04 錬金術生産ライン
次に向かったのはブラウモント公爵邸だ。
なお今まで俺が治めていた公爵領は、そのまま新王家(つまりブラウモント家)の直轄領となる予定である。なのでラエルザに頼んで『転移の魔道具』を王城と公爵邸の間でつなげ、ある程度自由に行き来ができるようにしてある。
なお余談だが、ローテローザ公爵邸およびゲントロノフ公爵邸にも『転移の魔道具』を設置してある。
家宰ミルダートや宰相マルダンフ侯爵には保安上の問題は指摘されたが、そこは色々と魔道具側に制限を設けたりして対応している。
もちろん俺は『転移魔法』で自由に行き来できるので、まずは公爵邸北に広がる森の泉へと向かった。
『大いなる精霊』イヴリシアが住まうその泉は、木漏れ日が差し込む森の中にあって、神聖な雰囲気を醸し出している。
泉のほとりまで歩いて行くと、恐ろしく透明度の高い水面の上に、半透明の美しい女性が姿を現す。水色の髪を裸体にまとわりつかせた、『泉の精霊』イヴリシアである。
普段は白い布を身につけた姿なのだが、会いに来るのが俺一人だとなぜか裸なので、目のやり場に困る。まあ大事なところは髪で隠れているので、辛うじてR15くらいではあるのだが。
『お久しぶりですねマークスチュアート様。会いに来てくださり嬉しく思います』
「時間があいてしまい申し訳ないな。国の方がようやく一段落ついたので、イヴリシアにも報告をせねばと思ってな」
『どうやらマークスチュアート様の思う通りにいったようですね。西の方にあった怪しげな気が消えていますから』
「そうだな、近いうちに私はこの国の王となるだろう。これはイヴリシアの力のおかげもある。この泉からとれる『精霊水』、それによって錬成された『ポーション』で多くの命が助かっているゆえな」
『ふふっ、わたくしはなにもしておりません。すべてはマークスチュアート様のなしたこと。しかし貴方にそう言われるのはとても嬉しく思います』
身体を抱くようにして腰をくねらせる動きは、イヴリシアの好感度アップ(大)だ。
彼女は普通に会話しているだけでも好感度が上がるのだが、元はそんな存在ではなかったのでこれもちょいエロソシャゲの影響だろう。一緒に戦ったりできないぶん、会話で好感度が上がる設定だったのかもしれない。
「うむ。ところで一つ相談があるのだが、私も王となると王都を中心に動かねばならなくなる。こちらの守りを緩くするつもりはないが、貴女については再び何者かの襲撃がある可能性が高い。できれば私と共に王都の方へ移ってもらえるとありがたいのだがどうだろうか?」
『まあ! マークスチュアート様と共になら、どちらにでも参りましょう』
再び腰をくねらせるイヴリシア。相変わらずの攻略難度の低さである。
「それはありがたい。王城の敷地内にもここと同じような泉がある。おそらく貴女にとってもそちらの方が居心地がいいはずだ」
原作ゲームだともともとはそっちに住むはずだったし。
『わかりました。「水精霊の褥」をお預けいたしますので、よろしくお願いいたします』
「うむ、今回は貴女を待たせることはないだろう」
ということで、イヴリシアからバレーボール大の水晶球『水精霊の褥』を受け取った。
イヴリシアがその中に入ったのを確認し、俺はそのまま王都の王城へと転移した。
さて、イヴリシアに語ったように、王城の北側にも王家が所有する森がある。
その森を、あるかないかわからないほどの細い道を分け入っていくと、不意に開けた場所にでる。
そこには森の緑に囲まれた、直径30メートルはありそうな円形の泉が、美しい湧水を豊かにたたえている。
俺が泉に『水精霊の褥』を入れると、その周囲はにわかに明るさを増し、神々しい雰囲気を漂わせる。
程なくして白い布をまとったイヴリシアが姿を浮かび上がらせた。
「おお……、これが大いなる精霊のお姿、なんと神々しい……。やはりブラウモント公こそが真の王であったか……」
「公爵閣下はいったいどこまでこの世の真理をご存じなのか……。やはり私などが及ぶ方ではなかった」
せっかくなので宰相のマルダンフ侯爵と将軍のリンを呼んだのだが、やはりイヴリシアの前にひれ伏して祈りを捧げていた。
同じく公爵領から連れてきた錬金術師のトリリアナと、もともと王家の錬金術師筆頭であったリラベルという女錬金術師もこちらに呼んだ。
ちなみにリラベルはトリリアナより年下で、大きな丸眼鏡に太い三つ編みが特徴の、見た目的にやや地味な感じの娘さんである。実は原作ゲームでは錬金術をする時のナビゲートキャラなのだが、この世界では王家の錬金術師筆頭であった。
