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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第9章 悪役公爵マークスチュアート、即位し新王国を樹立す

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06 もう一人の将軍

 次はもう一つの練兵場を訪れた。


 もちろんこちらでは将軍のリンを頂点とする軍が訓練をしている。


 やはり多くの兵士たちが真剣に訓練を行っているが、そこにリンの姿はなかった。


 彼女はドルトンと違って裏方もしっかりやるタイプだ。恐らく将軍執務室で書類と格闘しているのだろう。騎士団長から将軍になり、そういった仕事も格段に増えたはずである。


 俺が兵舎の2階にある執務室を訪れると、リンは執務机から飛び出すように立ち上がって敬礼をした。


「これは公爵閣下、このようなところまで来ていただき申し訳ありません!」


「急に済まぬな。ラシュアル将軍と少し話をしたい」


「はっ、こちらへどうぞ!」


 リンは青い髪を短く整えた、堅物な雰囲気のある美人である。20代前半なのだがこの国でもトップクラスの実力を持った騎士である。だからといってこの年齢で将軍というのは俺の感覚だとありえないのだが、まあ個人の武勇が優先されるゲームの世界だと思えばアリなのだろう。難事に際して一人で軍を立て直したのも彼女であるし、少なくとも彼女が将軍となることに対して士官は全員納得をしているそうだ。


 互いに応接用のソファに座り対面する。


 なおリンにはようやく秘書がついたので、テーブルの上には茶が供された。


「軍の再編は一段落といったところかな、将軍」


「はい。半分をドルトン将軍にお任せできましたので、思ったより早く進みました。ゴーレムの運用なども進めていますが、あれは素晴らしいものですね」


 リンの顔にはだいぶ余裕があり、口もとにはわずかに笑みがこぼれている気もする。


 そういえば彼女が笑っているところは見たことがないな。なにしろ今までは半分対立していたような関係だったからなあ。


「ゴーレムはゴーレム核が手に入り次第さらに増やすつもりだ。将軍も運用法を考えておいてほしい」


「はい。部下からも募って考えておきたいと思います。ところで閣下がわざわざこちらに来られたということは、なにか周辺で動きがあったのでしょうか?」


「その通りだ。ラエルザからの情報で、一月半後を目途に魔族の再侵攻があるとのことだ。しかもその際、四至将が2人出てくる。一人はドブルザラク、そしてもう一人はエルゴジーラだ」


「ドブルザラク! あの者は必ず倒さねばなりません!」


 ドブルザラクは前回の王都陥落時の魔族の将軍であり、リンも直接刃を交えている因縁の相手でもある。リンが身を乗り出してくるのも理解できる。


「うむ。今回そちらはラシュアル将軍やドルトン将軍などに相手をしてもらうつもりだ」


「はっ! しかしさすがにあの者は私とドルトン将軍の2人がかりでも倒せるかどうか」


「今回はローテローザ公にも応援を頼むつもりだ。さらには我が娘フォルシーナや、ゲントロノフ家のマリアンロッテ嬢、ローテローザ家のアミュエリザ嬢、そしてミアールやクーラリアも出てもらおうと思っている」


「彼女たちは確かに私から見ても強者と思いますが、しかしまだドブルザラクと戦えるほどでは……」


「そこはこれから鍛えるので問題ない。それからエルゴジーラの方はワイバーンを率いてくる厄介な相手だが、そちらも対処するあてが私にある。将軍はドブルザラクの軍を相手に、野戦で被害を最小限にする算段を練ってもらいたい」


