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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第5章 悪役公爵マークスチュアート、王都で暗躍す

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04 精霊の祝福

 翌日、俺は執務室で仕事をしていた。


 フォルシーナはマリアンロッテを連れ、クーラリアやミアールとともにダンジョンへと行っている。マリアンロッテも貴族教育の一環としてそれなりに魔法や体術の訓練は受けているらしく、いきなりダンジョンでも問題はないとのことだった。フォルシーナたち3人はすでに冒険者としてもBランクに近いので、それなりに上手くやってくれるだろう。ちなみに当たり前だが、マリアンロッテは存在がバレないように厳重に変装をさせている。


 俺の方だが、領主として今考えるべきはやはり新王ロークスについてである。いきさつはともかく新たな王が即位したとなれば、当然各地の領主は一度王都に出向いて祝いをしなければならない。


 今そのことについて、目の前に立っている執事のミルダートに確認を取ったのだが、王都からロークスが王位についたという正式な連絡は依然として来ていなかった。それどころか、王都が魔族によって一度は陥落させられ、それを奪還したという報せすらもないという。


「そもそも襲撃を受けた時点で、先代の王が少なくとも三大公には救援の早馬を走らせているはずなのだがな。それすら来ていないというのはおかしな話だ」


「送り出した使いの者がどのような話を持ち帰ってくるか、気になるところでございますな。しかし公式な連絡がないのではこちらも動きがとれません」


「むしろそれが狙いの可能性もありそうだな。新王の背後にゲントロノフ公がいるとなれば、なにかを仕掛けているのは間違いなかろうが」


 互いに渋い顔をしていると、扉がノックされ、ダークエルフ忍者アラムンドが入ってきた。


「お館様、王都に動きが」


「話せ」


「はっ。例の魔族との内通が疑われていた者たちを近い内に処刑する話が出ているようです」


「周囲に知らせずに王家だけで勝手に断罪をするつもりか」


「弾劾されている貴族たちの家にも十分な説明がないようです。王城に関係者が詰めかけていますが、相手にしていない様子だとか」


「そもそも開拓に反対していた人間が魔族と内通などしているはずもなかろうに。ゲントロノフ公は静観の構えなのだろう?」


「そのようです」


「ふん、その処刑は当のゲントロノフ公の意向でもあろうな。しかし能吏のうり能臣のうしんを排除するというのは亡国の始まりを予感させるな。ミルダートはどう考える」


「言葉にするのもはばかられますが、お館様のおっしゃる通りかと。当主や関係者が魔族と内通しているとなれば、一族すべてを処刑するということになる可能性もあります。有力な貴族家が複数取り潰しなどということになれば、間違いなくこの国は荒れますな」


「さもありなん。しかし王家の蛮行となれば、三大公としては見て見ぬふりはできぬか。それをいさめるのが我らの役目ゆえな」


「おっしゃる通りかと」


 真剣な顔でうなずくミルダートは、どことなく満足そうな顔にも見える。俺が三大公の務めを理解しているのが嬉しいとかそんな感じだろうか。こっちはもう37歳+αのいい歳したおっさんなんだがなあ。


「うむ。それとアラムンドよ、開拓再開の話は入っているか?」


「はい、そちらも確認が取れています。物資の再徴収が始まっていますので間違いないかと」


「王都の民が苦しい時に物資の徴収。あのゲントロノフ公が献策したとも思えぬ強引さだな」


 しかしこれでロークスが古代兵器を求めている説が真実味を増してきた。


 どちらにしても、やはり一度、俺自身が王都に行って様子を探る必要がありそうだ。ついでに王都周りのダンジョンやらフィールドマップやらの隠し要素をさらってくるのもアリか。ああそれと教皇関係のイベントもあるな。


 向こうの様子によっては、大森林遺跡に行くことも考えないといけない。古代兵器がロークスの手に渡るのはどう考えてもロクなことにならない気がするし、そもそもゲームシナリオ的にも古代兵器の復活阻止もしくは破壊は必須だ。それにはメインヒロイン3人の力が必要だが、フォルシーナとマリアンロッテが手の内にいる今はむしろチャンスと言える。


 うむ、ちょっと楽しそうな気がしてきたぞ。次の魔族侵攻までは多少の時間があるはずだ。それまでに更なる準備を整えておかないとな。




 ミルダートに王都出立の準備を指示した俺は、公爵邸北の森に足を踏み入れた。


 目的地である泉の周辺は、変わることなく神聖で清澄な雰囲気を漂わせていた。この場に来るだけで心身が癒される心地がするくらいであるが、それもそのはず、この泉には『大いなる精霊』イヴリシアが住まうのである。


『来ていただき嬉しく思います、マークスチュアート様』


 泉のふちに立つと、水面にすうっと半透明の女性が現れる。ゆるく波打つ水色のロングヘアを身体にまとわせた、人間離れした美しさをたたえた、女神をほうふつとさせるような全裸の女性である。


 ……全裸?


