14章 → 15章
―― ベランゴル民主国 首相執務室
「……まさか僕が首相代理などをやることになるとはね。ショーテルンさえ道を踏み外さなければこうはならなかっただろうに。時にパリヨー将軍、軍の方の再建は進んでいるのかな?」
「はい。先の戦いでほとんど兵の数は減らしていませんから、そこは問題なく。あとはセドレン将軍の件ですが……」
「マークスチュアート王の話ではすぐにでも送り返したいという感じだったね。向こうでも扱いに困っているような口ぶりだったよ」
「そうかもしれませんね。力はあるのですが、融通が利かない面も強い御仁ですから」
「だからこそショーテルンも使いやすかったんだろう。彼は民意によって選ばれた人間には従ってくれるから、そういう意味では職務に忠実な軍人でもある。ともかく彼は今回虜囚になった件を理由にパリヨー将軍より一段下につけるから、なんとか御して欲しい」
「上下が決まっていればそれには従ってくれるでしょう」
「なら大丈夫かな。しかしまさかこんな形で国を立て直すことになるとは思わなかった。パリヨー将軍の言う通り、マークスチュアート王は恐ろしい人間だね。伝説の『転移魔法』を使いこなす様子もそうだけれど、国を治める者としての器がまるで違う」
「同感です。彼が王位を奪ったと聞いた時には恐るべき野心家かと思っていたのですが」
「現実はまったくの逆のようだ。王位を奪ったのも、ブラウモント王家が対外的に流布している、前王家の不始末が理由というのも本当なのかもしれないね」
「そう思います。今回の戦も、その気になれば王はこの国を併合することもできたでしょう。ミルザム王国も同様のはずですが、それをまったく口にしないところからも、彼の王が野心に取りつかれた人間でないことがわかります」
「まったくだ。しかしそう考えると、もしかしたらこの国は神聖インテクルース王国の傘下に入ってしまった方がいいのではないかとさえ思えるんだ。将軍はどう思う?」
「それは……。確かにマークスチュアート王の御代であればそうかもしれませんが……」
「そうだね、彼の子孫が彼と同じだという保証はない。しかしパリヨー将軍も、今なら傘下に入るのもやぶさかではないと認めるんだね」
「申し訳ありませんが、この国の現状を考えるとそれが一番と考えざるを得ません。慢性的な食糧不足、錬金術産業の弱さ、にもかかわらず互いに足を引っ張り合う議員……ああ申し訳ありません、少し言い過ぎました」
「ふっ、それが本当に言い過ぎなら良かったんだけど。……おや、どうやら北の開拓地からワリャール議員が帰ってきたみたいだね」
「首相閣下、先ほど開拓地より戻りました。急ぎご報告があります……!」
「そんなに青い顔をしてどうしたのかな、ワリャール議員」
「それが、北の開拓地の様子が以前とまったく異なっているのです! 特に枯れはてていた畑が一面の緑に覆われており、今年は麦が豊作になるであろうとのことでした」
「それは……もしかして、マークスチュアート王の言っていた『土壌改良石』の効果ということなのかい?」
「はい、開拓地の代表もそう言っておりました。すべてマークスチュアート王のおかげであると」
「……なるほど、彼の錬金術はそこまでの領域にあるということか。不毛の地と言われていた場所を豊穣の地としてしまう。はは、これは本当に神の御業だ。パリヨー将軍もそう思うだろう?」
「それが本当であればまさに神の業ですね。あの土地の開拓を無理に推し進めた議員が逆に鼻息を荒くしそうですが」
「そこは釘を刺しておかないといけなそうだ。しかしこうなると、やはり神聖インテクルース王国の傘下に、という話は現実のものとして考えないといけないかもしれない」
「首相……」
「まあ、傘下と言ってもやりかたは色々ある。例えばマークスチュアート王に、こちらの王家から誰かを側室として出すとかね」
「それはやり方としては比較的穏当なものと思えますが、しかし現王室には年頃の女性がいらっしゃらないのでは?」
「はは、表向きはね。でも実はいないことはないんだ。マークスチュアート王もその女性を美しいと評していたから、可能性はなくはないと思うし」
「なるほど、まさか王家の方でそのようなことまでお考えてなっていたのですか」
「いや、それは本当にたまたまの話さ。もともと表に出すつもりの女性ではなかったからね。まあどちらにしてもそれは最後の手段だ。今僕たちが考えるべきは、この国が国家としての主権を保ったままいられることだからね」




