11 美を競う
エルフの里での腕試し、弓と魔法の腕については俺の圧倒的勝利に終わった。
しかし内心ホッとしている俺に、族長ゼファラが今の勝負は「一番勝負」であると告げてきた。
「一番勝負」というのは普通なら一回で勝負が決まる勝負を指す。だが彼女の言い方だとそうではなく、あくまで「一番目の勝負」という意味のようだった。
確認を取ると、
「われらエルフ族は武の腕だけでは相手を認めぬ。やはりその武にふさわしき美を兼ね備えてこその強者であるからな」
とのことであった。
「美、だと……?」
普通に考えれば「美」というのは容姿のことを指すのだろう。
前世だとルッキズムなどという言葉もあったが、ここは異世界だし、エルフ族にそういう価値観があること自体は別に構わない。しかし見た目でエルフ族に勝つって普通に無理ゲーではないだろうか?
もちろんメインヒロインであるフォルシーナ達であれば、モブエルフ相手なら余裕で勝つし、ゼファラやアルファラ相手でも引き分けにはなるだろう。だが俺はただの腹黒陰険糸目丸眼鏡中ボスである。
「よし、では脱げ」
「はい?」
と聞き返す間もなく、ゼファラはマントを脱いでアルファラに渡し、さらに矢筒やナイフなど装備品も全部外してしまった。
そして姿を現したのは、ほとんどビキニといっていい衣装だけになった、金髪縦ロールのエルフ族族長であった。出るところは激しく出て、引っ込むところはキュッと引っ込むメリハリのある身体、そしてうっすら浮かぶシックスパック。
ゼファラが両手を頭の後ろに回してポーズをとると、周囲のエルフから「さすが族長!」「古今無双の肉体美」「ドラゴン絞め殺せるよ!」「その脇グランドキャニオンか!」とか意味不明の掛け声が。なおこの世界にもグランドキャニオンという地名は存在するので念のため。
俺がポカンとしていると、アルファラがやってきて、
「さあ人族の王マークスチュアート、お前の美も見せてくれ。大丈夫だ、お前なら母上にもひけはとらぬ」
とか言って俺の服を引っ張ってきた。
しかもちょっと目つきが怪しいというか……瞳孔が開き気味じゃありませんかねアルファラさん。
「いやその、少し待ちたまえ……」
さすがに俺も人前でいきなり脱ぐには抵抗がある。というよりなんなのこの展開。
アルファラの手を押さえて抵抗をしていると、今度は後ろから俺の服を脱がそうとする者がいた。しかも複数だ。
「お父様、ここは覚悟を決めるところだと思います」
「国王陛下のお体を見せつけましょう!」
「へ、陛下。失礼いたします!」
それはフォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザの三人であった。クーラリアもそこに加わろうとしているが、ミアールが羽交い絞めににして取り押さえている。
ヴァミリオラは「さすがにここまでは貴方も読んでいなかったのかしら? でも必要なことみたいだから諦めなさい」などと言い、聖女オルティアナは「わ、私もお手伝いしましょうか?」とか顔を赤くして言ってくる。
「わ、わかった。私も覚悟を決めたゆえ手伝いはいらぬ。少し離れよ」
仕方なくそう言ったのだが、結局フォルシーナやアルファラたちの手によって上半身を裸にされてしまった。しかもフォルシーナがどこからかブーメランパンツを持ち出してきて、結局それにはき替えることまで強制された。もちろんパンツのはき替えだけは自分で行ったので念のため。
「ほう! 見事な身体ではないか。もっと堂々とするがいい。これは勝負だぞ」
ゼファラが次は両腕を後ろに回す意味不明なポーズを決める。どよめくエルフたち。
仕方なく、本当に仕方なく俺も前世のボディビル大会でやるようなポーズをとった。しかしいざポーズを取ってみると、俺の中のマークスチュアート面がざわつくのを感じる。どうやらこういうのも俺は好きらしい。まあ腹黒糸目中ボスなんてナルシスト属性は標準装備みたいなものだしなあ。
「ふむ、こうか」
興に乗ってきたので、両腕を曲げて掲げるダブルバイセップスというポーズを取ると、エルフたちが一斉に注目してきた。
「こういうのもあったな」
さらにサイドチェストなどそれっぽいポーズをいくつかやってみせると、エルフの観衆たちから大きなどよめきが起こった。中には「腹筋で大根下ろせるよ!」「肩にゴーレム乗ってんのか!」とか意味不明な掛け声が……。ちなみにこの世界、大根も食材として普通に存在する。
後ろからは「お父様素敵です」とか「陛下の背筋……美しいです」とか「あの筋肉がすさまじい剣技を生み出すのですね」などという言葉も聞こえてくるが、マークスチュアート面じゃないほうの俺にとっては拷問に近い。
しかもいつの間にかゼファラが近くまで来ていて、アルファラと一緒に俺の胸筋や腹筋を舐めまわすように見てくる。しかも親子そろって鼻息が荒くてかなり怖い。
う~ん、原作ゲームのエルフに筋肉属性なんてなかったはずなので、これもちょいエロソシャゲで付け足されたものだろうか。そりゃ爆死するわ。
「ゼファラ殿、これで満足だろうか」
「うむ、アルファラから聞いてはいたが見事な美だ。あの魔法の腕とこの美しい肉体、どうやらお前のことは認めねばならんようだ」
「もう勝負はないのだな?」
「これで決着だ」
ゼファラはそう言うと、エルフたちの方に向き直り、大声を張り上げた。
「見たかエルフの民たちよ。人族の王、マークスチュアートはその武と美をもって我らとの交渉を望んでいる。我らは祖先から人族は信用ならぬ、野蛮な者たちと教えられてきた。しかし果たして、野蛮なものにあれほどの武と美が宿るであろうか? さらに彼は、我々を長年悩ませてきた病を治す薬を持ってきているのだ。しかもその効能はすでに確かであると確認はとれている。それらをもって、私はエルフを束ねる者として、彼らを受け入れようと思う。異論のある者はいるか!」
その声には多少の魔力も含まれていた。その効果もあって、その場で異論を差し挟む者は皆無であった。
少しだけ流れが違ったが、どうやらエルフ族との交渉はまっとうに進められそうだ。
ただその後、俺の服をフォルシーナたちがなかなか返してくれなかったのは困った。そういういじりはおっさんにはツラいのでやめていただきたい。
いや、もしかしたら『裸の王様』という皮肉なのだろうか。だとすればなかなか強烈な皮肉といわざるを得ない。
この身が所詮中ボスであることは、常に心にとめておかなければな。