なおなぜ年若い彼女が筆頭をやっているのかというと、能力の高さもあるが、彼女が伯爵家の出身だからである。
で、そのリラベルだが、精霊イヴリシアの姿を見て、青い顔で膝をカクカクと震えさせていた。
「トトトトリリリアナさん、ああああれって本物のせせせ精霊様なんですかっ!?」
「ええそうですよ。大丈夫、とてもお優しい方で、お話をしたりすると色々と教えてくれるのよ」
「おおおお話できるんです!?」
「ええ。むしろお話がお好きみたい。それと精霊様のいらっしゃる泉から取れる『精霊水』は錬金術でとてもお世話になるから、仲良くしておいた方がいいわ」
「ひええ……。が、頑張ります……」
という感じのやりとりをしている2人を見て、どうやら上手くやれそうだと安心する。
ブラウモント公爵領から連れてきた人材ともとから王城に勤めている人間とで対立なんてされたら困るからな。今のところ将軍はドルトンとリンで上手い具合に役割分担ができていて、内政面ではミルダートとマルダンフ侯爵で分担ができている。
錬金術に関しては今後規模を3倍程度に引き上げるつもりで、国の改革のために色々と錬成をしてもらわなければならない。その際トリリアナとリラベルには大車輪で頑張ってもらわないといけないので、2人の仲がいいのは重要である。
「トリリアナ、少しよいか?」
声を掛けると、金髪ポニーテールの泣きぼくろおっとり美人のトリリアナが走り寄ってくる。錬金術師用ローブの上からでもある部分が大きく揺れるのがわかる。
「はいお館様、なんでございましょうか?」
「例の薬を使う時が来た。作り置きしていたものを受け取りたい」
「かしこまりましたわ。それと例の薬はすでに王城でも非常に評判となっております。城の女性陣はすでにほとんどがお館様に忠誠を誓っておりますのでご安心ください」
トリリアナの目は真剣なので、どうやら冗談ではなく本気のようだ。
便通の薬……もしかしたら『エクストラポーション』を超えるチート疑惑があるな。
「そ、そうか。女性も大変なのだな」
「ええ、本当にそうなのです。その大変さを解決なさったお館様はもはや王都に住む全女性の救世主といっても過言ではありません。王都が復興してシャンプーやトリートメント、さらにあのハンドクリームまで広まれば、もはやお館様は神にも等しい存在となりますわ」
「それはさすがに言い過ぎと思うが……」
「あ、あのっ、シャンプーなどをお作りになったのが公爵様というのは本当なのでしょうかっ?」
リラベルが横から恐る恐るといった感じで聞いてくる。
う~ん、リラベルは錬金術以外興味ないみたいな人間で、ゲームだと王になったロークスにも平気でタメ口で話してたと思うんだがなあ。相手が腹黒糸目丸眼鏡公爵じゃしょうがないか。丸眼鏡つながりでフレンドリーにいきたいところだが。
「うむ、レシピについては私が作ったようなものだな。どちらかというと先人の知恵を拝借したという方が正しいが」
「そうなのですね! トリリアナ様に試すように言われて先日使ってみたのですが、とても素晴らしい発明だと思います! 私も公爵様にお仕えできてとても光栄です!」
「私もリラベル嬢が引き続き王宮錬金術師を続けてくれてありがたく思う。貴殿の錬金術の腕前は噂で聞いている。錬金術師は国の要、今後とも存分に力を振るってもらいたい」
「は、はい! ありがとうございますっ」
「それから今後王宮錬金術師については大幅な増員も考えている。貴殿にはそちらにも尽力してもらうことになるだろうが、よろしく頼む」
「公爵様のお役に立てるよう頑張らせていただきます!」
背筋を伸ばして固くなっている姿がなんとも微笑ましい。
ゲームではサブキャラ扱いではあったが、よく見ると大きな丸眼鏡の下の顔はよく整っていて美人である。まあ当時のゲームキャラなんて基本全員美形だったからなあ、などと思いつつ、公爵スマイルで好感度アップを図っておく。
「あうっ!?」
なんか余計固くなってしまった気もするが、トリリアナが「あらあら」とか言っているのでたぶん大丈夫だろう。
これで開発担当エメリウノ、レシピ製作ツクヨミ、量産担当トリリアナ、リラベル、そしてイヴリシアによる『精霊水』という錬金術生産ラインがひとまず完成した。
ゲームではただのアイテム製造システムでしかなかった錬金術だが、このリアル世界では前世の科学技術と同等の重要性を持っている。恐らくこの錬金術生産ラインは新しい王国の基盤になるはずだ。申し訳ないが、国が軌道に乗るまでは全力で頑張ってもらおう。




