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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第10章 国王マークスチュアート、エルフの里を探訪す

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12 本格交渉

「一月後に起こるであろう魔族との戦いで、ワイバーンを撃ち落とせばよい、そういうことでよいのだな?」


 勝負の後、俺たちはまた会議の間に戻って交渉を始めた。


 場には俺たち一行のほか、族長ゼファラ、娘のアルファラ、右腕のミュゼ、ほか幹部エルフ5人が同席している。


「うむ。後はそれを率いる魔族軍四至将エルゴジーラ、その者はドラゴンなのだが、それも多少射かけてもらえると助かる。直接は私が相手をするつもりだが、援護を頼みたいということだな」


「それだけでよいのか?」


「うむ。地上の魔族軍は我らの相手にはならぬのでな。まあ物足りぬということがあれば手を貸してもらっても構わぬ。その分の礼はしよう。例えば調味料の錬金レシピなどだ」


「調味料」という言葉に、アルファラ以外のエルフは全員訝しそうな顔をした。そりゃ戦に参加する対価が調味料のレシピなど普通はバカにしていると思うよな。


 だが『経験者』のアルファラだけは真剣な顔で前のめりになった。


「それはあの『焼肉のタレ』のことか?」


「それが希望なら」


 答えを聞いて、アルファラはゼファラに耳打ちした。


「母上、それは是非受け取るべきです。あの『焼肉のタレ』は絶品です。すべての肉が極上の料理に変化します」


「なにを言って……もしや食べたのか?」


「食べました。人族の錬金術は侮れません」


「そこまで言うほどか……」


 とゼファラがうなっているので、俺はテーブルの上に『焼肉のタレ』のビンを3本置いた。


「よければ晩餐に使ってみるとよい」


「よいのか?」


 ゼファラがビンを手に取ると、横から見ていたアルファラの口の端からよだれが一筋……。いやちょっと、貴女ヒロインの一人ですよ? 自覚を持ってくださいね?


 ゼファラは蓋をあけて匂いをかぎ、「む、これは……」と声を出してから隣のミュゼに渡した。ミュゼはそれを『鑑定』し、そそくさと部屋を出て行った。料理人に渡しにいったのだろう。


 なおビンを出したときに後ろに座る獣人娘のクーラリアが小さく悲鳴を上げていて、ミアールに「まだありますから安心なさい」と諭されていた。


 ゼファラが俺の方に向き直る。


「さて、前の話では、我らの助力を求める代わりに例の薬と、それから例の物の奪還を手伝うということであったな。それは相違ないか」


「いかにも」


「よかろう、ではその2つが成されたなら助力を約束しよう」


「ではまずは薬を渡そう。ビンが100本になるが、出すので運んでもらえるだろうか」


「承知した」


 そう言うと、ゼファラは5人のエルフたちに指示を始めた。


「お前たち、ビンを受け取ってそれぞれの集落の者たちに薬を配れ。ただし全員が一度に飲むとかわやが足りぬ。交代で飲むよう徹底せよ」


「はっ」


 というわけで俺やフォルシーナたちがマジックバッグから次々とビンを取り出すと、幹部エルフたちはそれを各自のマジックバッグに入れて部屋を出て行った。これでエルフたちはひとまず宿痾しゅくあから解放されるだろう。


 そしてあとはもう一つのイベントをこなせば、超強力な対空戦力の確保は完了となる。


 王城で気が気でないだろう宰相のマルダンフ侯爵のためにも、さっさと終わらせて国に戻らなければな。




 合議が終わると、ひとまず俺たちは客を泊める部屋に案内された。


 といってもそもそも外部からの来客などいない里であるから、個室ではなく大部屋に全員詰め込まれる形である。とはいえ森の探索時はこれが普通なので別に文句を言うようなものではない。


 晩餐まではしばらく時間があるとのことで少しだけ館の外に出たのだが、やたらとテンションが高くなっているエルフが多く通りを歩いていて、しかも里全体に少し独特の臭いが漂っていたのですぐに館に戻ってしまった。


 そりゃ里のエルフ全員が一斉に出し始めたら臭うよなあ、などとゲームではわからない事実があることに妙に感心しつつも、なんでこんな設定にしたんだよと心の中で創造主ゲームクリエイターに文句を言っておく。しかも妙な筋肉属性まで付加されていて、この世界のエルフのイメージはガタガタである。


 晩餐は族長の館で行われたが、その場には幹部エルフも同席し、その場で交渉の内容が族長ゼファラの口から発表された。


 勝負の件と例の薬の効果か反対を口にするものは誰もおらず、それどころか全員俺に感謝をしてくる始末。君たち先祖の恨みつらみを忘れ過ぎじゃない? と思ったが、いくらエルフでも時間が経てばそういう感覚も薄まるのだろうか。


