24 大森林探索準備完了
翌日、フォルシーナたちに出発の準備をさせつつ、俺は『転移魔法』で王都へ戻った。
もちろんヴァミリオラと聖女オルティアナに連絡をとるためだが、最初に王都のローテローザ公爵邸に行くと、運よく聖女オルティアナもそこにいた。
応接の間で2人と対面し、明後日に大森林に行くことを伝えると、意外とあっさりと受け止められてしまった。2人とも公務のある身であり、さすがに文句の一つでも言われるかと思っていたのだが。
代わりにヴァミリオラが質問をしてきた。
「ずいぶんと急な話になったけれど、理由はあるのよね?」
「うむ。実は昨日王国騎士団のラシュアル団長に探りをいれてみたのだが、どうも騎士団長自ら遺跡調査に赴くよう、国王から命じられたらしい」
「リンが? 今彼女を王都から動かすなんて、あの色ボケ王なにを考えているのかしら」
そういえばヴァミリオラは騎士団長リンとも仲がいいのだった。まあヴァミリオラ、聖女オルティアナ、騎士団長リンは年が近いからな。実はゲームシナリオ的には全員アレな最期を迎える仲間(?)同士でもある。
「そういうわけで、こちらも急ぎ出発しなければならなくなった。了承して対応してもらえるとありがたい」
「すでに教皇猊下には許可をいただいているので、私は大丈夫です!」
と昨日から妙に力の入っているオルティアナ。フンスという鼻息まで聞こえてくるようなほどである。ただヴァミリオラの方は少し思案顔だ。
「私自身は問題ないけれど、貴方はアミュエリザを連れて行くと言っていたわよね? アミュエリザがいるのはローテローザ領よ。彼女を連れてくるだけでも日数がかかるのだけれど」
「それは問題ない。私が『転移魔法』を使えるようになったのでな」
「『転移魔法』!?」
ヴァミリオラとオルティアナがハモって聞き返す。そりゃ驚くよな。
「うむ。実はすでに昨日一度我が領に戻ってから、今再び王都に来たのだ。ローテローザ公さえよければ今日この後領地まで送ろう」
「貴方、それは本気で言っているの? 『転移魔法』なんて、そんなものが実際に存在するとは聞いたこともないのだけれど」
「こればかりはその目で見てもらわねばどうにもならんな。論より証拠と言う言葉もある。今すぐ体験していただこう」
というわけで、俺は立ち上がり、同じく立ったヴァミリオラとオルティアナに近くに寄るように言う。
「では行くぞ」
『転移魔法』を発動すると足元に魔法陣が現れ、俺たちは光に包まれる。次の瞬間俺とヴァミリオラとオルティアナの3人は別の部屋……ブラウモント領の公爵邸の応接間にいた。
「ちょっ……、ここはどこなの?」
「すごいです、本当に転移したのですね!」
「ようこそ我が領地へ。それと聖女オルティアナ、マリアンロッテ嬢に会わせてさしあげよう」
まだ信じられないといったふうのヴァミリオラと、目を輝かせているオルティアナを連れて執務室へと向かう。
執務室ではフォルシーナたち4人が、道具を揃えて点検をしている最中であった。
「邪魔をするぞ。ローテローザ公と聖女オルティアナがいらっしゃったので皆挨拶をせよ」
「お父様、お帰りなさいませ」
フォルシーナたちには2人を連れてくることは伝えてあるので特に驚いたりはしない。全員挨拶をした後、マリアンロッテがオルティアナのところにいって抱き合った。仲がいいというのは本当らしい。ゲーム内では見られなかった光景に、俺は少しだけゲーマー的な感動を覚える。
「マリアンロッテ、姿が見えず心配しましたよ。お話は聞きました、大変な思いをしたのですね」
「はいオルティアナ様。ブラウモント公爵様が受け入れてくださらなければ、私は寄る辺がなくなるところでした」
「公爵様には感謝をしなければいけませんね。ああ本当にマリアンロッテが無事でよかった。貴女が王家に輿入れすると聞いたときは本当に胸がつぶれるかと思いました」
ん~、どうやら聖女様も王家に対する評価は微妙に低いようだ。まあ美人だし、なんとなく理由は察せられるが……俺は同じようにならないよう注意しよう。ただでさえ胡散臭い裏切り糸目おじさんだしなあ。
と思っていると、ヴァミリオラがスッと近寄ってきた。
「本当に貴方の領都まで移動したのね。『転移魔法』、その存在は信じるわ。そして貴方がそれを使えるというのもね」
「それは重畳」
「ただ貴方、マリアンロッテを保護しているのはいいけれど、王家に渡すつもりはあるの?」
「いや、話を聞く限り、彼女を戻すのはいささか問題がありそうなのでな。それに魔族がいる場所に行かせるわけにもいくまい」
「そう。領主としては難しいところでしょうけど、わたくしはその考えを支持するわ。ただ、彼女を手元に置いておくということは……わかっているわよね?」
