8章 → 9章
―― 神聖インテクルース王国(仮) 王城 フォルシーナ私室
「ふふっ、ふふふふっ、ついにお父様が国王におなりになる。これはこの国の、そしてこの大陸にとって大いなる福音になるに違いないわ。ミアールもそう思うでしょう?」
「はいお嬢様。お館様が王となられれば、この国だけでなく、この大陸すべてがよい方向へ向かうと思います」
「本当にそう。あの愚かな男に荒らされたこの国を救えるのはお父様しかいない。しかしミアール、私はこの度の戦い、少し不満なことがあるの」
「歴史的にも稀な勝ち戦だったと思いますが、お嬢様はそれでもなにか物足りないところがおありになるのですか?」
「ええ。不満というよりは、物足りなさというか、不甲斐なさというべきかしら」
「それはもしや、お嬢様がなにもする暇がなかったと、そういうことでしょうか」
「その通りよ。お父様があまりに完璧すぎて、ドルトン将軍ですらほとんど出る幕がなかったと嘆いていたわ。私も力をつけたのだけれど、お父様のお力になれているのかとても不安になる時があるの」
「お館様がお嬢様に望まれているのは、魔法で戦うことだけではないのではありませんか? 石橋での戦いではあのようなこともおっしゃっておられましたし」
「……そうね。『私の帰るべき場所になってもらいたい』、なんて情熱的な言葉なのかしら。あの時のお父様のお顔を思い出すだけで胸がいっぱいになるわ」
「それに国をまとめた後は、魔族領へとお嬢様たちを連れて向かうとおっしゃっていました。お嬢様の出番はこれからかと思います」
「ええ、それもとても楽しみね。マリアンロッテとアミュエリザも一緒みたいだから、また楽しい旅になりそう」
「私もお嬢様とともに参ります」
「ええもちろんよ。ミアールとクーラリアも外せないわ」
「私もとても楽しみです。ところでお嬢様、先代王の王妃さまのお話はお聞きになりましたか?」
「ええ、ひどい話ね。先代王と共に亡き者にされていたなんて。お腹にはお子もいたというのに。あの男、本当に救いのない獣のような人間だったのね」
「恐ろしいお話です。あの王のもとにお嬢様が行くことがなくなって、私は心からよかったと思いました」
「マリアンロッテもお父様のもとに来なかったらと思うと背筋が寒くなるわ。あとはさっさとあの男の罪を詳らかにして、断罪をしなければ」
「ゲントロノフ公と合わせて『真偽の鏡』を使った裁判をするそうですから、すぐに決着はつくのではないでしょうか」
「そうね。後は各貴族家に残った旧王家の血縁だけれど……」
「お館様が王位につかれることに賛同する手紙などが次々と届いているそうです」
「ふふっ、反対しても仕方ないものね。むしろ自分たちの身の安全を考えたら、他の選択肢はないわ。中には本当にお父様のすばらしさに気づいている人もいるでしょうけれど」
「お館様が王位につかれれば、皆が相応しいと思うようになるかと思います」
「その通りよミアール。さあ、今日もお父様のお手伝いをしなければ。まずは戴冠式の準備ね」
「はいお嬢様。その時はお嬢様も王家の姫君となられますから、私も感無量です」
「ふふっ、私が望むのは姫君ではないのだけれど。私がどのような立場になってもミアールは側にいてくれるわよね」
「は、はい。どこまでもお供いたします」




