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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第5章 悪役公爵マークスチュアート、王都で暗躍す

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15 聖女オルティアナ

「いやしかし、まさかヴァミリオラに王位簒奪を勧められるとはな……」


 翌日午前、俺は王都をゆっくりと走る公爵家の馬車の中で独りごちていた。


「これが世界の修正力か? だとしたらロークスの方をなんとかしろって話だが」


 などとあるかどうかもわからない『修正力』に文句を言ってみるが、この事態が変わるわけでもない。


 しかしゲームでは王位を奪ったことで断罪してくるヴァミリオラやフォルシーナが揃って俺に簒奪を勧めてくるのはどういうわけか。そんなに俺を断罪したいのか、というのは俺にゲーム知識があるからで、きっと彼女たちはそういう理由で勧めてるんじゃないだろう。


 ただフォルシーナの言葉は聞き流せるが、ヴァミリオラの言葉はそうはいかない。なぜなら彼女の言葉には一定の説得力があるからだ。


 少なくとも今のままだとこの国が悪い方向に向かう可能性は高い。魔族ミルラエルザとつながっているのはともかく、今回の裁判騒ぎで有力な能臣を失ったばかりでなく、多くの能吏も王城を離れる準備を始めている。冤罪をふっかけてくるような王の元には誰もいたがらないだろうから当然だ。


 とはいえ今のところ表立った新王の失策としてはくだんの冤罪事件のみ。王都を奪還したという功績と相殺する程度のもので、致命的というほどの話ではない。この国について多くの人間はまだそこまで危機感はもっていないだろうし、王位を奪うとしても機が熟しているとはいえない。まあそれも王都奪還から新王即位までの一連の動きに裏がなかったなら、という但し書きが付くのではあるが。


「といっても、そもそも俺は王になりたいとか微塵も思ってないしなあ」


 以前のマークスチュアートとしての記憶や人格も残っているので、自分自身熱病に浮かされたように王位を求めた感覚は残っていなくもない。しかしそれも今となっては、自分の中では黒歴史的な思い出でしかない。


 ちなみにヴァミリオラに「公が王になったらどうだ?」と逆に勧めたら、「わたくしは妹とゆっくり暮らせればいいの。女王なんて面倒なものになる気は毛頭ないわ」と言われてしまった。それは俺も同じなんだがなあ。


 とか考えていると、馬車が減速し、とある建物の前で停まった。


 馬車を下りて見上げると、そこには王都の誇る観光名所、国教ラファルフィヌス教の大聖堂がそびえていた。


 といっても先の王都陥落の余波でその白く美しい建物は随所に破損が見られた。また近くでは炊き出しが行われていて、依然として非常時の雰囲気を保ったままである。


 俺はその炊き出しを行っている神官たちの間に目的の人物を見つけて声をかけた。


「聖女オルティアナ様、急な来訪申し訳ない。先日のお礼をしたいのだが、しばしお時間をいただけないだろうか?」


「これはブラウモント公爵様、わざわざおいで下さいましてありがとうございます。少々お待ちください」


 ピンクブロンドの聖女は、炊き出しの補助を他の神官に頼むと、パタパタと走って俺の方に来て聖堂内へと案内してくれる。前世でいえばトップ女優とトップアイドルを足して10倍したような彼女が相手をしてくれるのだから、公爵という地位は恐ろしいものである。


 さて、俺が今日聖女のもとを訪れたのは、彼女にも言った通り、昨日の裁判所での一件の礼をすることが主な目的だ。もちろんゲームの主要キャラに会って話したいという理由もなくはない。さらに言えば、もう一つのイベントを解消するという心づもりもあった。


 聖女に案内されて入った大聖堂の中は、さながら野戦病院のような様相を呈していた。礼拝堂には多くの床が敷かれ、負傷者が寝かされていた。男性の神官やシスターたちが彼らの間を歩き回り色々と手当てをしているようだ。軽度の怪我ならポーションや回復魔法で治るこの世界だ。ここにいるのはよほどの重傷者だろう。


