03 不死破りの髑髏
魔族領への遠征メンバーは、《《多少の偏り》》はあるものの決まった。
旅の準備もほぼ整った。
野営は公式チート魔導具『モバイルフォートレス』があるので、快適さは確保されている。
食料などは『マジックバッグ』に十二分に入っている。いざという時の携帯食料『カロリーバー』等、錬金術を駆使した食品群も用意した。
『エクストラポーション』も、通常仕様と精霊水仕様のどちらも大量に持っていく。もっとも回復については、マリアンロッテ、オルティアナの聖女コンビがいればまず必要はないだろう。
王城にいる宰相マルダンフ侯爵とのやりとりは、『通話の魔導具』でいくらでもできる。いざとなったら『転移魔法』で帰れるが、逆に魔族領に行く途中のフィールドはモンスターが多いので『転移』で戻ることができない。ゆえに『転移魔法』で帰るのは、魔族領に着いてからにしなければならない。これはゲームと同じ縛りである。
と、執務室でフォルシーナとともに確認をしていると、扉がノックされ、紫髪の眼鏡美女、国王秘書ラエルザが入ってきた。
彼女の正体は魔族軍四至将ミルラエルザであり、俺たちに協力をしている身なのだが、今回の魔族領への旅に同行はしない。
なぜなら彼女が魔王の命を受けて人間に加担していることは、魔族軍側には秘密となっているからだ。俺たちがこれから討伐に向かう魔宰相ロゼディクスは、ミルラエルザが魔族軍を裏切っていることをまだ知らないのである。
そのミルラエルザ――今は秘書ラエルザ――は、旅装を整える俺の姿を見て一礼した。
「陛下、お忙しいところ失礼いたします。魔族軍及び魔族領について、お耳に入れたいことがございます」
「聞こう」
「魔宰相ロゼディクスは、新たな四至将を2名任命いたしました。それぞれネファリスとネブノーという名でございます」
「ネファリス、ネブノー……四至将ネクライガの配下だった者だな」
新たな四至将と聞いて一瞬身構えたが、どちらもゲーム知識にある名だったのでホッとした。もちろん顔には出さないが。
「よくご存じで。ネクライガの目と耳と呼ばれている者たちでございます」
「どちらもアンデッドゆえ、こちらに聖女2人がいれば問題にはなるまい。むしろその2名を登用せざるを得ないというのは、ロゼディクス側の厳しさを示していような」
「おっしゃる通りかと。それからロゼディクスは、ついに自らが王となるつもりであることを隠さなくなりました」
「それは自らが魔王に取って代わると宣言したということか」
「その通りでございます。魔王様は今のところなにもおっしゃってはおりませんが、今のままではロゼディクスの思い通りになるだろうと危惧をされております」
ん~、それはちょっと展開が早……くはないんだよな。
ゲームでは魔族領に行く途中で、主人公たちは魔族が魔王派と魔宰相派に分裂して対立していることを知るのだが、その時にはもうロゼディクスは魔王に対して反旗を翻したことになっていたのだ。
「では我々も急がねばならぬな」
「はい。しかし前にも申し上げましたが、四至将ネクライガには秘密が……」
「その件はすでに手は打ってある。そろそろ届くはずだ」
「届く、でございますか?」
俺の言葉に、ラエルザが首をかしげて怪訝そうな表情をした。
そのちょっとした所作にすら色香が漂う様子を見て、俺は彼女がサキュバスクイーンであることを思い出す。
しかしこうして改めて見直すと、ラエルザはメインヒロインたちに負けず劣らずの美人である。社長秘書っぽいスーツ姿であるが、出るところが出まくって引っ込むところはキュッとしているスタイルは、男なら目を奪われっぱなしになってしまうだろう。
魔王の婚約者という立場上ゲームではヒロインにはならなかったが、人気があったのもうなずける。もっとも最後、ロゼディクスとの対立の中で彼女は魔王を庇って悲しいことになるのだが……。ああ、そういえばミルラエルザも悲しきキャラの一人だったことを忘れていたな。
俺はいつもの癖(?)で、ラエルザにも『エクストラポーション』を3本渡した。
「陛下、これは……!?」
「私の望みを達するために、貴殿と魔王殿を失うわけにはいかぬからな。それ以外の意味はない、取っておくといい」
と言いながら、これから交渉する相手だし実は好感度アップ目的もなくはないんですけどね。
ラエルザは『エクストラポーション』を手にしばらく俺の顔をうかがうように見ていたが、すぐにうなずいて『エクストラポーション』を腰のマジックポーチにしまった。
「ありがとうございます。魔王様もお喜びになると思います」
「うむ。もっとも使わぬに越したことはない物ではあるがな」
俺の冗談にラエルザは目を細めて「ふふっ、そうでございますね」と笑ったので、どうやら好感度アップはできた気がする。
俺が『エクストラポーション』の好感度アップ効果を再確認していると、執務室の扉がノックされた。
入ってきたのは、四人組の冒険者パーティである。
茶髪のイケメン剣士メザル、猫獣人美人のの斥候ライア、ゴツイ大男の盾役カズン、魔女風美人の魔導師サーシア。以前俺が公爵だった時に雇い入れたAランクパーティ、『紅蓮の息吹』だ。
彼らについては、実は王になって少ししてから『とある仕事』を頼んでいたのである。そしてその仕事が終わったと、先日連絡があったのだ。
四人は執務室に入ってくると、執務机の前まで来て揃って頭を下げた。
話をするのはリーダーのメザルである。
「国王陛下、無事依頼が完了いたしました」
「うむ、ご苦労であった。全員無事でなによりだ」
「ありがとうございます。陛下にいただいた『エクストラポーション』のお陰もあり、全員帰還することができました」
