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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第4章 悪役公爵マークスチュアート、戦場で奮戦す

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05 戦の後、そして

 3日後、俺は公爵邸の執務室にて将軍ドルトンから先のいくさの詳細な報告を受けていた。


 魔族軍は文字通りの全滅、公爵軍の被害は軽微、直接ぶつかり合う野戦の結果としてはありえないほどの完勝である。兵士の質の向上、装備の充実、エクストラポーションの量産、ゴーレムの配備、そして将軍ドルトンの指揮、それらがかみ合わさった結果だろう。


 しかし改めて並べると、エクストラポーションとゴーレムがズル(チート)過ぎる感じがするな。実際原作知識チートではあるが。


「ドルトンの用兵は見事であったな。特にレッサーデーモンを魔術師兵の対空攻撃で退けたのが素晴らしかった。今後も魔族が攻勢をかけてくるだろうが、常にこのようにありたいものだ」


「いえいえ、今回の勝利は公爵閣下の事前の準備が完璧だったのと、あと魔族の幹部をあっという間に倒しちまったことがデカすぎますわ。あんな戦、誰が指揮しても負けませんや」


 角刈りの金髪をポリポリとかきながらドルトンは苦笑いする。


「ゴーレム用の戦術を考えたのはお前だろう。ゴーレムは今後も核が集まり次第増やす。新たな戦術も考えておけ。道具はボアルに頼むといい」


「実戦で使ってわかりましたが、ゴーレムは戦場の在り方を一変させますな。しかも維持するのにそこまで金がかからないってのもデカいですわ」


「確かにな。ただあれはあくまでも器に過ぎぬ。運用の仕方で木偶でくにも鬼神にも化ける。なにも戦場で使うばかりが能ではない。しかもあれは作りようによっては四足六足の獣型にも作ることが可能だ。それも含めて再度運用方法を考えるようにせよ」


 と前世で読んだ架空戦記ものなどを思い出しながらアドバイスすると、ドルトンは「へへぇ」と感心したようにうなずいた。


「なるほど、ゴーレムを作るなんてのはスタートに過ぎないってわけですな。公爵閣下の戦術眼には恐れ入るばかりで」


「単に有能な部下に投げているだけだ。今回ゴーレムを最前列に配置したのはよかった。あのようにゴーレムで戦果が上がったのであれば、それは運用した人間の手柄だ。励めよ」


「了解いたしましたぜ」


 ドルトンが部屋を出ていくと、横の机で話を聞いていたフォルシーナが尊敬の眼差しを向けてきた。


「この度の戦、大勝利おめでとうございます。お父様のお言葉、なさりよう、すべてがこの目的を達成するための布石だったのですね」


「それは持ち上げが過ぎるというものだフォルシーナ。何度も言うが、私はその場で最適と思われることをやっているだけに過ぎぬ。お前にもじきにできるようになる」


「お父様には当たり前のことが、常人には途方もなく難しいのです。お父様はそれを自覚なさるべきです」


「まったくお前は……」


 まあゲーム知識チートをしているから多少はそう見えても仕方ないか。


 しかしフォルシーナの俺に対する評価は、それを勘案しても高すぎるものがあるんだよな。


「大精霊様の前でも申し上げましたが、お父様は最低でも王となるべき方だと思います。もしお父様のおっしゃるようにこの後魔族との大きな戦いが起こるなら、それを足がかりに王の座を目指すべきです」


「めったなことを口にするな。王家にでも聞かれれば、それだけで造反の疑いありとして罰せられるぞ」


「あの惰弱な親子がお父様を罰するなど、天地が転倒してもありえません」


 しかも先日から、なぜか俺を国王にしようという言動を始めたんだよな。やはり俺を無理矢理にでも簒奪者にして断罪ルートに持っていこうとする世界の意志の反映なのだろうか。


「ともかく私は王になる野心などない。そのようなこと、人前では決して口にするな」


「しかしお父様……」


「私はこの領で、お前と共に安穏として暮らせればそれでよい。王などになれば、お前と過ごす時間も減ってしまうのだぞ?」


「あ……っ」


 と言葉を失って、赤くなった顔を両手で隠すフォルシーナ。好感度アップ(大)だからこれで正しい対応のはずなんだがなあ。


 そんなバカ親子的やりとりをしていると、扉がノックされた。


 入ってきたのはダークエルフ忍者のアラムンドだ。


 アラムンドが入ってくると、フォルシーナは途端にムッとした顔になる。これはやっぱり裏切りキャラだと勘付いているのか……?


「お館様、王都からの第一報が届きました」


「ご苦労。聞かせてもらおう」


「魔族軍7万の急襲により王都は王城を除いてほぼ陥落。現在王城に王族や貴族が籠城し、抵抗を続けているとのことです」


「ふむ」


「大森林遠征中のロークス王太子の部隊ですが、その報を聞いて王都へと引き返しました。恐らくはすでに王都近郊に到着していて、奪還戦を始めているはずです」


「ふむ……?」


 それは奇妙な話だ。ロークス王太子が向かった南の大森林地帯から王都までは、ほぼ軍とも言える開拓部隊を率いて向かうなら最低一週間はかかる。王都陥落の報を希少な魔道具を使って即日受け取ったとしても、すでに王都奪還を始めているという話はない。


