09 魔窟・王城 2
なんとしてでも一部貴族を排斥したいという態度のロークスとゲントロノフ。
ここまでくるといっそ偏執的と言っていい感じだが、貴族家を取り潰した場合その財産はすべて王家が接収することになっている。もしかしたらその目的もあるのかもしれない。もっとも、うるさい貴族の排斥と財産の没収、一石二鳥ということだとしても実行するのは強引を通り越して無茶苦茶に近い。
とはいえ、このまま一対二の状態だと押し切られる可能性も高かった。ある意味俺にとってここは敵地と言える場所である。
俺とゲントロノフがしばし睨みあっていると、秘書官のラエルザがさらに新たな来客を告げた。
扉から現れた人物を見て、目を見開くゲントロノフ、そしてロークス。
どうやら出発前に出した手紙が間に合ったようだな。
「ごめんあそばせ。あら、ちょうど皆様お揃いですのね。よかったわ」
そう挨拶をしたのは、真紅のストレートヘアを背に流した豊満な体つきの美女。三大公が1人ヴァミリオラ・ローテローザは、紅を引いた唇に笑みを浮かべながら執務室に入ってきた。
「ロークス王太子殿下、この度は王都奪還おめでとうございます。殿下の武勇はわたくしの領まですぐに聞こえて参りましたわ」
「お、おう。これで少しは見直したか、ヴァミリオラ」
ロークスにファーストネームで呼ばれ、ヴァミリオラはほんの一瞬だけ眉をピクリと動かした。これは相当に嫌ってるな。
「ええ、さすが殿下と感服いたしました。しかし国王陛下におかれましては、大変残念な結果になってしまったと聞いております。三大公としてお悔やみ申し上げますわ」
「俺が王城に突入した時にはすでに手遅れだった。できれば俺が王都を奪い返したと報告したかったんだけどな」
「まことに残念にございます。ゲントロノフ公も殿下をよくお助けになったとか。今回の功績は非常に大きいものになりましょうね」
「ふほほ、たまたま兵を近くまで動かしていてのう。まあローテローザ公にはこの後助けてもらうこともあるじゃろうし、よろしく頼みたいの」
微妙な言い回しでヴァミリオラに功績を分け与えることを匂わせるあたり、ゲントロノフはさすがの老獪さだ。
それを理解してか、ヴァミリオラは「ふふふっ」と妖艶に笑ってみせた。ただ、手で隠した口元が皮肉をたたえているのに気づいたのは俺だけだろう。
「ところで、今回魔族と内通した者たちがいるとか。わたくしのところにも彼らの家から連絡が来ていましたわ」
「なるほど、助命歎願の話かのう。それで、ローテローザ公はどうするつもりかの? ブラウモント公は『真実の鏡』による裁判をせよと主張しているのだがのう」
わざわざ俺の名前を出して確認するゲントロノフ。俺とヴァミリオラが犬猿の仲だと知っての誘導だろうが、残念ながら今回は不発に終わるだろう。
ヴァミリオラはロークスとゲントロノフを交互に見てから、艶然と微笑んで宣言した。
「わたくしも『真実の鏡』による裁判を行うことに同意しますわ。それに加えて、王太子殿下の即位についても三大公合議の開催を求めましょう。せっかくですから、これからすぐに合議を行うのはどうかしら」
王城、三大公会議の間。
広い部屋の真ん中に丸机が1机、椅子が3脚のみ備えられているという、王城内である意味もっとも贅沢な部屋である。
なにしろ俺たち三大公のためだけに造られた部屋で、この国にとって三大公がどれだけ重要な地位なのかそれだけでわかろうというものである。逆に言えば王家にとっては枷とも言える存在だが、そのおかげでこの国は長い間暴君、暗君とは無縁でいられたという実績があるらしい。ちなみに先代となってしまったロークスの父も、人間性はともかく、今まで政策そのものに失策らしい失策はなかった。
その丸机の回りに今、俺、ヴァミリオラ、ゲントロノフの3人が座っている。次の国王を決める三大公合議、それが開かれたのである。
さてこの合議だが、基本的には王太子は王家の方で決まっているので、基本的には王太子の即位を認めるかどうかの最終的な確認が目的となる。といっても三人全員が反対しなければ即位は決まるのでまず覆ることはない。とはいえ過去に2人ほど覆った王太子がいたらしく、いったいどれだけ酷い人間だったのか気になるところではある。
「さて、ロークス王太子殿下については、少なくともわしは即位に反対せぬ。である以上、ロークス新王即位については確定ということでいいと思うがどうかのう」
合議は、さっさと決めたいという雰囲気でゲントロノフの先制で始まった。
