二、第三夫は?同時に届け出ないといけないもの」
緊張でゴクリと喉が上下する。
この世界は、圧倒的に男女比がおかしい。
これでも、この世界のルールに一生懸命慣れようとしたのだ。
でも、罪悪感と拒否感に勝てなかった。だって私は――。
「お母様!黙っていてすみません!実は第二夫は知的な男性で、ルーカスの家の執事です!第三夫は……!」
母が少しだけ目を丸くして扇子を閉じた。
「……第三は?私も知らない人かしら」
「はい!売れない画家です!とても顔が良く、絵よりも価値があると思い、前からパトロンとして支援していました!」
母がそのまま扇子をテーブルに置き、並べられた候補者リストを勢いよく払いのけた。
「よくやったわ、グレイス!選定も完璧じゃない!第二夫はフォローと緩衝材役、第三夫は野心もないってことね?」
――いや、完璧じゃないんだわ、お母様。
まさに口からデマカセだもの……。
しかし私は、今さら後に引けなくなってしまった。
◇◇◇
かなり幼い頃には、転生したことに気がついていた。
歩き出したばかりの幼児になっていた時の驚きは、今でも忘れられない。
ただの異世界なのか、それとも何かの物語の世界なのか。
よくある「物語」に転生して、自分が悪役キャラだと知って、右往左往!ということもなさそうだ。
なにせ“公爵家”ではなく、ただのしがない“伯爵家”に生まれたのだから。
特に魔法もなく、共学の学園もない。
だからこそ私は安心した。
あ、そういう普通の転生ね、と。
父と母は別居しており、お母様はお父様以外に二人の男性と付き合っている。
優しくて、お母様を大切にしているお父様が不憫だ。
そう何度も思ったけれど、大人の事情があるのだろう。
――そう思っていたのだ、この時までは。
三人の兄とともに子供だけのお茶会に参加した。
貴族の子女は十歳から、こうやって子供だけのお茶会にデビューするらしい。
周囲は質のいい服を着た、お行儀の良さそうな子息と子女が集まっていた。
これだけ聞けば、普通のお茶会だと思うでしょう?
しかし、絵面がおかしい。
一つのテーブルに七人が座っている。
しかし、女の子は一人だけ。
つまり?
1:6なのだ。
なんじゃこりゃ??
不思議に思って、隣の兄たちの袖を引いて小声で聞いてみた。
「ねえ、なにこれ?女の子をもてなす会か何か?」
私の言葉に、三人ともが目を丸くした。
え?変なことでも聞いた?
こちらが狼狽えてしまうじゃないか。
「何を言っているんだよ、グレイス。女の子は少ないんだから当然だろ?お前は選り取り見取りだよ。問題は俺たちだ」
――え!?お兄様たちってモテないの!?
いや、違う。そこじゃない!
女の子が少ない!?
使用人が男だらけなのって、お母様の趣味だと思っていたけど、まさか……!
「そうだよ。でも、兄上は一応嫡男だし、誰かに指名されるだろ。俺もせめて第三夫でもいいから、選ばれるように頑張らないと」
「お前、この間のお茶会でずっと女の子を独占して、評判落としたからなぁ。独占欲丸出しで品がなかったぞ。あーあ、一番嫌われるやらかしだ」
「うわぁ!俺、もう第三夫すら失格かも!?」
第三ふ……?ふ?……いや待って!まさか“夫”!?
そんな馬鹿な!?
血筋は!?
後継とかどうなってんの!?あ、男ばかり生まれるから平気なの!?
「母上は、グレイスの第一夫にはルーカスを推してたぞ。侯爵家の出身だし、お前ら仲がいいだろ?」
「るるるルーカス!?いや、でも……!護衛騎士だし!?歳が八歳も離れて――」
ちらり、と背後に視線を送ると青に近い銀髪が目に入った。
ルーカスは、今年叙任を受け、正式に騎士になった。
その彼が穏やかそうな雰囲気で、目元を緩めた。
その瞬間、ぶわりと体温が上がる。
いや、そりゃあね?
お兄様たちよりも優しいし、私ともいつも一緒だけど……!
「グレイス様、まだまだ先の話ですよ。家の意向ですが、縛られなくていい。ただ……第一夫は無理でも、私を選んでくれると嬉しいです」
ルーカスはそっと胸元に手を添え、軽く頭を下げる。
その仕草に、思わず目を奪われる。
十歳前後の、お子ちゃまだらけのお茶会だとルーカスは反則だ。
まず、そのマントと鎧、銀髪がやばいんだって……!
