10 祝賀パーティー
即位の儀の夜は、当然ながら王城の広間での祝賀パーティーが開かれた。
昼間儀式に参列してた貴族たちは全員参加するので、会場は使用人を含めると400人近くの人間が入ることになる。
もっとも日本の政治家のパーティーとなると数千人なんて数字も出てくるので、そこまで多いわけでもない。
さてパーティーが始まって気になるのは、まずは儀式からずっと冷気を漂わせている、まさに『氷の令嬢』と化したフォルシーナである。
聖女の件はただの間違いだと説明したのだが、「お父様なら避けられたはずです」と言うのみで聞いてくれないのだ。さすがにアレは俺でも避けるのは無理だったし、それに俺があそこで動いたら聖女を驚かせてしまっただろう。儀式そのものをダメにするわけにもいかないのだから仕方ない。
さらにもう一人、真紅のロングヘアが逆立っているのではないかと思われる状態の女公爵ヴァミリオラも問題だった。
新しい王国でも彼女は重鎮貴族筆頭なので、パーティーでは当然真っ先に挨拶に来たのだが、第一声が、
「貴方まさかオルティアナに手を出したわけではないわよね?」
であった。
「何度も言うがそのようなことはしておらぬ。あれは純然たる事故だ」
「オルティアナの態度を見る限りそうは思えなかったのだけれど。まさか王になった途端、本性を現すなんてこともあったりしないかしら」
「そもそも今の私に女人をどうこうする余裕などないのは公なら分かると思うが。それとも今から王を代わるかね?」
「まあそうね、王都もかなり復興しているし、一応はその言葉を信じましょう。ともかく新王の誕生はお喜び申し上げるわ。私もできる限りの協力をすると約束しましょう。まずは魔族の再襲来かしら。情報は掴んでいるのよね?」
「うむ。それについては後で相談がある。明日、少し時間をもらいたい」
「わかったわ。ほら、アミュエリザ、ロヴァリエも王に挨拶を」
ヴァミリオラに促されて真紅の髪をポニーテールにしたアミュエリザと、ツインテールにしたロヴァリエが前に出てくる。ヴァミリオラもそうだが、三姉妹揃って赤のドレスが非常に似合っている。
まずはアミュエリザが一歩前に出て、淑女の礼をする。
「ブラウモント国王陛下、この度はご即位まことにおめでとうございます。陛下の治められる新しい王国を守るために、私も持てる力のすべてを尽くします。なにかありましたら真っ先にお呼びください」
「アミュエリザ嬢、その気持ちを大変ありがたく思う。貴女の力はすぐにでも借りる時が来る。よろしく頼みたい」
「は、はい! 国王陛下に認められるように粉骨砕身努力します。あ、あの、聖女様のように!」
と顔を真っ赤にするアミュエリザ。そしてなぜか睨んでくるヴァミリオラ。
次はロヴァリエだが、こちらはまだ子どもなので淑女の礼もちょこんといった感じで可愛らしい。
「国王陛下のご即位をお喜び申し上げますわ。陛下に助けていただいたこの命、陛下のために捧げることを誓います。姉ともどもよろしくお願いいたします」
「うむ。ロヴァリエ嬢が王都に来られるまでになったことは喜ばしく思う。ただ姉上から十分な礼はいただいているゆえ、ロヴァリエ嬢がそこまで恩に思うことはない。その命は、まずはロヴァリエ嬢自身のために使うがよい」
「ありがとうございます陛下。私の願いは陛下の御代を素晴らしいものにすることですので、ご心配に及びませんわ」
「そ、そうか。ならばよろしく頼みたい」
う~ん、ロヴァリエはキャラに反してちょっと真面目すぎる感じになっていないだろうか。ヴァミリオラもちょっと心配そうな顔を……したと思ったらまた俺の方を睨んできた。いくらなんでもロヴァリエを狙っているとか、そういう疑いを持つのはやめてもらいたい。
次に挨拶に来たのは、マリアンロッテとその両親だ。
ゲントロノフ公の件もあり非常に微妙な立場にいる彼らだが、マリアンロッテに関しては、彼女の働きによってロークスの悪事が暴けたということで、新王国樹立の功労者の1人ということになっている。
ゆえに新王家としてゲントロノフ家に関しても大きな咎めなしとする方針なのだが、その点を明らかにするためにも、辞退を願い出る両親ともども今日は無理に引っ張り出したのだ。
「ブラウモント国王陛下、この度はご即位まことにおめでとうございます。そして当家にも多大なご配慮をいただきまして、まことにありがとございます。ゲントロノフ家は陛下のご恩情に対して、家を挙げて報いる覚悟でございます」
そう挨拶をしてきたのは、マリアンロッテの父親、つまり新しくゲントロノフ家の当主となったエドアルト・ゲントロノフである。俺とほぼ同年の男性貴族で、本当にあのゲントロノフ公の息子かと思うような、銀髪をキチッとセットした美形の男である。