 ということを隣の席のゼファラに聞いてみたところ、


「まあ我らも色々とあるのだ。イグリシスの話が出たが、外に目を向ける者はなにも奴だけではない。ダークエルフが人族の間で生きているという話も聞こえてくるからな。正直な話をすれば、里の者の半数以上は外に出てもいいと考えているだろう」


 という答えが返ってきた。


「ふむ。しかしやはりエルフ族は見目が麗しいものばかりだ。人族の国に無防備に行けば、つまらぬことに巻き込まれることもあろう。もし外に出るのであれば覚悟と準備が必要であろうな」


「無論だ。しかし貴殿が連れている女子おなごたちを見ると、人族もエルフ族に劣るとは思えぬのだが」


「彼女らは特別だ。あれほど見目の良い者はこの大陸じゅうを探してもそうはおるまい」


 フォルシーナたちは別の席でエルフ料理を美味しそうに食べているが、完全にそこだけ別世界といっていいくらい絵になっている。


 まあ『焼肉のタレ』で焼いた肉を泣きながら頬張っているクーラリアとアルファラだけはちょっとアレだが……。よく見ると切れ者美人エルフのミュゼも一口食べるごとに目をつぶって感動していて、他の幹部エルフも競うようにして食べている。というかエルフの晩餐肉多すぎである。このせいで例の病気になったりしているんじゃないだろうか。


 などと前世の知識でものを考えていると、ゼファラが酒をあおったあとに顔を近づけてきた。エルフ族の中でもトップクラスのゴージャス金髪美女なので、さすがの腹黒中ボスも糸目が少しだけ開いてしまう。


「もしやあの女子たちは全員貴殿の妻か?」


「なぜそうなる。一人は私の娘だ。ほかも有能な臣下というだけで、それ以上の関係ではない」


「アルファラが全員貴殿の女だと力説していたのだがな」


「彼女らに直接聞いてもらっても構わん。私は王として、そのような乱れた生活をするつもりも、しているつもりもない」


 特にゼファラにはそこは理解してもらわないとならない。なにしろ昔の人族とエルフ族の確執って、結局美形のエルフ族を人間がさらってきたりして好き勝手したって下世話な話だし。俺が美女美少女を趣味ではべらせてるなんて思われたら、それだけで今回の交渉が白紙に戻るまであるのだ。


 俺が断言したのがよかったのか、ゼファラは「ふっ、その言葉を信じよう」と笑ってまた酒をあおった。


「ところで明日は地下に行くのだな?」


「うむ」


「地下には妙な遺跡があって我らの侵入を阻んでいるのだ。力技で抜けるつもりか?」


「それは行ってみないとなんとも言えぬ。だが最後はそれも考えよう。なに、我が力をもってすれば容易たやすいことだ」


 まあゲーム通りなら入り口で力技は必要ないはずだけどね。力が必要なのはイベントボスくらいのものである。


 俺がいつもの眼鏡スチャッで余裕を見せると、ゼファラは目を細めてまた顔を近づけてきた。そのエメラルドのような瞳が、俺の糸目の中を覗き込んでくる。


「お前は不思議な目をしているな。すべてを見通しているかのような、そんな目をしている。あの魔法の力といい、お前はいったいどのような人間なのだ?」


「もとは王国の公爵。故あって今は王位を奪い王の座についただけの人間だ。ただそうだな、多少人よりは剣と魔法の腕、そして臣下には恵まれているやもしれぬ」


「私の勘がそれだけではないと告げているのだが、まあそういうことにしておこうか」


 ゼファラが魅力的な笑顔でニヤリと笑う。


 う~む、少し驚いたが、そういえばゼファラは勘が鋭い設定があったな。その勘の鋭さが災いして『鬼』の存在に気づいて、それがきっかけで彼女も悲しい最期を迎えることになるのだが……。


 しかしこの世界本当にキャラ死に過ぎではないだろうか。


 実は原作ゲームには『世代交代』というテーマがあったらしく、例えばマリアンロッテに対する聖女オルティアナ、アミュエリザに対する将軍リン、そしてフォルシーナに対するヴァミリオラと、能力的に対応する先輩がいる設定になっているのだが、その先輩はすべて悲しいことになるストーリーなのだ。


 そもそも俺も王位についたあと倒されるという、ある意味主人公にとって先代にあたる人間である。まあ俺は中ボスだから仕方ないにしても、他の面子までことごとく殺さなくてもよくない? とおっさんは思うのである。


 そんなわけで、ゼファラにもこっそりと『エクストラポーション(精霊水バージョン)』を渡しておいた。彼女の死亡ルート回避のついでに好感度アップができればラッキーである。

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― 新着の感想 ―
RPGだと人死には結構ありますが、このゲームはそんなに多いんですねぇ。
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