いやいや、攻撃力が高すぎる!
見事、胸を撃ち抜かれた前世年齢不詳、現在十歳の私であった。
◇◇◇
――現在――
母に三人選んだことを告げ、その場を後にした。
扉をくぐったすぐ先に、ルーカスが立っている。
「ルーカス!こんな寒い所で待ってたの!?部屋にいてくれてよかったのに」
冬が訪れた屋敷はやはり寒い。
廊下は凍えるようだ。
思わず身震いした私の肩に、ルーカスの赤いマントが掛けられた。
大きくてずっしりと重いのに、その気遣いがなぜか私の心を浮き立たせる。
しかし、ルーカスの視線はうろうろと彷徨い、落ち着かない様子だった。
彼には珍しいけれど、その理由は察する。
「グレイス様……。夫君三人は選ばれましたか?……それで、あの、私は何番でしょうか」
随分と自信なさげな声だった。
私もだいぶ目線が上がったけれど、ルーカスはまだまだ見上げるほど背が高い。
生まれた時から、彼は私のそばにいてくれた。
これで好きにならないほうが無理だ。
なんで、ルーカス一人じゃ駄目なんだろう。
いや、国策としては仕方ないのかもしれないけれど――。
ぐっと拳を握り込んで、彼の腕を取った。
一か八かだ。
私がおかしいのはわかっているけれど、それでも頼れるのはルーカスだった。
「ルーカス!私を助けて!とにかく話を聞いてほしいの……。部屋へ行きましょう!」
「つまり。ついデマカセで、婚約する恋人を、二人も作り出した?」
「――そうなのよ……」
ルーカスが、ため息をつきながら前髪をかき上げた。
うう。
恥ずかしい。
いたたまれなくてここから逃げたくなる。
でも、仕方ないじゃない。
みんなガツガツしすぎて怖い、この世界……。
一回男性に話しかけるだけでも、誘われたと皆が考えてしまうんだもの。
「じゃあ、その条件がぴったり合う男を、一週間以内に見つけてほしいと――?」
「……いえ!さすがにルーカスの知り合いを紹介してもらうなんていやよ……」
好きな人に旦那様を紹介してもらうなんて、虚しくて悲しすぎる。
この世界では、前世ほど恋愛感情に思い入れがないみたいだ。
そして、それはルーカスも同じだった。
結局、ルーカスにとっては制度と家のための結婚なんだろうけれど。
私は、他の人とごにょごにょした後、ルーカスとまともに顔を合わせる自信がない。
それが当然なのかもしれないけれど、私には無理だ。
「ねえ……ルーカス。私は……女性に興味を持てない人たちなら――」
貴方一人でいい。そう言おうとしたのに――。
「駄目ですよ。私のお嬢様のお相手は、俺自身が認めた相手じゃないと許せません」
生真面目な彼の言葉に、胸が刺されたように痛くなる。
誠実な言葉だった。
真摯な瞳だった。
だからこそ、ここまで突き刺さるというのに。
この世界は、本当に残酷だ。
「……わかった。覚悟を決めたわ。私が相手を見繕う」
「駄目です。貴女は世間知らずなので、変な男に騙されるかもしれません」
今の言葉は、カチンと来たわ。聞き捨てならないわね。
人生二周目の私を舐めている。
「ルークなんて大嫌い!」
「……でも、俺を選んだんでしょう?」
その余裕に苛立った。
「……いいわ。やってやるわよ」
むしゃくしゃして、目の前のルーカスに当たってしまう。
誰でもいいなら、まさしく誰でもいいじゃない。
私が全部責任を取るわ。
だって、男性に共有される――そう、彼にさえ望まれているんだもの。
なら、思う存分に暴れまわってやる。
「ルーク!今日から貴方は、私の三人の旦那になるのよ!」
「……は?」
突きつけられた指先を見つめて、ルーカスは想像以上に間の抜けた声を出した。
変装したルーカスは、長い金髪のカツラを緩くまとめ、大きなサイズのシャツを少し着崩したスタイルにしてみた。
――色気が凄い。
普段のルーカスとは全然違う。
「グレイス様……。あの、これでいいのでしょうか……」
「いいのよ、ヒモ感がよく出ているわ!パトロンに可愛がられてそう。まさに愛人」
実際、先ほど挨拶したお母様は全然気づかなかった。
