06 合戦前夜
エルフ軍が合流した日の晩は、本部の天幕にゼファラ親子を含めて主要メンバーが集まって軍議を行った。
主に確認をしたのはエルフ軍の動きであるが、こちらは事前に将軍ドルトン、リンに考えておくように言ってあったので問題は出ない。
その後俺やフォルシーナたちは『モバイルフォートレス』に戻り、ミアールとツクヨミが作った夕飯を食べた。
大きな戦の直前ということでフォルシーナたちが落ち着いて眠れるかどうか心配だったのだが、食事中でも談笑をする余裕があるくらいで、彼女らはまったく緊張していないようだった。
そのことを指摘すると、
「お父様が指揮される戦で敗北するはずがありませんから。私たちにとっては自分たちがお父様の期待に応えられるかどうかの方が重要なのです」
とフォルシーナに言われ、マリアンロッテもアミュエリザもそれに同調して激しくうなずいていた。
なお夕飯を食べた後の『モバイルフォートレス』は完全にフォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ミアール、クーラリア、アルファラの6人の若い女子たちによる女子会の場の様相を呈していて、俺は部屋の端でツクヨミから情報を聞くことに徹していた。
ただどうしても、女子会の会話は耳に入ってきてしまう。
特に声が大きいのは獣人のクーラリアとエルフのアルファラで、
「なあなあ、アルファラはやっぱり親子でご主人様のところに来る気なんだろ?」
「クーラリア、お前はなにを言っているんだ。言葉には気をつけろと言っているだろう」
「とか言って族長さんは完全にその気だろ? 獣人族の勘はよく当たるから誤魔化せねえよ」
「お前とはどこかできちんと話をしないとならないようだな」
「おう、ご主人様のことなら相談に乗るぞ」
「だからそうではなく……!」
などと喧嘩(?)になっていた。
一方でふらっとゼファラが俺の隣に来て、
「マークスチュアートは今独り身と聞いたが、国王である以上妻を娶るつもりはあるのだろう?」
という、かなり答えに困る質問をしてきた。
しかもその瞬間、離れたところで話が盛り上がっていたフォルシーナたちが急に話をやめ、こちらの様子をチラチラとうかがい始めたので、俺の中で急に緊張感が高まってしまう。
これだけ年頃の女の子がいる前で下手な話をしたら、それこそ追放ルートリターンズである。
「うむ、それは王としては義務という面もあるゆえ考えてはいるが、すぐにどうこうというつもりはない。今は国だけでなく大陸全体が騒がしい。先日エルフの里を襲ったような者たちもいるゆえ、そのあたりが落ち着くまでは自分のことは棚に上げておくつもりだ」
「ふむ、随分と慎重というか、控え目なのだな。しかし先日里に連れていた女公爵と聖女は妃候補なのだろう?」
ゼファラの向こうでフォルシーナたちがピクッと反応するのが見えた。
特に気になるのはマリアンロッテの、
「オルティアナ様は確かにお似合いだと思うけれど……でも私も陛下には『光の聖女』と呼んでいただいているし……」
という言葉と、アミュエリザの
「お姉様はあんな様子だけれど、確かに相手としては陛下以外はいらっしゃらない。しかし陛下は年下がお好きなはず……」
という言葉である。
もしかしたらマリアンロッテは聖女の座を狙っているのだろうか。確かにオルティアナが俺の妃になるとなれば聖女の座は空くので、そこにマリアンロッテが収まる可能性は高いだろう。もっとも大陸一のアイドル聖女オルティアナが、いくら王とはいえ陰険丸眼鏡男と結婚することはないはずだ。むしろ万一結婚などしたら、俺が権力で無理矢理手籠めにした……なんて噂すら立ちかねない。
あとアミュエリザさん、貴女の姉のヴァミリオラも俺からしたら相当に年下ですからね。そもそも年下好きという話はどこから来たのでしょうか……というのはなんとなくわかりますが、さすがに10代を狙ってるとかそういうのはおっさんとしてはキツい勘違いです。
うむ、やはりゼファラになにを答えるかでよからぬフラグが立ってしまいそうだ。
「それはゼファラ殿の勘違いだ。彼女らとは決してそのような関係ではない」
「そうは見えなかったがな。人族の王は何人もの妻を持って、その血族が絶えぬようにせねばならんのであろう?」
「そのような考え方もあるが、すべての王族がそうというわけでもない。私はすでに娘もいるゆえそこまで急ぐ理由もない」
「ふむ……」
眉を寄せながらも、ひとまず納得顔をするゼファラ。
しかし彼女はなぜいきなりそんな話を始めたのだろうか……と訝しんでいると、アルファラが妙に強い視線を俺に向けてきているのに気付いた。
確かアルファラはずっとヴァミリオラたちを俺の情婦だと勘違いしていたはずで、その勘違い話を聞いて、ゼファラがそれを確認しにきたということか。
ゼファラについては口移しで『エクストラポーション』を飲ませた件も気になるのだが、まだエルフ族の習俗については確認を取っていなかった。
と思い出していると、ゼファラが上半身を乗り出してきて、俺の耳元に顔を近づけてきた。
「ならば私がそこに入る余地は残しておいてもらいたい。唇を重ねた仲なのだから、な」
そう言って妖艶な笑みを浮かべるゼファラ。露出の高い服装もあいまって、さすがの腹黒国王の心臓も多少跳ねてしまう。
しかしゼファラがそんなことを言ってくるのは完全に予想外だった。そもそもエルフ族は独立不羈の性質が強い種族のはずなのだ。その族長が人族と結婚するなど、他のエルフが許さないと思うのだが……。
「……うむ、貴殿がそのつもりなら、私も考えておこう」
結局マークスチュアート面を活かして適当曖昧発言で誤魔化すと、ゼファラは満足そうな顔をして離れていった。
その後ゼファラのところにアルファラが近寄ってなにやら話を聞いたり、その話をフォルシーナ達とも共有していたようだ。
俺は妙にいたたまれなくなってすぐに自分のベッドで眠ってしまったのだが、途中で部屋の気温が異様に下がったの気がしたのは夢だったのだろうか。
魔族の攻撃であればツクヨミが反応するはずだが、ツクヨミは無反応で俺のベッドの脇に座ったままだったので、やはり気のせいだったのかもしれない。