「ロークス王太子の開拓部隊は、まだ大森林地帯には到っていなかったということか?」


「はい。南の街サウラントに長らく駐留していたようです」


「そうなると5日は駐留していた計算になるな。理由はわかっているのか?」


「いえ、それについては特には。ただ王太子殿下の指示によるとだけ」


「なにかトラブルがあって足止めを食ったのか。それとも最初からその予定だったということか……?」


 俺がそうつぶやくと、フォルシーナが反応した。


「お父様、2万もの部隊を5日も無駄に足止めさせておくような計画を立てるとは思えません。なにかトラブルがあったのではないでしょうか?」


「確かにな。そう考えるのが自然か……」


 そう言いかけたところで、俺の脳裏にある考えがよぎった。


 王太子とその一派は、やはり魔族の侵攻を察知していたのではないだろうか。だとすれば、王太子の部隊が近場で5日間足を止めていたことも納得いかなくもない。


 ただそれならば、そもそも大森林開拓に行かなければいいはずだ。いやそれ以前に、そもそも今回の大森林開拓自体があまりにタイミングが良すぎるのだ。


 魔族の動きがあったにも関わらず、まるで王都の防備を薄くするために、わざと騎士団長や宮廷魔導師団長といった主力を王都から遠ざけるように計画されたようにも見える。実際宮廷には反対派もいたという話だったのだから、怪しいことこの上ない。


「……やはりなにか裏があると考えた方が自然、か」


「お父様?」


「いや、なんでもない。ともかく王都が落ちたとなれば、公爵として救援の軍を出さぬわけにはいかぬ。アラムンドは継続して王都からの情報を収集せよ」


「はっ」


 さて、兵を出すといっても、こちらも魔族の軍の侵略を受けている領地だ。全軍を出すなどありえない。とすると、こちらの守りはドルトンと『紅蓮の息吹』に任せて、俺が足の速い部隊を率いて行くしかない。もとからこれは想定内なので、すでにドルトンに準備はさせてある。ロークス王太子の動きが妙ではあるが、王都に行けばわかることだ。


 それより問題なのは、王都に行ったときに間違っても簒奪者ムーブを起こさないことだな。もちろんそんな気はまったくないので大丈夫のはずだが。




 翌日の昼、俺は馬上にいた。


 都市城門前には1000の騎兵。王都への急行部隊である。


 王都までは馬車で7日、騎兵とはいえ急いでも4日はかかるだろう。ゲームでは大規模な攻城部隊を引き連れてゆっくりと進軍していたのだが、今回は事情が違いすぎる。


 王太子には数が少ないと文句を言われそうだが、こちらも魔族の攻撃を受けた領地であること、代わりにゴーレムを投入することで理由とするしかない。もっとも一番の戦力は俺自身なので、文句を言われる筋合いもない。


 今回の随行はクーラリアのみで、フォルシーナとミアールが見送りに来ている。フォルシーナは最後まで自分も随行すると迫ってきたのだが、さすがにそれは退けた。


 そしていよいよ出発という時、シュッという音と共に、俺の横にアラムンドが現れた。


「お館様、王都からの新たな情報です」


「聞こう」


「王都は王太子ロークスの軍によって奪還されました。ただし王城内での戦闘により国王陛下が身罷られ、その場で王太子が王位を継ぐことが発表されました」


「なに……?」


 昨日から続く想定外の情報だ。


「状況の推移が早すぎる。王太子の部隊だけで奪還したのか?」


「いえ、ゲントロノフ公の軍と呼応してのようです。ゲントロノフ公爵軍1万ほどの存在が確認されています」


「ふむ……」


 これはやはり、どう考えてもロークス王太子とゲントロノフ公が魔族の攻撃があるのを読んでいてあらかじめ準備していたということだろう。ならばわざわざ王都を一度落とさせたのはなぜかという話になるが、現国王の逝去と、そしていささか急とも思える王太子の即位宣言、このあたりがポイントか。キナ臭くなってきた気がするのは俺だけではないはずだ。


「ともかく出陣は中止だな。いずれにしても私は一度王都へは顔を出さねばなるまいが――」


「そこで止まれ!」


 俺の言葉の途中で、衛兵が叫ぶのが聞こえた。


 見ると、どうやら俺のところに、馬に乗った人間が近づこうとしていたようだ。


 制止した衛兵が、走ってそちらに向かっていく。


 馬に乗っているのは小柄な人物で、灰色のローブをまとい、フードを目深にかぶっていて顔はよく見えない。衛兵は馬の手綱を取っている使用人らしき女性に話を聞いていたが、なにかを受け取って俺の方へ走ってきた。


「公爵様、あちらの方がこれを」


 衛兵が手していたものを俺に見せる。


 それはペンダントであった。円形の飾りに刻まれた紋章には見覚えがある。神亀・ゲンブをかたどった紋章……ゲントロノフ公爵家のものである。


 俺はそれを受け取り、馬を歩かせて灰色ローブの人物の方へと向かった。近づくにつれ、フードの奥に見える整った顔の輪郭、そして口や鼻の造形に見覚えがあることに気づく。


「貴方は何者であろうか?」


 俺が問うと、ローブの人物は、顔にかかったフードを下ろした。


 現れたのは、金髪をツーサイドアップにした、紫の瞳を持つ美しい少女のかんばせ。


『オーレイアオールドストーリーズ』のメインヒロイン、マリアンロッテ・ゲントロノフは、両手を胸の前で合わせ、すがるような表情でこう告げた。


「ああ、ブラウモント公爵様、急な来訪をお許しください。そしてどうか、この国とこの国の民をお助け下さい。あの悪魔のような男……王太子ロークスから」

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