そして、困ったことに戸籍はどうしよう。侯爵家の執事にしちゃったし。
ルーカスの実家まで巻き込んでしまった、と悩ましかったのだけれど、なんと侯爵家まで後押ししてくれているのだ。
魔法はないが、この世界は親子鑑定の技術が確立されているのだ。
確かに必要なのは認めるけれど――。
需要が技術を押し上げる……。凄いわ……。
侯爵家としてもルーカスの子供しか生まれないのは、願ってもないということらしい。
納得ではある。
さすが権力者。架空の戸籍が二つも出来上がってしまった。
第三夫のためのアトリエまで購入されていた。
これは、敵に回すと怖いやつだわ。
◇◇◇
「グレイス、婚約おめでとう」
「ありがとう」
数少ない同年代の友人、メリエルが話しかけてきた。
お互い、夜会に出れば囲まれる立場である。
今日もずっと男性の人だかりができていた。
だからこそ、女性同士が会話を始めると、配慮して離れてくれる。
メリエルはそのまま、すすすっと近寄ってきて、口元を扇子で隠す。
そして小声で聞いてきた。
「ルーカス様との相性はどうなのよ?実は第三夫を一番大切にしてるんじゃないかって噂になっていたわよ?大丈夫?」
「……あはは。ルーカスとは仲良くやっているわ。赤ちゃんの時からの付き合いだし」
すべての偽装が完璧だ。
ルーカスが正式な夫としてお披露目もされた。
第二夫、第三夫は社交界に出る必要もない。
まだ婚約段階なのに『夫』と呼ぶのは、少し変な感じがする。
でも、男性が簡単に振り回されないように、選んだ時点で夫として扱う制度なのかもしれない。
「まあ、そうよね。ルーカス様はグレイスの所に八歳の頃から送られていたんだっけ。心配するだけ損よね」
そう。それが問題だった。
前世の私が言っている……。
私とルーカスは、幼い頃から一緒にいすぎたのよーー!
彼にとってはもう、私は家族枠なのかもしれない。
だって、ルーカスが奥手すぎる!
まだ私たちは、儀式的なキス一回しただけなのだ。
なぜ!?
婚約者になった途端、妊娠なんて話も普通にある。
やはり夫の序列が大切なこの世界は、第一夫の子どもが最初に生まれることが無難とされる。
嫉妬くらいは仕方がないけれど、野心が強い男性は敬遠されやすい。
なんてシステム化された逆ハーレム……。
これが現実だ。
社会化されたら、そりゃそうか……と納得してしまった。
だから第一夫は、堂々と触れてきたりするらしい。
いや、私の場合は全部ルーカスなんだけど――。
――ねえ……ルーカス。私のことどう思っているの。
こんな質問さえ、怖くて聞けない……。
妹としか思われていない気がする。
何が逆ハーよ!
基本的に男性は女性を断らない、こんな社会大嫌いよ。
夜会後、帰り道の馬車の中で、また話題にしてみる。
「ルーカス……!今日は――」
「成人してすぐは、まだ身体が未成熟な可能性がある。だから数年間は控えたほうがいい。結婚も一年後だ。それに今日は疲れただろう?」
彼は、私に最後まで言わせないで先回りして答える。
――ほら優しい。
むしゃくしゃした気分になって、夜会での出来事を話す。
「お試しに自分と過ごしてみないかって男性が多いわ。みんな貴族男性だから、断りにくいのよね」
「グレイスがそうしたいなら、第二か第三夫候補にしてみたらどうかな」
「……それでいいの?」
「もちろん。そもそも、俺一人が独占するなんて間違っているんだから」
――優しくて、そして残酷だ。
◇◇◇
「おかえりなさいませ」
「ビリーただいまぁ。毎回、夜会は疲れるわ」
出迎えてくれた少年に、上掛けを渡した。
明るくて元気な男の子である。
この世界では専属メイドなんていない。
十歳前後の侍従をつける。
ビリーは九歳で、優秀な侍従だ。
私の身支度もすべて彼に任せている――けれど。
「――いえ。グレイス様の身支度は私がしますので」
思わぬ声に、勢いよく振り返る。
そこには“執事役”のルーカスがいた。
は!?ルーカス、さっきまで夜会服だったよね!?
いつの間に執事服を――。
いや、そして眼鏡と黒髪のカツラの準備が早い!