「この依頼は貴殿らでなければ達成不可能なものであったからな。しかしこう見ると、貴殿らは前よりも一段と強い力を得たように思えるな」
「はい。非常に貴重な経験をさせていただきました。あそこまで強力なモンスターが住む島があるとは知りませんでしたが、あの島での戦いは非常に有意義なものでした」
「今回の依頼達成は貴殿たちの名声をさらに高めよう。して、依頼の品は?」
「こちらでございます」
メザルは腰の『マジックバッグ』から、水晶でできた髑髏を取り出した。大きさは野球ボールくらいだが、妙に存在感のあるアイテムである。まあそれもそのはず、この『不死破りの髑髏』は、ストーリーを進める上で重要なイベントアイテムなのである。
じゃあなんでそんな重要なものを自分で取りにいかなかったんだ、と言われれば、取りに行くのが超面倒くさかったからだ。
なにしろ絶海の孤島のダンジョンにある上に、その孤島まで行くのにも船がない。その船を調達するのに近くの漁村を訪れるのだが、船を出すために海の魔物退治とかいくつかのお使いイベントをこなさないとならないのだ。しかしさすがに王である俺にそんなことをしている時間はない。なので『紅蓮の息吹』に依頼をしたわけだ。
ちなみにもう一つ、『不死破りの髑髏』は、実はストーリー上重要だけどなくても詰まないアイテムだからという理由もある。
まあそれはともかく、執務机の上に置かれた『不死破りの髑髏』を見てフォルシーナは自分の席を立って近づき、ツクヨミは首をかしげ、そしてラエルザは眼鏡の奥の目を大きく見開いた。
「どうだラエルザ、これで間違いなかろう?」
「はい、間違いなくこれは『不死破りの髑髏』でしょう。しかし陛下、なぜこの秘宝の存在をご存じだったのですか?」
「若いころ冒険者として世界中を回ったが、その時に得た情報はどんなささいなものでも記憶しているのだ。それら情報の断片をつなぎ合わせれば、一つの真実にたどり着くのはそう難しくない」
裏切り糸目スマイルを口元に浮かべながらそう答えるが、言うまでもなくゲーム知識なんだよ驚かせちゃってごめんね。
という俺の内心を知ってか知らずか、フォルシーナは今のセリフを必死にノートに書き留めている。あのノートはいつか回収をしないと俺の国王人生が終わる気がするな。
「さすがマークスチュアート国王陛下でございます。これで陛下の勝利は間違いないかと思います」
「魔宰相と3人の四至将には勝てるであろう。その後の魔王との交渉については問題ないな?」
「はい。魔王様も人族との争いは望んでおりません。陛下のお考えに近い形でまとまるかと思います」
「ならばよい」
俺はそこでメザルたちの方に向き直った。
「これは間違いなく私が依頼した品だ。あの危険な島からよく持ち帰ってくれた。諸君らにはもちろん依頼した報酬を払うが、それ以外にも褒賞を出そう。諸君らは以前公爵領での防衛戦でも活躍をし、そして今回は並の者では手に入れられぬであろう貴重な品を献上した。これは叙爵に相当する功績だ。ゆえに四人全員を騎士爵位に叙そうと思う。いかがかな」
俺の言葉に、リーダーのメザルだけでなく、『紅蓮の息吹』四人全員が目を丸くしてのけぞった。「もしかして叙爵もあるかも」くらいは期待していい活躍をしているのだが、彼らは堅い性格の4人なので、そんなことは微塵も考えてなかったのだろう。
衝撃から立ち直ったメザルが、恐る恐る口を開いた。
「その、国王陛下、それはその……本当のお話なのでしょうか?」
「このようなこと冗談では言わぬ。ただ、叙爵するとして、その時期は少し後になる。私はこれから北の魔族領に向かいそちらを平定してくる予定でいる。2週間もあれば終わるであろうが、諸君らを叙爵するのはその後になる」
「は、はあ……」
「急に言われても困るであろうから、その時までに受けるかどうかを決めてほしい。騎士爵となれば貴族の一員となり、王家から俸禄も出るようになるが、その分様々な義務も生じる。それらについては後に担当の者に説明をさせるが、それを聞いた上で判断するといい」
「は、ははっ。承知いたしました」
深々と礼をする四人。どうもまだ心ここにあらずといった雰囲気である。
普通に考えれば叙爵すると言われて断る人間はまずいないのだが、実はそうでもなかったりする。神聖インテクルース王国の騎士爵は、実は役人の課長くらいの感覚の地位でしかない。領地を与えられることもなくはないが、せいぜい一つの農村を治めるくらいで、その代わり納税の義務を負ったりと面倒も多い。所詮一代限りの爵位であるし、特に冒険者は断る者も少なくない。だからこそ彼らには考える期間を与えたのである。
受けてもらえれば、優秀な彼らを身内に引き込めるので俺としてはラッキーなのだが、彼らの性格を考えると、受けるかどうかは半々というところだろうか。
まあそれはともかく、これで魔族領に行き、ゲームシナリオを進める準備ができた。
ただその前にやらなくてはならないことがある。
こればかりはどう転ぶかわからないことなのだが……まあ先延ばしにもできないので、今日で方向性を決めたいものだ。
2月24日は更新を休ませていただきます。
次回更新は2月27日になります。
【告知】
以前もお伝えいたしましたが、3月5日にこちらの『悪役公爵』の書籍が発売になります。
書影や口絵なども公開されております。
『娘に断罪される悪役公爵』で検索をしていただければご覧いただけると思います。
また、あわせて『悪役公爵』のコミカライズも決定いたしました。
詳細はまだお知らせできませんが、こちらも是非ご期待ください。