「イヴリシアよ、いつもは布をまとっていたと思うのだが」


『今日はマークスチュアート様だけですので』


 ほのかに頬を染める『大いなる精霊』。


 俺だけだからというのも意味不明だが、恥ずかしいのにわざわざ全裸になるのも意味不明である。まあ確かに大事なところは髪でうまく隠れてるし、俺みたいな普通の人間から見たら精霊なんて芸術品のような感じでしかないのでオーケーなのかもしれないけど。


「貴女が気にしないのなら構わぬが……」


『マークスチュアート様はわたくしの肌を見るのは……その、気になりませんか?』


「むろん気になるとも。貴女の姿は美術品のようだからな。この美しさを独り占めできるというのは望外の喜びと言えよう」


『あら……!』


 エロ視線では見てませんよと強調すると、イヴリシアは肩を抱くようにして身体をくねらせた。その好感度アップ動作は全裸だと見えそうになるのでやめてもらいたい。


 そういえば『オレオ』って、20年後くらいになぜかちょいエロ系ソシャゲとして復活してたんだよな。当時のファンからは叩かれまくって炎上していたが、実は怖いもの見たさでちょっとだけやろうとして……やろうとしてるうちに半年くらいでサービス終了になっててさらに炎上してたなそういえば。


「イヴリシアにはいつも『精霊水』をいただいて助かっている。先の魔族との闘いでも、『精霊水』にて生成したポーションのおかげで大勢の兵が命を救われた。代表して礼を言わせてもらおう」


『わたくしとマークスチュアート様の間に礼など不要です。こうして会いに来ていただけるだけで、わたくしは満たされる思いがいたします』


「そのおっしゃりようがまさに精霊というものなのだろうな。欲にまみれた人の身のあさましさが、ここでは洗い流されるようだ」


『ふふっ、マークスチュアート様はいつも嬉しいことを言ってくださいますね。しかし貴方が欲にまみれた人間であるというのは賛同いたしかねますけれど』


 そう言いながらすうっと近づいてきて、俺の頬を両手で触れてくるイヴリシア。なんかこれ、勇者が精霊と契約する的な絵面じゃないか。片方が糸目裏切りづらの中年男じゃなければの話だけど。


「ならばよいのだがな。だが今日ここに来たのも、貴女にお願いがあるからなのだ」


『なんなりとおっしゃってください。わたくしが力になれることなら、なんでもしてさしあげます』


「貴女の祝福が欲しいのだ。とある理由により南の大森林にいかねばならなくなりそうなのだが、公爵たる私はあまり長い間領地を離れられぬ。そのために『禁忌の魔法』が必要なのだ」


 と言うと、イヴリシアは少し驚いたような顔をして、それからまた聖母のような慈しみの目を向けてきた。


『マークスチュアート様のことですから、なにか大切な目的がおありなのでしょうね。大森林の遺跡には古き災いが眠ると言われています。もしやそれが関係するのでしょうか?』


「その通りだ。どうやらその災いを復活せんとする輩がいるようなのだ。それに先んじて、災いを抑えておきたいと考えている」


『私の祝福で「禁忌の魔法」への扉が開くということだけでなく、古き災いについてまで……。マークスチュアート様はどこまでこの世界の真実をご存知なのでしょう』


「書物で知った知識にすぎぬ。私は先人の知恵を借りているだけだ」


『ふふっ、そのようにへりくだらずともよいと思いますよ。では精霊の祝福をマークスチュアート様に授けましょう』


「うむ、よろしく頼む」


 と軽く頭を下げる。


 が、イヴリシアは、俺の頬に手を触れたまま、なかなか動こうとはしなかった。


「……なにか問題があるのだろうか?」


『い、いえ、その、祝福を授けるのは、マークスチュアート様が初めてなのです。それはよく知っておいてくださいませ。それとその、目はつぶっていただけると……』


「それは光栄なことだな」


 と答えて目をつぶる。


 イヴリシアの顔が近づいてくるのが感じられ、そして唇に柔らかな感触が……


 あれ? 『大精霊の祝福』ってたしか額を合わせるだけだったはずなんだが。そういえばソシャゲ版だと接吻に変わっていたって話もあったか? 


『い、いかがでしょうか』


「……うむ、やわらか……ではなくて、全身に聖なる力が満ちているのがわかる」


 なるほどこれが『大精霊の祝福』か。心地よい感覚が全身を駆け巡り、心臓のあたりに集まってくるのがわかる。ゲームイベントをこういう形で文字通り体感できるのは、さすがに多少の嬉しさがある。


『受け取っていただけたのなら安心いたしました』


 なぜか恥ずかしそうに微笑むイヴリシア。大精霊にとって、人間との交感なんて大したものでもないと思うのだが。


「貴女の恵みに感謝する。これで大きな災厄をひとつ抑えることができよう」


 と礼を言うと、イヴリシアは一転して怪訝そうな表情になった。


『災厄をひとつ……ということは、いくつもの災厄が起きるということなのですか?』


「うむ、人の世もいろいろとあってな。加えて魔族も、貴女をさらおうとしていた奴ばらもいる。しばらくは気が抜けぬのだ」


『なんと……。もしマークスチュアート様がそれら災厄と対するのであれば、わたくしも惜しみなく力をお貸しいたします。なんでも申しつけてくださいませ』


「貴女の助力、大変頼もしく思う。これからもよろしくお願いする」


 すでに『精霊水』によって多大な恩恵を受けてはいるのだが、今回『精霊の祝福』が得られたのは非常に大きい。


 この後もイヴリシアの力を借りることはある。彼女を早いうちに身内に引き入れられたのは幸運だったな。

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