07 元宰相説得
ヴァミリオラの懸念はもっともなものであったが、俺としては問題はなかった。
「それについては私の方で対処するあてがある。またレギルは例の古代遺跡への侵入に成功して、古代兵器を一部持ち帰るはずだ。だがそれも想定内なので安心してほしい。それと騎士団だが、ラシュアル騎士団長はすでに王に対して疑念を持ち始めている。説得に応じる可能性は高い」
と必要なことを伝えると、ヴァミリオラは微かに呆れたような表情をした。
「なるほど、すでに対策は万全ということ。貴方、やはりずっと牙は研いでいたようね」
「慌てて研ぎ始めたに過ぎぬ。何度も言うが、王家との対立は私の本意ではない」
「貴方はそれでいいわ。王になりたいなんて人間にはロクな者がいないもの。あの色ボケ王のようにね」
ヴァミリオラがそう言葉を切ると、アミュエリザもブンブンとポニーテールを揺らしながらうなずいた。
「ブラウモント公爵様が決心してくださったことを嬉しく思います。私も微力ながら、姉を手伝う形で協力いたします!」
「今回の件がもし上手くいったとしても、この国、そしてこの大陸はしばらく戦乱の世となるだろう。アミュエリザ嬢も今のうちに武人としての腕を上げておくとよい。フォルシーナたちも同じようにしているゆえな」
「はい! フォルシーナやマリアンロッテと一緒に戦えるように強くなります! そしていつかは公爵様に認められるようになってみせます!」
「楽しみにしている。恐らく遠くない将来、再びアミュエリザ嬢の力が必要になる時が来る。遺跡の時のようにな」
なにしろメインヒロインだからなあ。『オレオ』はなぜかフォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザの三人が力を合わせてなにかするイベントが複数あったんだよな。
逆に主人公がいないと進まないというイベントは皆無だったというのが、なんともギャルゲー気質に溢れたゲームであった。
「本当ですか!? それならフォルシーナたちとまたパーティを組めるのですね! 嬉しいです!」
「アミュ、そこまでにしておきなさい。それと貴方、その話は本当なのでしょうね?」
「本当、というのはどういう意味かね」
「本当にアミュエリザの力が必要なの? もっともらしいことを言って、アミュエリザをただ引き込もうとしているだけということはないわよね」
ここまで来てもヴァミリオラの姉バカぶりはどうにもならないようだ。
「それも何度も言うが、私にそのような考えはまったくない。そもそも娘と同じ年齢の少女になにか思うはずもなかろう」
「貴方の周りを見ていると到底そうは思えないのだけれど。まあいいわ。今はこの国の事が先よ。貴方の女癖については後で別に話し合いましょう」
いや別に、こっちには話し合うことなんてなにもないんだが……。
などと言うと堂々巡りになりそうなので、俺はまた曖昧にうなずくだけとどめるのであった。
王位簒奪(仮)ルートが決まったからには一気だ。
次に行うべきは、例の裁判事件で王都から出て行った元宰相たちの説得である。
彼らはもともと王家派に属する有力な貴族たちで、政治に対するその清廉さゆえ王から疎まれ罪を被せられそうになった者たちだ。普通に考えればサクッと説得できそうなものだが、こういう時ほど全力で挑まなければならないのは前世の経験でもよくわかっている。簡単に取れそうな契約ほど直前で落とし穴があるものなのだ。
というわけで、先触れが着いたタイミングを見計らって、俺はローテローザ公を連れて前王国宰相、マルダンフ侯爵の館へと向かった。
ちなみに『転移魔法』で馬車ごと侯爵邸の近くの森に転移した。『転移魔法』自体はまだ公にはできないので、お忍びという名目で護衛はクーラリアとアミュエリザのみである。なお馬車は御者に扮した俺が操った。
「おお、ブラウモント公、ローテローザ公! お二方のご来臨を当家一同歓迎いたします! どうぞこちらへ」
王国宰相を務めていたマルダンフ侯爵は初老の紳士である。茶に近い金髪を丁寧に整え、同じ色の口髭を切りそろえ、その顔は常に柔和な笑みをたたえている。もっともさすがに先の冤罪騒ぎの時はその笑みも消えていたが、今日はいつもより機嫌が良いようだ。
応接の間に通され、使用人たちが一通り茶などを用意すると、侯爵はすでにこちらの意を汲んでか、子息と思われる壮年の紳士以外は皆退室させた。
「まずは先日の件、お二方にはこの身をお救いいただき、大変感謝をしております。あのままでは間違いなくこの家まで断絶の憂き目にあっていたでしょう。本来ならば私が直接足を向けねばならぬところ、このような形になったことをお詫び申し上げます」
「マルダンフ卿の立場では、我々のところに直接訪れたなら王家から余計に睨まれよう。礼はすでに十分受け取っているゆえ気にすることではない」
「ありがとうございます。して、今日はどのようなお話がお聞かせいただけるのでしょうか?」
「うむ。実はなマルダンフ卿、我がブラウモント家とこちらのローテローザ家は、共同して現国王陛下に退位を求めようと考えている」
「……っ!?」
目をわずかに開くマルダンフ侯爵。隣に座る子息も同じ反応だが、二人ともリアクションが小さいのは、すでに予想をしてたからかもしれない。
「理由はいくつかある。一つは現国王陛下に王としての器がないこと。一つは現国王が故意に王都を魔族に襲わせ、その機に乗じて先代王を弑して王位についたこと。一つは今の王家の陰に魔族の存在があること。もちろん先日の卿らに対する仕打ちもそれらに含まれる」
「それは……特に王都を襲わせた件や、先代王陛下を弑されたという証拠などはあるのでございましょうか?」
「ゲントロノフ公も関わっていることゆえ、物的証拠はないであろうな。ただ証人となりうる者は何人かいる。一人はゲントロノフ公のご令孫だ」
俺の言葉に、マルダンフ侯爵はわずかに身を乗り出した。




