09 新王誕生
その後『通話の魔道具』を量産して、宰相マルダンフ公爵や将軍のドルトンやリン、ヴァミリオラなど必要な人物に配って回ったり、王都のあちこちを実際に見て回って王都民に顔を売ったりと、とにかくできることはした。
ロークスとゲントロノフは、自分たちの罪を認めた後はそれ以上目立った言動はなかった。
両方とも牢屋ではなく貴人を収監するための部屋に監禁をしているのだが、ロークスは一日中ベッドでぶつぶつとなにか文句を言っているらしい。
一方でゲントロノフは黙って書物などを読んで過ごしているようだ。
一度どちらにも面会をしたが、ロークスは俺の顔を見るなり暴れ始めて面会にはならなかった。
ゲントロノフは「もう話すことはない」と言い、それ以降一言も声を発さなかった。
特にゲントロノフには『鬼』とどういう経緯で接点を持ったのか聞きたかったのだが、それはかなわなかった。ミルラエルザに精神魔法をかけさせようかとも思ったが、高位の魔導師であったゲントロノフにはさすがに効かないらしい。
そしていよいよ、即位戴冠の儀の当日となった。
慣例なら王城内で行う儀式ではあるが、今回は王都復興の士気高揚の意味もあり、王城前の広場で行うことにした。空はおあつらえ向きの、抜けるような青空だ。この大陸にかかる暗雲も、さすがに今日ばかりは遠慮をしたのだろうか。などと言うと、まるで俺がゲームの主人公になったような錯覚に陥るな。
広場には舞台が用意され、その周りには儀式に参列する貴族用の席が並んでいる。
さらにその周囲には柵がめぐらされ、その外側には観衆が、それこそ立錐の余地もないほどに詰めかけている。
俺はフォルシーナとともに、すでに舞台の上の席に座っている。俺はこの日の為に用意された豪華な国王用の貴族服姿、そしてフォルシーナはこれまたこの日の為に用意された、水晶を服にしたような透き通る水色のドレス姿である。
舞台袖にはクーラリアやミアール、ミルダートやマルダンフ侯爵、ドルトンやリン、ツクヨミにエメリウノにトリリアナにリラベルにボアル親方に、さらに『紅蓮の息吹』のメンバーまでも警備の名目で揃っている。
貴族席の中心にはヴァミリオラ、アミュエリザ、ロヴァリエ三姉妹、それからマリアンロッテとその両親が揃い、ほかに王国貴族が200人以上出席している。
ヴァミリオラは壇上の俺に視線を送り、かすかに笑いかけてきた。思えば犬猿の仲の彼女に王位を勧められたというのも妙な話だ。
「お父様、いよいよですね。もしかして緊張していらっしゃいますか?」
隣に座るフォルシーナが、微笑みながら話しかけてきた。
「そう見えるか?」
「戦の前でも平然としていらっしゃったお父様ですからそのようなことはないと思いますけれど、でも今日は少し固くなっているように見えます」
「お前がそう言うなら緊張しているのもかもしれぬな。本当のことを言うと、こういう場面はあまり好まぬのだ」
といってもそれは前世の俺の話であって、マークスチュアートとしては逆にウキウキしていたりもする。その二つが俺の中でせめぎ合っているので固くなっているように見えるのかもしれない。実際今の俺は別に緊張はしていないし、逆に高揚感もそこまではない。ある意味理想的な精神状態ではあるのかもしれない。
「お父様にこそ相応しい舞台だと思います。私は今、とても満ち足りた気分でいます。ようやくお父様のことが正当に近い形で評価されたと」
「いつも言っているが、お前は私のことを買い被りすぎだ。だが今はその言葉、素直に聞いておこう。娘に認められるのがなにより嬉しく、また力になるからな」
と答えると、フォルシーナは顔を覆って「はい」と嬉しそうに返事をした。
こういう場所でも好感度アップをしてしまうあたり、俺も相当に口が上手くなったものだ。まあどこに断罪・追放ルートが眠っているとも限らない。今後も好感度アップは常に狙わねばならない。
とついゲーム脳を復活させていると、教皇ハルゲントゥスと聖女オルティアナが壇上に上がってきた。教皇は白を基調として金の刺繡が入った聖職者用のローブ、オルティアナはいつもの修道服をモチーフにした、そのわりに露出の高い白いドレス姿である。
オルティアナの手には、インテクルース王国に伝わる王冠がある。この王冠は、この地に国を建てた王家に引き継がれて使われているものだ。ツクヨミを作った古代文明の時代に源流があるもので、実際に魔道具としての機能もある。もっともその機能自体は装着者の魔力に反応して後光を作りだすという程度のもので、ゲームでは主人公が戴冠されたときも確かに光のエフェクトが出ていた。
舞台の真ん中に教皇が立ち、向かって左手前にオルティアナが右を向いて控える。
教皇が軽く両腕を広げると、合わせるように城から鐘の音が響いてきて、それまで大勢の声で満ちていた会場は一瞬で静かになった。
教皇の声が朗々と響き渡る。
「大いなる神に祝福されし今日この日、ここに新たな王の誕生を宣言できることを、神の徒たる身として嬉しく思う。聖女オルティアナが授かりし神託、そこに示されし真の王の名はマークスチュアート・ブラウモント。この国の新たな王よ、こちらに」
指名を受けた俺は、フォルシーナに見送られながら席を立って教皇の右手前へと進み出る。ちょうど目の前には、どことなく目を潤ませつつ緊張している様子のオルティアナがいる。
彼女は王冠を両手で持つと、それを天に捧げるように持ち上げた。
俺はその前で、膝を付いて頭を垂れる。
聖女の手によって頭に王冠が載せられる瞬間、俺の心にわずかにさざ波が立った。どうやら俺のマークスチュアート面が喜んでいるようだ。
微量の魔力が吸い上げられる感触があるのは、王冠が魔導具として機能したからだろう。確かに自分の体がわずかに発光しているのがわかる。
「今、聖女の手によって、王冠が新たなる王へと与えられた。これをもって、大いなる神の御心によって、マークスチュアート・ブラウモントが、この神聖インテクルース王国の王となったことを宣言する」
教皇の宣言とともに俺は立ち上がる。目の前にいるオルティアナがうるんだ瞳でニッコリと微笑み、「おめでとうございます」と言い、スッと近づいてきて顔を寄せてきた。
儀式の締めとして、聖女による祝福の接吻があるというのは話に聞いている。
ただそれは頬にするという話だったはずなのだが……いま唇にしませんでしたかね?
小声で「間違えてしまいました」と言いながら、真っ赤な顔で下を向いてしまう聖女オルティアナ。
それって間違えるものなのだろうか、という疑問は、急に背後から漂ってきた強烈な冷気によって雲散霧消した。貴族席からは熱で焼き殺さんばかりの視線を送ってくる女公爵もいる。
さらに見ると、マリアンロッテとアミュエリザ、メインヒロイン2人も妙に熱のこもった目、というより獣が獲物を狙うような目でこちらを見ていてちょっと怖い。
周囲から巻き起こる万雷のような拍手と、熱狂的な『ブラウモント国王陛下万歳!』『神聖インテクルース王国万歳!』の声に包まれながら、俺の背中からはなぜか冷たいものがあふれ出るのであった。
その後俺自身の挨拶などもあったはずなんだが……どんな様子だったのか、ほとんど記憶に残っていない。
その手の演説とかは、俺の中のマークスチュアート面が上手くやったことだろうと信じるのみである。




