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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第10章 国王マークスチュアート、エルフの里を探訪す

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03 不帰の森・深部

 夕飯は車座になって食べたが、やはり野営でのカレーは抜群に美味しい。なおカレールーについてはすでに王国貴族の間で流行になりつつある。今はまだ高級品だが、遠からず錬金レシピは公開して、庶民でも食べられるようにするつもりである。


 その後フォルシーナたちは水着に着替えて水浴びに行った。


 わざわざ水着姿を俺に見せにくるのは困ったが、さすがに来なくていいと言うわけにもいかず、好感度アップイベントだと思って水着姿を一通り褒めておいた。まあ実際、褒めるところしかないメンバーではあるのだが。


 交代で俺が水浴びをする頃には日も落ちかけていて、その後は交代で見張りを立てながら一晩を過ごした。


 ちなみに夕方ごろ、『通信の魔道具』によって、王城にいる宰相マルダンフ侯爵と家宰ミルダートにしっかりと連絡を取った。急ぎ俺の決済が必要なものに決裁を与えたりしたが、やはり『通信の魔導具』の利便性は素晴らしい。ヴァミリオラにも『通信の魔道具』は渡してあり、彼女も自分の領地の家宰と、それから妹のロヴァリエと連絡を取っていたようだ。


 なお俺のテントにはフォルシーナ、ミアール、クーラリアが寝た。毎回これでいい気がするのだが、明日は逆になるのだそうだ。女子の考えはよくわからない。


 日が昇ると同時に出発。


 今日は『不帰の森』深部の探索となる。


 森の木々はその太さも高さも増し、昼でも地表は薄暗い。空気はひんやりしていて、地面は湿っており、岩はほとんどが苔むしている。いかにも森の奥深くといった趣だ。


 出現するザコモンスターはBランクとなり、危険度は一気に上がる。といっても、魔族領の奥地に比べればまだまだである。


 最初に現れたモンスターは『バンダースナッチ』という、大型の狼にライオンのたてがみを付けたような獣型のモンスターだ。


 単純な物理型だが、パワー、スピード共に非常に高く、こちらのレベルが低いと一瞬で全滅させられる相手である。


 実はゲームで一度全滅させられたことがあり、俺としては微妙にトラウマがある相手なのだが、フォルシーナたちはいつもの通り、マリアンロッテの能力上昇魔法で強化、フォルシーナの氷魔法で足止め、前衛陣が突貫という戦術で安定して倒していた。


 よく考えたらフォルシーナの『精霊樹の杖』とアミュエリザの槍『スカーレットプリンセス』はラスボスにも通用する最強ランクのものであった。強くて当たり前である。


 そんな感じでザコを蹴散らしながら進んでいくと、やはり円形に木の生えていない広場が木々の間に見えてきた。


 もちろん中ボス出現ゾーンであるのだが……。


「お父様、あそこに人がいます。しかも巨大なモンスターと戦っているようです」


 フォルシーナが言うように広場には先客がいて、中ボス『ミリオンニードル』という、ハリネズミを凶悪な見た目にして巨大化したようなモンスターと戦っていた。


 ミリオンニードルが飛ばす矢ほどの大きさの針を巧みに躱している人物は、見た目だけならフォルシーナたちより少し上、クーラリアと同じくらいの年に見える少女だった。


 長い金髪を三つ編みにして背中に流し、緑の瞳を持つ目は凛々しく、顔立ちはまるで名匠の手による人形のように整っている。緑を基調とした服は妙に露出度が高く、抜けるように白い肌をかなりのところさらしている。体つきは全体的に細いが非常に均整がとれていて、神が贔屓をしたのではないかと思えるくらいだ。


 しかし何より目を引くのは笹の葉のように左右に突き出た耳だろう。彼女が何者であるのか、その耳が雄弁に語っていた。


「間違いない、あれはエルフ族だ」


「あれがエルフ族……。お父様がおっしゃった通り、この森に住んでいたのですね」


「そうなるな。しかしゲーム通りかあ……」


「お父様?」


「いやなんでもない。ともかく彼女一人であのモンスターは倒せまい。助けるとしよう」


「はい!」


 まあともかくあのエルフ少女がここにいて、中ボスと戦っているというのはゲーム通りのイベントである。主人公一行が彼女を助けることで、エルフと上手く渡りがつけられるようになるというシナリオである。


 あまりにタイミングが良すぎて驚きではあるが、ここはその流れに乗るべきところだろう。どちらにしろ目の前の状況を放っておくこともできない。


 俺たちが走って広場に入ると、ちょうどエルフ少女が弓のスキルを放ってミリオンニードルをひるませ、体勢を立て直したところだった。


 ……ゲームではそういう流れだったはずなのだが、今目の前にあるのは、針攻撃を無理に避けようとして体勢を崩したエルフ少女を、巨大ハリネズミが大きな口で咬み砕こうとする絶体絶命のシーンであった。


