01 エルフの里へ
王となってから5日。
家宰ミルダートや宰相のマルダンフ侯爵、そしてツクヨミやフォルシーナ、などの力を借りつつ、俺は今やらなければならない国王としての業務を精力的にこなした。
もちろんそれは国王自らが、聖女や王国公爵を率いて『不帰の森』の探索を行うという、マルダンフ侯爵以下大臣たちが腰を抜かすような――というか実際に抜かした者がいたらしい――話があるからである。
もちろん宰相や大臣たちは最初強硬に反対をしたのだが、ミルダートやフォルシーナ、ヴァミリオラや将軍ドルトン、将軍リン、さらには聖女オルティアナまでがやってきて俺に関して色々と話をしたらしく、最後は首を縦にふってくれた。
行政については、どうしても俺の決断が必要なものについては『通話の魔道具』で指示ができるということも大きかった。なお『転移魔法』はモンスターの多い場所に転移できないという制限があり、また『転移の魔道具』も簡単に持ち運びできるサイズではないので、森の奥地と王城間の往復は不可能である。
ともあれ準備も整い、出発当日、『不帰の森』探索隊は国王執務室に集合していた。
再度確認をするが、メンバーは俺、フォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ヴァミリオラ、聖女オルティアナ、ミアール、クーラリアの8人である。その装備は大森林探索の時とほぼ変わらないが、目立つ変化は俺が『シグルトの聖剣』を、アミュエリザが真紅の槍『スカーレットプリンセス』を持つようになったことくらいだろうか。
ミルダート、マルダンフ侯爵に見送られて、俺たちは『転移魔法』で『不帰の森』の入り口に転移した。
俺やクーラリアは狩りや訓練で慣れた森だが、アミュエリザ、ヴァミリオラ姉妹やオルティアナにとっては初めて入る森である。
特にヴァミリオラは、非常に興味深そうに森の木を見上げていた。
「ここが『不帰の森』……。南部大森林にも勝るとも劣らない規模の未踏の森と聞いているわ。なぜかあまり知られてはいないようだけれど」
「南部大森林のように奥地に遺跡があるという話もないゆえな。場所としては辺境に近い。注目されないのは当然かもしれぬ」
「しかしもし本当に奥地にエルフがいるのなら、意図的に興味を持たれないように情報が操作されていた可能性はないかしら。ブラウモント家ではそういう話はなかったの?」
「いや、当主にそのような話は引き継がれてはいなかった。もともとエルフの失踪自体、この王国誕生以前のことだからな」
「まあそうね。そうするとその前の王国か……それは今考えることでもないわね。出発しましょう」
「うむ。では皆準備はいいか。この森は入ってすぐにCランクモンスターが出現する。気を抜くことのないように」
「はいお父様」「はい陛下」「はいお館様」「ここは任せろですご主人様」
まあフォルシーナたちも実質Aランクに近いし、年長組はAランクなので奥地までほとんど問題はないのだが、慢心しないことは重要である。
俺は皆の表情を確認し、『不帰の森』に足を踏み入れた。
森に入るとすぐに、犬歯が異様に発達した異形の大型犬、『サーベルキラードッグ』が出現する。すでに懐かしい感じのするモンスターである。
それらはフォルシーナ、マリアンロッテが後衛、アミュエリザ、ミアール、クーラリアが前衛という非常に強力な美少女オンリーパーティが簡単に倒してしまう。その戦いぶりはまさにゲームの主人公パーティさながらで、パーティバランスの良さもあってまったく危なげがない。
マリアンロッテが防御力強化魔法『ディフレクションウォール』、フォルシーナが先制の氷属性魔法『アイスジャベリン』、後は前衛陣が残りのモンスターをそれぞれのスキルを使いながら倒していくだけである。
ほぼ休みなく進んでいくと、森の中に、そこだけが木の生えていない広場になっている場所に到着する。言わずと知れた中ボス出現フィールドである。
俺たちが広場に入っていくと、遠くからモンスターの足音が響いてきて、目の前に四本腕の大型熊型モンスター『マナビースト』が出現する。
クーラリアですら1対1で倒せる相手ということで、ここはアミュエリザが『スカーレットプリンセス』を構えながら前に出た。
「アミュエリザ・ローテローザ、参る!」
ゲームでも聞いた突貫セリフを口にしながら、真紅のポニーテールを翻して突っ込んでいく。マナビーストの突進からのパンチを脇に躱し、超速の連続突きを放つ。
槍使いの基本スキル『三連突き』だが、アミュエリザの腕と『スカーレットプリンセス』の相乗効果もあり、その一発でマナビーストは倒れて消えていった。
『マナビーストの血晶』を拾って、なぜかわき目もふらず俺のところに走ってくるアミュエリザ。まるで投げたボールをくわえて飼い主のところに戻ってくる子犬のようだ……などと口にしたら、背後から感じられる熱気が一気に炎に変わりそうだ。
「陛下、私の槍はいかがだったでしょうか!?」
「う、うむ、見事な三連突きだった。もっとも基礎的なスキルだが、それだけに使用者の強さが如実に現れる。今のは私の目から見ても、アミュエリザ嬢の強さがよくわかるものであった。たゆまぬ精進を続けているのだな」
「ありがとうございます! 私もマリアンロッテのように、陛下の元に呼ばれるように頑張ります。この『スカーレットプリンセス』に賭けて!」
