王宮の方から来ました(王宮とは言ってない)
名前を借りました
フィクションです
「私達、親友よね」
と、絡んでくるクラスメイトのスイオネ・テルクシノエを適当にあしらいながら、私は歩く。
スイオネが勝手に思い込んでいるだけで、私は親友どころか友人とも思っていない。
ただのクラスメイトだ。
金魚のフンのスイオネを引き連れながら人で賑わう街を歩いていると
「君達、可愛いね」
男達に声を掛けられた。チャラ男が2人。
「まぁ可愛いだなんて」
スイオネが頬を赤らめた。
いや、怪しいだろ。貴族令嬢をナンパする男だぞ。
「俺達とお茶しない?」
昭和のナンパだ!!
『へい彼女お茶しない〜?』
ってナンパするって聞いたよ!前世の従姉妹に。
あ、ちなみに私オーソシエ・バレトゥードーは転生者です。
「え〜でも」
スイオネがクネクネした。昭和のぶりっ子もかくやって感じ。
「私は失礼します」
チャラ男1と2とスイオネを置いて歩こうとすると。
「え〜いいじゃん!ちょっとくらい」
チャラ男1が近付く。
「触るな!」
私の護衛が、私を庇う。
「何だよお前」
チャラ男2がガン付けてきた。
「お前達こそ何だよ?」
この護衛、本当は騎士団の騎士だから、関わらない方が良いのに。
「俺達は、王宮の方から来たんだ」
チャラ男1が言った。
「えっ!?王宮?」
スイオネが目を輝かせた。
「…」
消防署の方から来ました(消防署員とは言ってない)。詐欺じゃねぇか!
「申し訳ございませんが、私は今から騎士団へ参りますので」
私が言うと
「「「はぁ!?」」」
チャラ男2人とスイオネが素っ頓狂な声をあげた。
「スイオネは行ってくると良いわ。こんな素敵な殿方に声を掛けられるなんて羨ましいわ」
心にも無い事を私が言うと
「そうね…私は行くわ」
スイオネは、チャラ男2人の腕を取り歩き出した。
チャラ男達の狙いは何だろうか?
騎士団本部に行って、騎士をしているヘリケ兄様に
『王宮の方から来た』と言う男2人に遭遇した、と報告した。
「はぁ!?」
兄様は、意味が分からないという顔をした。
安心してください。私も分からないです。
「もう1回言って」
兄様は、頭痛が痛そうな顔をした。
お気持ち分かりますよ。
頭が痛いんじゃない。
頭痛が痛いんだ。
非常識過ぎて。
「『王宮の方から来た』という男2人に、お茶しないかと誘われました」
「誰だその不届き者は?」
後ろから声がした。
「ご機嫌よう」
声の主に挨拶する。
騎士団長である王弟殿下イオカステ・プラクシディケ様だ。
「ちゃんと断って来たのか?」
イオカステ様…我が邸に来た時はイオ兄様と呼んでいた…が真顔で聞いてきた。
「断ったから、ここにいるのです」
私はエッヘン…と胸を張った。
「ならいっか」
イオカステ様は、途端にニコニコした。
イケメンの真顔は怖かった。
「私のクラスメイトのスイオネがついていきました」
「あの、君の親友を名乗る勘違い女?」
本人以外は、その認識だ。
「はい」
私は神妙に頷いて言った。
「彼女を生贄に退避しました」
「うん。偉いね」
イオカステ様がニッコリ笑って私の頭を撫でてくれた。
イオカステ様と兄様は、同窓生である。
学生時代は、よく我が邸に遊びに来て、私にお土産を持ってきてくれた優しいお兄さんだ。
今も、その頃のように優しくしてくれる。
「それにしても…ただのナンパか?それとも貴族令嬢を狙った犯罪か?」
「団長、巡回を強化しましょう」
「それが良いな」
イオカステ様と兄様が話し合っている。報告が終わったので私は帰る事にする。
「それでは」
「待て」
イオカステ様が言った。
「邸まで送ろう」
「仕事中では?」
「不審者に声を掛けられた令嬢を邸に送るのも仕事だ」
「はぁ…」
そんな訳で、イオカステ様に、馬車で邸まで送ってもらった。
「いつか、王宮に招待してくれるって言われたわ」
翌日教室でスイオネがマウントを取ってきた。
はいはい、良かったね。
「それは本当なの?どこのどなたなのか聞いた?」
「あら?嫉妬?私が王宮の人と仲良くなったからって、羨ましいのね」
詐欺だと思うんだよね〜。だから聞いたのに。
「王宮のどこの部署なの?」
「秘密よ」
教えてもらえなかったのかな?