その隣にはエドアルトの妻、マリアンロッテの母である金髪美女のクラーラが並び、その横にいるマリアンロッテともども頭を下げた。
「この度はゲントロノフ家には、無理をおして参加してもらいありがたく思う。此度の件に関して先代ゲントロノフ公からは、自分1人でなしたことで、罪を認める代わりに家の方に累が及ばぬようにとの言葉も預かっている。またご息女のマリアンロッテ嬢は新王国にとって非常な貢献をした人物であり、ゲントロノフ家の存続はむしろ当然と考えているところだ。私としては公には王国のために力を尽くしてもらいたいと思うが、礼を言うならご息女になされるがよかろう」
「はっ、ありがたきお言葉。娘のマリアンロッテについては、陛下からも大変に目をかけていただいたと聞いております。重ねて御礼申し上げます」
「マリアンロッテ嬢は特に聖属性魔法に非凡な才を持っているゆえな。それと我が娘フォルシーナとも随分と仲がいいようだ。この後も話し相手になってもらえるとありがたい」
「はっ、それはマリアンロッテも是非と申しております。ところで陛下、大変に不躾な話になるのですが、マリアンロッテを陛下のもとで使っていただくことはできないでしょうか?」
エドアルトの提案は急ではあったが、実はそれは俺も考えていたことだった。
マリアンロッテはできればフォルシーナたちと組ませて、今後のために強化をしておきたいのだ。なにしろ原作ゲームではパーティメンバーであるのだし、この大陸を滅びから救うためには絶対に必要な人間でもある。
「ふむ、実はそれは私からも頼もうと思っていた。今後私がこの国を守るうえで、マリアンロッテ嬢の力が必要なのだ。エドアルト公としては娘を外に出すのは心配かもしれぬが……」
「いえ! マリアンロッテ本人もそれを強く望んでおりますので、陛下さえよろしければ是非にでもお願いいたします」
う~ん、なんかエドアルトが急に食い気味になったのはなぜだろう。周囲の貴族たちも少し騒がしくなっているのは、ゲントロノフ家に思うところがあるのからというのはわかるのだが。
まあともかく、マリアンロッテを手元に置けるのは助かるので、渡りに船の話ではある。
「うむ、ではよろしく頼む。マリアンロッテ嬢もよろしいか?」
俺が聞くと、金髪ツーサイドアップの美少女、『光の聖女』マリアンロッテはキラキラと輝かんばかりの笑顔を向けてきた。
「はい、ありがとうございますブラウモント国王陛下。私マリアンロッテは、陛下の元に喜んで参ります!」
「うむ、ではよろしく頼む」
ということでフォルシーナ、マリアンロッテのメインヒロイン2人の確保継続が決定したと内心喜んでいたのだが、その直後に横から凄まじい冷気が吹き付けてきた。もちろんそれは『氷の令嬢』と化したフォルシーナの魔力が漏れているからなのだが……だからなんで『氷の令嬢』がパワーアップしてるの!?
「どうしたフォルシーナ。お前もマリアンロッテ嬢と共にいられるのは嬉しかろう?」
「ええもちろん、マリアンロッテと一緒に活動できるのは嬉しく思います。しかしお父様、先程のお話、単にマリアンロッテを臣下として手元に置くという意味でおっしゃったのですか?」
「ほかにどのような意味があるというのだ?」
「そ、それは……」
聞き返すと、フォルシーナは顔を赤くして黙ってしまった。
するとそこにマリアンロッテがスッと割って入ってきて、
「陛下、ここは私にお任せください」
と言ってフォルシーナを連れて会場の端のほうに連れていってしまった。
2人はそこでなにかを話し合いはじめたのだが、いったいそこでどのようなやりとりがあったのか、フォルシーナの『氷の令嬢』面は急速に消えていった。
俺がホッとしたのも束の間、今度は貴族たちの間でヒソヒソ話が始まり、その上ヴァミリオラが凄まじい目つきでこちらを睨みつけ始めた。まあヴァミリオラは、どうせ俺がマリアンロッテに手を出すのではないかとか疑っているだけなんだろうけど。
それとアミュエリザが妙に悔しそうな顔をしていたのも気になった。もしかしたら彼女もフォルシーナやマリアンロッテたちと一緒に活動したいのかもしれない。パーティを組んでいた時は随分と楽しそうだったしなあ。ただ彼女まで俺の元に、なんて頼んだら、ヴァミリオラとの決闘は必至である。くわばらくわばら。
と少し気になることはあったものの、その後は多くの貴族たちの挨拶の相手をしつつ、なんとか祝賀パーティを終えることができた。
これで俺は正式に王となったわけだが、かといってやることが変わるわけでもない。
大切なのはこの国と民を守ること。そしてこの大陸を滅亡から救うこと。そして俺自身が生き延びることの3点だ。
あくまで俺は腹黒糸目丸眼鏡中ボスである、それだけは忘れずに、明日からも仕事をしていこう。
1月1~3日は更新を休ませていただきます
次回更新は1月4日になります




