05 フォレストフォートレス
さて、アルファラに里までは案内してもらえることになったが、距離的にはあと一泊が必要である。
金髪緑眼、太い三つ編みをした美少女エルフのアルファラを加えて9人となった俺たちは、『不帰の森』深部をさらに奥へと進んでいった。
モンスターは引き続き『バンダースナッチ』が出現するほか、樹上から襲い掛かってくる大型ヘビの『アンブッシュパイソン』が新たに出てきた。
どちらも基本的にフォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ミアール、クーラリアの5人パーティで対応させたが、それにアルファラも加わって自然と6人で戦っていた。
アルファラの戦闘スタイルは、矢に風属性魔法を付与して射るという遠距離メインのものなのだが、木の上から飛び降りてくるアンブッシュパイソンを正確に射抜く姿は非常に頼もしいものがあった。
言うまでもないことだが、アルファラもゲームではヒロインの一人であり、メインではないものの攻略ルートのある人間であった。現実のこの世界でも能力的にフォルシーナたちと比肩する人物のはずである。
だからだろうか、何度か戦ううちに彼女たちはすぐ打ち解けて仲良くなったようだ。特に遠慮という言葉を知らないクーラリアとウマが合うようだった。
森を歩きながら、クーラリアがアルファラをつっついたりする。
「なあアルファラ、エルフ族ってのは皆腹が弱いのか?」
「お前はもう少し遠慮というものを知れクーラリア」
「一応気を使って腹が弱いって言ったんだけどな。それともはっきりとク……」
「言うなばかもの。まったく、お前のような奴は初めてだ」
「で、どうなんだ? 皆同じなのか?」
「そうだな。皆同じだ。原因はまったくの不明だが、男も女も、子どもから年寄りまでみな同じ症状に苦しんでいる」
「まったく出ないわけじゃねえんだろ?」
「本当にお前は……。10日に一度とかそのような感じだ。その間ずっと、常に腹痛に悩まされる」
「それはいろいろキツいな。毎日出るオレにはわからねえ苦しみだぜ」
クーラリアが両手を頭の後ろに組んで能天気そうに言うと、普段無表情なミアールが眉を寄せて溜息をついた。
「クーラリア、その品のない言葉、お館様たちにも聞こえますよ」
「そうは言っても本当のことだしなあ」
「お館様は品のない女性はお嫌いだと思いますけどいいのですか?」
「え!? それはかなり困るぜ……」
と俺の方を恐る恐る振り返ってくるクーラリア。
俺は素早く腹黒国王必殺の「聞いてなかったフリ」を炸裂させて乗り切ったのだが、そのやりとりと見てアルファラが怪訝そうに眉をひそめた。
「クーラリアは国王の情婦なのか?」
「なんだよ情婦って?」
「国王の女なのかという意味だ」
「ん~、まあその予定ってところかな」
「アルファラさん、お館様はそのような方ではありません。クーラリアもそういう発言は控えなさい」
とんでもない話が飛び出してきてクーラリアがとんでもないことを答えているが、ミアールが慌てて否定してくれた。
俺の隣でヴァミリオラと聖女オルティアナがぷっと吹き出しているが、ヴァミリオラの眼は微妙に笑ってない気もするな。
妙に緊張感のない道中となったが、午後になって俺たちは大きな広場に出た。奥に山のような巨大な樹木が立っていて、ここが特別な場所であると示している。もちろん『不帰の森』深部のボス出現フィールドである。
アルファラはその広場に入ると、目つきを鋭くして周囲を警戒しはじめた。
その様子を見て、クーラリアがのんきそうに声をかける。
「なんでそんなビビッてんだ? なんかヤバいのがいるのか?」
「そうだ。このあたりは巨大なモンスターが時折現れて森を荒らすことがあるのだ」
「へえ。そりゃ是非とも戦ってみてえなあ」
「ばかなことを言うな。出会ったら逃げるのがエルフ族でも常識だ。幸い足は遅いから――」
そこで右の方から、バキバキバキと木を薙ぎ倒す音が響いてきた。
全員がそちらに目を向け、現れたモンスターを見てアルファラが叫んだ。
「奴だ! とりあえず逃げろ!」
「その必要はない。我々ならば問題なく倒せる」
「エルフ族の戦士が100人いても倒せないモンスターだぞ!?」
「我らの強さを見ておけ。そして里長に伝えるといい」
「なにを言って……!?」
などとやっているうちに、ボスモンスターがその全容を森の中から現した。
それは一言で言えば、巨大なリクガメだった。今俺たちはその姿を正面から見ているが、甲羅の幅だけで7、8メートル、高さは5メートルほどあるだろうか。地面を踏みしめる前足は大木を束ねたように太く、トレーラーヘッドほどの大きさの頭部には赤い眼が2つ、無感情にこちらを見下ろしている。
