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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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追放された伯爵令嬢の私、実は世界最強の魔導師でした。今さら泣きついてくる家族も元婚約者も、まとめて踏みつけて差し上げます。私の愛は、私を拾ってくれた彼にしか捧げないので。

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/19

「お前がいると部屋が暗くなる。気のせいではなかったんだな。お前の妹君が教えてくれた。昔から不気味で怖い姉だったと。婚約者の公爵様が可哀想とは、健気でなんて可愛い子だろう」


 婚約者の公爵が妹の肩を抱いて見つめあっている。


「お前との婚約は最初からしていなかった。いいな? 婚約者が妹に変わっても、誰も気にしない」


「伯爵令嬢の私が望んだわけでもないのに、身分差を理由に勝手にあなたが婚約者になっていたのよ。私の人生から消えてくれるなら清々するわ」


「なっ!」

「お姉様!?」


 公爵と妹が間抜けな声を上げている。

 全くお似合いで、自分のキューピットぶりに恐ろしくなるわね。


 そして、家族は「妹の結婚式」が終わるまで、私が邪魔をしないようにと離れに閉じ込めた。

 結婚式が済めば『どこへでも好きなところへ行って二度と姿を見せるな、恥晒し』と、放逐して下さるみたい。


『お姉様は、公爵様を私に取られて怒っていました。きっと邪魔するつもりよ』


 そんな妹の嘘が聞こえてくるみたい。


 いつも妹は私のものを横取りして、「要らないからあげるわ」と私が言うと、まるで不用品を押し付けられた被害者のように振る舞う。

 ゴミに魅力を感じるのはあなたなのに、私にどうしろと言うの?


 婚約破棄されて幽閉された私だけど、抜け出して清々しい気持で夜の街を歩いた。

 夜空の月の光は少しだけ私に吸い込まれる。


 私は生まれつき周囲の光を身体に集めてしまう体質だった。

 部屋に入れば照明が少し暗くなって、蝋燭の火は揺れてちょっとだけ小さくなる。


 夜道を照らす街灯も、私が歩く場所は暗くなり、去ると明るさが戻っていく。


 傍から見たら私が光を操っているように見えたかも知れないわ。

 でも、これは体質で無自覚な現象なのよ。


 気持ちよく歩いていたら、一台の豪華な装飾の馬車が私の横に止まる。


「……美しい。伝説の『光を喰らう大魔導師』のエピソードが再現されている……」


 馬車から降りて来た仕立てのいい服を着た美しい男性が私を見て言った。

 この国の王子で、遠くから見かけるくらいの面識しかない。


 私はいい気分に水を差されて後退る。


 ジィィ……っと明かりが消えかけていた街灯から光が奪われて、消えた。

 流石に自分の体質が怖くなった。


「すごいね! 君は本当に全てのものから光が奪えるんだ!」


 自分でも恐ろしくなる体質を、王子は気にする事なく近づいてくる。

 なんなのこの人!


 恍惚の表情で私を見つめると、抱き上げる。


 王子様にお姫様抱っこされている私……。


「こんな夜中に一人で歩いているんだ、君は俺のものにしてもいい令嬢だね?」


「まさか、そんな簡単にあなたのものになる令嬢なんて落ちてないわよ、王子様」


 王子様は目をつぶって笑う。


「君は俺以外の男の手に負えない、もっと貴重な女性みたいだね」


「どうしてそうなるのよ。でも私を気に入ってくれたなら嬉しいわ。婚約破棄されたばかりの私で良ければ結婚してあげるわよ。あなたが公爵様の従兄弟だって欠点は今だけは特別に目をつぶってもいいわよ」



