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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第9章 悪役公爵マークスチュアート、即位し新王国を樹立す

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12 断罪

 翌日、俺はマルダンフ侯爵とともに、とある場所を訪れていた。


 それは王城の北西にある塔のような建物で、高さは五階分ほどあるだろうか。窓はあるがすべてに鉄格子がはめ込まれており、見る人間が見れば普通の建物でないことがわかるものである。


 周囲には10人を超える兵士が立っており、周囲を警戒している。


 俺が近づくと全員が直立不動の体勢で敬礼をしてくる。


 俺とマルダンフ侯爵はそれに敬礼を返しつつ、兵士が開いてくれた建物の扉に入っていく。


 階段を三階まで上がり、狭い廊下に出る。


 そこには厳重な鉄の扉があって、その横に兵士が2人立っている。彼らも俺の顔を見ると敬礼をして、扉の脇から数歩下がった。


 その扉には小さなのぞき窓があるが、ご丁寧にその窓にも鉄格子がはまっている。


 中をのぞくと、そこは上等な部屋になっていた。青い絨毯の上にテーブルセットとベッドが置かれ、テーブルの上にはティーセットなども用意されている。雰囲気としては貴族の子弟の部屋、といった感じだろうか。


「……あん?」


 部屋の中から声が聞こえた。


 ベッドの上で身体を起こし、目つきの悪い顔をこちらに向けるのは、ラフな格好をした少年だ。


 その金髪は手入れをしていないように乱れているが、まだ辛うじて、物語の主人公であった面影はある。


 そう、この部屋に軟禁されているのは、ロークスその人であった。


 ロークスはチッ! と盛大な舌打ちをすると、再びベッドに横になってしまった。


 俺は看守に鍵を開けさせて、マルダンフ侯爵とともに部屋の中に入った。


「……テメエと話すことはもうなにもねえぞ」


 少し前に会いに来た時は癇癪(かんしゃく)を起こして暴れだしたのだが、今日はそうはならないようだ。マルダンフ侯爵の話でも最近は妙に落ち着いているとのことだったのだが、人間死を前にするとそうなるのだろうか。


「わかっている。今日は予定を告げにきただけだ」


「なんだ、処刑の日程が決まったってのか。で、いつだ。明日か、明後日か」


「明後日だ。明日沙汰を下し明後日に行う」


「首を斬られるのか?」


「貴人の自死という形にする。最後の宴会を開くので、貴殿はそこで飲み食いをせよ。酔いが回るころには意識はなくなっていよう」


 俺が説明すると、ロークスはけだるげにこちらを向いた。


「なんだそりゃ、そんなやり方があんのかよ」


「伝統的な方法だ。苦しまずに済む」


「はっ! 死ぬのに苦しいもクソもあるか。まあいいや、首切られるよりはマシだ。死体はどっか捨てるのか?」


「王家の墓に入れてもいいが」


「やめてくれ、親父たちに復讐される。適当なところに埋めとけよ」


「それが望みならそうしよう」


「頼むわ。それ以上用がないなら出てってくれ」


「うむ、失礼する」


 俺たちが外に出ると、扉が閉じられ鍵がかけられる。


 しかし不思議なものだ。ここに来てロークスの様子が、少しだけあの主人公だったゲームのロークスと似てきた気がする。この世界の彼は、いったいどこで道を間違えてしまったのだろうか。


 しかそれは考えても詮無いことではある。彼はすでに、許されないことをやってしまった身なのだ。


 俺たちはそのまま、さらにもう一階上に上がった。もちろんその階の部屋にはゲントロノフがいる。


 俺たちが部屋に入った時、彼は椅子に座って本を読んでいた。


「おやブラウモント公、いや、今はブラウモント王かの。沙汰を知らせるくらいで国王自らこのような所までわざわざ足を運ぶこともあるまいに」


 そう言ってこちらに顔を向けた異相の老人は、すぐに本へを視線を戻した。


 もう話すことはないというジェスチャーであろう。結局ゲントロノフからは『鬼』の話は十分に聞くことができなかった。彼もレギル同様『鬼』と名乗る者に会って契約をし、力を与えられたとのことなのだが、『鬼』そのものの居場所などは一切知らない、というより興味がなかったようだ。


