03 予想外×2
「これはブラウモント公。このような場所に度々足を運ばれるのはあまりよろしくないのではありませんか?」
俺が王都の騎士団長執務室を訪れると、女騎士団長のリン・ラシュアルはかすかに眉を潜めつつ、探るような目を向けてきた。
「武の頂を目指す者同士、多少親しくしていたとてそこまで怪しむ者もおるまい」
「我らに三大公と騎士団長という肩書がなければ同意をしたのですが。ともかくこちらへどうぞ」
レギルの件に違和感を持った俺は、『転移魔法』で王都に来ると、その足でリンの元を訪れた。宮廷魔導師団の団長であるレギルと王国騎士団の団長であるリンは、いわばこの王国の双璧である。もちろん彼らは互いにある程度の交流もあるはずで、だからこそリンにレギルの話を聞きに来たのである。
リンにうながされソファに座る。
「急に訪れたことは謝ろう。ところで先日は失礼したが、遺跡の調査についてはどうなったのかな?」
「公爵閣下のおっしゃったとおり、扉を開くことはかないませんでした」
「破壊は試みたのだろう?」
「私のスキルでは歯が立ちませんでした。団員とも力を合わせたのですが、多少傷つけることができた程度で」
そう言って、対面に座るリンは渋い顔をした。
なるほどそこはツクヨミの言った通りのようだ。とすると、なおさらレギルが破壊できたことが異常に思える。
「あの遺跡は特殊なものゆえ仕方ないであろう。しかし国王陛下はまだ遺跡を諦めていないご様子だが」
「ええ。宮廷魔導師団団長のレギルを中心とする部隊をすでに派遣しています」
そう答えたリンだが、その時彼女は非常に苦しそうに顔をしかめた。明らかになにか事情がありそうな雰囲気だ。
「しかし貴殿のスキルが通じなのであれば、いかにレギル殿といえど扉をどうにかできるとも思えないが」
「ええ、そう思うのですが……。レギルは新しく強力な魔法を編み出したらしく、それで破壊させるという話で……」
さらに苦しそうな表情を見せるリン。ますます裏になにかあるな。
「その新しい魔法は危険なものなのかね?」
「はい。部下に探らせたところ、『ソウルバーストボム』という名前の魔法だとわかったのですが……」
「なに……!?」
俺はそこで、つい語気を荒げてしまった。
なぜなら『ソウルバーストボム』という魔法は、ゲーム通りのものであるなら、マークスチュアートが行う『人体改造』に匹敵するかそれ以上に非人道的なエグいものなのである。
「公爵閣下はご存じなのですか?」
「噂だけだがな。『ソウルバーストボム』という魔法は、人の持つ魔力を暴走させて、その人間ごと爆発させるものだと聞いている」
俺の言葉に、リンは激しくうなずいた。
そう、『ソウルバーストボム』は、要するに人間を爆弾にするという胸糞の悪すぎる魔法なのである。しかしゲームの設定からいけば、『ソウルバーストボム』はこの段階で表に出てくるものでもなく、しかもレギルが使うような魔法では決してなかったはずだ。
しかしなるほど、それを聞かされていたとなればリンの苦しそうな態度に納得はいく。
「その通りです。陛下から話をお聞きした時はさすがに私も驚いてしまい、異議を申し立てようとしたのですが聞いてもらえず、レギルに会いに行っても断られてしまう状況なのです」
「ふむ、それは由々しき事態だな。ところでそのレギルなのだが、ラシュアル団長から見て彼はどのような人間であろうか」
「は、レギルの人間性ですか?」
なぜこんな時に、と思ったのか、少し戸惑うようなそぶりを見せたリンだが、すぐに話しはじめた。
「これはすべて私が勝手に持っている印象ですが、レギルは非常に自信家で、かつ自尊心の高い男です。もちろんそれを裏打ちする実力はありますが、ことあるごとにそれをひけらかすようなところがあります。部下にも高い水準を求めるのですが、それを満たさない者に対してはかなり冷酷な態度で接しているように感じます。己の職責に対しては真摯な人間なので、その裏返しかもしれませんが」
「彼がよく接触する人間などはわからないだろうか?」
「ゲントロノフ公と懇意にしているという話は聞いたことがあります」
「奴隷を多く雇っているという話は?」
「部下から聞いたことがあります。今になって考えると恐ろしい想像が頭を掠めます」
「ふむ……」
彼の人間性については、自信家というあたりはゲーム通りで、リアル世界でのマークスチュアートの記憶にもある通りであった。部下に対して冷酷な一面があるというのは初めて聞いたが、そこまで驚くほどのものでもないだろう。
問題はやはり奴隷を集めていたという情報だ。遺跡の扉が破壊されたことと合わせて考えると、リンの言う「恐ろしい想像」はすでに「想像」ではないだろう。
「やはり国王陛下とレギルは強く止めるべきでした。私としたことが……」
「貴殿にもできることとできぬことがある。貴殿が強く出たとて、事態が変わることなどなかったであろう。自分を責める必要はない」
俺の言葉に、リンはゆっくりとうなずいた。
「……ありがとうございます。国王陛下にもう一度中止を進言するのがよいと思いますが、しかしもうレギルは出発してしまいました。恐らくすでに遺跡には着いてしまっているでしょう」
「彼らの足では大森林までは時間がかかろう。遺跡にたどりついているとは思えないが」
ととぼけて聞いてみると、リンは首を横に振った。
「……いえ、実は大森林の近くまでは、『転移の魔道具』というもので一瞬のうちにたどり着けるのです。ですから、すでにレギルたちは遺跡へと到着しているはずです」