第二夫として知られている彼が「私の身支度をする」と言えば、周りは“そういうこと”だと配慮する。
ビリーもおとなしく部屋から下がっていってしまった。
ルーカスは、背中に並ぶ夜会用ドレスのボタンへ手をかけていく。
背後で、彼の指がゆっくりと動く気配がする。
駄目だ。
敏感になった背中が震えてしまいそう。
思わず息を呑む。
でもドキドキして待っていても、やはり肌には触れもしなかった。
――いつも私だけ振り回されているわ……。
期待して、無駄に終わり、また翻弄される。
「ねえ、ルーカス。貴方に侍従役まで求めてないわよ?ビリーもいるし」
「いえ。グレイス様の世話はなるべく私がします」
真面目に役に入りきっているのよね……。
彼だって疲れているだろうに、こうやって世話までしてくれる。
背後の彼に意識を持っていかれるけれど、身支度が終わるとそっと離れていった。
それを引き止めたくて、わざとらしく明るい声をあげる。
「……待って。第二夫なら、少しくらい嫉妬してもいいんじゃない?夜会のパートナーをいつも譲るんだし」
一縷の望みをかけて、第二夫の設定を持ち出してみる。
だけど――。
「駄目だよ、グレイス。無理して背伸びしなくていい」
そっと頭を撫でられた。
やっぱりこうやって、すげなく躱される。
もう、自分から誘うのも怖くなってくるわ……。
だって、答えはわかりきってるじゃない。
「黒髪……似合ってるわね」
「ありがとうございます」
ルーカスは、頭を下げてそのまま部屋を後にしてしまった。
なぜか、胸が詰まって苦しい。
最初の前提が間違っていたのかもしれない。
ルーカスはただ、希少な女性に選ばれたかっただけなのかも。
だって、どう見ても愛されていない。
彼から求められていない。
◇◇◇
“別れようかな”。
そんな考えが頭をよぎるようになった。
前世の価値観を、この世界の人に押し付けるのも間違っている。
私の、ルーカスを独り占めしたいという気持ち。
それを彼に求めるのは無理かもしれない。
第一夫は、一度決めると簡単には変えられない。
二番目と三番目は交換したりする話も聞く。
もしかしたら、私の考え自体がルーカスの負担かもしれない。
一般的じゃないから重すぎて、うんざりなのかも。
そうね、条件としてはルーカスより地位は低く、第二か第三夫経験者が理想かもしれない。
「お試し」なんて誘ってくる人は危険だ。
我が強いと、ルーカスと合わないかもしれないわ。
お兄様の知り合いはなぁ〜……。
ちょっとガツガツしすぎなのよね。
「――メリエルに……。いえ、お母様に相談しようかしら」
「……グレイス?悩みごとかい?」
あっ!しまった。
ルーカスと一緒にいたのに、つい口から漏れていた。
今は、彼とアトリエで二人きりだった。
生真面目なルーカスは、この部屋にいる時は必ずキャンバスに向かって何やら描いている。
肌色のあれは人かしら?
一生懸命なんだけど、端から見ても上手くないのよね……。
「困ったことがあるなら、俺が聞こうか?」
――なんでもない。
慌てて誤魔化そうと口を開き……止めた。
「第三夫をお母様に紹介してもらおうと思って」
肩をすくませて、正直に答える。
今さら隠す必要もない。
これが当然の流れだったのだから、ルーカスも頷いてくれるはずだ。
「さすがに妊娠中で大変な――」
メリエルを頼るのは気が引ける。そう続くはずだった言葉は、ルーカスの大声に遮られた。
「誰の子だ……!お試しってやつか?あれで!?」
「ちょっと待って、誤解よ」
「妊娠!?君が妊娠!?」
ちょっと!まったく酷い誤解だわ!
……でも、なぜかしら。
いつもとまったく態度が違う……。
「……なんでルーカスが怒るの?いつも、三人選べって言ってるじゃない。それが普通でしょ?」
私が問いただした瞬間、ルーカスの血の気が失せた。
「……え、いや……。俺は最悪だな」
そして数秒後、口元を押さえ、横を向いた。
まるで私の視線から逃れているようだ。
「……いや。グレイスが、俺以外を選ぶなんて想像していなかった。君に触れる男を想像すると吐きそうだ。……くそ。こんな嫉妬深い男なんて、最低じゃないか」
――うそ……。まさか、本音が聞けた?