「本当に王宮に招待されたの?」
「そうよ!」
いつか、でしょ。そのいつかは永遠に来ないのよ。
「あら〜素敵ね」
本当ならね。
「そうでしょう。羨ましいでしょ」
本当に王宮に行ってからマウント取ってほしいわ。
「貴女も来たかったら連れてってあげるわ。親友だもの」
正式に招待されて、連れて行って良いか確認してから言いなよ。
あと親友じゃない。ただのクラスメイトだよ。
「貴女とあの殿方達の邪魔はしたくないわ。お似合いだもの」
クズ同士お似合いよ。
「遠慮しなくて良いのに〜」
遠慮ではない。私は貴女に話し掛けられるのも嫌なんだけど。
クラスメイトだから仕方なく話しているだけ。
スイオネのくだらない話を聞いているより、読書したい。
「貴女の幸せを祈っているのよ」
詐欺じゃありませんように。
「まぁ…仕方ないわね。誘われたのは私だし」
「騙されないように気をつけてね」
「招待されなかったからって、嫉妬しないでよね!」
そしてスイオネは、他のクラスメイトに、昨日の話を自慢しだした。
どうやら、流行りのカフェで、ケーキと紅茶をご馳走になったらしい。
…さて、今後どうなるか?
私はちゃんと
「騙されないように気をつけてね」
って、言ったからね。
「またカフェデートしてきたわ。あの2人、私に夢中みたい」
ロマンス詐欺か?
スイオネは、ただの男爵家の娘だから、あんまりお金持ってないよ?
それとも、令嬢のツテを頼って高位の令嬢に取り入るみたいな?
それともねずみ講みたいな?
他の令嬢が被害に合わないように、令嬢がいる家には騎士団から報せが行っている。
だから、引っ掛かるクラスメイトがいないと思いたい。
スイオネが無理矢理連れて行こうとしたら阻止しないと。
でも、誰もついてこなかったら逆に怪しまれるから、囮がいるな。
兄様に相談しよう。
私が学園の廊下で令嬢達と話していると
「聞いて!今日もこれからデートなの!」
スイオネが自慢してきた。
「羨ましいわ~」
「素敵ね」
「素晴らしいわ~」
ゴマすりも大変だ。つい棒読みになってしまう。
「あら、連れて行ってあげてもよくてよ」
スイオネが言った。
「本当に!?」
「えぇ」
令嬢の1人がついていく事になった。
ついて行った令嬢…囮役…が言った。
ここは騎士団本部の会議室。
「最初の3回は奢りでしたが、それからは何かと理由をつけてお金を払わされました」
私に最初に声を掛けてきた男の1人とカフェに行ったらしい。
スイオネには、もう1人の男と、新しい男がついていたという。
それぞれ仲良くしたいから、と別行動を取っていたらしい。
普通にロマンス詐欺じゃないか。
「今日は『王宮から呼び出しが』と言って、料金を払わずに去りました」
ロマンス詐欺過ぎる。
「『王子からの信頼があつくて、すぐに頼りにされるんだ』と『愛する君を置いていくのは心苦しいが』と言ってました」
どう考えてもロマンス詐欺です。ありがとうございます。
でもなぁ、それだけでは捕まえられないか。
犯人は何人ぐらいいるんだろう?
こんな事を思い付くなんて、平民ではないよね?