「なんの話だ?」
「やはり貴方が王家を打倒して王にならなければ収まらないという話よ。王の婚約者を奪ったことになるのだから、王家とぶつかることは避けられないでしょう?」
「む……」
「奪った」というのは冤罪ではあるが、言われてみれば表面上は確かにそうである。どんな理由をつけても、婚約者が奪われるなんてのは王家としても面子が許すはずがない。
「……そうならぬよう、上手くことを運びたいのだがな」
「無理ね。唯一方法があるとすれば、マリアンロッテの存在を隠し通して表向き行方不明のままにしておくことだけね。でもそれは不可能。どんなに厳重に箱にしまっても、美しい宝石の輝きは必ず外に漏れてしまうものよ」
そう言いながらマリアンロッテを見るヴァミリオラの目は、この上なく怪しく光っている。
クーラリアとミアールがその様子を見て「やっぱあの公爵様ヤバくないか? お嬢様も同じ目で見てたよな」「んんっ、クーラリア、失礼ですよ」とか言っている。
それを聞いてか聞かずか、フォルシーナはヴァミリオラに近づいていった。
「ローテローザ公爵様もやはりお父様が王になるべきとお考えなのですね?」
「あらフォルシーナ、そうね、わたくしもそう考えているわ。この国のためにはそれが一番だと思うのよ。もしかして貴女も?」
声をかけられて、ヴァミリオラは嬉しそうに微笑みながら答える。
「はい、私もお父様が王になるべきと考えております。常に民を考え、あらゆる事象に精通し、先を見通して事をなすことのできるお父様こそ、この国の、いえ、この大陸の王となるべきお方です」
「ふふふっ、いいわね。貴女の言う通り、貴女のお父上にはその力があるわ。なにしろ神話伝承の『転移魔法』まで使えるのだものね」
「はい。私はそのようなお父様をずっと側で支えたいと思っています。ローテローザ公爵様も同じお考えであるのは心強く思います」
なんか恐ろしい会話がいきなり2人の間で行われているのだが……。
しかも聖女オルティアナとマリアンロッテがそれに気付いてこっちを見ている。マリアンロッテはともかく、オルティアナに聞かれるのはマズいんじゃないかと思っていると、ヴァミリオラが俺の方を向いた。
「ふふっ、ティアにはすでにこの話はしてあるから安心してちょうだい」
「いや、それは決して安心できる話ではないのだが。それに私にはその気はないと……」
と渋い顔をして見せたのだが、オルティアナが近づいてきて両手を胸の前で組む聖女ポーズをしてくる。
「公爵様。王家が魔族と組んでいることや、先日の裁判の真相などをお聞きするにつれ、この国が危ういというのはラファルフィヌス教会でも感じているところです」
「それはもしや教皇猊下も?」
「はい。すでに王城に複数の魔族が潜んでいる痕跡を見つけておりますし、このままでは民にもよからぬことが起こるであろうと考えております。ですから、ローテローザ公のお話には教皇猊下もかなり興味を示されています」
「私もフォルシーナから話を聞いて、この国を救えるのは公爵様しかいないと思っています。もともとそのつもりで公爵様のところにも参りましたし」
マリアンロッテまでがそんなことを言い始めるので、俺の背中には大量の冷や汗が流れ始めた。
いやなにこれ、なんでそんなに皆で俺に簒奪ムーブさせようとするのだろうか。やはりマークスチュアートは中ボス化から逃れられないのか?
まあ本来断罪してくる側の人間が勧めてくるんだから、簒奪ムーブしても断罪ルートにはいかないだろうけど、別に今のところロークス・ゲントロノフ側の決定的な証拠を押さえているわけでもないしなあ。それに向こうには騎士団長リンと宮廷魔導師団の団長もいる。魔族も背後にいる以上、俺とヴァミリオラで全面的に王都侵攻なんて話になったら双方に甚大な被害がでる。
「……ともかくまだ機は熟しておらぬ。まずは古代文明の兵器を押さえるところからだ」
「なるほど、お父様はまず王家を圧倒できる力を求められるのですね」
「あら、今回のお話ってそういうことだったの。貴方の意図はわかりづらいから、もう少し早く言ってほしいわね」
「力で圧倒すれば戦にもならないということですね。公爵様は民に一番被害の少ない方法を模索されているのですね」
「さすが公爵様です。私も力を尽くします!」
フォルシーナとヴァミリオラ、オルティアナとマリアンロッテが揃ってそんなことを言うと、後ろの方でクーラリアとミアールが「オレはどこまでもご主人様についてくぜ」「お館様のお考えは常に何歩も先を行かれていますね」とかうなずいている。
「いや、古代文明の兵器については破壊、もしくは封印しに行くのだが……」
と訂正を試みるが、なぜが温かい目で見られるばかりで誰も聞いてはくれなかった。




