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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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01 ツクヨミ

「ではツクヨミ、お前はなにができるのか教えてもらえるか」


 南部大森林の遺跡から帰還した翌日、俺は執務室に『実験体0号』改め『ツクヨミ』を呼び出した。もちろん名前はフォルシーナたちが考えたものなのだが、なぜ日本神話の神様の名前なのか……というのは考えたらだめだな。


 白いワンピース姿の黒髪幼女は、応接セットのソファにちょこんと座ると、両手を膝の上に置いて背筋を伸ばしてそのまま置物のように固まっている。


 なおその席にはヴァミリオラや聖女オルティアナが座り、まわりにはフォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ミアール、クーラリアら遺跡調査組が立っている。ソファの脇には家宰のミルダートもいて俺たちのやりとりを見守っている。


「はいマスター。当機の機能としては……」


「待て、まず自分のことは『私』と呼称せよ。機能ではなく、『できること』と言うように。なるべく自分が人間であるような言動を心掛けよ」


「了解しました。私はまず魔法と同等の力を使用することができます。額、両腕先、両膝に魔導力場発生装置が埋め込まれており、これらを組み合わせることで魔法に近い現象を起こします。またそれらを駆使して戦闘も可能です。格闘戦能力も持ちますが、身体の大きさに制限がありそこまで強力ではありません。現在は単騎でオーガを倒せる程度ですが、自己進化により能力を向上させることはできます」


「戦闘に特化しているわけではないのだな」


「私は『実験体1号』とは異なり、情報の収集、分析能力に特化しています。できることの二つ目がそちらになります。研究所のセンサーとリンクすることで広範囲の魔導力変動を感知したり、数値などの情報を高速で処理したり、対象の構造などを分析し、錬金術レシピを作成したりすることなどができます」


「ふむ……。センサー付きのAIみたいなものか。しかし錬金術レシピまで作成できるというのは驚きだな」


「私ができるのは、あくまで今存在する物のレシピを作成することだけです。存在しないもののレシピを創造することはできません」


「なるほど、そこは人には及ばぬわけか。情報処理というのも気になるな。ミルダート、机の上の書類を取ってくれぬか」


「は、お館様」


 ミルダートが渡してきた書類は30枚ほど。すべて俺が今日の午前に決済しなければならない案件である。いや多すぎでしょ普通に、と思いつつ、それをツクヨミに渡す。


「この書類にすべて目を通し、不備があれば指摘せよ」


「了解しましたマスター」


 ツクヨミは書類を受け取ると、1枚数秒のペースで次々と目を通し始める。1分ほどですべて終了し、ツクヨミはこちらに顔を向けた。


「32枚の書類に目を通しました。不備については、誤字脱字が6件、数値不正が2件、複数の案件について、相互干渉の可能性があるものが2件、統合により効率化できる可能性があるものが1件確認できました。ただし相互干渉、および統合については、さらなる情報の収集が必要です」


「すべて詳細に報告せよ」


 指摘をさせると、たしかにツクヨミが言っていた通りのミスがあり、また統合できそうな事業、効率化できそうな事業があったのだが……いやこれ、もしかして前世のAIより優秀じゃない!?


 前世で欲しかったよツクヨミちゃん。しかしこれは正直兵器などよりよほど価値のある存在である。というか完全にズル(チート)だ。事務処理チートって領地運営的に一番欲しい能力ではないだろうか。


 ミルダートもその価値に気づいて目を見張っているし、ヴァミリオラも領主としてその価値を理解したらしく怪しい目をツクヨミに向けている。いやヴァミリオラは単に趣味か。


「なるほど大したものだ。ミルダート、今後彼女を私の事務補佐として使いたいと思うがどうか?」


「しばらくは様子を見た方がよいとは思いますが、使うことについては賛成いたします」


「うむ。頼り過ぎぬ程度に手伝ってもらうことにしよう。さてツクヨミ、研究所のセンサーと連動して魔導力変動を感知すると言っていたが、それはどのような能力かね?」


「私が開発された研究所には、この大陸全土を走査範囲とする魔導力センサーが設置されいています。そちらの情報にアクセスし、魔導力の不自然な変動などを感知することができます」


「具体的にはなにを感知できるのだ」


「大出力魔道具などの起動や、大規模なモンスターの移動、マスターのような強力な個体の位置などを感知できます」


 え、それって魔族の四至将の場所とか、他中ボス大ボスの場所とか一発でわかるってことだよね。それもとんでもないチートなんじゃ……。


「ただ残念ながら、研究所の魔導エネルギーが低下しているため、走査範囲は狭まっています。現状で走査できるのは、研究所を中心として、ちょうど今私がいる場所までの距離を半径とした円の範囲内です」


