10 実験体1号 2
『侵入者確認。敵対行動ヲ感知。排除ヲ開始シマス』
『実験体1号』が二本の銃器アームを前に突き出し、その先端から光線を発射してくる。レーザーに見えるが、実際は光属性の中級魔法『シャイニングレイ』である。
光線は『アースウォール』の壁に阻まれ、光と溶けた岩の飛沫を飛び散らせる。
『アイスジャベリン!』
『フレイムジャベリン!』
フォルシーナとヴァミリオラが放った氷と炎の槍が『実験体1号』の本体に直撃し、その巨体をグラッと傾かせる。
「攻撃!」
光線攻撃が一瞬止んだのを確認し、俺とアミュエリザ、ミアール、クーラリアが前に出る。全員が『縮地』スキルで一気に距離をつめていく。
俺は正面から接近し、『実験体1号』に向かって剣の切っ先を突き付けた。ゲーム通り『挑発』はメカっぽい『実験体1号』にも有効で、『実験体1号』は鞭の付いたアームを振り回し俺を攻撃してきた。
「この程度の攻撃、私に届くと思うな」
鞭アームは鞭の部分が伸縮する上に、電撃属性のついた非常に面倒なものだ。ゲームでは確率で『麻痺』状態にされるものだったが、残念ながらその変幻自在な攻撃も、高レベル中ボス+『神速』の壁は破れない。鞭の軌道をすべて読み切って躱し、電撃の切れ目を狙って鞭を剣で切断してやると、『実験体1号』の接近戦攻撃能力はほぼ失われた。
俺が注意を引き付けている間に、アミュエリザ、クーラリア、ミアールの前衛組は左右から『実験体1号』の脚を狙いにいった。
しかし『実験体1号』の脚は丸太のように太い上に装甲も厚い。最も攻撃力の高いクーラリア渾身の『燕返し』でも三分の一くらいしか切断できない。
アミュエリザとミアールは強攻撃スキルが刺突系なので、もともと切断には不向きである。それでも連続で突くことによって確実にダメージは与えている。
『実験体1号』がさらに大きく動き出しそうなので、俺も加勢することにする。中ボスの強攻撃スキル『一刀斬』+切断力強化スキル『殻断ち』は、重装甲であろうと一太刀で脚を切断する。二本切断したところで、『実験体1号』の巨体が大きくバランスを崩した。
「『アイスパイル』!」
「『フレイムパイル』!」
フォルシーナとヴァミリオラの放った氷と炎の杭が、『実験体1号』の直上からその背中に突き刺さる。
大ダメージを受けた『実験体1号』は、苦し紛れに背負ったミサイルランチャー風魔道具から、手榴弾のような球体を多数ばらまいた。『ナパームマイン』という武器で、地面で火柱を起こし継続ダメージを与える面倒な攻撃だ。リアルなこの世界だとかなり危険な武器である。
「『ブルータルサイクロン』」
すかさず俺は上級風魔法を発動、飛来する『ナパームマイン』すべてを竜巻に巻き込んで、『実験体1号』の方へ返してやる。
「下がれ!」
俺の指示で、前衛3人が『実験体1号』の足元から飛びのく。直後に『ナパームマイン』がバラバラと『実験体1号』に着弾、その場で激しく火柱を上げた。
『実験体1号』はすでに脚で本体を支えられなくなり、地面でのたうつように暴れるのみになっている。『シャイニングレイ』を放っていたアームも、すでにフォルシーナたちの魔法や、聖女オルティアナの飛び蹴りによって破損して機能していない。
本来ならこれでほぼ勝負ありなのだが――
「お父様、『実験体1号』が再生していませんか?」
フォルシーナが指摘するように、『実験体1号』の切断された脚や破壊されたアームから銀色の液体がにじみ出てきたかと思うと、それがそのまま元のパーツを変化して、破損した部分を再生し始めた。設定ではあの銀色の液体は微小機械の集合体で、それが変形、変質することで修復しているらしい。
