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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第9章 悪役公爵マークスチュアート、即位し新王国を樹立す

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08 大聖堂訪問

 翌日、俺はラファルフィヌス教会の大聖堂を訪れていた。


 訪問の目的は二つ、即位戴冠の儀に公式に教皇と聖女を招くことと、とある重要な話をすることである。


 なお公爵による公式訪問なので、『転移魔法』ではなく馬車による移動である。


 前回の魔族襲来で一部破壊された大聖堂はまだ補修が進んでいないが、これは教皇の「聖堂の改修より民の家が先」という考えがあってのことだ。


 俺が馬車から降りた時には、聖女による炊き出しは行われてはいなかった。王都民の生活が軌道に乗り始めたからだろうか。だとすれば国王(予定)とすれば喜ばしいことだ。


 大聖堂を訪れる信者の数も元に戻りつつあり、彼らは俺の姿を見ると一斉に拝み始めたりする。大聖堂の前で俺を拝むのはいかがなものかと思わないでもないのだが……。


 大聖堂に入ると、多くの信者が神像を拝んだり、ベンチに座って話をしていたり、怪我の治療を受けていたりしていた。以前訪れた時よりも明らかに活気があり、人々の表情も暗さはなくなっているように見受けられる。


「これは公爵様、こちらへどうぞ」


 神官がすぐに駆けつけてきて、奥の間へと案内してくれる。


 向かう途中でピンクブロンドの清楚系美人、聖女オルティアナが奥からやって来て、俺の顔を見るやいなや輝くような笑顔になった。


「ブラウモント公爵様! ようこそおいでくださいました!」


 オルティアナはいつものバグった距離感で迫ってきて、俺の手を取ってくる。


「済まぬな、予定より早くついてしまったようだ。教皇猊下はご在室かな」


「はい、執務室にいらっしゃいます。一緒に参りましょう」


 俺の手を握ったまま執務室に入っていくオルティアナ。


 さすがに振り払うわけにもいかず、俺もそのまま部屋に入る。


 執務机に座っているのは、長い白髪と白髭の偉丈夫、教皇ハルゲントゥス。彼は案の定手をつないでいる俺たちを見てニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。


「これは公爵、ようやく即位の日取りが決まったようだな」


「慌ただしくて申し訳ありません。ここにきて事態がいろいろと動き始めておりまして、速やかに行うこととなりました」


「この国は大陸の要衝にあるゆえ、土地を狙う者も多い。魔族領とも接する国でもあるし、国王の心労も並大抵ではなかろう」


「そうですな。その分富も集まりやすいのですが、都合のいい所しか見ない者も多いようで」


 などと話をする間、俺の隣に座った聖女オルティアナは、俺の顔をじっと見つめている。


 教皇のニヤニヤ笑いが完全に苦笑いになっているのだが、それにも気づいていないようだ。


「ところで公爵、前王などはどう処するつもりかな」


「即位したのち、私から死を賜るという形にいたします」


「代わりに他の一族には累が及ばぬようにするか。歴史的に見ても流れる血の最も少ない王家の交代となりそうだな」


「この後もそういきたいのですが、近いうちに魔族の再侵攻がありそうなのですよ」


 その言葉に教皇は溜息をつき、聖女オルティアナは逆に目を輝かせた。


「しかし公爵様がいらっしゃれば、どれだけの魔族が来ようとも物の数ではありませんね!」


「その評価はありがたいが、いささか過剰かもしれぬな。だが、そのための準備は急ぎ行っている。戦の火が王都まで及ぶことはないと思うが、聖女殿には民の支えをお願いしたい」


「はい、それはもう、公爵様のご依頼とあれば全力で!」


 両手を胸の前で合わせた祈りのポーズで力を込めるオルティアナ。


 いや、聖女って本来公爵とか王の依頼で動く存在じゃないよね? と思ったが、それは俺から言うことでもないので教皇に目配せしておく。教皇は苦笑いをしつつ小さくうなずいた。


「戦いそのものには何もできぬが、民に関しては教会も力にはなれよう。しかし王都に火が及ばぬというのは心強いな。また公爵の秘密の業が見られるのかな?」


「秘密というほどではありませんが、今回は少し驚くことがあるやも知れませんな」


 という俺の答えに、教皇はクックッと笑った。


「公爵と話をしていると笑いが途切れぬな。先日の戦いで十分驚いているのだが、それ以上のものとなると想像もつかん」


「いずれお分かりになるでしょう」


「うむ、楽しみにさせてもらおう。それから公爵、戴冠の儀については、私ではなく聖女の手によって行おうと思うのだ。無論その場には拙僧も立ち合い、その儀を認めるという形にする」


