07 怪しい情報
「先代王妃殿下の遺体がない、だと?」
「は。ゲントロノフ公の証言に従って調べたのですが、先王陛下のご遺体は確認が取れたのですが、王妃殿下のものは存在が確認ができなかったとのことです」
執務室で、俺はフォルシーナとともに、家宰ミルダートから妙な報告を受けていた。
先代の王と王妃を弑したというのはすでにロークスもゲントロノフも公に認めているところで、その遺体の埋葬場所――というか処分場所――までは聞きだしていた。
俺自身簒奪者の身ではあるが、この大陸では王家が変わっても、先代王家についてはきちんと祀ることが作法とされている。ゆえに先代王と王妃の遺体を正式に埋葬するために捜索させていたのだが、話の通りであったらしい。
「先王を実際に手にかけた実行役も見つかっていないのだな?」
「はい。恐らく実行役は口封じのために闇に葬られたのだと思いますが、それを行った者たちも見つかってはおりません」
「ふむ……」
これはかなり気になる話である。
単に他の場所に遺棄されたとか、野生動物やモンスターに食べられてしまったとか、そういう可能性ももちろんある。だがそうでなかった場合、厄介なことになる可能性はあった。
「実行役の人間が、懐妊した王妃を手にかけるのをためらって、もしくは不憫に思って逃がしたという可能性もあるか。話によるとロークス王自身は父王たちの死を直接確認はしていない。ゲントロノフ公は確認したとは言っていたが、それもどこまで見たのかは怪しい。彼は先王の生死に大して興味などなかったはずだからな」
「もし先代王妃殿下がご存命なら、急ぎ行方を追わねばなりませんな」
「うむ。面倒ごとの種になる可能性もある。さすがに自分を殺そうとした子息のロークスをどうこうしようとは考えぬだろうが、お腹の子を王に、などと考えることはあるかもしれぬ」
「もしそうであるなら、必ず後ろ盾を得ようとするはずです。彼女の生家はクヴァシル家ですが、あの家はまっさきにお館様の即位に賛意を示しておりました」
「国内の貴族家を頼る可能性はあるまい。私に対抗できるとすればローテローザ家かゲントロノフ家だが、どちらも彼女を受け入れることはない。とすれば周辺国か」
「御意にございます。どの国もここ神聖インテクルース王国に代わり大陸の盟主を狙っておりますからな。もし先代王妃殿下の身柄を手にしたなら、それを大義名分として口を出してくることもありましょう」
「うむ……。だがまだ先代王妃が存命と決まったわけでもない。周辺国の動きを注視するのも今までと変わらぬ。ともかく遺体の捜索は続けさせよ」
「かしこまりました。宰相閣下とも相談をして捜索を続けます」
ミルダートが一礼して退室する。
横の席に座るフォルシーナがなにか言いたそうだったが、俺はそれを制して卓上の呼び出しの魔導具のボタンを押す。
執務机の前にシュッという音とともに現れる褐色の影。
紫の髪をポニーテールにした、ちょいエロコスのダークエルフ忍者アラムンドである。
「アラムンド、先の話は聞いていたな? 周辺国で顕著な動きがあったとの報告はないか?」
「は。どの国も動きは活発になってきているとのことですが、どれもお館様の想定の範囲内です。ただ……」
そこでアラムンドは一瞬言葉を止めた。
その眉間がわずかに狭まったのは逡巡のゆえか。
「どうした」
「……いえ、どの国も想定の範囲内ですが、目立つのは我が国に間者を多く入れてきていることです」
「それは仕方なかろうな。どの国も今回の王家交代劇の内実は知りたかろう」
「はい。王都の復興に必要な物資を外部から入れていることもあり人の動きも多く、把握がしきれておりません」
「うむ、それもいたしかたない。重要なのはこちらの役人に内通者がいるかどうかだ。内部の情報が漏れるのだけは防ぎたい」
「そちらは抜かりなく」
「よろしい。引き続きたのむ」
「はっ」
シュッと消えるアラムンド。
俺が背もたれに身体をあずけたところで、横の席に座るフォルシーナが話しかけてきた。
「お父様、先代王妃様のお話についてはどうお考えなのですか?」
「私にも真相はわからぬが、存命という可能性は考えておいたほうがよいだろうな」
「ご存命だった場合、やはり他国の元に奔って王位奪還を狙うのでしょうか?」
「どうかな。単身で他国を頼る時点で自ら傀儡とされるのはさすがに理解はできよう。とはいえ、もし彼女を手にした者がいれば、それを足がかりとしてこちらにゆさぶりをかけてくることはあるやもしれぬ」
「しかしすでにこの国の民も貴族も、お父様を王と認めることに大いに賛同をしております。今さら元の王家に戻したいとの機運が生まれるとは思えません」
「そうだといいのだがな。どちらにせよ、もっとも警戒せねばならぬのは他国の動きと魔族再襲来の動きが連動することだ。とはいえ軍勢の動きだけならツクヨミが感知できる。兵も『転移の魔道具』を使えば迅速に行えるゆえ、そこまで神経質になることもない」
「お父様の周りには《《有能な臣下》》が大勢いらっしゃいますものね」
フォルシーナの瞳に、にわかに氷の冷たさが宿る。
やはりフォルシーナは、俺の配下に有能な者が多いことを気にしているようだ。度々同じような態度を見せるのだが、やはり父親に見捨てられるとか、そういうことをいまだに無意識のうちに恐れているのかもしれない。
俺としてはすでに父親として彼女を大切にしようという気持ちも強いのだが、それが彼女に伝わるにはまだまだ時間が足りないようだ。やはり14年に渡るマイナスの積み重ねは大きい。
俺は立ち上がって椅子に座っているフォルシーナの背後に立ち、その両肩に手を置いた。
「いつも言っているが、私が一番頼りにしているのはお前だフォルシーナ。どれだけ臣下が増えようがそれは変わらぬ」
「は、はい。ありがとうございますお父様。私は常にお父様とともにあります」
俺の手に自分の手を重ねながら、ほっとしたような声を出すフォルシーナ。
国王になっても追放ルートが消えたわけではないし、地道な好感度アップは常に必要だな。