「お母様、お姉様を夜会に連れて行かずにすんで良かったわ。あんな陰気臭い女がいたら、今夜の夜会が台無しですもの」


「光を反射して輝くようなドレスを着て、婚約を発表するあなたが夜会では一番美しく、伯爵家の誇りですよ」


 私が幽閉されている部屋の前でこれみよがしに話している。


ゴミを好む妹がホコリねぇ。


 それからは、私の幽閉先に妹とお母様がくる事はなく、夜会の準備に勤しんでいるようだった。


 そこへ、王家からの使いがやって来た。


「王子殿下より、特別な招待状と迎えの馬車を預かっております」


 色めき立つ妹たちだったけど、使いが告げた名前は、私のものだった。


「……は? あんな不気味な女を、殿下が?」


「王子様の使者の方、私はこっちですわよ」


 幽閉先の離れで王子様から送られた光を吸い込むような黒いドレスを着た私。

 吸い込んだ光がドレスに散りばめられた透明な宝石を夜空の星のように輝かせる。


 使者にかしずかれて馬車に乗り込む私を、彼女たちが屈辱に歪む顔で見ていたけど、無視する。

 まとわりつくホコリを見つめるものなんていないでしょ?



 夜会会場に着くと、そこは光と人で溢れかえっていた。


 光を集めてしまう私の体質は変わらないけど、近くの光以外が大量に光を作っているから、わずかに暗くなったことに気づくものはいなかった。


 当たりを見回して王子様を探すと、着飾った令嬢が山になっている場所があった。

 駆け寄りたいのに、令嬢たちは中心の王子様に夢中で後ろから近づくものがいても気づかずに蹴り飛ばされそうになる。


 オロオロしていると声をかけられる。


「殿下に御用ですか、美しい御令嬢」


 振り返ると元婚約者がいた。


「お前か……」


 苦虫を噛み殺したような蔑みの目に一瞬で変わる。


「なぜ追放された女がここにいる。お前が来ると会場が暗くなるんだよ! 殿下に近づこうとするな不浄な女め!」


 せっかく王子様と会えると思ったのにもう一人のホコリに会ってしまうなんてついてないわね。


「王子様が開かれた夜会の光は私の体質なんて気にならない程に輝いているわよ? 見えないのかしら? あなたのような小さい男の基準で殿下を語るのはやめた方がよろしいわよ。あなたの小ささが強調されるだけです。あなたの婚約者の姉として恥ずかしいわ」


 元婚約者の公爵は顔を真っ赤にしている。


「捨てられた分際でよくもそんな口が聞けるな! お前には追放では生ぬるい、立場を分からせてやる必要がありそうだな」


 公爵は私の腕を掴んで会場の外に連れ出そうとする。


「やめなさい!」


 私が言うけれど、


「皆様、騒がせてすまない、婚約者の姉が勝手に屋敷を抜け出したようで、送り届けて来ますよ」


 にこやかに公爵が言うと、周囲の冷たい視線と罵倒が私に向けられた。


 送り届けるなんて嘘に決まってるけど、私の味方はいない。


 王子様の姿は人垣に遮られたまま、私に気付いてはくれない。


 王子様と話したい。


 ただ王子様の側に行きたいだけなのに。


 邪魔、邪魔、邪魔——。


 邪魔なホコリが視界に入ってくる!



「……ゴミどもが——! 立場を知る必要があるのはお前たちだと、私に分からせて欲しいみたいね。今まで、気付かなくてごめんなさい!」


 私の中で、何かが切れた。


 溢れたそれは前世の記憶だ。


 伝説の『光を喰らう大魔導師』、それが私だ!!


「——『極夜のアビス・レイズ』」


 唱えなれたように滑らかに口から呪文が滑り出た。


 次の瞬間、巨大な夜会会場の全ての光が、一滴残らず私の右手に吸い込まれた。


 煌びやかなシャンデリアも、魔法で浮いていた灯火も、蝋燭の火も。


 動いているのに光だけが消えた。


 人々の瞳に映る光も消えて、完全な闇が訪れる。


「ぎゃああ! 何も見えない!」


「助けてくれ! 目が、目が潰れた!」


 自分だけの目が見えなくなったと思うものたちが悲痛な声をあげている。


 しかし、自分だけではないことに気づいて、安堵する。


 しかし、助けのこない、全ての人を包む暗闇は、逃れられない絶望になって、人々の精神を削る。


 物理法則を超えた完全な暗闇。


 私の手を掴んでいた公爵は腰を抜かして恐怖の悲鳴をあげ続けている。


 いつの間にか会場に着いていた、お母様と妹が互いを突き飛ばして無様に転がる音が派手に響く。

 音とともに身体に痛みが走るが、どうなっているのか見えない。

 想像を絶する暗闇の恐怖にパニックになる二人は、人々にぶつかって恐怖を増幅させながら叫び続けている。


 この暗闇の中で私だけが光を操れる。


 完成していた究極の光魔法。


 この世の全ての光は私のものなのよ?