「儂としては死ぬ前に『鬼』が作り変えた後の世界を見たかっただけよ」


 というのが本当にゲントロノフの本音だったようだ。もっとも、もう少し裏もありそうだが、今はもうそれもどうでもいいことだ。


 俺はこちらを見ようともしない老人に構わず声を掛けた。


「ゲントロノフ元公爵、貴殿には死を賜る旨、明日正式に申し渡しを行う。明後日宴を開くゆえ、それに参加されるがよい」


「ほほう、貴人として死なせてくれるのか。なるほどのう、ゲントロノフ家は存続させるということじゃな」


「貴殿がそう願ったということになる」


「それは儂にとってはありがたいのう。あの世に行ってから楽しみが増えるわい」


「貴殿の遺体はゲントロノフ公爵家へと返す。それでよいな」


「うむ、それで構わぬ。ブラウモント王は名君になりそうじゃの。だがそれも『鬼』を前にしていつまでもつか。その時が来たらまた見えようぞ」


「私が貴殿の元に行くのは当分先になるとは思うがな。明日正式に貴殿とロークス元王に沙汰を下す。では失礼する」


 俺とマルダンフ侯爵は、そのまま階段を下り、建物の外に出た。


 日の光の下に出ると、そこで自分が多少緊張していたことに気づかされた。マークスチュアートとしてはこれまで何人もの命を直接剣で奪ったこともあるこの身だが、それで慣れるというものでもない。しかも今回の2人は、マークスチュアートとしてもそれなりに付き合ってきた人間だ。それに死の宣告をするというのは、『俺』にとっては非常なストレスであった。


 俺が大きく息を吐きだしていると、マルダンフ侯爵が横から一礼をしてきた。


「国王陛下、私がすべき仕事をお任せしてしまい申し訳ございませぬ」


「私が望んでやったことだ。侯爵が謝ることではない。しかし2人とも落ち着いた様子であったな。人は死を前にしてあのようにいられるものか」


「そうですな。人にもよるでしょうが、かのお二方はやはり肝の座った方なのでしょう。人の本性は死を前にするとよく現れると申しますので」


「うむ、そういうことなのだろうな。私ももしもの時は同じようにありたいものだ」


「そのような言葉はここだけになさってください。国王陛下のお言葉に、臣下は耳聡くなるものですからな」


「ふっ、その通りだな。少し感傷的になった。宴の準備などは侯爵に任せる。よろしく頼む」


「よしなに」


 しかし一応けじめとして会いに来てみたが、少し拍子抜けしたというのも確かだった。


 特にロークスはもう少し悪態をつくかと思ったのだが、14歳であの態度を取れるのはやはり王族ということなのだろうか。


 まあともかく、これであとは粛々と事を進めていくだけだ。


 今の俺は、こんなことで屈託している暇はないのであるし。



「国王マークスチュアート・ブラウモントの名のもとに、ロークス・オーレイア、並びにブルジャ・ゲントロノフ両名に死を賜う。貴殿らの死をもって、貴殿らの願いをかなえることをここに誓おう」


 翌日、謁見の間にロークスとゲントロノフを呼び、俺は両者に『賜死しし』を行った。


 王自らが死を与えることによって罪人の名誉を守り、また彼らが王より与えられた死を受け取ることによって彼らの一族に罪が及ぶのを防ぐ、そんな意味合いがある宣告である。


 ひねくれた言い方をすれば茶番かもしれないが、こういった『形式』というのはどのような世界でも重要である。


 ロークスとゲントロノフは頭を垂れたままで、その一幕をひっかきまわすこともなく、無言のうちに兵士に囲まれながら謁見の間から去っていった。


 その翌日、王城の一室にて宴が行われた。


 参加者はロークスとゲントロノフ、そして給仕の人間だけのささやかな宴である。


 彼らはそこで存分に飲み食いをし、そして何種類かの酒を飲み、その酒の中に入っていた弱めの眠り薬と、そして毒によって眠るように息を引き取った。


 もっとも俺はその様子について、宰相のマルダンフ侯爵から聞いたのみである。


 次にロークスとゲントロノフの姿を俺が目にしたのは、棺に入れられた遺体としてである。


 眠るような顔のまま、蝋人形のように動かなくなった2人を俺は見下ろし、そして多少の感慨をもって運び出すように指示した。


 ロークスは王家の墓から離れた所にある、訳あり王族を埋葬する場所に埋められた。


 ゲントロノフは棺のまま、『転送の魔道具』経由でゲントロノフ領へ運ばれた。そちらはゲントロノフ家の墓に埋められる予定である。


 なおこの世界、アンデッドモンスターが存在するため、遺体がモンスター化しないよう火葬が基本である。


 ただし貴人については遺体を傷つけることを忌避して土葬することになっている。罪人とはいえ自死を選んだ人間として、彼らも土葬されることになる。


「ロークス、ゲントロノフ、そしてレギルもゲームじゃ死ななかったのにな……」


「陛下?」


「いや、独り言だ。報告ご苦労であった」


 報告を終えた宰相のマルダンフ侯爵を執務室から下がらせ、俺は窓の外を眺めながらため息をついた。


 それは、記憶が戻ってからもっとも深いものであったかもしれなかった。

 

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― 新着の感想 ―
なーにか、嫌な予感がしますね。
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