さらに甲羅の背中にはフジツボのような突起が、ここから見えるだけで20ほど並んでいる。その突起の先端からは時々鳥のくちばしみたいな物が突き出して、開いたり閉じたりしている。
『フォレストフォートレス』という、明らかに語感だけで決められたような名前の、Aランクに分類されるボスである。
「陣形を整えて!」
フォルシーナが指示をすると、5人はすぐに前衛3人後衛2人の陣形を作る。ためらっていたアルファラも、「くっ」と言いながら後衛に加わった。
「フォルシーナよ、このモンスターは動きは鈍いが、背中のあの突起の中に礫を放ってくるモンスターが寄生している。まずはあの突起を破壊し、中のモンスターを倒すといい」
「わかりました。マリアンロッテは能力アップを。私が『ロックウォール』で防壁を作るわ。皆は機を見てあの甲羅の上の突起を攻撃して」
「任せてフォルシーナ」
「承知!」
「了解だぜお嬢」
「かしこまりましたお嬢様」
「仕方ない、私も加勢する」
マリアンロッテが『ディフレクションウォール』『ホーリーエッジ』を連続で発動し、防御力と攻撃力を上げる。同時にフォルシーナが『ロックウォール』を発動、パーティの前に分厚い岩の壁を作る。
「あの出っ張りを潰せばいいんだろ! おらァ!」
クーラリアが刀をその場で振ると、刃から三日月型の光が発生し、高速で飛んでいった。『斬月』という剣士用の遠距離攻撃スキルだ。
光の刃が突起の一つに命中すると、突起はパキンという甲高い音を立てて砕け散った。突起の中にいた、ナメクジに鳥のくちばしがついたような寄生型のモンスター『パラサイトシューター』もついでに真っ二つになって消えていく。
「なんだありゃ、気持ち悪ぃな」
「あれが厄介なんだ。気を抜くな」
アルファラがクーラリアに注意をしながら矢を放つ。螺旋のエフェクトがついているのは風属性を付与しているからだ。アルファラの持つ『スパイラルアロー』というスキルである。
矢は突起二つを貫通して、それぞれ中にいた『パラサイトシューター』をも貫いた。
「はぁっ!」
さらにミアールがショートソードを突き出すと、その先端から錐のような光が放たれて、やはり突起一つを破壊した。『ソニックスラスト』というショートソード用の遠距離攻撃スキルである。
「うぅっ、私だけ攻撃手段がないとは。陛下に名前をいただいておきながら……」
と悔しがっているのはアミュエリザだ。残念ながら素で攻撃範囲の広い槍には、遠距離攻撃スキルがないのである。だがアミュエリザの出番はこの後いくらでもある。
先制で突起をいくつか破壊された『フォレストフォートレス』は、その場でぶるっと巨体を震わせた。すると残った突起から、『パラサイトシューター』のくちばしが一斉に飛び出してきて、こちらにむかってくちばしを開いた。
そこから発射されるのは野球ボール大の石である。石とはいえその速度は時速200キロは軽く超えているだろう。高レベル者であっても食らえばダメージは免れない。
しかもその石礫は、同時に20発以上発射されてくる。フォルシーナたちは『ロックウォール』の影に隠れてやり過ごしつつ、隙を見て魔法やスキルで反撃をする。ただ隠れながらなので、先ほどのように次々と『パラサイトシューター』を撃破というわけにもいかない。
しかもそこで、フォレストフォートレス本体がこちらに向かって前進を始めた。歩みは遅いが、あの質量は『ロックウォール』では防げない。無論押しつぶされればそれだけで致命的である。
「動きを止めるから皆で攻撃して! 『フリージングサークル』!」
フォルシーナが氷属性の範囲魔法を岩陰から放った。フォレストフォートレスの足元が一気に凍り付き、その太い足からピキピキと霜が上っていく。霜は甲羅の前半分までを完全に覆いつくし、甲羅の表面の突起も、そしてその中にいるパラサイトシューターまでも一瞬凍らせた。
フォレストフォートレスの歩みが止まり、パラサイトシューターの射撃も止んだ。
「ナイスお嬢!」
「これほどの魔法が使えるのか!?」
クーラリアが飛び出して『斬月』を放ち、アルファラも驚愕しつつ『スパイラルアロー』を連射する。ミアールも『ソニックスラスト』で確実にパラサイトシューターを潰していく。
「今なら!」
さらにアミュエリザが果敢に前に飛び出して、フォレストフォートレスの頭部に攻撃を仕掛けた。『三連突き』による連続攻撃や、『破塞』というオーラ付き貫通攻撃を繰り出して確実にダメージを与えている。
「『アイスパイル』!」
さらにフォルシーナが、フォレストフォートレスの頭頂部に氷の杭を打ち付けると、巨体がわずかにグラリと揺れた。
機を逃さず、クーラリアとミアールも頭部への接近攻撃を始める。
「なんだコイツ、デカいだけで弱えじゃねえか!」
「ここまではいいんだ、ここまでは! 問題は――」
アルファラがそう言いかけた時、フォレストフォートレスに動きがあった。