囮役の令嬢が言った。
今日もいつもの、騎士団本部の会議室である。
「宝石店で、宝石を買わされました。お揃いの指輪をつけようと。足りないから代わりに払ってくれる?と言われました」
金額が上がって来ましたよ。
普通なら、買う為のお金を持って行くか、邸に代金を取りに来てもらうかじゃないのかな?
足りないなら、予算内で買える物にするか、今回は見るだけで買うのは次回にするとか。
典型的な詐欺じゃん。
もしかして、令嬢達を、散財させて借金させて娼館に売るつもりか?
領地横取りとか、お家乗っ取りとか?
いかんいかん。刑事ドラマの見過ぎだ。
でもなぁ…そうだったら困るから、兄様に伝えておこう。
「…と、予想したのですが、考え過ぎでしょうか?」
「なるほど…そういう詐欺か…」
兄様が頷いた。
「どのくらいの人数がいるのか、黒幕がいるのか、宝石店もグルなのか、分かりませんが」
「それは騎士団が調べる事だよ。心配しないで」
また後ろから声がした。
「ご機嫌よう」
イオカステ様だ。
「君を危険に晒したくない」
イオカステ様が言ったので
「私は近付きませんから」
と安心させるように言った。
「うん。そうして」
イオカステ様が頭を撫でてきた。
「でも心配だから護衛を増やすね」
しれっと言うイオカステ様。
いつもついてくれる護衛は、イオカステ様の部下だ。
それから、囮になっている令嬢も。実は女性騎士なのだ。
いまや囮は3人になっている。
私の護衛には、親戚の令嬢という振りで、別の女性騎士をつけてくれた。
イオカステ様は、私の事を心配してくれる優しいお兄さんだ。
「スイオネ嬢が、借金をしたようです」
来ましたよ!ロマンス詐欺!
「私も、後で払うから立て替えておいて、と言われました」
「借用書を書いてもらった?」
「借用書を、と言ったら『将来結婚するんだから、そんな事言わないで。お願いだよ』と言われました」
典型的な結婚詐欺ですね。
誰か、転生者が入れ知恵してるんじゃ?
「私は、借金できないなら、家からお金を持ってきて、と言われました」
もう1人の囮役の令嬢が言った。
そのうち、権利書を持って来いって言い出すぞ。
「借金の担保にって、権利書を持って来いって言うと思います」
私は、念の為に言った。
「なるほど…では、偽の邸と権利書でも用意するか」
サラッと言ったな。
「それにしても、よく正体がバレませんね」
私は言った。
「どういう意味だ?」
イオカステ様が首を傾げた。
「貴族はよく、身辺調査をしますよね?」
「まぁな」
「でも、囮の令嬢達が騎士だとバレていません。わざとなのか、お金を巻き上げられれば誰でも良いのか…」
「そうだな」
「黒幕は、頭が良いと思っていたので、腑に落ちません」
「ふむ…」
イオカステ様は考え込んだ。
「夜会に招待されました」
囮役の令嬢が言った。
「夜会?」
「愛する人を友人に紹介したいから、と」
夜会で、令嬢をオークションに出すのか?
麻薬でもやるのか?
…ロマンス詐欺じゃなかったっけ?
「その為の、ドレスと宝石を買わされ、男の服と宝石を買わされました」
おっと…ロマンス詐欺か?
