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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第10章 国王マークスチュアート、エルフの里を探訪す

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04 アルファラ

 俺の指示で、ミアールが薬を持ってエルフ少女のもとに歩いていく。


 エルフ少女もさすがに丸腰のミアールが相手では攻撃することもできず、近づくのを見守るだけだった。


「その薬はなんだ? なにをする気だ?」


「お静かに願います。このお薬の効能を説明いたします。このお薬は……」


 その後の言葉はヒソヒソ声になって聞こえなかったが、ミアールがなにを言っているのかは、エルフ少女の表情が疑いから驚きへ、そしてさらに形容しがたい難しいものへと変わったことでよくわかった。


 そしてミアールは、薬の入った小瓶をエルフ少女の前に差し出した。エルフ少女は俺の方をなぜか凄まじい目つきで見てきたが、小瓶をひったくるようにつかむと、それを自分のマジックバッグに仕舞おうとした。


「うっ!?」


 仕舞おうとして、エルフ少女はいきなり腹を抑えてうずくまってしまった。


 どうやら()()()()()()ようだな。可哀想に。


「どうしました?」


 ミアールが心配そうに声を掛けるが、エルフ少女は顔を青くしながらも辛うじて首を横に振った。


「……大丈夫だ。いつものことだからな」


「ですが非常に苦しそうです。回復魔法が必要なら……」


「魔法では治らぬ類のものだ。気遣いは無用」


 などと気丈な風を装っているが、その実態を知っている俺からすると見ていて少しムズムズする。


 仕方なく俺はエルフ少女に声をかけた。


「無理をせずその薬を一錠飲むがいい。貴女の苦しみはたちどころに解消されよう」


「ふざけるな。これが狡猾な人族の毒でない証拠があるのか」


「貴女を害するつもりならとっくにやっている。私の腕のほどは先の戦いでわかっているであろう」


「……くっ、確かに……」


「どちらにせよ、その薬の効能は誰かが試さねばならぬ。里の人間を助けたいと思うならばな」


「貴様は……悪魔か……それとも……」


「私が悪魔となるか救いの神となるかはエルフ族次第だ。さあ早くしたまえ。苦しみは人を成長させるというが、無駄な苦しみは妨げにしかならぬ」


「……」


 エルフ少女はそれでも少しためらっていたようだが、最後には小瓶の蓋を開け、錠剤を一錠口に含んで飲み込んだ。


 ふっ、腹黒国王の舌先にかかれば小娘を騙すなぞ造作もないこと……と心の中で偽悪的セリフを唱えているうちに、エルフ少女の腹がぐぅ~、と大きな音を立てた。


 その瞬間エルフ少女は飛び上がるように立ち上がり、顔を真っ赤にして、再び指を俺に突き付けた。


「かっ、必ずここに戻る! だからしばし待て! 決して追ってくるなよ!」


「わかっている。行きたまえ」


 俺が答えると同時に、エルフ少女は飛ぶようにして森の茂みの中に入っていってしまった。


 その姿が消え、茂みをかき分ける音が聞こえなくなると、フォルシーナが隣にやってきた。


「お父様、先ほどのお薬は、もしかして女性の使用人たちが使っているという、その、お通じのお薬、ですか?」


「うむ」


「ということは、あの失礼な方は、それで悩んでいたということですね?」


「そうなるな」


「まさかお父様はこのことを見越してあのお薬を?」


「情報というのはかように大切なのだ」


 いつもの適当曖昧発言でごまかすと、こちらもいつものとおりフォルシーナは尊敬のまなざしを向けてきた。


「さすがお父様です。伝承にあるエルフ族の悩みまで見抜いてしまわれるとは」


「大したことではない」


 と言いながらも、俺は内心冷や汗をかいていたりする。


 なにしろただのゲーム知識な上に、今回に関してはさすがに本で知りましたでごまかすのは難しい話だったからなあ。今までの積み重ねがあって助かった。


 と思っていると、ヴァミリオラと聖女オルティアナが、妙に真剣な顔でこちらに近づいてきた。


「ちょっといいかしら。いまフォルシーナは、その、お通じの薬と、そう言ったのよね」