 教皇の白い眉の奥に、いたずらを企てる少年のような瞳が光る。


「それは構いませんが、なにか理由が?」


「いささか俗な話にはなるが、拙僧より聖女の方が民衆の知名度ははるかに高い。さらに教会でも、神のお言葉はまず聖女が賜ることになっておる。その聖女が手ずから戴冠を行ったとなれば、新王家の威光も高まろうというものだ」


「なるほど」


「それに聖女自身もそれを望んでいるのだ。なあオルティアナ?」


「そ、それは……はい、できればその、私の手で公爵閣下に王冠をお渡ししたく思います。だめでしょうか?」


「いや、聖女自らがそうおっしゃるなら私に否やはない。ありがたくその気持ちを受け入れよう」


 ここは教皇の言う通りで、イベントとしてはむさい男2人で壇上に立つより聖女がいた方がはるかに見栄えはいいだろう。教皇の手によらないことで格落ち感があるのでは、という意見も出そうだが、その場に教皇もいて認めるという形式ならむしろこれ以上ない格のものとなるだろう。


 そういえばゲームだと、主人公が戴冠される時はすでに教皇は亡くなっていて、聖女が代わりにやっていたんだよな。結局そのあたり、微妙に強制力的なものがありそうだ。


「ありがとうございます! 私にとって一世一代の大舞台になるので頑張ります!」


「そこまで大袈裟にされなくてもよいが、よろしくお願いしよう」


 その後いくつか戴冠の儀の打ち合わせをして、俺は最後に最も重要な話を始めた。


「ところで教皇猊下、それと聖女様、2人にはあらかじめ知っておいてもらいたいことがあるのです」


「なんであろう?」


「なんでしょうか?」


「今私の秘書官をしているラエルザという者がいるのですが、彼の者は実は魔族なのです。それも魔族の中でも実力者である、四至将の1人となります」


「なんと……?」


「それは……どうしてそのような人物を?」


 驚きと訝しさと、両方が交じった顔をする2人。


「実は魔族にも二派あるのです。人間の国を打倒し、人間を支配下に置こうとする好戦派、そして人間と戦わず、自分らの領地だけで生きていこうとする不戦派、その二派です。ラエルザは不戦派に属している人物で、好戦派の野望を阻止するために先代王にも魔族襲来の情報を伝えていたのです。残念ながらそれはあまりいい形で利用はされなかったようですが」


「ふむう……そのような裏があったのか」


「ラエルザは、私が王都を攻略する前にこちらに協力することを申し出てきました。私はそれを受け入れました。私の最終的な目的が、魔族との間に不戦協約を結ぶことであるからです」


「魔族と交渉をするというのか。大胆なことを考えるのう」


「この国の繫栄のためにはそれが最善手と考えています。お2人にはそのことは知っておいてほしいのです。こういったことは、隠しておくとつまらぬところで弱味になりますので」


「さもあらん。だが魔族か……。公爵の深慮遠謀を知る者ならば納得はできようが、民は魔族に家族を殺されたものも多い。そちらから多少の反発はあるかもしれんの」


「それは覚悟の上です。もっともしばらくは彼の者の正体については公に明らかにするつもりはありませぬ」


「それがよかろうな。承知した。もとより教会の教義には人も魔族もない。もし話が通じる相手というのであれば、むしろ共に生きていく術を探ることこそ教義にかなう行いであろう。教会が貴公を支持することに変わりはない」


 教皇がそう言ってくれたので、俺はいくぶんほっとして頭を下げた。


 そして頭を上げて、聖女オルティアナがなにか言いたそうな顔をしているのに気付いた。


「聖女殿はなにか気になることがおありか?」


「ええその……公爵様ならば魔族が相手でもきっとお話し合いはできると思うのですが、そのラエルザという方は女性……なのですよね? もしかして、以前裁判の場にいた方でしょうか?」


「うむ、よく覚えておいでだ」


「たしかかなり美しい方だったと記憶しておりますが……」


 と言いながら、オルティアナは不安そうな表情をした。


 これはフォルシーナと同じ危惧を抱かれているということだろうか。どうも俺は女性にだらしない男みたいに思われているらしいからなあ。こんなに潔癖な人間はそうはいないと思うのだが。


「聖女殿、安心されよ。私は女性に篭絡(ろうらく)されるような人間ではない。国が治まらぬうちは、そのようなことにうつつを抜かしている暇もないゆえな」


「それならよいのですが……。いえ、それはそれで困るような気もいたしますけれど……」


 と下を向いて口ごもるオルティアナ。


 上目遣いでチラッチラッと見てくるのでまだ何かいいたいことがありそうなのだが、結局それ以上聞くことはできなかった。


 教皇のニヤニヤ笑いが復活していたので、結局は俺に対する誤解にかかわることなのだろう。この話に関しては、もしかしたら俺が妃を迎えるまで続くのかもしれない。


 しかし妃か……こんな腹黒そうなおっさん国王に嫁いでくれる女性などいるのだろうか。まあどちらにせよ世界を救ってからの話だが。

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