まあこれについては俺もどうしようもない。手続きを踏んでいないというだけで、ロークスの即位そのものは決定事項に近かった。まあゲームでも最終的には王になってたしな。
「まあそれはいいでしょうね。ただはっきりとしておきたいのだけれど、わたくしはロークス王太子の即位には反対よ」
「ほう……?」
ゲントロノフが怪訝そうな顔をしたのは、即位が決まった以上反対を明言する必要がないからだ。新しい王が、反対した公爵に対して距離を取るようになるのは判り切っている。今後のことを考えれば反対であっても明言を避るのが常識的な対応だろう。むしろゲントロノフが最初に賛成を口にしたのは、俺たち2人に多少の配慮を見せた形になる。
「ではブラウモント公はどうじゃ?」
「私もロークス王太子の即位には反対しよう。今の王太子に王となる器があるとは思えんのでな」
わかっていたことではあるが、やはりどう見てもあのロークスは破滅ルート主人公だ。
俺的には簒奪ルート回避の意味もあって本来なら賛成するのが筋なのかもしれないが、さすがにあのロークスだけは無理である。俺のルート云々以前に、この国そのものが亡びかねない。どう見ても父王を裏で弑している上に魔族と仲良くなってるし、むしろここで賛成したらこっちが後々責任を問われかねない。
まあそれ以前に、同盟相手のヴァミリオラにもすでにこの態度を取ることは伝えてあった。すでにロークス・ゲントロノフが強くつながっている以上、こちらが共同して対立姿勢を明確にする方がやりやすいと踏んだのだ。ここをなあなあで済ませると、恐らくロークス・ゲントロノフはどこまでも増長するだろう。
俺の言葉を聞き、ゲントロノフは再び訝しそうな目で俺とヴァミリエラを見る。
「二人とも若いのう。確認のために、ローテローザ公になぜ反対なのか聞いてもよいか?」
「人間性に関して疑問に思うような情報が色々と入ってきているの。特に女性関係は酷いものね。そういう意味ではゲントロノフ公も気になるのではなくて? ご令孫を王妃にするのでしょう?」
「……そちらは問題はないのう。確かに王太子は女性にだらしない部分はあるがの。歴代の王にはさらに上もおったと聞いておるからそこまで心配はしておらぬよ」
「そう。まあここで反対をはっきりと口にしたのは、わたくしとしてはロークス新王とは慣れ合うつもりはないということを明らかにしておきたかったからよ」
「それがローテローザ公にとっていいこととは思えんがのう。ブラウモント公は先ほど王の器ではないと言っておったが、その根拠はあるかの?」
「いままで国に尽くした能吏能臣を裁判もなしに処刑しようとする時点で話にならぬと判断した」
「やれやれ……こちらも才気に逸っておるのぉ。まあ若ければそれも致し方なしか。ともかく王太子の即位は決定とする。それでよいな?」
「ええ、決まりですから」
「結構だ」
これで合議は終了、のはずだが、ゲントロノフはそのまま探るような目を俺たちに向けてきた。
「ところで2人して内通者について裁判を主張しておるが、それにはなにかこだわりがあるのかの?」
「こだわり以前に、複数の貴族家を取り潰すのに、裁判を行わないなんていう方がおかしいでしょう? むしろゲントロノフ公がなぜ裁判不要を口にするのか、そちらのほうを伺いたいわ」
「今回の件については罪が明らかであったからの。それに危急の時でもあり、国の体制を早急に盤石にしておく必要があったのでのう」
「それにしても拙速にすぎると思うわ」
「ふむ……」
ゲントロノフは一瞬だけ苦々しい顔をした。
この感じだと、今回の件はゲントロノフ、ロークス両名の謀なのは明らかだな。本来なら俺が戦死してゴリ押しできるはずがそうならなかったという感じか。
しかし裁判をすれば無罪は確定、適当な罪をでっちあげた王家の信用は失墜する。ゲントロノフとしては裁判をすることを認めるとは思えない。
「……しかしローテローザ公とブラウモント公の意見が一致するのは珍しいのう」
と再度俺たちの不仲をくすぐるが、ここではそれぐらいしかできないか。
「ゲントロノフ公、わたくしは三大公として必要なことを要求しているだけよ。この人に対する個人的感情はまた別だから」
「私も必要と考えたことを求めたにすぎぬ。三大公2人が求めている以上、王国法に則って裁判の開廷は確定ということでよろしいな?」
「……仕方あるまい」
苦虫を嚙み潰したような顔で、渋々承諾をするゲントロノフ。
よし、これでとりあえず一歩進んだな。
しかしゲーム知識から言うと、ロークス・ゲントロノフ公側としては打つ手はまだ残っている。次はそこも抑えにいかないといけないのだが……なんとも忙しいことである。




