02 新たな情報
とりあえず王位簒奪とかいう危険な話は保留にして、ヴァミリオラ、アミュエリザ、オルティアナたちを案内して、『大精霊』イヴリシアに会わせたり、ゴーレム部隊を見学したり、Aランクパーティ『紅蓮の息吹』を紹介したり、錬金術棟を見てもらって獣人族の娘たちの扱いを確認してもらったりした。
「貴方はもう王として立つ以外の道はないわ。マリアンロッテのこともそうだけれど、これらのことがすべて王家に知られれば対立することは避けられない。さっさと派閥をまとめておきなさい」
錬金術棟を出る時に、ヴァミリオラに多少呆れたような顔でそんなことを言われてしまった。
「私はただこの領を守りたいだけなのだが」
「もう無理よ。魔族との全面戦争が始まる今、すぐにでも国内をまとめ直さなければならないけれど、あの王家にその力はない。さっさとあの色ボケ王の悪事を暴いて引きずり下ろすのね。もちろん私も全面的に協力するわ」
「……考えておこう」
きっと地球の歴史でもこうやってまわりにおだてられて王位簒奪とかやっちゃった人もいたんだろうな。
などと思いつつ、その後ヴァミリオラ、アミュエリザ姉妹はローテローザ領へ、とオルティアナは都へと『転移魔法』で送り届けた。
そこから数日間は、領地にて公務を行う日々が続いた。
執務室にはフォルシーナの他にツクヨミも常駐するようになった。それを決めた時はフォルシーナが微妙に咎めるような視線を向けて来たのだが、フォルシーナはツクヨミをどうしても人間の子どものように見てしまうようだ。
俺自身そう感じる時もなくはない。が、ツクヨミに書類の処理などをさせると、彼女が古代超文明の産物なのだということは痛いほど理解できるので、彼女を幼女として扱う気持ちは自然薄くなっていく。
その日もフォルシーナ、ツクヨミと共に執務をしていると、ダークエルフ忍者のアラムンドが現れた。
「お館様、お話がございます」
「聞こう」
「王家が再び南部大森林の遺跡へ部隊を派遣しました。今度の部隊長は宮廷魔導師団団長のレギン・レギルです。人数は副団長も含めて10名ほど。それに加えて奴隷を数名連れているようです」
「ふむ。騎士団長が失敗して次の手を打ったか。しかし騎士団長がこじ開けられなかった遺跡の扉を魔導師団長が開けられるかは難しいところだな」
というかツクヨミの話が本当ならまず不可能だろう。団長のレギルは強力な魔導師だが、どちらかというと範囲攻撃タイプで、絶対的な攻撃力は騎士団長リンに劣るはずだ。
「それと国王が三大公の残り二家からも王妃を求めると公言を始めました。今のところは出入りの商人の噂話の段階ですが、信憑性は高いと思われます」
横で聞いていたフォルシーナが一瞬で『氷の令嬢』面になる。彼女は相当嫌ってるからなあ、ロークスのことは。
「マリアンロッテについてはなにも漏れてこないのか?」
「は。依然として捜索隊は出しているようですが、マリアンロッテ様についての噂は聞こえてきません」
「ふむ……」
遺跡前での様子だと、騎士団長リンはマリアンロッテに気づいたような素振りも見せていたが、ロークスには伝えていないのかもしれない。リンの性格ならマリアンロッテをロークスの元に戻さない方がよいと考えてもおかしくはない。
「お父様、いかがなさるおつもりですか?」
「国王がお前を妃に寄越せと言ってきた時のことか?」
「はい。今のお話だとアミュエリザも同時に呼ばれることになります。ローテローザ公がそれを聞くとは思えません。お父様のお考え次第では……」
「王家との対立が決定的になりうるな。困ったものだ」
と息を吐いて背もたれに身体を預ける。
と、フォルシーナがまだこちらをじっと見ているのに気づいた。その妙に圧のある目つきに俺は一瞬ビクッとなってしまう。
「お父様はもしや私を王家に、あの国王に差し出す気がおありですか? もちろんお父様が行けとおっしゃるなら私は従いますが」
「む……いや、無論その気はない。何度も言うが、お前は私にとって大切な存在、手の内から出す気はない」
だって知らないうちに断罪ルート復活してたら怖いし。
ともかくその答えで満足したのか、フォルシーナの表情から『氷の令嬢』面が消えた。
「それを聞いて安心いたしました。では近いうちにお父様とローテローザ公の派閥と、王家とゲントロノフ公の一派で戦うことになりますね」
「う、うむ……。まずは正式に王家が言ってきてからの話だがな。まだこの話は内密にせよフォルシーナ」
「はい、かしこまりました」
と答える割にフォルシーナの瞳になにか怪しい光が宿っている気もするんだが……。
もう一度念を押しておくか、と考えたところで、唐突にツクヨミが立ち上がった。
「研究所近くに大きな魔力反応を確認。魔力反応が爆発的に増大。研究所の正面ゲート破損。内部に複数の人間が侵入しました」
「なに……?」
「侵入者は防衛システムと交戦しながら奥へと向かっています。マスター、どうなさいますか?」
これはいきなりの展開だ。
魔導師団団長のレギルが遺跡に向かっていたのは先ほど聞いたところだが、もう遺跡に到達し、さらには扉を破壊して侵入するというのは想定外すぎる。
「『実験体1号』の再起動は不可能だな?」
「はいマスター。『実験体1号』の再起動には、停止した時と同じ起動プロトコルが必要になります」
「再起動自体は可能ということか?」
「不可能ではありません。ただし侵入者はその手段を持っていないと推定されます」
「ふむ……」
これはちょっとミスったな。
まさか再起動が可能だったとは思わなかった。『実験体0号』ことツクヨミに気を取られて、そこを見逃してしまったか。
「侵入者が『実験体1号』へ接触することは避けたい。なにか方法はあるか?」
「侵入者を最奥部手前の第2研究室へ誘導できます。そちらには『試作機1号』がありますが、『試作機1号』は『実験体1号』から再生能力と自己強化能力を省略したもので、流出してもそこまで脅威ではありません」
「なるほど、ではそうしてくれ」
どうやら最悪の事態は避けられそうだ。『実験体1号』のヤバさは再生能力と自己強化能力にあるので、それがなければ少し強いだけのロボット兵器でしかない。
しかしレギルの遺跡到着の早さと遺跡の扉を破壊したことについては強い違和感が残る。
すでにシナリオは完全崩壊しているこの世界だけに、どうやらレギルについても俺の知らないことがありそうだ。
これは一度事情を知っていそうな人間に話を聞いておいたほうがいいかもしれない。