初めてルーカスが嫉妬してくれたの?
「妊娠なんてしていないわ。メリエルのことよ」
「……メリエル」
それを伝えると、ルーカスがこちらを向いた。
いつも余裕を崩さない彼にしては珍しい表情だ。
数秒間ぽかんとした後、両手で顔を覆い、縮こまり始めた。
「勝手に誤解……もっと最悪だ……」
――なにこれ。本当にルーカスなの?
自然とむずむずとした感情が湧き上がってくるが、まだ確信が持てない。
なにせ惨敗記録が多すぎる。
ゆっくり、慎重に話しかける。
「ねえ。こっちを見てよ、売れない画家さん」
彼の絵の具にまみれた手をそっと取り、自分の頬に当てた。
騎士らしい剣ダコができた手だ。
「もう一回言って。最高の口説き文句だったわ」
「……グレイスは男の趣味が悪すぎる。あんなことを口走る俺なんて、普通は嫌だろ」
ルーカスが視線を落とした。
「……俺はなんて気持ち悪い男になってしまったんだ。グレイスのせいだ。君が、俺を甘やかすから……。俺だけをずっと選んでくれたから」
やったわ!思わず笑みがこぼれてしまう。
だって、ずっと求めていたことだった。
好きな人に嫉妬してもらえるなんて、最高じゃない。
「うん、私のせいよ!それに私の趣味は特殊なの。私はルークだけでいい!だから、騎士のルークも、執事の貴方も、この不器用で下手くそな絵師も全部私のものよ」
「……グレイス」
「だからもう一回言って。もちろん三者三様の口説き文句を要求するわ!」
つんつんと彼の頬を突いてみた。
すると、かろうじて聞き取れる小声が返ってきた。
「……君を……独占したい」
「ふふ。声が聞き取りにくいから、もう一回お願い」
真っ赤になったルーカスは、目元まで潤んだように見えた。
「……もう勘弁してくれ。……さすがに自分がダサすぎる」
「そんなことないのに。どんなルーカスだって最高よ」
そしてその後も、ルーカスを何度も堪能したのだった。
◇◇◇
そんな風に浮かれて過ごしていたからか。
――ある日のお茶会でのことだった。
「グレイスさん、貴女の第三夫君、私の愛人にくれないかしら。しばらく貸してくれるだけでもいいわ」
「……!それは……あの公爵夫人……」
身分が高い方から、要求されてしまった。
こうやって縁を広げる文化さえある。
まったくなんて世界だ……!
でも、どっちにしても無理だわ。
だってルーカスだもの!想像すらしたくない。
身分がバレる恐れもあるし、なにより……。
――私が許せそうにない。
「まさか断ったりはしないでしょう?」
公爵夫人は、私より五つくらい年上だ。
二十代半ばの美しい彼女は、飽きやすいことで有名だった。
ルーカスにとっては、悪い話じゃなかったら?
もし彼自身が望むなら――?
そのくらいなら平気だって言われたら、私はどうすればいいの……?
喉が詰まって、すぐに答えられない。
断りたい。
そんなの嫌だと、すぐに言ってしまいたい。
でも――それは、私の都合だ。
ルーカスはずっと、私の常識に合わせてくれていた。
彼に散々、無茶振りをしている。
その上で、第二夫も第三夫も選べと言ってくれた。
私が他の男性を選んでも構わないと。
――なのに、私は?
自分だけはルーカスを縛るの?
それは、あまりにも勝手じゃないだろうか。
「グレイス嬢?当然、第三夫も喜ぶと思うけれど?」
公爵夫人が先を促してくる。
私としても、敵を作るのは良くないかもしれない。
(それに、上手い断り方がわからない……!)
指が自然と震えていた。
これは、断れない。
「お話に割り込んでもよろしいでしょうか」
隣で聞いていたルーカスが口を挟んだ。
そう。女性だけでは人が集まらないので、お茶会すら旦那付きで行うという。
またまたロマンスの常識を覆してくれる世界だ。
「すみません、公爵夫人。俺が許せそうもありません。ようやく躾けて、生意気な鼻っ柱を折ってグレイスに従順になったところなので――」
スッと私の首に腕が回され、慣れた香水の香りと体温が包みこんだ。
る、ルーカス!?
周囲も彼の思わぬ発言にざわめいた。
ルーカス……なにか黒いオーラが出ているわ……!
