09 娘と行くダンジョン 3
『石舞台ダンジョン』は、ゲーム的にはレベル30~40くらいで攻略するダンジョンである。主人公のクリア時のレベルは平均60くらいなので、ゲーム中のフリーで入れるダンジョンとしては比較的高難度のダンジョンである。
地下8階まであり、4階と8階にはそれぞれボスがいて、倒すとそれなりのお宝がもらえる仕様である。
先の『ホブゴブリン』や、大型カマキリの『キラーインセクト』、強毒持ちスライムの『デッドリーポイズン』などを倒しながら、また休憩を適宜とりながら、俺たち4人パーティは地下4階まで下りていった。
すでに推定レベル30くらいあるクーラリアは問題なく、推定レベル5~10くらいだったはずのフォルシーナやミアールも(彼女たちのレベル的には)強敵を倒し、レベルを上げて強くなっていく。ちなみにこの世界、ステータスは見られないのでレベルは推定である。スキルについては知識化されているので、名前や効果は知られているのだが。
そしてダンジョンを歩くこと5時間ほどで、4階中ボスの部屋の前までたどりついた。目の前には禍々しい装飾が施された鉄の大きな扉がある。
「ふへぇ、半日で一気に中ボスまで来るとかあり得ねえ……です」
クーラリアが扉を見上げながら魂が抜けたような声を出す。
「このダンジョンは熟知しているからな。それに私とクーラリアがいればそこまで面倒な敵もいない。大したことではないと思うがな」
「そうは言うけどかなり無茶だぜ……ですよ。お嬢とミアールがついて来られるのもすげえ……ですけど」
「そうだな。2人ともよくやっている」
フォルシーナとミアールはかなり疲れた顔をしているが、それでも眼の光はしっかりとしている。フォルシーナはメインヒロインなのでわからなくはないが、ミアールについてはかなり驚きである。しかも成長度もフォルシーナに負けていない。もしかしたらかなりの掘り出し物なのかもしれない。
「さて、ではここの大物を倒して今日は帰るとしようか。フォルシーナ、ミアール、準備はいいか?」
「はいお父様。魔力も問題ありません」
「はいお館様。いつでも行けます」
返事を聞いてから、クーラリアに扉をあけさせる。
中はやはり石造りの部屋だが、中でバスケットボールが余裕でできるほど広い。
その部屋の奥に横になっているのは、ライオンの身体に人の顔、蠍の尻尾がついたモンスター『マンティコア』である。大きさは牛をさらに一回り以上大きくした感じか。
俺たちが部屋に入っていくと、マンティコアはのそりと身体を起こした。
「ひゅう、デカいなこいつ。スピードもありそうだ」
クーラリアが剣を構える。フォルシーナも『精霊樹の杖』を構えて精神集中を始め、ミアールもショートソードと盾を構える。
「基本的に私が引き付ける。お前達は機を見て攻撃を加えよ。クーラリアは2人のサポートに回れ。なるべく2人に力を吸収させたい」
「了解だぜ公爵様。でもオレ……アタシも少しは攻撃はしていいん……ですよね?」
「構わないが、やりすぎるな」
「わかっ……りました」
クーラリアの敬語習得は先が長そうだ。
俺は前にでて、マンティコアに剣をつきつけ『挑発』する。
皺だらけの顔に埋まった目が、ぎょろりと俺を睨む。同時にその巨躯を一瞬でトップスピードに乗せて突進してくる。のしかかって首を一噛みするつもりだろう。
「遅すぎる。『アースウォール』」
しかしそれらすべては、『神速』持ちの俺には緩慢な動作でしかない。地属性魔法『アースウォール』で目の前に壁を作ってやると、マンティコアは頭から突っ込んできてダメージを受けた。
『アースウォール』を解除、のけぞっているマンティコアの横を抜けて後ろ足を攻撃範囲拡大スキル『烈波』で切断すれば、これで機動力は大幅減になる。
「よし行くぜっ!」
クーラリアの掛け声で、3人も動き出す。
まずフォルシーナの『アイスジャベリン』がマンティコアの前足の付け根に突き刺さり、その周囲まで凍らせた。凍結の追加効果はリアル世界だとなかなかに強力だ。
バランスを崩したところを、クーラリアとミアールが斬りかかる。クーラリアの長剣の一撃は反対側の後ろ足を深く切り裂いたが、ミアールのショートソードでの刺突は脇腹にわずかに刺さるのみだった。
「硬い……!」
「怯むなミアール」
「はいお館様!」
ミアールが何度か突き刺すと、次第に刃が深く潜るようになる。マンティコアがそちらに反撃をしようと動きかけるが、俺は再度『挑発』スキルを発動して無理矢理こちらに意識を向けさせる。
「ミアール、離れて!」
「はいお嬢様!」
フォルシーナが放った2発目の『アイスジャベリン』がマンティコアの脇腹に突き刺さると、醜い人面が苦悶の叫びを上げる。巨躯を引きずりつつ前足の一撃を放ってくるが、その爪が俺に届くことはない。
「せいっ!」
ミアールが再度飛び込んで刺突を放つ。その一撃はマンティコアの肋骨の間に滑り込み、どうやら心臓まで届いたようだ。
ギュアアアア……ッ!!
断末魔の叫びとともに、人面の獅子は光の粒子に変わり、その場には獅子を象った円形の盾が、お宝として残された。
「これはたしか『獅子面の盾』だったか。レアドロップが出るのは幸運だな。これはミアール、お前が使うといい」
「よ、よろしいのですか?」
「無論だ。お前が止めを刺したのだし、この中で盾を使うのはお前だけだ。それにお前はフォルシーナを守るのだろう? ならば私としてもお前に使わせたい」
「ありがとうございますお館様。大切に使わせていただきます」
「うむ。ただ武具など所詮消耗品にすぎん。もっとも大切なのはお前自身ということは忘れるな」
レアドロップといっても所詮中の上レベルだしなあ。ミアールはどうもメインキャラに近いステータスな気がするし、公爵領としては優秀な人材の方が余程重要である。
それを理解したのか、ミアールも頬を赤くして盾を抱きしめてうなずいた。
「そういっていただけて嬉しく思います。私も精進をいたします」
「励むといい」
これでミアールもさらに好感度アップした気がするな。断罪ルートが遠ざかっていくのは心地がいい。
と思っていたら、またフォルシーナが微妙に冷たい目で俺を見ていた。
まさか『獅子面の盾』が欲しかったのだろうか? ゲームでは魔導師系は盾は装備不可だったのだが、この世界ではもちろんそんな縛りはない。だからそれもわからなくはないが……今度ボアル親方に頼んでみるか。