 俺が通されたのは応接室だ。そこで聖女と一対一で向き合うと、元ゲームプレイヤーとしては少しだけ興奮を覚える。オルティアナはゲームではフォルシーナに次ぐ人気キャラだったし、マークスチュアートとしてもそこまで接点が多い相手ではなかったのだ。


「聖女オルティアナ、まずは先日の件、無実の者たちを冤罪から救っていただき、三大公として感謝する。彼らはいずれも国に多大な貢献をしてきた者たちだ。それが最悪の状況から逃れられたこと嬉しく思い、またそうなるよう取り計らってくれた貴女に最大の礼を述べさせていただく」


 俺が一礼すると、オルティアナは聖母のような笑みを浮かべた。


「ありがとうございます公爵閣下。しかしこの度のことはヴァミリオラからすべて聞いております。私の方こそ公爵閣下にはお礼を言わねばなりません。あのような不義を見逃したとあっては、聖女としても、そしてラファルフィヌス教徒としても許されることではありませんから」


 聖女オルティアナは、年のころは20歳前後の、肩書通り聖女のような慈愛に満ち溢れた美しい女性である。十代前半から聖女として活動しており、その名前は国内外に広く知られ、この世界においてもっとも知名度の高い人物と言っていい。先も言ったが、ゲームでは主人公ロークスたちを導くお姉さんキャラだった。ただ最後はその身を挺して主人公たちを守って……なんてことになっていた。ちなみに彼女の後継者として聖女になるのは『光の聖女』マリアンロッテである。


「私の言葉が多少でも役に立ったなら幸いだ。ところで聖堂内の様子を見る限り、ポーションや回復魔法などが間に合っていない様子が見られるのだが」


「はい。実は光属性が使える者が半数ほど王家のほうに徴用されておりまして、ポーションも戦で多く消費され、市井には回ってこない状況にあります」


「しかし聖女様の魔法をもってしても足りないというのは不思議だが」


 と指摘すると、途端に暗い表情を見せる聖女オルティアナ。


 当然ながら彼女も高位の光属性魔法使いであり、彼女がその魔法を振るえばある程度の重傷者なら回復するはずだ。つまり今、彼女はその力を十全に振るえない状況があるということになる。


「実は教皇猊下が、先の戦で魔族の幹部と対決をされまして、退けたもののご本人も大きな怪我を負われたのです。今のところ私の魔法で命をつないでいるのですが……」


「なんと、そうであったか」


 と驚いたフリをしつつ、そこはゲーム通りなのだなとちょっと安心する。


 悪人にされがちな『教皇』キャラだが、『オレオ』では正義の武闘派キャラだったのだ。本来ならロークスが助けるはずなんだが、どう考えてもそのシナリオにはなりそうもない。


「ならば持ってきて正解であったな」


「なんのお話でしょうか?」


 俺はそれには答えず、腰のマジックバッグから小瓶を5本取り出した。


 多少飾りの入ったビンにつめられたその液体は、言うまでもなく俺謹製の『エクストラポーション』である。しかも『精霊水』を使用しているため、その効果は伝説の最上級回復薬『エリクサー』に迫るという国宝級の一品だ。


「ブラウモント公爵家当主としてこちらを大聖堂へと寄付させていただく。この度の聖女様のなさりように対する礼も兼ねるということで、お納めいただきたい」


「こっ、これは……っ」


 一目見てそれが『エクストラポーション』であるとわかったのだろう、聖女オルティアナは、テーブルの上に並べられたビンを見たまま固まってしまった。


「早速教皇猊下にも使用されるがよろしかろう。さすれば聖女様のお力も民に向けることができるようになると思うが」


「し、しかし……いえ、ブラウモント公爵様、ありがとうございます。しばらくお待ちくださいませ」


 戸惑っていたオルティアナだったが、覚悟を決めたかのような表情をすると、ビンを一本持って部屋を出ていった。


 しかし『エクストラポーション』は大活躍だな。もっとも効果を考えればそれはそうだろうと言うしかないが。

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