「はい、そう申しました。少し前にお父様が錬金術で開発なさったお薬なのです」


「その薬は、ブラウモント家では普通に使われているのかしら」


「はい。多くの使用人が使っていて、お父様に大層感謝をしているそうです。ねえミアール?」


「はいお嬢様。メイドを始め、非常に多くの者がお館様に感謝をしております」


 ミアールが真面目な顔でうなずくと、ヴァミリオラとオルティアナは俺にずいっと詰め寄ってきた。


「その薬、こちらに分けてもらうことは可能かしら? 私の使用人たちもそれで悩んでいる者が多いと聞いているのよ」


「陛下、その、できればぜひ、私の方にも分けていただきたいのですが。神官にもその、悩んでいる者が大変多く……」


 2人のあまりに真剣な目を見る限り、どう考えても使用人や神官たちだけのために言っているとも思えなかったが、さすがにそれを指摘するほど命知らずではない。


「あの薬は近く市井にも卸すつもりであった。先行してローテローザ公と聖女にもお渡ししよう」


「そ、そう、助かるわ」


「ありがとうございます! 助かります」


 オルティアナが手を握ってくるのはいつもの距離感バグだからいいとして、ヴァミリオラまで手を握ってきたのにはかなり驚いた。


 う~ん、この世界、相当に苦しんでいる女性が多いのだろうか。なんにせよ、好感度アップになったのならラッキーではある。


 俺が手を握られたまま戸惑っていると、そこで森の方からガサガサと音がして、2人はハッとなって手を放した。


 音がした方を見ると、樹間からエルフ少女が姿を現すところだった。顔を妙に赤くして恥ずかしそうにしているが、どことなくすっきりしたような雰囲気も漂わせている。どうやら無事に『効いた』らしい。


「すげえ晴れ晴れした顔してんな。あれってご主人様の薬が効いたってことだよな」


「クーラリア、同じ女としてそういうことを言ってはだめですよ」


「だけどさミアール、アイツさっきまでと雰囲気まるで違ってるじゃんか」


「それはそうでしょう。クーラリアもそのうちわかるようになりますよ」


「え、ミアールはもうわかんのか?」


「いえ、メイド長に私もそう言われたのです」


 そんなやりとりが後ろから聞こえてくるが、もしかしてそのバッドステータス、女性は確定なの?


 などと思っているうちに、エルフ少女はおずおずとして足取りで俺の前にやってきた。


 ただ視線を合わせようとせず、何を話そうか悩んでいるような様子だったので、気を使って俺の方から話しかけることにした。


「体調は良くなっただろうか?」


「う、うむ、その、薬のおかげでな。腹の痛みは一切なくなった」


「ならば重畳。薬の効き目は貴女が身をもって感じたとおりだ。私はこれを手土産にしてエルフ族との交渉に臨みたいと思っている。わかっていただけたかな?」


「それは理解した。ところでその……今の薬はどれくらい持ってきているんだ?」


「今のところ1万錠ほど用意している。不足ということはないと思うが」


「そうだな、十分だ……」


「ならばエルフの里まで案内してもらえるということでよろしいか?」


 確認を取ると、エルフ少女は大きく息を吐いて、それから凛とした表情になって一礼し、緑の瞳で俺を見上げてきた。


「先ほどは失礼した、人族の王マークスチューアート。私はエルフ族、族長の娘アルファラ。私の身をモンスターの牙より救っていただき、またこの身の不調を治していただき感謝する。その礼に里までは案内しよう。ただし族長がどう判断するかまでは私にもわからない。それは了承してほしい」


「無論だ。よろしく頼む、アルファラ殿」


 エルフ少女――アルファラが右の手のひらを前に出してきたので、俺も手のひらを前に出して、アルファラの手と合わせる。それがエルフ流の握手らしい。どうやらエルフの里までは行けそうで、ひとまずは安心といったところか。


 しかし本来ならアルファラを助けたことで感謝されてすぐに里に案内してもらえるはずだったのだが、やはり腹黒国王が主人公ポジだとそうもいかないようだ。


 おかげで便通の薬の出番が早まってしまったが、その分話も早くなるだろうからよしとしよう。なにしろエルフの里では、他にもまだイベントがあるのである。

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