07 水精霊の恵み
夜は『モバイルフォートレス』での一泊となった。
実際使ってみると、なんとシャワーに風呂まで完備、水洗トイレが別個室に設置されていて、前世で泊まったビジネスホテルより数段上の快適性であった。
風呂も魔力さえ注げばお湯までが出るという親切設計で、まさに創造神の作った天然チートアイテムである。
……のだが、フォルシーナたちはなぜか水浴びにやたらとこだわっていた。
「お父様、やはり外で水浴びをしたいと思います。お父様もそう思われますよね?」
「いや私は風呂で十分……」
「だめです。せっかくの旅なのですから水浴びをすべきです」
「しかしここは水場がない……」
「大丈夫です。このようなこともあるかと思い、精霊イヴリシア様に素晴らしいものをいただいております」
「なに?」
俺の戸惑う姿にフォルシーナはニコリと笑顔を見せ、皆を連れて外に出て行った。仕方なく俺も外に出ていくと、フォルシーナは『モバイルフォートレス』から少し離れた所に立ち、マジックバッグから野球ボールくらいの大きさの水晶球を取り出した。
「あれはまさか……」
そのアイテムには見覚えがあった。ゲームでも存在した、『水精霊の恵み』というイベント用のアイテムである。
フォルシーナがその水晶球を地面に転がすと、止まったところで水晶球は地面に沈んでいき、そしてそこを中心にして、直径10メートルほどの水場が出現した。非常に透明度の高い、イヴリシアが住まう泉の小型版のような水場である。
フォルシーナはその成果に満足そうに鼻息をもらし、そして俺の方を振り返った。
「どうでしょうお父様、これらな水浴びは問題なくできると思いますが」
「いや、まあ、そうであろうな。しかしフォルシーナ、そのような道具をどうやってイヴリシアから手に入れたのだ?」
「マリアンロッテとともに相談に行ったのです。そうしたら精霊様は快く与えてくださいました」
「えぇ……」
いやその『水精霊の恵み』って、水不足で困ってる村を助けるためのアイテムなんですが……。
まあ一回使い切りのアイテムではないはずなので別にいいのだが、まさかフォルシーナたちがそのようなことをしてくるとは想定外だった。よく考えればゲームに出てきたアイテムだって俺だけが手に入れられるわけでもないんだよな。『シグルドの聖剣』だってそうだったし。
なんて思っていると、フォルシーナたちは『モバイルフォートレス』へと着替えに行ってしまった。仕方ないので俺はその泉に近づいて水をすくってみたりしてみた。ゲーム通りなら飲むこともできる水であり、これで水浴びというのはかなり贅沢である。
「……なっ!? 私にこんな破廉恥なものを着ろといういうのか……!?」
「……今の格好と大して変わんねえだろ。アルファラはいつもそんな格好してて恥ずかしくないのかよ」
「……クーラリアとて言うほど変わらぬだろうが。ちょっと待て、お前のその水着とやらの露出の多さはなんなのだ……!」
「……これいいだろ! ご主人様にもいい体だって褒めてもらったんだぜ」
「……お前たちは本当にあの王の女ではないのか!?」
う~ん、甲羅の家の中から俺のパブリックイメージが揺らぐ音が聞こえる。
真面目な話、水着イベントに関しては俺はなにもしていないのだが……強いて言えば『ポリエステル』を錬金術で作ったことくらいか。でもあの素材、兵士たちからは大絶賛らしいからなあ。すでに少量市中にも卸していて、現場関係では親方連のステータスアイテムになっているらしい。
少しすると、フォルシーナたちが次々と扉から出てきて俺に水着姿を見せ、それから楽しそうに水浴びを始めた。ヴァミリオラなど、水着美少女たちを前に目尻が下がりっぱなしである。本人もハイレグがすさまじく似合う妖艶美女なのだが、そこには残念な女公爵の姿しかなかった。
「ふふふふっ、泉で戯れる少女たち……天上の楽園はここにあったのね……」
「ミリー、口は閉じた方がいいと思うのだけど……」
「あら、ティアも美しいから大丈夫よ」
「そういう話じゃなくて、ね? 陛下もご覧になっているし」
聖女オルティアナが困った顔をしながら、俺の方をチラチラと見てくる。
俺はなるべく泉の方は見ないようにしているのだが、まったく見ないとなぜか「お父様は私たちのことが心配ではないのですか?」とフォルシーナに怒られるのである。
なのでオルティアナとつい目が合ってしまうのだが、そうするとオルティアナはグラビアアイドルみたいなセクシー聖女ポーズをとって、そしてすぐに顔を赤くしてやめるというあざといムーブをしてくるのだ。
う~ん、これもちょいエロソシャゲの影響だろうか。気合入って作ってたんだなソシャゲ。その割に爆死したらしいが。
最後はクーラリアに引っ張られたアルファラが出てきたのだが、顔を真っ赤にして睨んでくるので、俺は見ないように身体ごと後ろを向こうとした。が、クーラリアが「ご主人様、これを見てくれよです!」と叫ぶので中断して見ざるを得なかった。
そこには、緑のビキニを着たエルフ少女の姿があったのだが……うん、確かに露出度は元の衣装とそんなに変わってないかもしれない。それと元は筋肉質なスレンダー体型だったはずなのだが、どうも一部増量されているような……。これもソシャゲの影響だろうか。
まあ元から美しいエルフ少女ではあるのでその姿は神々しいほどだが、俺にとっては『ゲームと同じだなあ』で感想は止まってしまうのでセーフのはずである。
「ま、まあ美しいのではないか。水浴びをして埃を落とすとよい。そのほうが食事も美味く感じよう」
「く……っ、このような姿を人族の男に見られるとは……。なんという屈辱……っ」
「アルファラもご主人様の力を知れば見られることが嬉しくなるって。じゃ、お嬢たちと一緒に水浴びしようぜ」
クーラリアがそのまま手を引いてアルファラを連れていってくれたので、それ以上真っ赤な顔で睨まれるのは避けられた。というよりきちんと恥ずかしそうな態度を取ってくれるのが彼女だけなので、逆に少しだけ安心してしまった。
なおその後、俺がブーメランパンツ着用で一人水浴びをしていると、『モバイルフォートレス』から全員が出てきて泉の側で料理を作り始めた。『モバイルフォートレス』は確か厨房完備だったはずなのだが……。
しかもアルファラまで「先ほど見られたのだからお返しだ」などと言ってガン見してくるので、さすがの腹黒国王も恥ずかしくなってしまった。
代わりに、
「く……っ、人族の王、侮れぬ。あれほどの肉体を持つ者はエルフ族にはおらぬ……」
とか意味の分からない悔しがりかたをしていて、やはりアルファラは設定通りエルフ族の戦士なんだと再確認できたのはよかったかもしれない。
ちなみに今日の料理は旅の直前にレシピを新開発した『焼肉のタレ』を使った肉料理で、これがまた絶賛の嵐であった。
特にクーラリアが感動のあまり、
「これうめえ! うまいですよご主人様!」
などと涙を流しながら肉を頬張っていた。
しかもアルファラがそれを馬鹿にするかと思ったら、
「く……っ、人族の錬金術、侮れぬ……!」
とか言いながら一緒に涙を流して頬張っていた。
なおこの世界のエルフは普通に肉も食うそうだ。それはそうだよね、狩猟で飯食ってる種族だもんね。