ルーカスは眉を下げ、困ったような表情を作った。
いえ、私の夫は全員貴方ですけどね!?
「まあ……」
「第一夫が、他の夫を自分好みに育てるのが、彼の主義なのかしら……」
「なるほど……。家庭の不和をあらかじめ……」
周囲から、感心したような囁きが上がった。
特に、年上の女性たちからが多い。
いや、この世界マジでなんなん!?
そして、公爵夫人がやけに納得したように頷いた。
「……なるほどねぇ。理にかなっているわ。第三夫まで躾けた直後に私が呼んでしまうと、余計な欲が生まれてしまうと……。私も面倒な子は要らないわね」
「はい。申し訳ありません。なにせ嫉妬深く、独占欲が強すぎて厄介ですから」
隣でルーカスが頭を下げるから、私も続いて頭を下げる。
――わからない!
いや、これでも十八年この世界で生きているのに、常識がまだ理解できない……!
異世界、恐るべし……。
結局、公爵夫人も納得してくれた。
やはり、ハーレムは秩序なのか。
私は実感とともに学んだのだ。
◇◇◇
――でも最近は、何度でもルーカスに言わせたい言葉がある。
ねえ、ルーカス。知ってた?
この世界の男性は、すぐに私の望む言葉をくれる。
でも、本当に欲しい言葉って実は簡単じゃないんだ。
なにより、幼い頃から護衛騎士で、ずっと側にいてくれたルーカスですら、簡単にはくれなかったもの。
彼だけに言ってほしい。
ルーカスの言葉だけは、彼の本音だと信じられるから。
「ルーク。……愛してくれてる?」
ベッドに腰掛けて、聞くのが日課になってしまった質問を投げる。
ベッドの木の縁が、ぎしりと音を立てた。
狭すぎて家具が少ないこの空間が結構お気に入りだ。
「ねえ、売れない画家さん。ちゃんと言葉が欲しい」
「……もちろん愛してる」
ルーカスが筆を置いて、こちらへ振り返ってくれた。
その動きで、彼の背後にあるキャンバスが目に入る。
うーん。絵の上達は判断しにくいけれど、ルーカスもこのアトリエを気に入っているようだ。
彼の大きな背中を抱きしめたくて、わざと反対側から近づいて頬を寄せた。
でも、バレバレだったみたい。
笑いを堪える声が、ルーカスの身体を通して響いてくる。
頭を撫でられるけれど、もう昔みたいに子供扱いだなんて思わないわ。
「どうした、不安になったの?」
「……そうみたい。ルーカスだけが、私自身を見てくれるんだもの」
温かくて大きな手に身を任せ、目を閉じる。
心地よくて大切な居場所だ。
「じゃあ、俺のみっともない本音もあげようか。最近、グレイスは売れない画家が一番お気に入りじゃないか?第一夫が嫉妬していたよ」
「……本当?初耳だわ」
もう。そうやって、すぐに余裕ぶる。
彼の長い金髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
でも私も、昔ほど焦っていない。
だって、明らかに嫉妬してくれるもの。
ルーカスは、私の髪へ口づけた。
「で、やっぱり画家が好みかな?」
「気づいてよ……。私は、貴方しか選んでいないのよ」
「うん、俺も。生まれてからずっと、グレイスが俺の中心だった」
手つきでも、その心地いい声からでもわかる。
包み隠さず、彼の気持ちを伝えてくれている。
「ふふふ!じゃあ、私も一つ聞いていい?アトリエにある、あの裸婦画もどきは私なの?」
「まさか!グレイスの裸婦画なんて描かない!ただ、身体の線を決めないと服を着せられないからで――!」
ルーカスの慌てた声に、思わず笑いが漏れる。
彼が実は嫉妬深いのは知っている。
この世界では、歓迎されない“独占欲の強い夫”。
でも私はそれが嬉しいの。
「じゃあ、また口説いてくれる?私の騎士様」
転生した先は、夫を三人選ぶのが当たり前の、こんな驚きの世界だったけれど。
私は『真実の愛』を見つけた。
これは胸を張ってもいいんじゃないかしら?
「俺は、君に三人分の愛を捧げた男だ。誰よりも愛してる」
私の一番大好きな騎士様が、カツラを取って私に口づけた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
三人分、堪能できるなんて羨ましい(衣装のみ)と思っていただけると嬉しいです(笑)
タイトル詐欺疑惑は……黙秘です。




