5章 → 6章
―― インテクルース王国 王都 王城 国王執務室
「おいラエルザ、なんでブラウモントが生きてんだよ。アイツの領地はお前のお仲間がメチャクチャにするはずじゃなかったのか?」
「ええ、ドブルザラクは自信満々でそう言っていたのですが。実際右腕であるジーヴァという者を派遣しておりますし、手を抜いてはいなかったと思います」
「じゃあなんで失敗してんだよ。しかもピンピンしてる上に余計なことまでしてきやがって」
「予想よりブラウモント公が強かったということでしょう。ブラウモント領に攻め込んだ部隊は魔族が一人も生還していないので、詳細はわかりませんが」
「魔族が文字通り全滅ってか。そんなことありえんのかよ」
「魔族自体の数は多くありませんから、可能性はあります。それにあのブラウモント公、近くで見ましたが背筋が凍りました。我ら四至将の上を行く強者かもしれません」
「ああん? たしかに多少使えるみたいだが、そこまでじゃねえだろうよ」
「……そうかもしれません。いずれにせよ、魔宰相は南下を諦めていません。遠からず再び軍勢を差し向けてくるでしょう。今度はより大部隊を派遣するはずです」
「まあそれは例の遺跡の古代兵器とかでどうにでもなんだろ。それより俺がその魔宰相とやらをぶっ飛ばしたあと、キチンと魔王とは話がつけられるんだろうなあ?」
「ええ、それは間違いなく。魔族は陛下の大陸統一のお手伝いをさせていただきます」
「それと女だぞ。魔族の女は美味いって聞いてるからよ。そこも忘れんなよ」
「それも必ず。魔族は強い異性に強く惹かれますので」
「はん。じゃあ問題ねえな。しかしクソ、ブラウモントは気に入らねえな。オルティアナまで奴の話ばかりしやがるし。まあオルティアナはオルティアナで俺の邪魔をしやがったし、そのうち力ずくでモノにしてやるか。マリアンロッテでもいりゃあ楽しめたんだがな。王ってのはいい女抱き放題なんじゃなかったのかよ。ホントクソだぜ」
―― ブラウモント公爵邸 執務室
「ミルダート、少しよろしいかしら」
「お嬢様、いかがなされました」
「単刀直入に聞きます。執事として、ミルダートはお父様がこの国の王になるべきと思いますか?」
「そうですな、お館様から王都や王城の様子はうかがっておりますが、今の王家が極めて危険な状態にあるのは確かと思われます」
「ええ」
「そして、今の王家には、残念ながら現国王の代わりになる人材はおりません。噂では先代王妃殿下が身ごもられていたそうですが、それもどうなっていらっしゃるのかは不明ですし、もし御子が生まれても直ちに王に、とはならぬでしょう」
「その通りだと思います」
「王国の歴史をひもとくと、そのような場合、三大公のいずれかが後見人となって幼い王を補佐することになっております」
「とりあえずその地位にお父様がつくべき、と?」
「穏当なところとしては。ただし前提として、当然現国王が退位をすることが必要です。残念ながら、現状ではまだ現国王の退位を迫るだけの理由はありません。もちろん今回、現国王が魔族との関係の中で父王の位を奪ったということが証明されれば別ですが」
「そのようなもの、権力を握ってしまえばどうとでもなるのではありませんか?」
「……お嬢様は策士でいらっしゃいますな。もちろん十分に可能でしょう。そもそも状況的には黒ですからな」
「そうですよね。しかしお父様はいまひとつ乗り気ではいらっしゃらないよう。民のためにもそれが一番だと理解していらっしゃるはずなのだけれど」
「お館様はお優しいかたですから、現国王にも思うところがあるのかも知れません。まだお嬢様と同じ歳ですからな」
「マリアンロッテの話を聞く限りでは、同じ歳としても救いようがない人間だとは思うのですけれど。立太子の儀の時の態度もひどいものでしたから」
「どうやらそのようですな。しかしお館様にもお考えがあるのでしょう。私としては、お館様がどのような決断を下されても、それをお支えするのみです」
「ミルダートのことは二度と得られぬ忠臣とお父様もたいそう信頼なさっています。もしお父様がこの国の王として立たれる時が来たら、その時も頼みますね」
「ははっ」
―― ブラウモント公爵邸 フォルシーナ私室
「ミアールはお父様が王になることは賛成?」
「えっ!? あ、はい、そうですね、賛成です」
「そうよね。どうにかお父様をその気にさせることはできないかしら」
「お嬢様、お館様にはなにかまだお考えがあるのではないでしょうか? 古代文明の兵器というものを手中に収めてから動かれるつもりのようですし」
「そう思いたいのだけれど、昨日の様子ではなにかまだ迷っていらっしゃるようなのよ。他にこの国を救う手立てはないと思うのだけれど」
「ですが聖女オルティアナ様も手の内に引き入れられたようですし、ローテローザ公爵様もお味方になっていらっしゃいます。マリアンロッテ様も同じですから、そういった地盤固めをなさっているのではありませんか?」
「ミアールは、お父様の情の多いなさりようをそのようにとらえているのね。私はさすがに聖女様まで連れてくるというのを聞いて驚いてしまったのだけれど」
「大精霊様をこの地に招かれたことすらこの領地のためになっておりますし、それがお館様のなさり方なのかと思います」
「ということは、この後もお父様はあちこちの女性を手の内に入れるということ?」
「例えば王国騎士団のラシュアル団長も独身の若い女性ですし、宮廷にはまだ有能な女性も多くいらっしゃるでしょう。そういった方々を手に入れるところまで視野に入れていらっしゃる可能性もあるかと」
「……そう。ところでお父様が手の内に入れようとする女性の中に、私は入っているのかしら」
「えっ!? ええと、それは、当然一番に入っていると思うのですが……」
「そうよね。とすると、なおさらお父様は王にならなければいけないはずなのよ」
「それはなぜでしょうか?」
「王になって、王国法を変える。そうしないとお父様は真の意味で私を手に入れられないの」
「??? 申し訳ありません、お嬢様のおっしゃりたいことがわからないのですが……」
「あら、そう? ならこれはミアールへの試験としておきましょうか。答えがわかったら聞かせてね。ふふふっ」