「ワイバーンと言えば10匹もいれば城を落とせるほどの強力な飛行モンスターです。ですが閣下にはそれに対して有効な作戦をお持ちなのですね」


「うむ。準備はこれからだが、問題なく対処できるはずだ。そちらは将軍が気にせずともよい」


 リンは真面目なあまり心配性なところがあるので、余裕のある腹黒公爵感を出して対応する。


 リンは驚いたような顔をしたが、しかしすぐに表情を整えて姿勢を正した。


「やはり小官には閣下のお話のすべてを理解するのは難しいようです。ご指示いただいたことに関しては全力を尽くしますので、なんなりとおっしゃってください」


「ラシュアル将軍の力については、私は誰よりも理解しているし、評価し信頼している。この国は魔族以外にも注意すべき相手は多い。しばらくは将軍も休みがないかと思うが、どうか耐えてもらいたい」


「それはもちろんです。この国の民を守るのが私の務め。そのためならば私の身などいかようになろうとも構いません。閣下の思うよう存分にお使いください」


 う~ん、忠誠心を向ける相手が変わっても、やっぱりリンの人間性は変わらないようだ。


 ただ原作ゲームではこの性格が元になって、自らの命を犠牲にして主人公たちを助けることになるんだよなあ。しかも後からそれは必要ない犠牲だとわかって胸糞悪い話になったりするのである。以前『エクストラポーション』を渡したのも実はそのあたりが脳裏にチラついたからなのだが、今話してみるとなおさらその心配が強くなる。


 だいたいリンだって、本来ならどこかの男性貴族とでも結婚して幸せになってもいい年齢だ。このまま職務に追われていい話がありませんでした、というのも上司としては気になる所である。


「将軍のその職務に対する姿勢はありがたく思う。たが将軍もまだ若い。その人生のすべてを職務や国や民の安寧に捧げさせるのは私としても本意ではない。将軍や騎士としてではなく、リン・ラシュアル個人としての人生も満ち足りたものにしてほしいのだ」


「私個人としての人生……ですか?」


 少しもってまわった言い方をしたのが悪かったのか、リンは首をかしげていぶかしそうな顔をした。


 やっぱりそういう方の話にはうとい感じなのだろうか。でもこれ以上具体的な話をするとただのセクハラ上司だしなあ。


「うむ……。少し踏み込んだ話になるが、将軍の実家のラシュアル家からはなにか言ってはこないのか? 例えばその……縁談などの話だが」


 ギリギリアウトなところでつついてみると、リンはようやく合点がいった様子でうなずいた。


「そちらのお話でしたか。はい、以前からいくつか話はいただいておりますが、すべて断っております。もともとそちらの話には疎いこともありますが、今はその……心から尊敬でき、この身を預けたい方がおりますので」


「む、そうか。それは余計なことを聞いたな。将軍ほど才色を兼ね備えた人物なら、その想いはきっとかなうであろう」


 ゲーム知識を掘り起こすまでもなく、リンはこの王国でトップクラスの美人である。少々堅物なところもあるが、武人ということならおかしいほどでもない。スタイル抜群、才色兼備、なおかつ若くして騎士団団長と将軍を歴任、逆に男の方が気後れするくらいである。少なくとも相手が貴族であれば、リンに想われて断るという方が希少だろう。


 なんてうなずいていると、リンはやや頬を染めながら俺の方をじっと見てくる。


「その、閣下であってもそう思われますか……?」


「む? うむ、保証してもよい。ラシュアル将軍に想われる男は間違いなく果報者であろう」


「ありがとうございます。ではこの身はいっそう閣下の御ために捧げさせていただきます」


 手を胸にあててそんな宣言をしてくるリン。なんか妙に覚悟が決まったような、それでいてどこか嬉しそうな表情に見えるのは気のせいだろうか。


 しかも文脈がつながっていない気もするし、実はリンの想い人は中ボス腹黒公爵だった、などというびっくりな裏設定でもあったのだろうか。


 ……いやさすがにそれは無理か。年齢的に15くらい離れてるし、そもそもこんなゲーム知識使ってチートしてる言動が胡散臭い糸目丸眼鏡公爵とか、心から尊敬できる要素があるとは思えない。


 もっともリンが王妃の座を狙ってるなんて可能性もなくはないのだが、それはさすがに元プレイヤーとしては考えたくないな。

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