「うむ。どうやらあの再生能力を止めないと『実験体1号』は倒せぬようだな。少し調べてみよう」
俺は再生を始めているところを再度切断しつつ、『実験体1号』の背中に飛び乗った。
円盤状の本体の真ん中にハッチのようなものがある。剣で切断して開くと、中には円筒形の魔道具が埋め込まれていた。その魔道具には、電車のつり革のような取っ手が3本突き出している。試しに一本握って動かしてみるがぴくりともしない。代わりに魔道具から声が流れる。
『当機ヲ停止サセルタメニハ、3人ノ高貴ナル乙女ノ力ガ必要デス』
「なんでだよ!」と突っ込みたくなるが、実は一応理由もなくはない。実は古代文明にも三大公のような人間がいて、彼らの娘が力を合わせればこの兵器を止められるよう、安全装置を組み込んでいたという設定が回想シーンで語られるのだ。
「フォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、こちらへ」
俺が呼ぶと、3人は飛ぶようにしてやってきた。妙に嬉しそうな顔なのは出番が来たからということだろうか。
3人の前で、俺はハッチの中の魔道具を指差した。
「この3つの取っ手をそれぞれつかんで、同時に引っ張ってみてほしい。それで再生能力が停止するはずだ」
「はいっ」
3人はしゃがみこんで、それぞれ取っ手をつかんだ。
フォルシーナが「では引っ張りましょう。3、2、1、今!」と声をかけ、同時に全員が取っ手を引く。すると取っ手がガコッという音と共に引き出された。
『3人ノ高貴ナル乙女ノ力ヲ確認。条件クリア。『実験体1号』ノ全機能ヲ停止シマス』
円筒形の魔道具からそんな声が聞こえ、それまで微かに振動していた『実験体1号』の動きがぴたりと停止した。同時に破損個所を覆っていた銀色の液体も床にこぼれ落ち、銀色の水たまりを作ってそれ以上動かなくなった。
「お父様、これで『実験体1号』は討伐できたということでしょうか?」
フォルシーナが立ち上がると、他の2人も姿勢を正して俺に注目した。
「うむ。これで『実験体1号』が再度動きだすことはないであろう。3人ともよくやってくれた」
「しかしこれでは、この『実験体1号』はもう公爵様のお役には立たないのでは?」
マリアンロッテはまだ、俺が『実験体1号』を従えるつもりだと考えているようだ。
「以前も言ったが、私は古代兵器を手元に置くつもりはない。これは人の手に余るものだ。このまま遺跡の中で朽ちさせたほうがよい」
「しかし、公爵様なら有益にお使いになれると思うのですが」
「マリアンロッテ嬢にそう評価されるのは嬉しいのだが――」
俺がさらに言葉を続けようとしたところで、フォルシーナとアミュエリザが食い気味に前に出てきた。
「私もお父様なら有効にお使いになれると思っています」
「あっ、私も同じです。公爵様ならきっと正しくお使いになれると思うのです」
「う、うむ。だが私はそこまで思い上がるつもりはないのだよ」
と謙虚さを装ってみたのだが、2人は微妙に不満そうな顔をした。
「お父様、私の評価は嬉しくありませんか?」
「わ、私はいかがでしょうか?」
「む? いや、まあ、2人にもそう評価されるのも嬉しく思うが……」
どうやらフォルシーナもアミュエリザも気になっているのは違うところらしい。マークスチュアートの頭脳をもってしても、この年頃の女の子が気にするところというのはわかりにくい。
「ともかくこれで『実験体1号』については問題なかろう」
3人をうながして『実験体1号』の上から降り、下で待っていたクーラリアたちの元へ歩いていく。
ヴァミリオラがアミュエリザに「なにもなかった?」と言いながら俺の方をちょっと睨んだりしてくるが、彼女の信頼を得られるのはまだ先のようだ。