「危ない!」


 マリアンロッテが叫ぶ。


 俺はその声より先に『神速』+『縮地』を発動。超高速でエルフ少女の元に移動をすると彼女を抱えてとびずさり、鋭い牙の前から助け出した。


 さらにそのまま『シグルドの聖剣』を抜いて一閃、『破星はせい冥王剣めいおうけん』を放つ。光の帯となった斬撃が容易たやすくミリオンニードルを両断すると、辛くもエルフ少女救助イベントはクリアとなった。


 というかゲーム通りのイベントならゲーム通りに進めて欲しいよなあ。俺が『神速』を持ってなかったら完全にアウトだったぞ今の。


「お父様さすがです!」


「ご主人様の今のスピード半端ねえな。まだまだ先は遠いぜ」


「あれが『蒼月の聖魔剣士』ブラウモント王の体術。また一つ勉強になりました」


 フォルシーナ、クーラリア、アミュエリザがそんなことを言い、皆が俺のところにやってくる。


 俺は脇に抱えていたエルフ少女を地面に下ろした。


 彼女は膝をついていたが、まだなにが起きたのかよくわかっていない様子で、緑色の瞳をあちこちに向け、そして俺たち全員の顔を見回した。


 俺は距離を取り、皆を少し下がらせた。なにしろ相手は人族と過去に軋轢あつれきのあったエルフ族である。距離感は十分注意しなければならない。


 俺はエルフ少女が立ち上がるのを待って声をかけた。


「我々は神聖インテクルース王国の者だ。貴女が危地にあると思い助太刀した。少し強引にしたが怪我はないか?」


「……神聖インテクルース王国? むっ、お前たちは昨日川の近くで見た人族か」


 エルフ少女は鋭い目を向けてきた。一瞬手元の弓を構えようとしたようだが、さすがにそれは思いとどまったようだ。


「昨日人影を見たが、それは貴女であったか。もう一度名乗ろう。私は神聖インテクルース王国の王、マークスチュアート・ブラウモントだ。見知りおき願いたい」


「王だと? 人族の王が森の奥になんの用がある?」


「貴女はエルフ族とお見受けする。我らはエルフ族と友誼ゆうぎを結ぶために、エルフ族の里を目指している。可能ならば案内を頼みたい」


 俺の言葉にエルフ少女は目を見開き、そして一つ二つ瞬きをすると、次は眉根を厳しく寄せて俺を睨みつけてきた。さらに右腕を突き出すと、ビシッと俺の鼻先めがけて人差し指を突き付けてきた。


「友誼だと? 貴様ら人族は極めて傲慢ごうまん、かつ残虐な者たちと聞いている。我らの先祖を蹂躙じゅうりんし、さんざん辱めた悪鬼のごとき者たちだとな。そのような者たちを里に案内などできぬ。さっさと自分たちの土地に帰るがいい!」


「済まないがそれはできぬ。こちらもエルフ族に用があってここまで来ているのだ。貴女が案内をするか否かに関わらず、先には進ませてもらわねばならない」


「その言いよう、やはり傲慢ではないか。我らは人族などになんの用もない。帰らぬというなら力ずくで帰らせるまで!」


「人族に用はない、果たしてそうであろうか?」


 弓を構えようとしたエルフ少女に対して、俺は丸眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、意味深に問いかけた。


 腹黒国王必殺の眼鏡スチャッ攻撃に一瞬鼻白(はなじろ)んだエルフ少女は、そのまま動きを止めて聞く体勢に入った。


「なにが言いたい」


「人族は、エルフ族が知りえぬ知識や技術を多く持っているということだ。その中には例えば、貴女がたエルフ族の悩みを解決する手段が含まれている可能性もあろう。そうは思わないかね?」


「貴様の言葉は回りくどい。言いたいことをはっきり言え」


「ふむ。私の口から貴女に言うのはいささか抵抗があるのだが……ミアール」


「はいお館様」


 俺はマジックバッグから錠剤の入った小瓶を取り出すと、それをメイドのミアールに渡した。


「お前はこの薬がどのようなものか、メイド長から聞いているな?」


「これは……は、はい、聞いております。多くの女性がお館様を神の化身と呼ぶきっかけになったお薬ですね」


 え、そんなことになってんの? 


 こんな薬ひとつで神様呼ばわりはさすがにちょっと困るというか、王の黒歴史になりかねないのだが……。まあそれは今はいいか。


「この薬をあの者に渡し、効能を説明してやれ。我々に聞こえないようにだ。よいな?」


「かしこまりました」


 ミアールはそう言うと、武器を地面に置いて、訝しげな顔をするエルフ少女の方に歩いていった。 

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