 阿鼻叫喚の中で、誰も見ていないのに私はほくそ笑む。


「悪い子だね。でも、隠れていたものが全部でたみたいだね。俺の可愛い魔導師」


 暗闇の中で私の手に触れる温かい手。


 王子様だけが暗闇の中で私を見つけてくれた。


「王子様は灯りの下では私を見つけてくれなかったのに。見つけてくれていたら、こんな騒ぎは起こさなかったのよ」


 王子の瞳に光はないけれど、目をつぶって音を聞いている。

 彼には音で周りを把握する癖があるのね。


「君はいつも光の中心にいるのに気づかないわけないだろう? 俺の最強の大魔導師のいいデモンストレーションになったよ」


 王子様はまた私を抱き上げる。


 私はもう完全に王子様のものなのね。


「悪い人は私よりあなたみたいよ。私のこの力さえあれば国を滅ぼすことなど造作もないのよ。あなたは何をしたい? 叶えてあげるわ」


 王子様が最高に裏のある笑顔で私を見つめてる。



 私が光を返すと、そこには無様に床に這いつくばる貴族たちの姿があった。


 箒で掃き清めた方がよさそうね。


「光を取り戻した諸君に、僕の婚約者を紹介するよ。光を扱う大魔導師だ。彼女の力があれば、この国は安泰だ」


 王子様が言うと、光を奪われたことに恐怖していた貴族たちもざわめきだす。


「なんて、素晴らしい力だ!」

「この力さえあれば、どの国も我が国には逆らえませんな!」


 次々に私を称える言葉が上がり始める。


 この力を国のために使うなら私はあなたたちの救世主ね。


「も、申し訳ありませんでした! どうか、どうかお許しを!」

「お姉様、ごめんなさい! こ、公爵様はお返ししますから、どうかお許しください!」


 公爵や妹、母親が、涙と鼻水で顔を汚して私に縋り付いてくる。


 暗闇の世界を楽しんでくれたみたいで良かったけど……、


「公爵を返さないで! どさくさに紛れて、ゴミを押し付けるなら、また光を奪うわよ」


 私が指をパチンと鳴らすと、彼らの瞳から光が失われる。


「ひっ、あああ! ごめんなさい! ごめんなさいい!」

「ゴミしか渡さないくせにー!!」


 自分だけの暗闇の中で狂ったように謝罪を繰り返す彼ら。

 妹だけは油断も隙もない。


 本当に反省するまではこのままにしておくわ。

 早く反省してくれないと、存在を忘れそうだけど。


 本当は、あなたたちの醜い姿を見せられる私の方こそ視界を消したいんだけどね。


 コントロールは完璧で、前世の勘は鈍ってない。

 それでも、大魔導師としてはまだまだ未熟だわ。


 視界の一部、ゴミだけを視界に入れないようにする魔法も使えないなんて。


「そう言う使い方も出来るのか」


 王子様が感心したように言う。


「まだ色々使い道がありそうですから、彼らで色々試して、王子様の要望に応えられるようにしますわ!」


 実験体にすれば存在も忘れることはないし、私って親切だわ。


「宝石のように輝く君が、ゴミのように捨てられていたから僕のものになったんだ。価値の分からなかった彼らにはもっと罰が必要だね。領地の運営なんて彼らが出来るはずないから、没収しておくよ。大魔導師の領地には相応しいかもしれない」


 私を抱き寄せる王子様。


「あら、魔法が使えるようになっていたら、私が王子様に会いに行っているわよ? 私の事は王子様以外は扱えないもの。最高の使い方をしてね?」


「ははは、きみは予想外で最高だね。この国だけじゃない、世界を僕と君のものにしよう」

 

 騒ぎ続けるゴミたちを無視して、私は最高の愛に満たされる。

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