17 大規模モンスター討伐 2
突然の魔法撃によって集団が半壊したモンスター達は、ようやく俺たちを想像以上の脅威だと理解したようだ。
ただそれでも逃げないのがモンスターたる所以か。残った5体のオーガが叫ぶと、残り200体ほどのゴブリン・オーク混成軍は、奇声を上げながら一気にこちらに走ってきた。
「当たり負けるんじゃねえぞぉッ!!」
ドルトンが叫び、馬上で得物のハルバードを振り上げる。ドルトン自身高レベルの騎士であり、彼は常に最前線で戦うことを旨としている。将軍としては危なっかしいが、しかしこの世界、高レベル者が矢面に立つのは被害を減らすためにも重要なことだ。
「我々は側面から突っ込むぞ。付いてこい」
俺は馬をモンスターの群れの左方に走らせる。クーラリアとミアールがついて来られる速度でだ。
「フォルシーナ、後ろの方のモンスターを狙って撃て」
「はいお父様」
俺とフォルシーナで、馬上から魔法の槍を連射する。俺も『アイスジャベリン』を撃ってみたが、まだ辛うじて俺の方が威力は上のようだ。
横からの攻撃に気づいて、一部のゴブリン・オークがこちらに向かってくる。それらも魔法で攻撃するが、さすがに間に合わず、数体に接近を許してしまう。
「おっと、ここから先は通さねえよっ!」
「お館様とお嬢様に近づくことは許しません」
クーラリアの刀が閃くたびにオークの首が飛び、ミアールのショートソードが銀光を放つごとにゴブリンの心臓が貫かれる。ちなみにミアールのショートソードも、ボアル親方が造ったミスリル製のものになっている。
前衛2人は十分以上の働きを見せている。クーラリアはともかく、ミアールももはやゴブリンやオーク相手なら余裕のようだ。やっぱり隠れメインキャラなんじゃないだろうか。
俺はその間、標的をオーガに変え、『ウインドパイル』をさらに3本射出して、3体のオーガをミンチに変えた。それを見て、残り2体になったオーガが怒りの形相でこちらに走ってくる。
「クーラリア、1体は足止めしてやる。1体ずつ片付けよ」
「ありがてえ! オーガ、絶対に倒す!」
俺は闇魔法『シャドウルーツ』を発動、地面から伸びた影のように黒い植物の根が、一体のオーガの足に絡みついて動きを止める。
もう一体はそのまま走ってきて、前に出たクーラリアと対峙した。
オーガは身長3メートルを超える巨躯のモンスターだ。その手に持った大斧は一撃で人間を両断する。並の者ではその姿を見ただけで足がすくんでしまうだろう。
しかしクーラリアはオーガの斧を冷静にバックステップで回避し、瞬時に『縮地』スキルで前に出て、オーガの太い手首を切断した。
ガァッ!?
斧を落としたオーガは、それでも怯まず逆の手で殴りかかってくる。
クーラリアは再度『縮地』ですれ違いざまに膝を切断、倒れたオーガの首を処刑人のように斬り落とした。
「けっ、こんなモンかよっ! 見掛け倒しじゃねえか!」
「もう一体いくぞ」
「おうっ! 任せてくんなっ!」
『シャドウルーツ』を解除すると、自由になったもう一体のオーガが動き出すが、同じようにクーラリアに斬り捨てられた。
「借りは返したぜ。っつってもまだこんなもんじゃ返し足りねえけどな」
怨敵を倒せるようになったことに満足したからか、クーラリアはどこかスッキリしたような顔でそうつぶやいた。
リーダー格のオーガがすべて討伐されたことでこの戦いの趨勢は決まった。
ドルトンは馬を前に出し、自ら突出しつつハルバードを縦横無尽に振り回し、ダース単位でモンスターの首を刎ねていく。
一方で兵士たちは巧みに連携をしながら、短槍でゴブリン・オークを次々と貫いている。その練度は十分に高く、見た感じ被害は軽い怪我人が出ているくらいだ。まあ正直、この程度の戦いで死者が出られても困る。魔族の軍はこんなものではないからな。
森から出てくるモンスターもいなくなったようだ。これで終わりかと思いたいところだったが、
「公爵様、なんかデカいのが来るぜ……です」
森を睨んでいたクーラリアの狐の尻尾がブワッと太くなった。
見ると森の奥の方の木が何本も激しく揺れている。その揺れがだんだんと手前の木に移動してきて、そして木の間から、巨大な人影がのっそりと現れた。
「あれは……トロルかよ!?」
青い肌、のっぺりした表情のない顔、虚ろな瞳、胴と腕が長く足は短い、身長5メートルを超える不格好な巨人型のモンスターだ。手にしているのは大木のような棍棒で、その一撃は城壁すら大きくえぐるほど。
人型モンスターとしてはオーガより上位の単体Bランクモンスターだ。
「公爵様、どうしますかい!」
ドルトンが叫ぶ。ここで俺にうかがいを立てるのは彼なりの気遣いだ。
「私がやろう。たまには領主の力を見せておかねばな」
俺はそう答え、フォルシーナと共に馬を下りる。
この世界では、軍を率いる人間が個人の武勇を見せることが、兵の士気を上げるのに非常に重要な意味を持つ。大きな戦いの前となればなおさらだ。
「お父様、ご武運を」
「あれを一人でやるのか。すげえな公爵様」
「お館様お気を付けて」
いちいち3人の美少女が反応してくれるのが妙にこそばゆいが、顔には出さず「見ているがよい」と言い残して、トロルの方に走っていく。
近づいていくとトロルも俺を認識したようだ。虚ろな目を向け、手にした棍棒を振り上げる。まるで巨大な重機がクレーンを持ちあげているようだ。普通の人間なら向かっていこうなどとは毛の先ほども思わないだろう。
「だが遅いな」
棍棒が横殴りに振り抜かれる。しかしそこに俺はいない。『神速』スキルを上乗せした『縮地』は一瞬で100メートルを駆け抜ける。俺が背後に姿を現した時にはもう、トロルは片足を失って倒れるところだった。
「剣の錆にもならぬ」
勝手に口から出る勝ちセリフと共に再び『縮地』。倒れたトロルの首がゴロンと地面に転がり、巨体は光の粒子に変わっていく。
兵士たちから歓声があがるなか戻っていくと、瞳をキラキラさせている少女3人が俺を迎えてくれた。
なんかこう見ると、娘が増えたみたいな感じだな。もっともそれを口にしたら、フォルシーナが『氷の令嬢』モードの入りそうな予感があるが。




