18 鼎談 2
無邪気そうに身体を乗り出してくる聖女オルティアナ。
そのややバグり気味な対人距離に俺が少しのけぞっていると、ヴァミリオラが慌てて間に割って入ってくれた。
「ティア、その件は後で2人でゆっくり話し合いましょう。それより私たちに聞きたいことがあるのでしょう?」
「あ、そうだったわ。実は昨日の即位式でもその後の晩餐会でも気になったのだけど、ゲントロノフ公爵様のお孫さんのマリアンロッテ様が見当たらなくて、どうしたのかと気になったのです」
「マリアンロッテ? 言われてみればわたくしも見ていないわね。国王の婚約者なのだから即位式や晩餐会に姿を現さないのは不自然だわ。国王もゲントロノフ公も特に慌てた様子はなかったけど……。そういえば捜索隊みたいなのがさかんに動いているという情報はあったわね。もしかして……」
「マリアンロッテ様が行方不明ということ? 彼女は次の聖女候補だったのだけど、それは心配だわ」
「聖女候補ね。でもあの国王に嫁入りしたらその話はなくなるのでしょう?」
「ええまあ……。でもそれとは別に仲が良かったから心配で。なにか病気とかでなければと思っていたのだけど、行方不明となると余計に心配になるわ」
深刻そうな顔をするオルティアナとヴァミリオラ。事情を知っているだけに俺はかなりツラい。いっそのこと話してしまってもいいのかも知れないが……。
「あらどうしたのブラウモント公。随分と訳知り顔だけれど」
「ブラウモント公爵様、もしかしてマリアンロッテ様の行方をご存知なのですか?」
美女二人からジトッとした目とキラキラした目で見られて、俺は色々考えた末、渋々と口を開いた。
「これは彼女のために厳に内密に願いたいのだが、訳あってマリアンロッテ嬢は今、私の領で保護をしているのだ」
「なんですって?」
「それは……いきさつをお聞きしてもよろしいでしょうか」
「うむ、実はな――」
俺はマリアンロッテがロークスの元を脱したいきさつを、ほぼそのまま話した。当然その中でロークスの常軌を逸した行動や、事前に魔族の攻撃を察知していた話なども話さざるを得なかったが、まあそこは自業自得であろう。
「信じがたい話だけれど、現状に対してあまりに辻褄が合いすぎてしまうわね。しかし色々と終わってるいるようねあの色ボケ国王は」
「恐ろしいお話です。民を犠牲にしてまで功を求めるなんて、許されることではありません」
「勘違いしないで欲しいのだが、これはまだ裏が取れていない情報だ。これを元に表立って動くのは厳に慎んでほしい」
「そうね、わたくしもそのあたりは探りを入れてみるわ。開拓部隊が滞留していたサウラントを調べればなにかしら情報は得られるでしょうし」
「それがよかろうな」
「教会としてはなにをするべきでしょうか?」
「今のところは魔族の動きに注意をしておけばいいのではないかと思うが、教皇猊下に相談するのがよかろう」
「はい、そういたします。それにしてもマリアンロッテ様は無事なのですね。それは安心いたしました」
ほっとした表情のオルティアナ。しかし反対にヴァミリオラは俺に再びジト目を向けてくる。
「ところでなぜマリアンロッテはブラウモント公を頼ったのかしら。サウラントからなら、距離的にはわたくしの領のほうがはるかに近いのだけれど」
「それはわからぬが、もしかしたら『立太子の儀』の時に顔を合わせたからかもしれんな。あの時私の剣技も見ているゆえ、頼れると考えたのかもしれぬ」
「ああ、そういえばフォルシーナがそのようなことを言っていた気がするわ、あの時マリアンロッテも貴方の剣技に目を奪われていたと。なるほど、そういうこと」
と納得したような言い方のわりにはジト目の湿度が上がっていくヴァミリオラ。
「王都では私の領は魔族に蹂躙されたという情報が広まっていたようだ。ゆえに捜索の手も伸びてはこず、結果としてはマリアンロッテがこちらに来たのは正解だったということになろう」
「そうですね。ブラウモント公爵様のところなら安全です」
「本当に安全かどうかはわからない気もするけれど、ね」
なんで自分の娘と同い年の女の子に手を出すとか疑われているんだろうなあ。貴族の世界じゃ親子ほどの年の差夫婦なんて珍しくもないが、実際娘がいる俺がそうなるのはありえないだろう。
俺のパブリックイメージに関しては多少の問題があるようだが、俺としては最後に一つ、ヴァミリオラに取り付けておかないといけない約束があった。
「ところでそのマリアンロッテ嬢にかかわる話なのだが、実は近い内に私は南部大森林に足を踏み入れようと考えている。その時に娘のフォルシーナとともに、マリアンロッテ嬢も連れていくつもりでいる」
「いきなりなにを言いだすの? 正気とは思えないけれど」
「そしてその探索に、ローテローザ公の妹御、アミュエリザ嬢も同行してもらいたいのだ」
言葉を無視して俺がそう言うと、ヴァミリオラは掴みかからんばかりに……というか実際に俺の襟首をつかんできた。
「貴方、理由によっては今までの話はすべてご破算になるけれど、それは覚悟の上でしょうね?」
「まあ待て、ローテローザ公の気持ちはわかる。だが話は最後まで聞きたまえ」
俺が冷静に言うと、ヴァミリオラはキッと睨みつけてから、オルティアナにも引っ張られてしぶしぶ手を放した。
「続きを話して」
「うむ。国王が依然として南部大森林に調査隊を送っているのは知っているか?」
「ええ、話は聞いているわ。まだ未練があるのには驚くけれど」
「実は大森林の奥には遺跡があるのだが、そこに今の国王が求めるに足る、とある重要なものが存在する可能性が大きいのだ」
と言うとヴァミリオラは怪訝そうな顔をし、オルティアナは目を輝かせた。
「それは?」
「古代文明の残した大量破壊兵器だ。王家の古い書物に情報があったらしく、それを復活させようとしている可能性があるとのことだ。もちろんそのようなものを今の王家が手に入れたらどうなるか、二人には言うまでもないと思うがどうかね?」
「そんな話……すぐには信じられないわね。それにそれが本当だったとして、どうしてアミュエリザを同行させるなんて話になるのかしら」
「うむ。王家の書物によると、その古代兵器を永久に使用不能にするために、高貴な生まれで、同じ年齢の、強い力を持った少女3人の力が必要なのだそうだ。それに該当するのは、フォルシーナ、マリアンロッテ嬢、そしてアミュエリザ嬢の3人しかいない。それがアミュエリザ嬢を同行させて欲しいと言う理由だ」
俺がそう言うと、ヴァミリオラは眉根をこれ以上ないくらいに寄せて訝しそうな顔をした。
ちなみにオルティアナはなぜか「す、すごいです……! もし行くなら、私もぜひご一緒させてください」と妙に感動していた。