「払えないと言うと、邸の権利書を持って来いと」
「そうか。では手筈通りに」
偽の権利書を囮役の令嬢に渡す。
「もしかしたら、以前も被害者がいたかもしれないな。最近持ち主が変わった邸を探そう」
囮役の令嬢は、邸へ、チャラ男2ことヘルミッペを案内した。
ちなみに、チャラ男1はムネメらしい。あと、チャラ男は全員で6人いる。
「王宮から呼び出しが」って伝えに来る役が3人。
それはさておき。
「全員外へ出てこい」
ヘルミッペが言うと、使用人全員が出てきた。
何故、皆が素直に出てきたのか、疑いもしない。
「今日から、この邸は俺達の物だ!全員出ていけ!」
使用人達は、そのままゾロゾロと門から出ていった。
入れ替わりに、男達が10人入ってきた。チャラ男達だ。
「お前には、これから娼館で働いてもらうぜ」
ヘルミッペが囮役の令嬢に手を伸ばした。
「確保!!」
どこからか声が掛かり、出ていった筈の使用人達が、男達を捕獲した。
男達は騎士団に連れて行かれ、事情聴取された。
捕まった男達の中に、ハルパリケ伯爵がいた。
貧乏伯爵だったが、最近羽振りが良くなった。
伯爵の邸を検めたら、令嬢達に買わせた宝石が置かれていた。
世間知らずの令嬢はチョロかった、らしい。
ハルパリケ伯爵が笑いながら言ったという。
こうして、詐欺グループは投獄された。
宝石店もグルだったので閉店した。
被害者は、スイオネの前に3人いた。
そのうちの1人の令嬢は、騎士団からの注意喚起で、もしかして…と騎士団にやってきていた。
「どうやってロマンス詐欺を思いついたんだ?」
と兄様が聞くと
「何でロマンス詐欺を知ってるんだ!?」
と伯爵は驚いたそうだ。
転生者だったんだな。
伯爵家から、被害令嬢の各家へ、被害金額を返された。
詐欺に引っ掛かったスイオネは、領地の邸に閉じ込められた。
家のお金を勝手に男に貢いだのもあるが、詐欺に引っ掛かっただけでなく、学園の令嬢達を連れて行こうとしたから悪質だと思われた。
だから、スイオネの両親は、邸に閉じ込める事にした。
たぶん、誰からも婚約の申し込みは来ないだろう。
詐欺の片棒を担いだと思われても仕方ない。
詐欺られてはいるが。
ただし、騎士団が調査するきっかけにはなったので、厳しい処罰は免れた。
「とにかく、勘違い女はもう2度と、オーソシエの前に現れる事は無いよ。良かったね」
イオカステ様に頭を撫でられた。
「あと、色々アドバイスをもらったから、ご褒美」
「…え?」
「私と婚約しよう」
イオカステ様が、私の前に跪いた。
「…婚約?」
私は首を傾げた。
「ちょっと待ってください!それがご褒美ですか?」
兄様が抗議した。
「今度の事で、心配だからオーソシエをそばにおいておきたいと思ったんだ」
イオカステ様は真剣だ。
「えぇ?」
兄様は納得しない。
「どうかな?」
イオカステ様は、兄様を無視して私に聞いた。
「良いですよ」
私はアッサリ言った。
「「良いの!?」」
兄様だけでなく、イオカステ様も驚いていた。
何で求婚した本人が驚くのか。
「本当に…私と結婚してくれるのか?」
恐る恐るという感じでイオカステ様が言った。
「はい」
私はしっかり頷いた。
「本当に良いの?」
「え?断った方が良いんですか?」
「いやいやいや…断らないで!」
慌てるイオカステ様。
「では、何度も確認しないでください」
「だって…私は兄みたいなものだから、結婚してくれるとは思わなくて…」
イオカステ様がゴニョゴニョと言った。
「私も求婚してくれるとは思いませんでした」
「…ヘリケの邸に遊びに行った時に出会った君が…忘れられなくて…」
「何度も我が邸に来ただろう?私ではなくお前に会いに来ていたのだ」
兄様も言った。
「えぇ!?」
だから毎回お土産をくれたの…?
「ありがとうございます。嬉しいです」
「私も嬉しい…」
嬉しそうに笑うイオカステ様が色気を振りまいた。
「ちゃんと国王と父に言ってくださいね」
兄様が割り込んだ。
「もう言っているよ」
「早っ」
「事件が解決したら求婚しようと思っていたんだ」
「まぁ…良かったな」
「ありがとう。お義兄様」
「お義兄様はやめろ」
「ははっ」
イオカステ様と兄様がじゃれ合っていた。
楽しそうである。
そんなこんなで私に婚約者ができたのだった。
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