「ふむ、この王国内の半分くらいか。範囲を広げるにはどうしたらよいのだ?」


「マスターが研究所を稼働させましたので、時間によって回復します。100%の状態になるまではおよそ3カ月ほどかかる予定です」


「ならば結構。ところで研究所は現在無事なのか? 我らの後に騎士団長らが扉を開けようとしたはずだが」


「研究所にアクセスします。お待ちください」


 そう言うと同時にツクヨミの耳のあたりが銀色の液体金属に変化し、それがうねうねと変形したかと思うとヘッドセットのようなものが出現した。耳当ての部分から上に羽のようなものが突き出ているのだが、たぶんアンテナかなにかだろう。それだけで黒髪幼女に急にアンドロイド感が出てくるから不思議である。  


「アクセス完了。マスターが騎士団長と呼ぶ人物は、扉を物理的に破壊をしようとしたようですが、達成できず諦めたようです。現在研究所は稼働状態に入ったため、外壁の自己修復機能も起動しています。扉の破壊は人の持つ力では非常に困難です」


 そんな機能があったのは知らなかったな。ゲームじゃ正規の方法で遺跡を動かしてなかったから稼働してなかったということか。


「ならばよい。さて諸君、ツクヨミについてなにかあるかね?」


 ここまでほとんど俺が聞いてしまったが、フォルシーナたちも確認したいことがあるだろう。


 と思っていたのだが、皆俺の方をじっと見ているばかりである。


「私になにかあるのか?」


「貴方、今のこの娘……ツクヨミの話をすべて理解できているの?」


 最初に聞いてきたのはヴァミリオラだった。他の娘たちも、ミルダートまでうなずいている。


「そうだな、まあおおよそのところは。ツクヨミが想像以上に有能ということは理解した」


「そう……。もちろんわたくしも彼女の言うことが理解できないわけではないのだけれど、ただその価値を正確に理解するには時間がかかりそうに思うわ。彼女の言っていることはあまりに常識を外れているもの」


 ああ、たしかに最後の研究所とリンクして云々というのは、この世界の常識からすると少し理解に時間がかかるかもしれない。俺は前世の知識でなんとなくイメージできるが、この世界はそもそもAIとかレーダーとか無線とか、そういう概念すらないからなあ。


「たしかにそうかもしれぬが、このようなものはすぐに慣れる。問題は、彼女の能力が非常に有用だということだ。特に領地経営をする上で重要というのはローテローザ公も感じたであろう?」


「そうね、それはさすがに感じたわ。そして貴方がどうしてあの遺跡にこだわっていたのかも理解したわ」


「それはどういうことだ?」


「この娘の能力があれば、内政の多くの部分を効率的に処理できるのでしょう? それは間違いなく、貴方が王として立つのに必要な力だわ」


 再び飛び出すとんでも発言に、しかしその場にいた全員が納得するような顔になった。


 いやちょっと、少なくともミルダートくらいは苦い顔をするべきだと思うんだが、ストッパー役の老紳士すら「なるほど」みたいな顔なのはどうなのか。


 フォルシーナに至っては両手を胸の前で合わせて「お父様、やはり大陸の王となるおつもりなのですね」などと口走っている。


「フォルシーナ、勘違いをするな。このツクヨミは……」


「いえお父様、わかっております。まだその時ではないとおっしゃるのですね。たしかに民衆から見れば、今の王家はまだ表立って致命的な失策はありません。それが表に出た時が、お父様が立たれる時と理解しております」


「いや待て……」


 と俺が返す前に、食い気味にマリアンロッテが身を乗り出してくる。


「公爵様、今のままでは必ず王国民が不幸になります。それをお救いくださるのは公爵様しかいないと私は信じております。どうかどうか、この国を正しき方向へお導きください。私も微力ながら、この身を捧げさせていただきます」


「ええと……」


 次はアミュエリザだ。


「この国が危ういというのは姉上からも、マリアンロッテからも聞いております。公爵様、どうかここでお立ちください。姉もそれを願っておりますし、私も公爵様こそがこの国の王に相応しいと考えています」


「ええ……」


 その後も聖女オルティアナに「教皇猊下にお伝えしておきますね!」とか、ミアールに「お館様とお嬢様に最後までついてまいります」とか、クーラリアに「ご主人様なら楽勝だと思うぜます」とか言われたりして、完全に退路が断たれてしまった。


 さすがにここまで来れば王位簒奪ルートに入っても断罪はないだろうが……そもそもの問題は俺自身にその気がないってことなんだよな。なぜかいくらそう伝えても信じてもらえないのだが。

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