真紅の槍を片手に、ビシッと敬礼をするアミュエリザ。
強くなる決意は素晴らしいが、別にマリアンロッテは俺が呼んだわけではないからね。まあ来てもらいたかったのは確かだし、アミュエリザもできれば近くにいて欲しくはあるが。
「ま、まあ、私の元に来ることに関しては姉上の意向もあろう。ともかく冒険者としてはAランクも間近の腕に見える。今回の探索でさらに経験を積むといい」
「はい! 必ず陛下のお目に留まるよう槍を振るいたいと思います!」
フォルシーナたちのところに戻っていき、ハイタッチを始めるアミュエリザ。
俺は背後からの熱い視線の方をなるべく見ないようにしながら、森の奥へと進むのであった。
さて、ゲームにおける『不帰の森』は、主人公がマークスチュアートから王位を取り戻した後、魔族との本格的な戦いが始まってしばらくしてから向かうフィールドである。
つまりゲームでも後半で入る場所であり、ランクとしては大森林奥地~古代遺跡より少し上くらいになる。
モンスターのランクとしてはB、Cが中心に、Aランクが稀に出てくるフィールドで、エリアとしては大きく3つに分かれている。
すなわち『サーベルキラードッグ』などCランクモンスターが出てくる『不帰の森浅部』、A・Bランクモンスターが出てくる『不帰の森深部』、そしてエルフの隠れ里がある『不帰の森最奥部』だ。ゲームではそれぞれのエリアで一泊ずつする描写があり、それぞれキャンプ地となる場所の地形も記憶にはある。
なので一日目の目的地は浅部のキャンプ地と定め、とりあえずそこに向かって俺たちは進んでいった。
アミュエリザの『マナビースト』討伐の後、次々と現れるサーベルキラードッグや、三又槍の形をしたツノを持つ巨大カブトムシの『トライデントビートル』などを倒しながら、太い樹木の並ぶ森を歩いていく。
Cランクのザコモンスターはもはやフォルシーナたちのパーティの敵ではない。時々俺たち年長者組も準備運動を兼ねて戦わせてもらうが、ヴァミリオラの炎魔法も聖女オルティアナの蹴りの一撃も強烈無比で、モンスターの方が可哀想になるくらいである。
「大森林の時も思いましたが、オルティアナ様はとてもお強いのですね。私もオルティアナ様の技を学びたいです」
マリアンロッテが憧れの先輩に対する後輩みたいな感じで近づいていくと、オルティアナは聖母のように微笑んだ。
「私はマリアンロッテのように魔法が強くないから、せめて護衛の神官騎士様たちの負担にならないようにモンスターを倒せる技を身につけただけなの。マリアンロッテは同じ年の時の私よりはるかに魔法が得意だから、そちらを伸ばすべきだと思うわ」
「そうなのですか? でも戦う時のオルティアナ様はとても素敵だと思います」
「うふふっ、ありがとう。でもこんなことばかりやってると変なあだ名をつけられるからお勧めしませんよ」
「変なあだ名ですか? 聞いたことがありませんが……フォルシーナは知ってる?」
「いえ、聞いたこともないわ。どんな名前なんでしょうかオルティアナ様?」
フォルシーナとマリアンロッテだけでなく、アミュエリザまでが聖女を囲んで聞こうとするが、オルティアナは困った顔で微笑むだけだった。まあ『鉄拳聖女』なんて、清楚系な聖女様が自分の口からは言えないよなあ。
なんて思っていたら、「お父様はご存じですか?」とフォルシーナが振り向いてきた。
「さすがに知らぬということはない。ただ本人が言いよどんでいるものを私が言うわけにも――」
と気を使おうとしたら、オルティアナ本人が期待する顔でチラチラ見てくるのに気づいた。これは言って欲しいということだろうか?
「――いくまいとも思ったが、そこまでのものでもないか。聖女オルティアナは『鉄拳聖女』と呼ばれているそうだ。民は時として口さがないものだな」
「『鉄拳聖女』、ですか?」
口にしながら、マリアンロッテがオルティアナを見る。
オルティアナは恥ずかしそうな顔をして……おらず、なぜか両手を赤くなった頬に当てて、すごく嬉しそうな顔をしていた。
「ええそうなの。私としてはちょっと恥ずかしい名前だったのだけれど……」
そこでオルティアナは妙に熱っぽい視線を俺に向けてきた。
「ブラウモント国王陛下に言われると、なぜかとても嬉しい気がいたします。不思議ですね」
「それはわかる気がいたします。私も陛下に『光の聖女』のようだと言われた時、とても不思議な気持ちになりました」
マリアンロッテが同調すると、フォルシーナも慌てたように割って入った。
「それなら私もお父様に『氷の令嬢』と呼ばれて、とても満たされた心地がしました。これはもしかしたらお父様のお力なのかもしれません」
「そのようなお力まで陛下はお持ちなのですか?」
とオルティアナが真面目な顔で聞いてくるので、俺は首を横に振った。
「いや、そのような怪しげな力は持っておらぬ。ただ各々がその名前を気に入ったということなのではないか」
「私にはそうは思えません。きっと陛下だからなのだと思います」
「私もそう思います」
「お父様だからです」
う~ん、まあ創造神がつけた名前だからなあ。それぞれの心の琴線に響くものであってもおかしくはないんだが、俺にこだわるのはよく分からない。まあ公爵とか国王とか、位が高い人間から言われると違うということだろうか。




